オンラインイベント 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~
事例4 身近なネットワークから『学び』につなげる学習活動
岡山県立烏城高等学校 太田重成先生
あまりこういう場に出たことがありませんので、まず経歴から紹介させていただきます。
元々私は、複数の民間企業を経験したのち、ご縁がありまして、2004年にこの世界に入り、全日制普通科進学校を中心に勤めてきました。
よく先生方が「情報専門の教育を受けた教員がいない」と言われますが、私も工学部の機械工学科の出身です。実は、大学時代は教員には全く興味がなかったため、通信制大学で2年かけて平成24年に教員免許を取得しました。情報専門の教育を受けてきていないという意味においては、多くの教科「情報」を担当している先生方と、同じ立場であると考えていただければと思います。
現在は、岡山県内唯一の県立定時制高校である鳥城高校の昼間部に勤めています。今年で烏城高校は創立80周年になります。
昨年まで1年→2年→3年生と持ち上がりで担当していました。通常、定時制と言われると4年制をイメージされますが、本校は3年で卒業する生徒がほとんどです。今年は、もう一度1年生担当になり、4年目となります。
勤務校では「情報」と、TT(team teaching)として「商業」を担当しています。
ここで、「商業」の教科書は非常に良いという新しい気付きがありました。実は今回の「試作問題」で、先ほど佐藤先生が取り上げられた「待ち行列」の問題は、「商業」の「ビジネス情報」という教科の教科書に、ほぼ同じ問題が載っています。題材は、確かアイスクリーム屋さんでしたが、非常に丁寧に分かりやすく5、6ページくらい使って載っていました。ですので、もし、あの問題をどう解説しようか、と考えている先生がいらっしゃいましたら、ぜひ参考にしてください。また、私自身もプログラミングが苦手ですので、プログラミングの勉強は「商業」の教科書を使っています。
校務分掌は、校内システムを担当している教務課情報処理係と、ICT機器を管理する図書課視聴覚係です。「情報の教員は校内のICT何でも屋になりがち」と皆さんよく言われますよね。私もその典型です。
本校は、指導要録も私が赴任するまで手書きでした。そこで、2年かけてやっと県統一の校務支援システム導入が完了したところで、今度は新型コロナウイルス感染症が拡大し、GIGAスクールへの対応を進めることになりました。今は、ICT活用推進委員会の委員長まで兼任をしています。
部活動は卓球部を担当しています。どちらかというと最近は、授業よりもこういった校務的なことや部活動が中心になっています。
試作問題から普段の授業にどうつなげるか
■身近なネットワーク機器の仕組みや役割に気づかせる
それではまず、令和4年11月の「試作問題『旧情報(仮)』」の問題を取り上げます。
「旧情報(仮)」の第4問です。旧課程の問題ではありますが、「情報Ⅰ」で扱われていても不思議ではない内容であったため、注目しました。
「データ活用」や「プログラミング」の問題の配点が高いので、どうしてもそちらが非常に注目されがちですが、こういった「身近な題材」としてネットワークが取り上げられていることを、先生方も頭の中に置いておいていただきたいと思います。
ネットワークはとても生活に密着しています。このオンラインセミナーを全国の先生方が受けているのも、情報通信ネットワークがあるからで、私たちの生活に非常に密着していて、その恩恵にあずかっています。
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この問題を取り上げた理由がもう一つあります。
実はこの問題見たときに、「え?」と思ったんですね。なぜ、そう思ったかというと、私が全く同様の実習を長年行ってきたからです。
こちらは、平成29年に前任校で使用していた実習プリントです。2014年頃から、「自宅のネットワーク環境を調べてみよう」という実習を取り入れていました。
今であれば、1人1台端末が浸透したので、自宅の機器を撮影してくる、といった実習も考えられますが、理科の生物のスケッチなどと同様に、機器の特徴を考えるためには、撮影するよりもスケッチのほうが良いのではないかと思っています。例えば、機器の差し込み口やどんなランプがあるかというところから、どのような機能を持った機器なのかを考えさせる、といった活動が深い学びにつながると考えています。
もし、そういった活動をするとなると、「生徒がスケッチを間違えていたらどうするのか」とか、「接続の順番を間違えていたらどうするのか」と心配される先生もいらっしゃるかもしれません。それこそ、私は学びのチャンスだと思います。先生が生徒のスケッチや接続の順番を見て、「これだと実際には通信できないはずだけど、それはどうしてですか?」という発問ができ、そこから深く考えさせることもできるのではないでしょうか。
