事例252
今更ながらの情報検索実習
岡山県立烏城高校 太田重成先生
インターネットでの情報検索の実習は、「情報A」の時代から、皆さんはされていると思うのですけれども、今年度から始まった新学習指導要領では、情報検索は小学校、中学校、もしくは「総合的な探究の時間」等で扱っています。そのため、高校ではデータベースでの扱いが主になってます。
ただ、私が今回こういった発表をしようと思ったきっかけが、11月9日に公表された試作問題『情報Ⅰ』の第1問の問1で、「情報の信ぴょう性を確かめる方法」という問題が出題されたためです。
この問題を見て、これはやっぱりちゃんと情報の信ぴょう性について、情報の授業で押さえておいたほうがよい、もしくは、他教科等や「総合的な探究の時間」に、こういう実習を生徒たちに取り組ませても面白いのではないかなと思い、私が今まで行ってきた情報検索についての授業の実践事例を、皆さまにご紹介しようと思ったというわけです。
「五郎丸選手の誕生日は?」~情報の信ぴょう性
私の検索実習は4つの質問をしていきます。
まず、その1つ目は、「ラグビー日本代表の五郎丸歩選手の誕生日は?」という質問です。ちょっと懐かしいですね。
こちらは、私が平成28年度に前任校で使っていた実習プリントです。少し題材が古いとは思いますが、私は、平成24年くらいからこのような実習を行っていて、そのときの話題になったスポーツ選手を題材に使うことが多かったと思います。
なぜ、その年に話題になったスポーツ選手を題材に使うかといいますと、Wikipediaがうまい具合に検索結果の1位に表示されるのですね。ですので、その情報をそのまま書いてくる生徒も非常に多いです。
そのため、ここで検索エンジンの仕組み、いわゆるPage Rank理論を生徒たちに説明することができます。さらにWikipediaの仕組みから、「情報というのは情報提供者が誰かということを考える必要がある」というところに進むことができます。
そこから、「公的な情報は、なぜ信ぴょう性があるといえるのか」ということを考えさせるという活動をすると、面白いんですね。公的な情報だからすべて信用してよいのか、なぜ公的な情報は信用できるのかと、一歩踏み込んで考えさせると、いろいろ面白い考えや発想が出てくるのではないかと思っています。
さらに、検索キーワードをちょっと工夫してみることも必要である、ということもここで説明できます。恐らく、多くのページは「誕生日」ではなく「生年月日」と書いているのではないでしょうか。もちろん「誕生日」で検索をしても、検索結果として表示されるのですが、それはコンピュータの手助けに私たちが頼り切っているだけということも、イメージできるのではないかと思います。
そこから、自分たちが、今欲しいと思っている情報は、どんなWebページ、Webサイトにあるのかを意識して、その求めているWebページやWebサイトを表示するには、どういう検索キーワードなら表示できるか考えるということを、生徒たちに教えられるかというところがポイントとなります。
「木材・合板博物館から、りそなホールディングス東京本社まで電車で移動するときのルートは?」~自分で考え判断し、実際に使えるスキルを学ぶ
続いて、実習2です。「木材・合板博物館から、りそなホールディングス東京本社まで電車で移動するときのルートは?」という質問です。
なぜ、この二つの場所を選んだのかも意図があるのですが、そちらは後ほどお話しします。
まず、こういった質問では、最初にそれぞれの場所の公式サイトから最寄り駅を調べます。それから、乗換案内のサービスを使って、その最寄り駅間のルートを調べてみようというのが一番一般的な手順かと思います。
しかし、いくつか問題点がありまして、生徒たちはそもそも公式サイトを見ません。
その目的の場所を、直接ルート検索をしてしまうということが非常に多いです。そうなると、実際、現場でどういうことが起きるかといいますと、地下鉄の出口を調べずに地下で迷子になってしまうのですね。今だったらスマートフォンでGoogleマップ等を使って、地上に出てもルートを探すことができますが、それでは意味がないよね、ということですね。
