オンラインイベント 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~

事例2 コミュニケーションと情報デザインにおいて、見方・考え方を働かせる

神奈川県立横浜国際高校 鎌田高徳先生

今日は「コミュニケーションと情報デザインにおいて見方・考え方を働かせる」という題目でお話しします。実は、私も先ほどの佐藤先生と同様に、「情報Ⅰ」の教科書内容はほとんど1月中に終わらせています。授業も体験型を重視していて、話すのは大体10分を意識していますが、「話し過ぎ!」とよく言われます。

 

また、授業の進め方についても、知識を活用させたり、最初に問いを出して、生徒たちはその問いに対して活動して自分たちなりに答えを見つけたり、自分たちが出したアウトプットを相互評価したり、という形で行っているので、授業設計の話は佐藤先生と全く一緒だと思って聞いていただけると幸いです。

 

初めに自己紹介です。神奈川県に採用されて、早いもので13年目になりました。採用されたときは、「教科『情報』をどのようにやっていこうか」と本当に悩んでいましたが、神奈川県の先生方や、全国の仲間たちと一緒に、問題解決型の授業をずっとやり続けてきました。

 

その成果を昨年4月21日に、「高校の情報Ⅰが1冊でしっかりわかる本」(※1)という形で出版しました。この本では、全ての内容を「問題解決」に沿って記述しているのがこだわりです。

 

これまで文部科学省の「教員用研修教材」や「情報」の教科書を書かせていただく機会もありましたが、「好きなように書いていいよ」と言われたら、やはり「情報」は問題解決だなと思ったので、このことについて書きました。もし機会がありましたら、手に取っていただけると幸いです。

 

※1 https://kanki-pub.co.jp/pub/book/details/9784761230661

 

また、このあとのお話の中でも出てきますが、昨年12月26日に、神奈川県情報部会で実践事例報告会(※2)を行いました。ここでは、私も発表もしましたが、全国のすばらしい先生がたの実践事例が、オンデマンド配信やオンラインのポスター発表で紹介されました。ぜひ、そちらも見ていただければと思います。

 

※2 神奈川県情報部会実践事例報告会

   「キミのミライ発見」神奈川県情報部会で実践事例報告会    

 

 

一人で本を読んでできる勉強や、パソコンを自分一人で操作してできる勉強を学校でやっても意味がない

 

それでは、今日の本題に入ります。今回私が伝えたいことは、「コンピュータを活用して、生徒たちにとって身近な事象を題材にして問いを投げ掛け、試行錯誤をする授業」という言葉に尽きます。

 

その中で生徒たちが問題解決をします。ICTを活用したり、周りと議論したりする言語活動を通して試行錯誤するということが重要であると思っています。

 

このあと試作問題の内容を少し解説しますが、私の感想としては、やはり本や教科書を丸暗記しただけでは解けない問題だと思います。このことは、問題を解かれた先生方は、皆さんが感じていらっしゃると思います。生徒たちにも最初の授業で言っているのですか、家で一人で本を読んでできる勉強や、パソコンを自分一人で操作してできる勉強を学校でやっても意味がないと思うのです。

 

生徒たちにも、最初の時間に「学校で皆でパソコンを並べて学ぶ意味は、問いに対して自分たちなりのアウトプットを出して、それを友達とああでもない、こうでもないと相互評価したり、評価・改善する活動にあるのであって、これがないと、高校の授業で『情報Ⅰ』を学ぶ意味がないよね」と話しています。

 

 

試作問題における「コミュニケーションと情報デザイン」の試験問題から読み取れるもの

 

ですから、生徒たちに知識を活用し、手を動かしてアウトプットを出させて、それを相互評価したり、試行錯誤したりする活動を重視した授業デザインをしています。今日はその内容について、こちらの3つの点についてご紹介します。

 

まず1つ目に、「試作問題」から読み取れた、私なりの「こういった授業をすればよいのではないか」ということついてお話しさせてください。

 


「試作問題」が11月に出た日に、私も印刷して一生懸命解いてみましたが、時間内には終わりませんでした。やはり文章量が多いなと思いました。

 

「コミュニケーションと情報デザイン」は、出題範囲は狭いのではないかと思っていましたが、大体20%ほど出題されていて、結構増えたなと感じています。

 