注意点としては、これは生物のスケッチと同様ではありますが、どのような視点・観点で、何を書けば良いのか、ということを的確に指示をしておかないといけません。そうしないと、いわゆる美術の写実的なデッサンになってしまう可能性もあるので、特徴をつかむことをポイントに置いて、生徒に課題を与えることが必要です。
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では、この問題の中身をもう少し詳しく見てみます。
問1は、会話文の中に機器のポートや接続機器の説明が書かれていて、赤枠で囲った選択肢が正解です。
この問題のポイントは、まずは接続から機器を判別できることと、それに伴って機器の機能や役割を理解しているかどうかです。
私が実習をしていた当時は、実際の生徒の自宅環境は、まだADSLが一部あって、あとはケーブルテレビが多かったです。現在は、光回線終端装置(ONU)があることに加えて、ルータと無線LANがONUと一体型になっている機器が多いので、これに関しては、なかなか授業では説明し切れませんよね。この問題の図でも、それぞれの機器はバラバラになっています。
ですので、生徒がランプを見て、どんなランプがあるかをしっかり理解すれば、その機器を予測することができます。ポートやランプを見て機器を判別する問題は、他のパターンでも出題できるのではないのかなと考えています。
今回のこの問題は、うまく通信ができている状態のものから、機器の特徴をつかむ内容です。学習指導要領の解説にもあるような、「あらかじめ用意したトラブルを抱えている情報通信ネットワークの不具合を解決したりすること」という内容は含まれていません。この問題の発展として、例えば、WAN側とLAN側の接続が逆だったらとか、もしくはどちらに何を接続するか、といったことを考えさせることも有効だと思います。
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こちらは、トラブルを抱えたネットワークから原因を切り分けるために、私が以前の勤務校の定期考査で出題した問題です。1学年160名で、岡山県でもトップレベルの進学校でした。
著作権の関係で図は隠していますが、いわゆるDHCP(自動的にIPアドレスが割り振られるようなネットワーク)で、スライド左図のような状況を示して、「この状況で原因は何だと思いますか」ということを、状態から原因を切り分けていくことを考える問題で、赤枠で囲った選択肢が答えです。もう一工夫するのであれば、「原因をさらに切り分けるためには、次にどのような手順、どのような調査をすることが考えられるか」という問題も想定できるのではないでしょうか。
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■無線LANの設定とセキュリティを体験から学ばせる
続いて、問2です。正解は、赤枠で囲った選択肢です。
今度は無線LANが題材ですが、ポイントは、無線LANの設定の理解で、特に用語の意味と機能を理解しているかどうか、そして、セキュリティをソフト面とハード面で理解しているかどうかです。
この問題では、SSIDとKeyについてあまり深く掘り下げていませんが、Keyが暗号化Keyであり、無線通信に関しての部分を暗号化しているという部分も押さえておきたいです。この部分はこの後の問題でも触れます。
授業の中で扱うのであれば、無線のアクセスポイントを用意して、接続させたり、設定画面を触らせたりしたいので、1人1台端末を利用して接続させてみる、という方法も考えられます。また、例えば岡山県では、リースアップした機器は県に譲渡するという契約になっていますので、リースアップした機器で、仮想的な実習環境をつくって実習することもできます。
また、普段の生活の中であれば、修学旅行のときに、1人1台端末を持って行く場合もあると思います。ですので、ホテル内の無線LANへの接続、もしくは一日研修での公衆無線LANへの接続ということを体験させることも有効ではないでしょうか。
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■セキュリティや情報モラルは、対策や方法論よりも目的や原則を意識させる
続いて、問4のセキュリティのソフト面に関する問題です。
情報セキュリティや情報モラルは、どうしても細かな対策や方法論に終始しがちなのですが、初見の内容でも理解できるように、目的や原則を意識させることが非常に重要です。
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その中で、一つの授業展開例を紹介します。「ウイルス」という言葉に関連して、インフルエンザ対策を情報セキュリティ対策に結び付けていく授業です。