私がこの質問をなぜ入れているかというと、当時、勤務していた学校では、修学旅行で東京自主研修という研修がありました。自分たちでルートを決めたり、もしくは訪問先の会社にアポイントを取って、実際に会社訪問をしたりする機会があり、もうちょっと現実的にルート検索をできるようになるスキルが必要だったためです。実際、現場で先ほど話したような体験をして、やっぱり調べておかないといけないね、と感じるという場面もありました。
そして、当時の生徒たちの中には、「場所の名前」に加え、さらに「ルート」とキーワードを入れて、Webページの検索をする人もいました。つまり、乗換案内やマップといったサービスをあまり知らないのです。今の生徒たちはどうなのかな、とも思うのですけれども、彼らも、もしかしたらマップにそのまま頼ってしまって、公式サイトを見ないこともあるのではないのかと思います。皆さんが教えている生徒たちはどうでしょうか。
最初にお伝えした通り、私がなぜこの2カ所を指定したか、ということにもポイントがあります。
こちらは、実際の東京の地下鉄路線図ですが、この2つの場所は、新木場駅と木場駅がそれぞれ最寄り駅になります。この2つの最寄り駅のルートを検索すると、この図のようなルートが最短ルートです。
ただ、このルートでは3路線通るので、2回の乗り換えが必要です。私たち地方の人間は、乗り間違えたら怖いので、けっこう、乗り換えを嫌がるのです。さらに言うと、「都営地下鉄→東京メトロ→都営地下鉄」という乗り換えになりますので、運賃も高くなります。また、そもそも「地下鉄って都営と東京メトロと2つあるの」といった感じの生徒たちも非常に多く、慣れていないのです。
では、実際に乗り換えが少なくて運賃が安くなるルートは、この図のようになります。
ちなみに電車は、ちゃんとその路線の電車の絵柄を使ってますので、鉄分多めの人もご満足いただけるのではないかなと思います。
非常に大回りのルートになりますが、どちらがよいかというと、いろいろな考え方があると思います。これだけ極端だと、なかなか意見も分かれるのではないのかということもあり、私はこの2か所を指定しています。
この実習の指導のポイントは、直前に「情報提供者を考える」ということも行っていますので、公式サイトを頼ってみようよ、ということです。
公式サイトを見ると、実は、「りそなホールディングス東京本社は何番出口から出てくださいね」とちゃんと指定してくれています(※1)。ちなみに、りそなホールディングスを検索すると、顧客サービス用のサイトがメインで出てきます(※2)。そこから、会社案内が載っているような会社用の企業サイトを見つけるためには、どこにリンクがあるかを探さないといけないので、目的のWebページを探す練習にもなりますね。
※1 https://www.resona-gr.co.jp/holdings/about/hd_gaiyou/office.html
※2 https://www.resona-gr.co.jp/
また、乗換案内は、大体Yahoo! JAPANなどのポータルサイトを使うと思いますが、そういったポータルサイトのサービスを頼ることも教えることができます。
そして、いろいろな条件や制限事項を考えて多くの情報を調べた上で、自分で考えて判断することが必要になってくるよね、ということを体験させられるかなと思います。
さらにプラスするのであれば、例えば、ストリートビューや構内マップといったものも、この段階で見せることができます。実は、生徒たちはけっこうストリートビューを見ています。こんな感じの車で撮影しているよという画像を見せて、「この車、見たことある?」と生徒に聞くと、「小さい頃に見たことがある」と言う生徒もいます。実際に、その生徒が撮影の車を見た場所をストリートビューで見てみると、小さい頃のその生徒がいたりして面白いですね。