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まず1つ目が、第1問の問4、情報デザインの概念を問う問題でした。「5つの帽子掛け」の問題ですが、これは先ほどの「論理回路」と同様に、扱っていない教科書もあります。ただ、別にその知識がなくても、問題文に書かれていることを活用すれば解ける形になっています。

 

授業においては情報デザインの概念をしっかり生徒たちに問い掛けて、生徒たちが試行錯誤して、相互評価や議論をしていく中で、自分たちなりの情報デザインの概念を捉えていくことで解けるのではないかと思います。

 

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続いて、第2問A問2の二次元バーコードの問題です。この問題は、まず「二次元バーコードとはどんなものだろう」という、いわば「問題の発見」から入っていると感じました。

 

私も授業で何か新しいものを扱うとき、「これってどういう意味だろう、何の役に立つんだろう」と問いかけをしています。

 

それに対して、生徒たちがICTを活用しながらアウトプットを作って、できたものを相互評価するという活動をする。これは授業における「問題発見」であると思います。

 

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次に、第2問A問3・4でツールを使って実際に二次元バーコードを作ってみようという問題は、「問題解決」の実行にあたります。

 

生徒たちに二次元バーコードを、文字列の文字数と、復元能力を変えながら、画像生成ツールで実際に作らせてみるといった活動は、皆さんも授業の中でも行っていると思います。

 

ここで、作った後が重要です。作りっぱなしではなくて、作ったアウトプットを生徒同士で相互評価させます。これも、最後にするのではなくて、提出前に相互評価をして、そこで得たコメントを反映して、改善したものを提出させる、というのがポイントであると思います。最後に先生が全部評価すると大変になるので、中間評価という形で、途中の段階で生徒同士に相互評価させるのです。

 

私は授業でレポートなども書かせますが、やはり途中に生徒同士で相互評価させ、改善するステップをことが重要であると思っています。

 

この問題でも、実際に作った2次元バーコードの文字列の文字数と、復元能力にどんな関係性があるかを見る、ということが、「評価・改善」につながっていることがわかります。つまり、問題解決的な授業というのは、問題発見→問題解決→評価・改善の3つのステップでできているということが読み取れます。

 

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どのような授業を検討するべきか~共通テストの試作問題も問題解決の流れで出題されている

 

これらを踏まえて、私たちは「情報Ⅰ」でどのような授業を設計していくべきかということを考えていく必要があると思います。

 

以前に、情報処理学会のシンポジウムで、愛知県立小牧高校の井手広康先生が、過去の大学入試センターの「試作問題」と「サンプル問題」におけるプログラミングの問題は、問題解決の流れで出題されているという研究発表をされています(※3)。

 

※3 情報処理学会高校教科「情報」シンポジウム2022秋講演 「様々な事象を情報とその結び付きとして捉える態度を育成する授業実践」

   

このように見ると、このプログラミングによる暗号解読の問題だけでなく、「サンプル問題」のドント方式で当選者を求めるプログラミングの問題も、今回の「試作問題」のお釣りの払い方のプログラムも同様です。

 

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これは、今お話しした二次元バーコードの問題にもあてはまります。問1と問2で、「そもそも二次元バーコードとは何か」と問うているのは、先生方が授業の導入で、「今日の授業はこれについてやっていくけど、これって何だろう」と聞くのと同じですね。ここが「問題の発見」。

 

その後、ツールを使って実際に生徒たちに二次元バーコードを作成させるのが「問題の解決」。そして、作った二次元コードの文字列と文字数と、復元能力の関係を評価するのが「評価と改善」にあたります。

 

つまり、授業の流れでの中も「問題の発見」「問題の解決」「評価と改善」の手順を踏んでいくパターンを作ってしまうわけです。個人的には、「評価と改善」は、途中提出前に持ってきて、改善する時間を取る方がよいと思います。

 

そして、最初にお話ししたように、とにかく身近な事象を題材にすることと、問題解決を意識して、最初の10分だけこちらから話したら、いったん手を放して、思い切って生徒たちに試行錯誤させてみます。こうすることで体験的に学んで、概念を理解することが重要であると思います。

 