この授業は、私は新型コロナウィルス感染症拡大前から行っていましたが、今ですと、新型コロナウィルス感染症を題材にしても、生徒たちも非常に知識を持っていますので活用できると思います。
この授業では、まず、インフルエンザ対策について知っていることをたくさん出させます。次に、コンピュータウイルス、コンピュータのセキュリティについて知っていることをたくさん出させて、共通する部分を考えさせます。今ならJamboardで簡単にできますね。それらを分類してセキュリティの三原則に当てはめてみたり、もしくは、何か原則になるようなことがないか、ということを自分たちで考えさせることも良いと思います。
実際に、私が作っていたのは下のスライドの右図です。セキュリティ対策の三原則である「侵入(感染)させない」、「発症(発病)させない、実行させない」、さらに「拡散させない」というところに収束させていくと、原理・原則が理解できる活動になるのではないかと思います。
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続きまして、問5です。正解は赤枠で囲った選択肢です。
今度は暗号化という用語に対して、何がどのような仕組みであるか、もしくはプロトコルで暗号化されているか、という部分についての理解を問う問題です。
選択肢①に、「『MyFree_WiFi』は暗号化されたhttpsで通信することができないから」とありますが、プロトコルの違いが理解できれば、ここは判別できると思います。さらに言うと、赤い矢印で示している鍵マークは、1人1台端末の無線LANの接続状況の画面を見せるだけでも、意味があるのではないかと思います。このマークを見たことがあるかないか、もしくは意味を考えたことがあるかないかというところで、理解は大きく変わってきます。
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■ネットワーク構築はトラブル解決の経験が生かせる
続きまして、問6です。
これは、学習指導要領の中では、情報通信ネットワークを構築するために必要な構成要素の理解に関わる問題です。赤枠で囲った選択肢が答えです。
少しこの問題をひねっていくのであれば、ハブが接続されている状態のネットワーク構成図から、トラブルを想定してみます。例えば、「通信速度が低下しています。原因はどこでしょう」といった問題にした場合、ハブの規格などを習っていなくても、規格によって速度が違うことを理解していたり、もしくは通信ができないという状況を考えたりしてトラブルを解決する、という視点から回答が可能です。
また、最初に扱った自宅のネットワーク構成から、今、何か困っていることを挙げてもらい、みんなで解決策を考えて調べていく活動も面白いのではないかと思います。
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実習結果を共有することで、深い理解を得る
では、それ以外に授業展開としてどんなものがあるかお話します。
私が行っていた授業展開例としては、まず、平成26年頃から実施している、nslookupコマンドでIPアドレスを取得する非常に単純な実習です。ここで、私はドメインをちょっと工夫しています。
通常、先生方が説明するとしたら、「IPアドレスは数字で覚えにくいから、DNSサーバが必要だよ」という理由付けになります。ここで、例えば同じIPアドレスや複数のIPアドレスを持つドメインについて調べさせてみます。この授業を実際に行ったときは、まだchalk & talkの時代ですから、生徒一人ひとり当てて、「じゃあ、IPアドレス、答えは何になった?」と聞いていくと、「あれ、なんで?俺の答えと違う」と何人かが青ざめるのですよね。
そうやって実習結果を共有し、「あれ?」と思うことによって、DNSやドメイン名について深い理解ができるのです。例えば、「同じIPアドレスということは同じサーバだよね。そうか。岡山県立学校は同じサーバにあるんだ。じゃあ、このドメイン名のこの形式は、どういう仕組みになっているの?」と考えていくことができます。
また、複数のIPアドレスが同時に出ることで負荷分散ができることや、サーバの移転に対応できる、といったことも理解できます。これが深い理解であると思います。
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続いて、これも基本的なものです。
tracertコマンドで、目的のドメインサーバまでのルートをたどっていく実習です。
実際は、この実習を行うと、複数のいろいろな機器を渡っていくことしか感じられません。しかし、複数の場所に対して調べて、その実習結果を共有していくと、いくつものルータを通って通信していることが分かるだけではありません。同時に実習を行ってみると、生徒が40人いたら、40人全員が全く同じルートを通るかというと、けっこう変わります。こういったことが、ドメイン名やパケット交換方式の深い理解につながります。
