事例238
ポートフォリオを活用した情報Ⅰの問題解決
神奈川県立横浜国際高校 鎌田高徳先生
今回の発表でお伝えしたいのは、「情報Ⅰ」が始まって、ポートフォリオを作られている先生方は多いと思います。これをただ作るだけでなく、「情報Ⅰ」は問題解決を行う科目ですので、生徒たちの問題解決のツールとしてポートフォリオを活用できませんか?ということです。
この話を聴いていただいた後、ポートフォリオを問題解決のツールとして使ってみようと思っていただけたら、と願っています。
発表の流れがこちらです。まず、1つ目になぜ問題解決のためのツールとしてポートフォリオを活用しているのかということ。
2つ目に、本校では具体的にどのようにしてポートフォリオを作らせているのか。
そして3つ目が、実際に問題解決に取り組ませてみた結果についてのご報告です。
問題解決のためのツールとしてのポートフォリオ
はじめに、問題解決のためのツールとしてポートフォリオを作ることを、どのような位置付けで行うかということについてお話しします。
「『 情報Ⅰ』は問題解決を行う科目」と言いましたが、基本構造は下図で示したように、そもそも「情報Ⅰ」は第1章の「問題の発見・解決」がゴールで、そのためのツールとして「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」があると、位置付けられています。
指導要領が出てからのさまざまな研究事例を見ていくと、いずれもこの基本構造を踏まえていることは、皆様も十分お気づきかと思います。
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問題解決を行う際に、どんなことをさせればよいかを考える時、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」(※1)を読んでみると、評価の3観点でもある「知識・技能」「思考・判断・表現」、そして「主体的に学習に取り組む態度」が全て働いてこそ問題解決であると考えられます。
一部の実践で、「知識・技能」だけとか、「思考・判断・表現」だけというもありますが、3観点のすべてが必要になるのは、生徒たちが本当に問題を自分で発見し、解決した時であると思います。
つまり、発展的な課題で問題解決に取り組めば、生徒たちは皆おのずとこの3つの観点を発揮していることになる。それを、効果的に行うためにも、ポートフォリオが必要ではないかと感じています。
※1 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r030820_hig_jouhou.pdf
単に「粘り強く取り組む」だけでなく、「自らの学習を調整しようとする」姿勢も見るために
「指導と評価の一体化」の手引きに載っているのが、スライドの左側の図で、「粘り強い取り組みを行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」の2つをバランス良く見ていく必要があるということを示しています。
手引きには、右側の「情報デザイン」の評価の方法が載っています。
ものを作るプロセスを可視化して評価するのが①の部分、その一方で何度も何度も振り返しをベースに工程管理をして調整しようとする力が②とされています。
このように、「粘り強く取り組む」という一つの側面だけを見るのではなく、自分で工程管理と調整をする能力も見ていく必要があることがわかります。これらは、ポートフォリオを作ることで、より明らかになり、読み取りやすくなるのではないかと感じています。
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また、「情報Ⅰ」の教員研修用教材を良く読んでみると、第1章だけでなく、第2章も「情報デザイン」だけでなく、しっかりと問題解決にもっていく必要がある、と書かれています。
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第3章でも、「プログラミングはシミュレーションを活用した問題解決まで行う必要がありますよ」となっています。
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第4章の「情報通信ネットワークとデータの活用」も、先生が用意したデータを使うのももちろん良いですが、私はぜひ生徒が自分自身でデータを集める経験をするべきであると思います。
例えば、プログラムを実行して、その結果を集めてもよいですし、micro:bit等のセンサを使って収集したデータを活用して、問題解決させていくような事例をやっていきたいと思っています。
そうなった時は、やはりポートフォリオを蓄積して、それらをまとめて単元の最後に問題解決を行う、という活動が必要ではないかと感じています。
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ポートフォリオをどのように作る?