今回の「試作問題」を解いてみて改めて感じたのは、知識や技能を問うものではなく、資料を読み取って自分の中で作られた概念を活用して解いていく問題であるということです。

 

ですから、「情報Ⅰ」の試験対策を考えるとき、授業の中で生徒たちが問題を解いて試行錯誤する中で、そうした概念を形成していくことができるようになれば、彼らがテストの問題を解くときも、問題を読み取る中で概念を自分の中で作り、それを活用して解くことができるようになるのではないか、と感じています。そのためにも、何度も申し上げるように、問題解決の3つのステップが重要になると思います。

 

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コンピュータを活用して、生徒たちにとって身近な事象を題材にして問いを投げ掛け、試行錯誤をする授業を作る

 

最初に申し上げたように、「情報I」の授業づくりのポイントは、コンピュータを活用して、生徒に身近な事象を題材にすることであると思います。

 

最近、私も「データ活用」でアンケート分析をやっていますが、そこで使うデータは、生徒たち自身で身近なデータを集めさせています。授業設計する側としては、かえって手間がかかることにはなるのですが。

 

でも、例えば「○○年のキャベツの売り上げ」のように、生徒たちに全く関係のないデータを渡して分析させても、全然身近ではないですよね。彼ら自身に身近な題材でデータを集めて試行錯誤したほうが、結果として、活用や試行錯誤の頻度も上がることになります。

 

やはりこういった、生徒たちにとって身近な題材で問いを立てて問題を発見させ、実行させて、アウトプットを相互評価することが大事なのです。

 

この相互評価は、先ほども申し上げたように、最後にやってもよいですが、最後に近い、なるべく前のところでやって、その修正を反映して改善して提出する、というサイクルをつくっていくことが、問題の概念を把握して解く力につながるのではないかと感じています。

 

 

「情報デザイン」を単なる作品制作で終わらせない

 

個人的に、「第2章 コミュニケーションと情報デザイン」で特に気をつけたいと思っているのが、「情報デザイン」です。この中で、「情報のデジタル化」は、コンピュータの概念や、文字や音のデジタル化を扱う単元として、かつての「情報A・B・C」、そして「情報の科学」・「社会の情報」の時代からずっと扱われています。

 

一方、「情報デザイン」は、今回の学習指導要領で初めて登場したものです。ここで気になっているのは、「情報デザイン」の授業で、ツールの使い方だけに特化したり、問いを立てずに「とにかくこのツールを使って何か作ってみよう」という授業になったりしていませんか、ということです。単に作品の制作だけで終わらない授業を設計して、実施していくべきではないかと思っています。

 

ですから、下のスライドに挙げたような、分かりづらい案内板があったとき、単に案内板の作り方を覚えるのでなく、何のために案内板が必要か、ということを生徒たちにしっかり調査させて、問題を発見して、「この案内板の情報デザイン上の問題は何か」ということを考えさせるということが重要です。

 

昨年夏の全高情研の全国大会で、「文化祭の情報デザイン」というテーマで事例発表をしました(※4)。ここでは、生徒たちに文化祭に初めて来校するお客さんが、そもそも情報デザイン的にどんな問題を抱えているか、ということを発見させた上で、デザインのプレ制作、そして評価につなげていく、という形で授業設計しました。文化祭に来校するお客さんの利便性を考える、という実際の問題解決に「情報デザイン」を使ったものですね。

 

※4 [事例232]問題解決を「情報デザイン」で行う授業実践

 

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このように、情報デザインの授業は、特に「問題の発見」の設定の部分を意識して行う必要がある、と感じています。「情報Ⅰ」の目標は、全て問題解決です。「情報デザイン」も「プログラミング」も「データの活用」も、あくまでも問題解決のためのツールであり、これらを活用する、という授業設計が重要であると感じています。

 

 


今回の「試作問題」を見ても、先ほど佐藤先生のお話にあった「論理回路」は航空機のトイレの空き表示ですし、「待ち行列」は文化祭の売り上げシミュレーション、「プログラミング」は釣り銭の出し方というように、非常に身近な題材が出ています。授業の中でも、こういった題材を参考にして、「この問題解決のためにプログラミングを使ってみよう」とか「表計算ソフトを使ってみよう」といった授業デザインをしていくことが、われわれ情報科の教員に求められているのではないかと感じています。