「co.jp」と「.com」が同じサーバにあるとか、どうやら近くにありそうだな、といったことも分かっります。また、実は生徒たちは、「co.jp」は全て国内にサーバがあると誤認していることもとても多いのです。さらにはその後、例えば、Googleのサーバ内をストリートビューで歩いてみると、生徒はすごい!楽しい!!と感動します。そういったことも行ってみると面白いと思います。
また、同じ目的地でも、先ほど言ったように、ルートが異なっているので、「パケット交換方式のときに、どうしてそんなことが起きたんだろうね」と問うこともできます。どのような場合なら起きるけど、どのような場合なら起きない、ということを体験することで認識できると、生徒たちはすんなりこの知識が入ってくるわけです。
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ちなみに、皆さんも感じられたと思いますが、これらの実習は、特別に工夫されていたり、何かとてもスペシャルだったりするものではありません。
これらは、教科書に普通に載っている実習内容です。教科書は本当によくできています。すごいです。ですから、教科書とか指導書をしっかり隅から隅まで読み、そこに用意されている実習やトライを、骨の髄までしゃぶり尽くすように実践してみると、実は深い理解につながる本当にいいエッセンスが詰まっていたりするのです。こういった部分を、皆さんもぜひご活用いただきたいと思っています。
学習活動と学び~生徒に「気付き」を与える
生徒に身近なネットワークとは何なのか、というと、自宅であり学校であり、もしくは公衆無線LANを使っている生徒もいると思います。
これらの実際に利用しているネットワークに対して、「なぜ?」「何?」「どうして?」ということが加わることで、身の回りのものや普段の生活が、全て『学習活動』になると思います。
ただ、その「なぜ?」「何?」「どうして?」が、次の行動につながらないと学習活動にはなりません。なので、そこをどうつなげてあげるか。まず「なぜ?」「何?」「どうして?」を発生させ、そして次に行動をどうやって起こさせるか。そこを案内してあげることが、私たち教員の役割ではないのかなと感じています。
授業・考査・生活の全てを学習活動に結びつける「気づき」を与えるために
では、「学習活動」と「学び」の関係はどういうものかと言いますと、授業と考査、そして生活の3つをしっかり結び付けたものが、学習活動ではないかと思います。
教員はどうしても授業だけに集中しがちです。私は、「キミのミライ発見」(※)でも紹介させていただきましたが、授業に加えて、定期考査ごとに、いろいろな知識や社会的話題を絡めた20ページくらいの考査問題を作っていました。そういった考査を使って、「生活の中にもいろいろな学びがあるんだよ」と伝えています。
また、私は、進路指導を長年行ってきた中で、「あなたが行きたいと思っている学部学科の学びは、必ず通学路の中に、どこかにいろいろ関わっているものがあるよ。探してごらん」と必ず言います。この質問は、とても大事だと思うのです。必ず生活の中にいろんな学問があります。通学路の中に、そして私たちの通勤路の中にあるのです。それをやっぱり見つけてもらいたいと考えています。
では、そこから学びにつなげるためにはどうすれば良いか。それは、「気付き」を与えてあげることが学びではないかと思います。この気付きを与えてあげて、「すごいな」とか「面白いな」といった発想や感情こそが、生徒たちの学習活動が『学び』に変わっていく瞬間であり、そこから主体性が生まれるのではないでしょうか。
最後に、ご参加いただいた先生方へ。まず「商業」の教科書は、とてもお薦めです。ぜひ、皆さん見てみてください。私もとても勉強になっています。
また、そういった教科書や指導書をしっかり活用してください。そこには、執筆者や編纂協力の人たちの、いろいろな意図が込められています。
もちろん、全ての根本は学習指導要領です。ただ、学習指導要領をしっかり読んで、それをどうかみ砕いていくか。学習指導要領を「データ」とすると、教科書は「情報」という見方もできると思います。
情報は受取者のいろいろな意思によって、意図や解釈が変わっているものだと思います。教科書や指導書をとにかくしっかり深く読み込んで、執筆者や編纂者の意図や解釈の仕方を理解することで、また新しい授業展開が生まれるのではないかと考えています。
それから、考査での出題や補習等では、問題解説での工夫が必要です。解法だけではなくて、「出題者はこんな能力をみんなに求めているよ」、もしくは、「この問題こう変えたら君たちはどう考える?」といった発展問題を考察することも大切だと思います。
