事例251
データ分析の導入を1年前にやってみた
東京都立小平高校 小松一智先生
今回は、『データ分析の導入を1年前にやってみた』というタイトルで発表をさせていただきます。ここで紹介する取り組みは、実は数研出版でも紹介していますので(※1)、そちらも読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
※1 数研出版 「情報通信 i-Net」第63号 「データベースを活用したデータ分析」
今年度から「情報I」が始まりました。多くの皆さんはもう授業をなさっていると思います。この『(4)情報通信ネットワークとデータの活用』では、学習指導要領にはここに挙げたようなキーワードたちが出てきています。
こういった内容を今年いきなり全て始めるのはちょっと厳しいのでは、と思って、昨年の「情報の科学」の授業の中で、データベースを扱った後に「データ分析」の導入を先取りして、生徒に興味を持たせる試みをやってみた、というのか今回の発表です。
sAccessを使ったデータベースを使うことで、データ分析の手順と意味を学ぶ
使用したツールは、ご存知の方も多いと思いますが、データベース学習システムのsAccess(※2)です。
こちらは、オンラインで利用できるデータベース学習ツールです。ユーザー登録することなく利用できるので、ここ何年もデータベースの授業はこちらを使って行っています。まだ使ってみたことがない方も、ぜひ試してみてください。非常に使いやすいと思います。
※2 https://saccess.eplang.jp/#!index.md
授業の展開がこちらです。データベースに関する授業を3回行い、その後にデータ分析の導入として、今回紹介する内容を行います。
1回目は基本的なデータベースの考え方を説明して、選択と射影の使い方を、演習問題を通して学びます。
2回目は結合も使い、3回目はそれらを全て使った練習問題に取り組みます。
実際に使ったスライドがこちらです。ビッグデータと絡めてデータ分析を学ぶ、という流れにしました。
副教材として「情報最新トピック集」(※3)を持たせていたので、そちらを使って行いました。
※3 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/04/11/00079/
このようなスライドを使いながら、ビッグデータの概要や特徴、データマイニングの説明をしていきました。
そして、例えばこういったところで実際にビッグデータを活用しているよ、という具体的な例を紹介すると、生徒もそれなりに興味を持ちました。
コンビニに置く新商品の選択のために、データベースから取ったデータを分析する
交通データの方は、話題としてスケールが大き過ぎるので、「コンビニではPOSシステムやポイントカードなどでデータを収集している」という身近なものに落とし込んでいきます。このスライドに挙げたようなコンビニの新商品の紹介のページを見ていくと、毎週、あるいは毎月新商品がたくさん出ていることが分かります。
今回ご紹介する実習では、基本的にsAccessのプリセットDB(データベース)の「コンビニ」と、テーマに応じて「レンタル」を使いました。
このプリセットDBを使って、生徒に考えてもらったのがこちらの内容です。
例えば、こちらは「コンビニの店長になったつもりで、来月4つの新商品を導入するために、今あるものを4つ減らすとしたら、どれを選んだらよいか。データを分析して考えよう」という問いに対して、実際にデータを分析し、さらになぜそのように考えたのかを明確にする、というものです。
他にも、コンビニの売り上げを伸ばすために何を良い方法はないか。これも同じようにデータを分析した上で考えます。
こちらは「レンタル」のプリセットDBを使った問題です。
先ほどと同様に、商品を増やして、貸出数を増やし、売り上げを伸ばすためにはどのような商品を取り上げればよいか。さらに、「そもそも論として、顧客を増やして貸出数を増やし、売り上げを伸ばそうとしたときに、どこか一つの都道府県に対してチラシを配ってアピールをするなら、どこにターゲットを絞るか」ということについても、データを分析して決め、その理由を明らかにする、という活動を行いました。
※ワークシートのダウンロードはこちらから↓
「売れたもの」だけでなく「売れていないもの」にも気づく
これらの課題を作るあたっては、それぞれ意図を持たせました。皆さんもぜひやってみてください。この中のQ1、新商品を4つ入れるために、今までの商品から何か4つ削る課題を例に挙げてみましょう。皆さんでしたら、どう考えるでしょうか。
こちらがsAccessの画面です。ここに入っている「コンビニ」のプリセットDBを使います。売り上げデータに商品データを結合し、さらに何が売れたかカウントを取ると、売れていない商品から順番に並べることができます。
こうすることで、「ゆずはちみつ茶」「ドース<ビター>」「ローズティー」までの3つは「売れていない商品」と一意的に決まります。
さらにもう1つをどうするか、いうことを考えていくと、売り上げ個数が3個のものが並んでいるので、ここをどう考えるか、ということは結構悩みます。皆さんもここで悩まれた方が多いのではないでしょうか。
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これがどうなるかというと、実はからくりがあります。
実は、商品データのテーブルには30件のデータが存在していて、商品も30種類あります。しかし、ここで売れた商品(結果(カウント))に載っているのは29種類で、1つも売れていないものが1個ある、というのがポイントです。これを見つけることで、4つが一意的に決まる、ということにしてあります。
そこに気付くと、「こんぶうま茶」という商品が、実は1つも売れていません。皆さんもちょっと探してみてください。このようにデータを分析して、「売れたもの」を考えるとき、実は「売れていないもの」も存在するというところに気付くことができると、けっこう面白いのではないかと思います。
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分析をもとに様々な解決策があることも考えられる
他の課題については、解決策としていろいろな考え方があります。
例えば、Q3のレンタルショップの売り上げを伸ばすための方策としては、コミックよりDVDは貸し出しが多いので、DVDをさらに増やすとようのではないか。あるいは、恋愛分野の商品の貸出数が多いので、その分野を増やすとよい、ということになりますね。
そして、顧客を増やすためには、会員数が多い地域を調べて、多いところをさらに増やしてあげるとよい、と考えることができます。あるいは、会員数ではなく貸し出しが多い都道府県にターゲットを絞る、という策も考えられます。この辺りの考え方はどちらを取るかというところなので、生徒それぞれの考え方に沿って、いろいろな意見を導き出すことができた、というのがなかなか面白かったです。
生徒の感想を見ると、「とても面白かった」「とても勉強になった」ということ、また「個人の主観で決めるよりも、データに基づくべきだ」といった、いろいろなところに気付いてもらえた授業になったと思いいます。
また、自分がコンビニの店長やレンタルショップの店長といった立場になって考える、ということがなかなか面白かった、と感じたようです。ぜひ皆さんもこういった導入を取り入れていただいて、一緒に面白い授業を作っていきましょう。
神奈川県情報部会実践事例報告会2022オンライン オンデマンド発表より