 

 

「コミュニケーションと情報デザイン」における授業実践の提案

 

ここからは私が行ってきた授業事例をご紹介します。何度も申し上げたように、私の授業では、とにかく問題解決の流れで授業を設計することを意識しています。具体的には、なるべく教員が話す時間を減らして、問いを立ててから資料を配って、その資料を見ながらやりなさい、ということです。

 

あとは生徒同士が相互評価をすることを意識して行っています。「情報のデジタル化」のところでは、作ったものの評価は、教員ではなく生徒同士でする、ということをずっと行っています。また、「情報デザイン」では、作るだけでなく、問題解決をしっかり意識して授業設計を行っています。

 

 

■メディアとコミュニケーション~「桃太郎」の記事を書くことでメディアリテラシーとは何かを考える

 

事例を4つ紹介します。1つ目は「メディアとコミュニケーション」の事例です。第2章「コミュニケーションと情報デザイン」は、この事例から入りました。

 

「意図を持った情報発信の仕組みとは何だろう」という問いを投げ掛けて、資料を配って、桃太郎を題材に授業を行いました。

 

 

この授業では、メディアリテラシーの題材として「桃太郎」の物語を取り上げ、鬼側と桃太郎側に分かれて、それぞれの立場から「桃太郎」のストーリーについて記事を書いて、お互いの記事を評価する、という活動を行いました(※5)。

 

実際の記事が、このスライドの右側です。「桃太郎氏、過剰防衛か暴行か」みたいな記事ができます。メディアリテラシーというのは、言葉で伝えるだけではなかなか分からないものですよね。この授業では、生徒たち自身に、それぞれの立場からストーリーを切り取らせて、見出しの付け方やどの写真を使うか、ということを考えて記事を作らせました。メディアリテラシーとは何かという概念を、相互評価する中で発見させるという活動が重要であると感じています。

 

※5 [事例119  ] It’s Media!から考える、桃太郎のフェイクニュースWebサイトを作ろう

~プログラミング的思考を取り入れた授業

 

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■コンピュータとデジタルデータ~2進法の仕組みを知るとともに活用の意味を考える

 

2つ目は「コンピュータとデジタルデータ」、情報科の先生なら絶対やったことがある2進数と10進数の授業です。

「コンピュータをつくった人たちが、0と1だけで数を数える概念を発明しなければコンピュータは生まれなかった。君たちはコンピュータを開発する人になったつもりで、カードを使って0と1だけで数える概念を開発してみよう」という問いを出します。

 

その上で、コンピュータ・サイエンス・アンプラグド(※6)の資料を使って、まずカードだけを使ってどのように数えていくか、これにはどのような特性があるか、ということを自分たちで見つけさせます。

できたメソッドをお互いに評価し合って、どのような特性があるかということを、生徒たち自身に見つけさせるという活動をしています。

 

※6 コンピュータ・サイエンス・アンプラグド

 

 

大切なのは、手計算でやっていたものが歯車になって、さらに電気信号になったこと。そして、電気信号にするときには2進法が必要になったんだよ、と意味付けをしてあげることです。

 

さらに、この2進法のデジタル化の概念が、パリティビットにどのように活用されているか、という部分も体験させています。このように2進法の仕組みを知ることに加えて、それがどのように活用できるか、ということを、生徒たちに体験させる活動が重要であると思います。

 

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■データの圧縮~ドット絵をランレングス圧縮で圧縮・展開してみる

 

3つ目の事例は「データの圧縮」です。動画データって思いよね、少ないデータ容量でデータをやりとりできたら便利だよね、という話をした上で、「この絵を少ないデータ容量で送る方法って何だろう」ということで、最初にランレングス圧縮を勉強した後、生徒たちにドット絵で好きなものを描かせます。

 

 

これをランレングス圧縮の方式で圧縮して、実際に送信して、どのように圧縮と展開できたか、という検証を行います。

 

この授業で重要なのが、生徒一人ひとりが違う絵を描くことです。これによって、実際に圧縮と展開ができたかを検証できます。

 

また、ハフマン符号のデータ量も行います。こちらは資料を見ながら行いますが、全てを扱わなくても一部のところは、生徒たち自身に作らせて相互評価させることを意識して授業を行っています。