そして、生徒の身近な生活に「気付き」を与えてあげてください。そのために、私たち自身が常にいろんな物事について疑問を持って、それをどうやって授業で活用しようか、と考える必要があります。私は、24時間「情報」のいろいろな問題を考えています。
また、その中での発見を、どんどん授業の中で表していっていただきたいです。そして、そのためには1人で悩まずに、周りと協力するために外にも目を向けてください。
先ほど、鎌田先生が神奈川県情報部会の実践事例報告会を紹介してくださいましたが、見るだけではなくて、ぜひ先生方のいろいろな実践を発表してください。私もいくつか発表をさせていただいていますが、特別な発表はしていません。普段の身近な、何気ない授業を発表させていただいています。先生方の発表を必要としている先生が、全国のどこかに必ずいらっしゃいます。ぜひ発表してください。
そして、私は、岡山県の中で、公立学校の「情報」の教員用クラスルームをつくって交流を進めています。そういった活動も、先生方も各県で進めてください。とにかく皆で協力していかないと、1人ではなかなか力は発揮できないと思います。いろいろな人たちと協力して私たちも学んでいき、皆さんも学んでいっていただいて、そこからまた私も学んでいきたいと思います。
【質疑応答】
Q1. 高校 情報科教員
実習にかけられる時間の確保が難しいです。なるべく生徒たちが自走して問題解決できるような問いを投げかけるのがポイントだと感じましたが、他に気をつけていることはありますか。
A1.太田先生
そのポイントを感じていただけたなら本当にありがたいです。
まず実習時間の確保ですが、「予習・授業・復習」のサイクルを効率よく回すことだと思います。
私の場合は最低でも教科書の該当箇所は読んでいることが前提で授業を進めていました。ということは、必然的に授業計画をきちんとしておいて(ガチガチに固めておくのではなくある程度は柔軟に対応できるようにして、最低でも順序や時間数の目途を決めておく)、次の時間の予告や予習内容を明確に指示するということも必要ですね。
「読んでこない生徒もいる」と心配される先生方も多いと思うのですが、予習をしていないと困るという場面を作らないと、なかなか予習は定着しないと思います。もちろん、読んでこなかった生徒を放置しておくわけではないのですが、予習をしていなくて授業で困ったというような失敗から学ぶ、という経験も学校での貴重で必要な学びだと考えています。
今では、1人1台端末を活用して、知識享受の部分や実習の操作説明のような一方向の内容は事前に動画を配信しておくことができますね。アーカイブしておけば、生徒にとっては何度でも視聴できるのでメリットもあります。
私は、校務分掌でも校内ツールの解説や操作説明は動画を作成して配信しています。
普段の授業と同じですから、一発撮りで、機材もChromebook一台で十分です。動画作成は、最初はたくさん作成しないといけないので大変ですけど、撮りためていくと次年度には再利用できるので、少しずつ他の業務の時間の確保もできますね。
あとは、実習のまとめとして生徒の実習記録から、全体へのコメントを復習として動画配信することも有効です。
今までは各クラスの実習結果を基にコメントを授業時間内にしていたと思うのですが、学年全体で実習後にコメントをしてやると、私たちにとっても深い発見もあって、面白いのではないかと思います。
これもアーカイブ配信できますから何度でも見返すことができて生徒にとってもメリットがありますよね。とにかく授業の時間は生徒の活動の時間としてできるだけ確保して、残りは自宅や校内での自習の時間、その他の隙間時間でもできるようにしてあげておくと良いと思います。
気をつけていることは、理論的に正しいかどうかはわかりませんが、実習が直接知識の定着に繋がるのではなく、実習を通して生徒が感じた興味・関心が主体性を生み、そこから生徒の意欲が発生し、その意欲が知識の定着に繋がるのだということを意識することでしょうか。
実習をすることが目的になってしまうことがあるので、実習はあくまでも学びの手段の一つとして、生徒に興味・関心を持ってもらうことに主眼を置いておかないと、課題の設定や実習の進め方がずれてしまうということをよく感じます。
あとは生徒から学ぶという姿勢を忘れないことですね。今回発表した実習も生徒と実習している中で学んで改善していった実習ばかりですので。
Q2. 高校 情報科・数学科教員
PBL型の授業展開も考えています。事例やアイデアがあればご紹介ください。
A2.太田先生
教科書や指導書にも事例やアイデアが載っていますけど、なるべく多くの事例やアイデアとなりますと、書籍も多く発刊されていますね。
立場上あまり特定の書籍を紹介することは難しいのですが、このオンラインセミナーにご登壇されている先生の中にも、問題解決型の授業展開を紹介した書籍を執筆されている方もおられますので参考にしていただけたらと思います。
