事例245
初任者と10年経験者によるリアルタイム教材共有
大阪府立夕陽丘高校 勝山衿佳先生
大阪府立八尾高校 阿多悠生先生
現在制作中の教材を見られるようにすることで、作成の過程も共有する
[勝山先生]
情報科の教員は、私たちのように校内で1人で担当している場合、日常的に教材作成の話をしたり、相談したりする相手が校内にはいません。
そんな中、今年度大学を卒業して新規採用となった情報科教員と、今年度で採用10年の節目を迎えた教員とが、4月から今までお互いの教材を共有する、ということを続けてきました。今回は、その事例について発表します。
最初に自己紹介です。
[阿多先生]
私は大阪府立八尾高校の阿多悠生です。今年3月まで大学生、4月に大阪府に初任者として採用されました。
[勝山先生]
私は大阪府立夕陽丘高校教諭の勝山衿佳です。今年で採用10年の節目を迎えます。実は阿多先生は、私の前任校で、私の「社会と情報」の授業を受けていた生徒です。今回、阿多先生が情報教育の世界に来られたので、今は教え子ではなく同志だと思っています。
さて、今回のタイトルになっている「リアルタイム教材共有」の「リアルタイム」の意味ですが、一緒に教材を作って、それを共用している、という意味ではありません。実際に行っていることとしては、それぞれが授業で使う教材の入っているフォルダに、お互いに閲覧権限を付与している、ということです。
つまり、「同時共有」というニュアンスの「リアルタイム」ではなく、お互いが見たい時に、「最新の更新状況の教材が見られる状態になっている」というもので、どちらかというと「即時共有」に近い形かもしれません。
教材の共有というと、情報の先生同士で、すでに実施の終わった教材や完成した教材をコピーして提供していただいたり、自分からもお渡ししたり、ということはよくありますが、制作途中の、まだ完成していないものを他人の目に晒す、ということは、あまりないと思います。
私たちの「リアルタイム教材共有」では、それを実現しています。お互いが、今まさに作っている最中の教材が見られる状態になっているのです。
Googleドライブで教材を共有。スライドやワークシートだけでなく指導案や授業メモなども
教材の共有の仕方です。私たちは、それぞれがGoogleドライブに授業教材を入れているので、そのフォルダにそのまま権限を付与しています。この時、「閲覧のみ」の権限にして、編集はできないようにしています。また、生徒の個人情報に絡んでくるようなものについては、権限を付与していません。
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実際に共有している教材の例がこちらです。授業スライドやプリント、操作を教えるために使うファイルやグループワークに使うファイルのテンプレートなどの実習用ファイル、年間授業計画などです。
指導案や生徒への連絡事項のメモなど、他人に見せるのはちょっと恥ずかしいようなものも共有していますが、これも大事なポイントになります。
具体的な事例について、阿多先生から紹介してもらいます。
授業に対する心構えから実際の活動まで~工夫した点も共有し、それぞれがブラッシュアップする
[阿多先生]
今回は7つの事例をご紹介します。
まず、年度初めに作成した年間授業計画を共有しました。お互いの授業の流れを共有することで、単元の中での授業の並びについて、相談したり必要な内容について補いあったりすることができました。
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授業の流れや、準備物を書いたメモも共有しています。生徒のつまづきや、それに対する対策の方法、準備物など、自分が想定していなかったものを授業前に知ることで、授業当日に慌てずにすみました。特に、初回の授業にあたって必要なことを知ることができたので、自分でも授業に安心して臨むことができたように思います。
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こちらは具体的な授業の事例で、アニメーションGIFを作成するものです。
これは、もともとは勝山先生が1時間完結の授業でこの教材を扱っていたものですが、私は「デジタル化」の授業の事前学習がてらに、夏休みの課題として取り入れました。
その際、勝山先生は原画をペイントで手書き作成させていたのに対して、私はGoogleスライドの図形ツールを使って、アニメーションの原画を作成させました。その後、勝山先生もGoogleスライドを使ったアニメーション制作を実施し、さらに相互評価をさせる、という形に発展させたそうです。
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こちらは、ネットワークの授業における「パケット交換方式」を体験させる教材です。スライドのように、パケットの模型を使って、生徒がパケット送信リレーを行うというものです。生徒に活動させる際にどこまで簡略化するかなど、勝山先生とお互いにアイデアを出し合って、教材のブラッシュアップを行いました。
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こちらは2進数の負の数の教材です。
数取り器のカウンターを例にして負の数の表し方を説明する、という勝山先生の説明スライドを参考にして作りました。私のスライドでは、こちらのように10進数表記も併せて書きました。この表記方法は、次年度は勝山先生も取り入れてくださる予定です。
評価の基準となるルーブリックも共有しました。
こちらは、私たちのそれぞれのプレゼンテーション課題のルーブリックです。プレゼンテーションのような実習課題の評価基準を作る際にも、自分一人では、「これで評価してよいのか」と迷うことが多いと思います。発表内容や注目したいところによる違いはありますが、似たような観点を持っている先生がおられることで、心強く感じました。
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最後に計算問題のプリントです。これはテスト前に自習用に配布したものです。
このように、テスト前に用意した方がよい教材についても、お互いの教材フォルダをみて参考にし合うことができました。特に、こちらのような計算問題などは、教科内では検算をお願いできる先生がいませんが、勝山先生と共有することで、生徒に配布する前にお互いの問題の正誤チェックもできました。
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教材作成の過程や課題を共有することで授業実施までの改善が可能に
[勝山先生]
最後に、4月からここまで私たちが教材共有を継続してきて、よかったと思っている点についてお話しします。
まず、発想や欠点を補い合うことができる、ということです。一人で悩んでいた授業のアイデアが広がったり、悩んでいたことの突破口がわかったりします。
先ほどのGIFアニメーションの事例のように、共有の相手に、自分の教材を参考にして作ってもらった教材を、さらに自分が参考にさせてもらって改善する、というように、教材のブラッシュアップの好循環が生まれます。
また、人に見られたらなかなか恥ずかしいであろう授業案のメモですが、これを見ていると、実際にどういった授業を展開する予定なのか、という想像がしやすくなり、自分も似た内容の授業をするときに必要な準備物、留意点について事前に知ることができます。
さらに、一人だと教材のミスがどうしても起きてしまいがちです。誤字などの軽微なものから内容的なものまで、いろいろやってしまうのですが、この指摘ができる点も助かっています。授業の進度にもよりますが、こういったことが作成途中の教材についても見えるので、その教材が生徒の目に触れるまでの間、授業実施までに改善が可能、という点が、リアルタイム教材共有の大きなメリットだと思います。
初任者と経験者がコラボすることの大きなメリット
[阿多先生]
本年度私たちが行った「初任者と10年経験者によるリアルタイム教材共有」を通して、初任者の私は、「情報Ⅰ」に向けての新しい教科教育法を受けた世代で、新しい視点から教材を提供できます。そして、経験年数を重ねた先生の教材をもとに、自分1人では足りない部分を補った授業をすることができています。
[勝山先生]
10年経験者の私は、新しく情報科の教員になった先生に、10年間情報の授業をやってきて、成功したこと、そして失敗した経験を参考として伝えることができています。
そして私自身は、10年以上教科教育法を学んでいないので、新しい教科教育法を学んだ初任者の先生の教材から、知識のアップデートができます。
お互い、校内では情報科教員1人きりですが、リアルタイムでお互いの教材に触れることができる場所を設けたことにより同僚のように、気軽に教材の相談ができるようになりました。
神奈川県情報部会実践事例報告会2022オンライン オンデマンド発表より