 

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■情報デザイン~使い勝手の悪いゲームボタンのUIをプログラムで改善する

 

4つ目の事例、情報デザインは、ドリトルによる宝探しゲームが題材です。

 

ユーザインターフェース(UI)の悪いゲームを渡して、プログラムを改善して、操作しやすいゲームボタンのデザインを作ってみようという活動です(※7)。

 

※7 [事例193]ゲームのUI改善を通して学ぶユーザビリティ~プログラミングで学ぶ情報デザイン

 

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最初に生徒たちにゲームを遊ばせて「このゲームの問題点を挙げなさい」と言うと、「ゲームがつまらない」と言うので、「いや違う。ゲームがつまらないんじゃなくて、ここでは、ゲームのボタンに注目してごらん」と言うと、「ゲームのボタンが操作しづらい」という意見が出てきます。

 

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もともとのボタンが、このスライドの左上にあるもので、並び方もわかりにくく、どのボタンが何を意味するのかわからない。操作しやすいボタンにするためには、どのような配置やデザインにすればよいのか、プログラムを組み替えて作ってみよう、ということで作らせて、相互評価で検証させます。

 

大切なのは答えを教えずに、生徒たち自身にどんなボタンがよいか発見させることです。教員としては思うようにコントロールできないのでは、と思われるかもしれませんが、私は「情報Ⅰ」で大切な授業というのは、生徒がやりたくなるような問いを出して、生徒たち自身で学んだ技術や知識を活用して、自分なりにアウトプットを出すこと。さらに、それを相互評価して、どういったデザインがよいのか、ということを検証させるような授業であると思います。これをやっていくことを通して、生徒たちはおのずと情報デザインや情報のデジタル化の概念が身に付いていくと思います。

 

この「概念を身に付ける」という授業を作っていくことが、共通テストにおいても、問題文を読み取る中で、「これってこういう概念だね」ということを理解した上で問題を解く力につながるのではないか、と思っています。これからも問題解決を意識した授業設計をやっていけたらと思っています。

 

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ここまで「情報デザイン」の事例をご紹介しましたが、最初にお話しした神奈川県情報部会の実践事例報告会では、このように全国の先生が、様々な分野で具体的な授業の事例を発表しています。

 

こちらのスライドは昨年末の回のプログラムですが、54の事例が発表されています。今日登壇されている先生方の中にも、毎年発表してくださっている先生もいらっしゃいますが、ぜひオンデマンド発表やポスター発表をご覧になってください。他の先生の事例を見ることは、本当に授業づくりの参考になると思います。

 

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この事例で、「コミュニケーションと情報デザイン」に関するものを数えてみたのですが、54本中6本、約15%です。「プログラミング」や「問題解決」の事例はもともと多いです。12月末に実施したので、第4章はまだ終わっていないため、「データの活用」は少ないかな、というのは読めましたが、「コミュニケーションと情報デザイン」は、今年本格的に授業が始まったにもかかわらず、まだ事例は少なかったです。ただ、少ないながらも、今回の発表の中には「コミュニケーションと情報デザイン」の本質に迫る事例もあるので、ぜひご覧になってください。

 

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文部科学省の授業動画も活用しよう!

 

先ほど竹中先生からもお話がありましたが、文科省から「情報I」のいろいろな解説動画(※8)が出ていますし、情報処理学会からも多くの動画教材が出ています。

 

実は私は、文部科学省の「情報Ⅰ」の解説動画で「プログラミング」のところを担当しました。

 

※8 高等学校情報科に関する特設ページ

 

このお話が来たときに、私が言ったのは「構文だけのプログラミングの動画は作りたくない」ということでした。やはり身近な事象を題材に問題解決のためにコーディングをする、プログラミングを活用するという意識で動画の構成をデザインしているので、よろしければ参考になさってください。

 

何のためにプログラミングをするのかと言えば、まさに問題解決のためですし、問いに対してプログラムで解決するという体験を、授業の中に落とし込んでいくことが重要であると思っています。

 

これからも全国の先生の授業事例を参考にしながら、「情報Ⅰ」の授業を皆一緒につくっていければ嬉しく思います。ありがとうございました。

 