私も、以前の勤務校の岡山大安寺中等教育学校の正門の向かいの建物の所で、立ち話で談笑しているところを撮影されています。興味があれば2015年2月の画像を見ていただければ、岡山大安寺中等教育学校正門の向かいの建物の所で談笑している私が写っていますので、興味がある方、見ていただければと思います。
「桃太郎のお墓はどこにある?」~根拠を含めて調べる
続いて、検索実習の3つ目は、「桃太郎のお墓はどこにある?」という質問です。
岡山県といえば桃太郎ですので、桃太郎のお墓も岡山県にあるだろうと思って検索すると、香川県が大体、一番に出てきます。ここで多くの生徒は、岡山県の桃太郎が香川県に行って、香川県で亡くなって、香川県にお墓があると勘違いします。ですが実際は、岡山県の桃太郎とは別に、香川県には香川県の桃太郎伝説があるのです。
次に、出てくるのが多いのが、愛知県犬山市の桃太郎神社です。岡山県はまだ出てこないですね。
岡山県は大体、3つ目に出てきます。いろいろ調べていくと、やっと「中山茶臼山古墳というところが、岡山県における桃太郎のお墓だよ」と出てきます。
ここでの指導のポイントというのは、「根拠を含めて調べることが必要だよ」ということです。つまり、「桃太郎のモデルは誰か」とか、「なぜここが桃太郎のゆかりの地だと言われているのか」ということです。昔話との一致点はどこかといいますと、実は香川県のほうが意外と濃厚だったりするのです。実際、おばあさんが洗濯をしていたという川や鬼ヶ島もありますので、けっこう岡山県人は、「ええ!」という感じにもなったりします。
※他の例では「小野小町のお墓」も同様の題材となります。
ですから、「時代とか立場によって意見は変わる」ということです。私たち岡山県人にとっては、「桃太郎は岡山県だ」となるのですけど、香川県の人にとっては、「香川県こそ桃太郎だ」と言うでしょう。もしくはその時代にあったいろいろな資料や新しい歴史的な資料が出てくると、歴史も変わってきます。ここでは、そういったところを生徒たちに感じさせることができるのかな、と思っています。
※宮本武蔵の生誕地も近年では岡山(美作)説と兵庫(播磨)説があります。
「世界の国の数はいくつ?」~自分で根拠を立てて調べてみる
続いて検索実習4は、「世界の国の数はいくつ?」という質問です。
ここまで教えていくと議論になったりするかもしれませんね。生徒たちに、世界の国の数はいくつかというのを、それぞれいろいろな根拠を立てたり、いろいろな考え方で発表させたりすると、非常に面白い実習ができるのではないかと思います。
情報検索実習により身につけさせたい能力は
まとめとして、情報検索実習により私が身に付けさせたいと思っている能力というのは、まずはコンピュータ(インターネット)等を「利用する」というところから、「活用する」というところに進んでもらいたいということです。
さらに、そのためにも普段の生活の中で、情報検索やいろいろなサービスを活用してもらいたいなと思っています。今の生徒たちも同じだと思いますが、生徒たちは「食べログ」はけっこう、使っているのです。ただ、その「食べログ」を運営している「価格.com」は知らなかったりします。もちろん、家電などを自分たちで買わないからなのかと思ったりしますが、意外に私たちにとっては当たり前のようなサービスも生徒たちは知らなかったりするので、これを私たちがちょっとずつ紹介していくのも面白いのではないのかなと考えています。
また、情報の信ぴょう性を考える活動から、根拠や原理をまず考える、自分たちで自ら考える主体性を身に付けさせたいと思っています。
そして、いろいろな根拠や考え方があり、時代や立場もあります。そういう多様な考え方を受け入れられる生徒を育てたいということで、私はこの情報検索実習をこれからもまだまだ使えるのではないのかなと思います。
皆さまもいろいろな情報検索実習をされていると思います。私もぜひいろいろな工夫を、学びたいと思っていますので、またいろいろご意見をいただけたらと思っています。
神奈川県情報部会実践事例報告会 2022 オンライン オンデマンド発表より