私が今回発表したネットワーク分野となりますと、発表の中でも触れた自宅のネットワークからネットワークの問題解決や、校外活動での公衆無線LANの利用から情報セキュリティについての問題解決も考えられますし、生徒のスマートフォンやSNSの利用を題材にすることも考えられます。
そこからの展開として、私たちがどのような発問を投げかけられるかがポイントになるのではないかと思います。
例えば、スマートフォンであれば、自分の利用状況に合わせたキャリアやプランの選択を考えさせるという実習が、おそらく教科書レベルで載っていると思うのですが、PBLの特徴としてグループワークで進めていくことがあるので、グループの中でお互いの通信量の違いについて理由を考えさせるために、デジタルデータの特徴、さらにはキャリアやプランの選択だけではなく、どうしてプランによってそのような価格の違いがあるのかを考えさせられるような発問ができると、ネットワークの仕組みについて、深く考えるきっかけを作れるのではないかなと思います。
ただ、PBLの一番のポイントは課題設定なので、生徒が普段の生活でどのような課題を感じているか、気付いていないけど、実は解決できるかもしれないような課題がないかを、生徒との会話や普段のニュース記事、特に私はTwitterのようなSNSからヒントを得ることが多いです。
私たち教員自身が身の回りの生活からピックアップしていくことも必要ですね。
Q3. 高校 情報科教員
このような授業をなさったときの評価方法を教えてください。
A3.太田先生
私の評価は、「モノで評価する」ことを基本としているので、プリントへの記述や実習の成果物をA・B・Cで評価しています。もちろん、生徒には判断基準を事前に示しています。
観点別にご説明しますと「知識・技能」の知識に関しては、やはり考査での評価が主になります。
技能は実習での機器の操作ができるかという部分になりがちですが、こちらが指示した操作をそのままできるかではなく、教えたことを応用して目的を達成するために必要な知識の活用ができているかを評価していますので、今回ご紹介した授業内容ではこの観点は見ていません。
「思考・判断・表現」では、例えば今回ご紹介した授業では、提出されたレポートが評価物となりますが、いくつかのキーワードやポイントを設定しておき、それらが適切に含まれているかどうかを判断するようにしています。
技能の面と似たような評価対象となるのですが、技能は結果を見取って、思考・判断は経過を見取っていることが多いと思います。表現と技能の違いでは表現は思考の過程を説明できているかという視点で、技能は知識を踏まえているかどうかという視点かなと思います。
「主体的に学習に取り組む態度」では、今回の実習以外にどのような部分に活用できるか、利用できるかということをレポートで問うようにしているので、その先が見えているかどうかとその具体性を規準として見取っています。
Q4. 高校 情報科教員
自分は数学が専門なのですが、情報の教員として昨年度採用されました。専門以外の先生が情報の教員としての専門性を高めるために、先生方が取り組まれていることを教えてください。
A4.太田先生
岡山県の情報採用の教員も、情報の免許だけしか所有していないのは、私ともう一人くらいで、ほとんどの先生方は商業や数学の免許も持たれていて、私よりも素晴らしい授業実践をされている先生方ばかりですので心配されなくていいと思いますよ。
むしろ他教科が専門の先生は、その教科専門性を活かした教科横断的な授業展開ができそうなので、羨ましいです(笑)。
ネットワーク分野の専門性となると、これは、多忙感を感じておられる多くの先生方からお叱りを受けそうなのですが、やっぱり経験が一番なので「校内のICT何でも屋」としてネットワークのトラブル対応とかに携わってみることが一番だと思います。
私も今回お話しした通り、専門の教育を受けたわけではないですが、もともとは校内のICT何でも屋をやっていたことから、重宝していただいて継続雇用を続けてもらった経緯もあり、そこで学んだことが授業だけではなく教員としても活かされていると感じています。
もちろん、トラブル対応に一人で対応するのも限界がありますから、情報交換や県教委の担当部署にもフォローしてもらいながら学んでいくことも大切ですね。
ただ、基本的には、学習指導要領と教科書・指導書をきちんと読む、というよりも読み解くことが一番だと思います。さらに、それらについて他の情報担当の先生方と議論したり、自分からも授業実践を発信しながら情報交換していると、自然と専門性も身に付いてきますし、今回のようなセミナーに私のように声をかけていただいたりもしますので、何年後かに、このセミナーにご参加いただいた先生方の発表を聞けることを期待しています!(笑)
オンラインイベント「 教科『情報』授業のあり方を考える ~共通テスト試作問題をうけて~」講演より