 

質疑応答

 

Q1.高校 情報科・技術科教員

教科書の内容はすでに終わっているとおっしゃっていましたが、残りの時間はどのような授業になるのでしょうか。

 

A1.鎌田先生

アンケート分析の演習を行っています。本校の探究の授業との兼ね合いもあり、統計調査のPPDACサイクルにそったデータ分析の演習を1年生において行うのは、探究の下地を作る上でも非常に重要だと感じています。だからこそ、1年生で「情報Ⅰ」を行うべきだと思います。

 

これについては文科省より公開されている、日出学園の武善先生の授業動画が非常に分かりやすいので、こちらの動画を視聴されるとどんな授業をしているのかわかりやすいと思います。

 

文部科学省【情報Ⅰ】情報通信ネットワークとデータの活用 (4)全編「アンケートで身近な問題を解決しよう!」

 

 

Q2.高校 情報科教員

問題解決的な授業をされるにあたって、必要な前提知識については、授業外で生徒が各自で学んでおくことを前提にされているのでしょうか。

 

A2.鎌田先生

実はあまり意識したことがありません。そもそも、コンピュータ教室のレイアウトを4人1グループにして、向か合わせにしており、授業中にいつでも動いてクラスメイトに聞きにいってもいい、と伝えてあります。

 

前任校でも、同じようにしていました。わからないことは聞けばいいですし、クラスメイトも分からなければ、教員に聞くように伝えてあります。ただ、アンケート分析の授業については、数学との兼ね合いをもっと重視していくべきだと感じました。特に箱ひげ図の読み取りは、丁寧に指導する必要があるように感じています。

 

 

Q3.高校 情報科教員

問題解決を行わせると、教科書の内容を逸脱した知識・技能を学んで満足する生徒が経験上多くて、悩んでいます。何か対応や工夫されていることがあれば教えて下さい。

 

A3.鎌田先生

私も悩み続けているところです。評価をルーブリックにて示すことと、生徒同士の相互評価をチェックリストで行うことが、最近効果的ではないかなと思っています。特に相互評価で、細かいチェックリストを作ると、必ず学んで欲しいこと、取り組んで欲しいことを押さえることができると思います。

 

 

Q4.高校 情報科教員

このような授業をなさったときの評価方法を教えてください。

 

A4.鎌田先生

成果物はルーブリックを活用していますが、必ず途中で生徒同士による相互評価を行い、改善した上で成果物を提出するようにしています。

 

また、単元ごとの振り返りは1枚ポートフォリオによる評価を行っています。ポートフォリオでは、各授業の終わりに学んだことを形成的評価として記述し、単元の最後に学習前に聞いたものと同じ「問い」について学習内容を踏まえて記述する総括的評価を記入する形にしております。詳細はこちらの記事をご覧ください。

 

[事例238]ポートフォリオを活用した『情報Ⅰ』の問題解決

 

 

Q5.大学教職員

授業づくりのキーワードとして「概念」を挙げていらっしゃいましたが、「情報」における「概念」とは、具体的にどのようなものでしょうか。また、先生はIB(国際バカロレア)校にご所属とのことですが、IBにおける概念や考え方と関係がありますか。

 

A5.鎌田先生

「情報」における「概念」の定義は人によって異なるという前提を元に話をさせていただくと、私にとっての「情報」における「概念」とは、授業を通して学んだ知識や技能を活用できる段階まで身に付けていることだと思います。これらは、生徒が授業の中で試行錯誤を行うことで身に付けるものだと思っていますし、私が問題解決にこだわるのもここにあると思います。

 

IBにおける概念については、まだまだ私も着任して浅いため、IBとはこうであるとはっきりしたことは申し上げられないです(IBの理念は1年間で分かるほど浅いものではないと感じています)。

 

しかしながら、IBの探究的な学びや生徒主体の学びのカリキュラムは非常に良くできており、私の好きなIBの目指すべき学習者像に、「挑戦する人」「探究する人」という目標があります。

 

私たち教える側も常にこうした姿勢を持ち、学習者とともに学びに挑戦したいですし、新学習指導要領が目指すべきベクトルと重なる部分があると感じています。

 

オンラインイベント「 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~」講演より