事例255
情報デザイン視点で見る「学びのポートフォリオ」 〜総合型選抜を勝ち抜くスキルの習得へ〜
樟蔭中学校・高等学校 川浪隆之先生
今回は『情報デザイン視点で見る「学びのポートフォリオ」』というタイトルで、私の実践を報告します。
本日の発表はこのような内容です。まず初めに自己紹介と、「学びのポートフォリオ」の説明、生徒の活動例から見る情報活用能力の育成と問題解決に向かう姿勢の成長の様子、うまくいっていない部分もお話しして、最後に今後に向けての改善点をお話ししたいと思います。
私は大阪の樟蔭中学校・高等学校で、もともと数学を担当していましたが、2015年から情報科に転科し、「情報」を担当しています。ただ、役職の関係で8年間は担任なしで、授業もほとんど持たない状態でしたが、今年度から高校1年生の担任を持ち、「情報I」と中学校の技術科の授業を担当することができています。
本校では、2021年にICT Lab.という教室を設置して、STEAM活動の拠点として3Dプリンターやレーザーカッターを使ったデジタルものづくり活動や、ロボットプログラミングを行う場所として利用しています。
最近の活動としては、昨年度「ICT夢コンテスト2021」で「3D プリンターを利用したデジタルものづくりで培う創造力と課題解決力~テクノロジーを利用して、未来を創造する力」の実践で優良賞をいただきました。今年度はMicrosoftの認定教育イノベーターをいただき、授業に活かしています。
また、2019年からは全高情研の実行委員を務めています。2021年と2022年の全高情研の全国大会の予稿集の表紙は、私のデザインです。また、情報処理学会の学会誌『情報処理2023』のデザインも担当しています。こういったところで皆さんの身近なところでお役に立たせていただいています。
ユーザビリティを考えたサイト制作の題材として「学びのポートフォリオ」を作る
ここからは本題の「学びのポートフォリオ」のお話です。『情報デザイン』の単元で学んだ、「他人からどのように見えるかということを意識したデザイン」を実践するに当たって、webサイトを立ち上げ、相手の使いやすさ、つまりユーザビリティなどを考えた上でサイト構築をすることが実践的な活動になると考えました。
そこで「学びのポートフォリオ」を作成し、さらに教科横断的な活動にしたかったので、他教科の先生方にも振り返り学習の一つとしてポートフォリオを使ってはどうか、ということを投げ掛け、いくつかの教科から賛同の声をいただいています。
ポートフォリオ作成の授業の流れがこちらです。1コマ50分間の授業のうち、30分程度レクチャーを行いました。
その後新規サイトを立ち上げて、ドメイン制限付きの公開を通してセキュリティについて学び、ページ作成やサブページを作成して、各自のアドレスを共有のスプレッドシートに入力して、生徒同士がそれぞれのページを見合える環境を作りました。
作成の手順がこちらです。
1)各自のGoogle for Educationアカウントから「新規サイト」を作成する。
テンプレートは、Googleサイト既定のものから各自選択する。
2)「情報デザイン」で学んだことを応用して、ユーザビリティを意識したサイトの構成を考える。
情報デザインの「構造化」の実習として、ツリー構造のサイト構成を利用した。
3)「教科」ページを「ホーム」ページに並列で作成する。
このとき、「クラブ・行事」などのページの作成も促し、教育活動全般のポートフォリオとした。
4)「教科」を親ページとして、サブページ「情報Ⅰ」を作成し、構造化を確認した。
5)公開範囲の設定で、「情報セキュリティ」で学んだことを再確認する実践とした。
6)自分のサイトアドレスを共有スプレッドシートに記載し、リンク集とした。
→共有のドキュメントやスプレッドシートは既にWEBページとしての機能を持つ、ということを
確認した
7)ユーザー目線で考えて、新しい記事が「上へ上へ」と並ぶような更新を紹介した。
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できあがったポートフォリオは、各授業の最後の5分で、「さあ振り返りしましょう」という呼び掛けして、各自がそのポートフォリオサイトを開いて振り返り学習をする、という形で活用しています。
授業の振り返りを通して学びを深める
こちらが実際のポートフォリオです。
「情報I」のページを開くと、新しい日付のものが上になるような並びで振り返り学習が行われています。
この生徒は、ランレングス法を学んだ際に使ったデジタルワークシート、ドキュメントやスプレッドシートをリンクし、そのときに学んだことにすぐにアクセスできるような工夫をしています。
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生徒の振り返りを見ると、動画のデジタル化の仕組みについて学んだ際に、フレームレートの概念を理解して、実生活のテレビや動画の見え方に落とし込んで考えることができ、学習が進んでいることがわかります。
また、こちらの生徒は、画像のデジタル化・カラー画像について学んだ際に、標本化、量子化、符号化をするとき、人の手ではすごく時間がかかるのに対して、コンピュータは一瞬でそれを終わらせてしまうということに感動した、という感想が書かれていました。
iPadとGoogleサイトの「癖」の違いには要注意!
一方で良いことばかりではなく、失敗談もあります。
情報科では、情報教室のパソコンで、このGoogleサイトの振り返りを行っているため、編集がスムーズでしたが、本校は1人1台端末がiPadなので、iPadでのGoogleサイトの編集には少し癖があるようで、他教科に広げようとした際に失敗に終わってしまった、ということがありました。
また、バタバタと授業していて、コンスタントに毎時間のラスト5分の振り返りを取ることができず、振り返りを生徒任せになってしまうことがありました。
今後は、せっかくこのようなプラットフォームがあるので、他教科へのアプローチを進めていき、卒業の際にこれを引き継いで、自分がどのようなことを学んできたかというポートフォリオを残してあげたいということを考えています。
他者目線を意識した表現活動としてのポートフォリオで自分自身の学びを振り返る
今後に向けての改善点として考えていることです。
今年度は情報デザインの分野が終わってから、この「学びのポートフォリオ」を立ち上げたため、2学期スタートになってしまいましたが、来年度は年度初めに情報デザインを学んで、すぐにポートフォリオ作成をし、振り返り学習を進められる環境を作りたいと思っています。
また、毎時間の5分間の振り返り学習ですが、その日に学んだことをしっかり思い出してまとめができるという点で、非常に有用な学習かと思います。ぜひ皆さんも試してみていただけたらと思います。
このような日々の学習を振り返りまとめていく、そして、それを自分事に落とし込み、さらに問題解決につなげていくのは、総合型選抜入試を意識した活動といえると思います。情報デザインの分野で学んだ、他者目線を意識した表現活動の発信の場として、自分自身の学びを振り返る活動を自走化させていくように働き掛けていきたいと思います。
神奈川県情報部会実践事例報告会2022オンライン オンデマンド発表より