では、どのようにポートフォリオを作っているのか、今年度行っている第1章「情報社会の問題解決」と第2章「コミュニケーションと情報デザイン」のまとめのところまで、簡単にご説明します。
まず第1章では、「1枚ポートフォリオ」と学習成果物をまとめる「Googleサイト」、「ワークシート」の3つのポートフォリオを蓄積しました。今回は左側2つについて説明し、ワークシートについては割愛します。
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「1枚ポートフォリオ」は、山梨大学の堀哲夫先生が提唱されているもので、ポートフォリオ1枚で、教師のねらいとする学習成果を1枚にまとめるというものです。
この「1枚にまとめる」ということ、例えば全8回の活動の、1回目から8回目までのすべての学習の振り返りを可視化できるということが重要なのです。
私は、これまで毎回スプレッドシートで振り返りを蓄積していたのですが、途中で「1枚ポートフォリオ」を知ってフォーマットを改善し、各単元の問いに対する振り返りを蓄積して、最終課題に繋げるような「1枚ポートフォリオ」を作成するようにしています。
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各章の最後に授業で作成した成果物をGoogleサイトにまとめさせる
そして、章の最後で学習の成果物をGoogleサイトにまとめさせる活動を行っています。これは、1年生で「情報Ⅰ」を学んだ生徒が3年生になった時、過去の自分の成果物を一覧で見られるものが必要であると感じていること。そして、各章の最後で何らかの課題に取り組む時に、過去の事例を応用して問題解決をするためには、ここまでどのようなことを学んで来たかということを見られることが必要であると思うからです。
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そして、ポートフォリオをまとめる上で大切なのは、継続的な演習です。こちらは「情報デザイン」で問題解決を行う事例ですが、紙で行ったものもデジタルデータ化されているものも、一元化してGoogleサイトにまとめる必要があると感じています。
それらを俯瞰して、実際に問題解決が行うことができたかをレポートにまとめてさせ、提出させて評価につなげてはどうかと考えています。
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「1枚ポートフォリオ」を作っていて感じるのは、「単元設計」と「単元の問い」が非常に重要で、これがすべてであるということです。
各単元の授業を始める前に、問いをしっかり立て、その問いに合わせた単元設計をしていかないと「1枚ポートフォリオ」はうまく行きませんし、ポートフォリオを活用した問題解決の課題もうまく当てはまらないと感じています。
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ポートフォリオを作り、使う中で「データ」を「知恵」に変えていく
今回の事例は、「DIKW(Data、Information、Knowledge、Wisdom)のピラミッド」を参考に作ったものです。教科書には、このピラミッドで言えば「データ」や「情報」にあたるものが載っています。
そして、授業の中で生徒同士、あるいは生徒と教員が関わり合いながらポートフォリオを蓄積することが「知識」となり、蓄積したポートフォリオや学習成果を元に、問題解決とポートフォリオを行き来する中で問題解決において活用できる「知恵」に変えていく。
生徒たちには、そういった知識、知恵を身に着けてほしいと思いながら、課題に取り組ませています。
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実際、第1章では「問題解決」までは行かず、「問題の発見」までで留まっています。
この章の最後に、「蓄積したポートフォリオを使って情報社会を定義しなさい」という課題を出しました。生徒によって定義はまったく異なりますが、こういった問いを出すのが重要であると思います。
そして、その定義した情報社会が到来するとして、その前と後で人々がどのように変化するか。さらに、その中で発生する一番大きな問題は何だと思うか、ということを考えて書かせます。第1章のポートフォリオの課題は、こういった「問題の発見」までとしています。
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一方、第2章の「コミュニケーションと情報デザイン」では、課題を2つに分けています。
前半のポートフォリオ課題では、まずは問題発見として、自分なりにコミュニケーションについて定義させます。その上で、情報がデジタル化されたことによって、人々のコミュニケーションがどのように変容したかを書かせます。
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このあと、9月まで文化祭を題材として「情報デザイン」で問題解決を行います。その中では、ポートフォリオを取りながら実際に試作→評価→改善を繰り返して、実際に問題解決ができたのか、グループで考えさせて集計し、レポートを提出させます。
そこで、「問題が本当に発見できて、情報デザインによって解決できたか」ということを、ポートフォリオを蓄積して記録する部分と、「皆が文化祭で作った情報デザインが、本当に問題発見から解決までできたのか」という部分を、生徒たちと読み取れて行けたら、と願いつつ取り組ませています。
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まだ取り組み途中の事例ですが、ポートフォリオを蓄積だけでなく、実際に活用する、という事例を皆さんと作っていけたらと思います。
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最後にもう一度。
「情報I」の学習成果をポートフォリオとしてまとめ、問題解決のツールとして活用させませんか。ぜひ試してみてください。
第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 動画発表より