事例275

情報入試を見据えた高校での授業実践

東京都立神代高校 稲垣俊介先生

本日は情報入試を見据えた授業実践の在り方や、今後の抱負について発表します。

 

私は東京都立神代高校の情報科の教員です。現在の私の関心事は、もちろん情報入試です。

 

「情報」が共通テストに導入されて、情報科として大きな変革が起きたと言っても言い過ぎではない、この状況です。その変革に寄与したく、所属している東京都高等学校情報教育研究会(※1)の情報Ⅰ入試検討委員会で、取りまとめをさせていただき、知見の深い現場の先生方と語り合える委員会を運営しています。

※1 http://www.tokojoken.jp/

 

 

また2023年8月9日、10日に第16回全国高等学校情報教育研究会(※2)が行われます。こちらは東京大会になる予定で、現在その準備の取りまとめも務めています。ぜひとも皆さまに聞きに来ていただいて、情報入試を見据えた実践研究の発表の場として見ていただければと思います。

※2 https://www.zenkojoken.jp/

 

また、最後にはなりましたが、情報処理学会(※3)の情報入試委員会と編集委員会に入れていただいています。本当に大きな学びをいただいており、大変感謝しています。情報処理学会で得られた学びを、学校現場または先生方に広めていく、それを私の役割と考えて今回もこの講演をお受けしました。本日も、その気持ちを持って行いたいなと思っています。

※3 https://www.ipsj.or.jp/

 

「大学入学共通テストを見据えた生徒の自分事となっている授業」ということで、大学入学共通テストに「情報Ⅰ」が入ることが発表され、現在の高校1年生が3年生になるときに受験することになりました。そして私は1年生に授業をしており、その授業がほぼ終わりました。本日は、授業の一部を見返しつつ、大学入学共通テストを見据えた授業となっていたのかを振り返る気持ちで発表します。

 

また、生徒の自分事ということで、「生徒にとって自分のことだからこそ一生懸命学ぶのだ」というのが私の思いです。その思いに従った授業づくりをしています。

 

「試作問題」の解説は、情報処理学会のnoteに書かせていただきました(※4)。単元は「データ分析」の部分です。

 

問題の詳細な解説は、この発表では控えますが、特にこのnoteで注目していただきたいところが、「情報Ⅰ」の授業での対策の検討と提案です。読んでくださった方がいれば、そこの詳細な解説を今日はするつもりでいます。

※4 https://note.com/ipsj/n/n1bd434d8c85c?magazine_key=m1ca81b5d1e66

 

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自分たちのデータを使って分析をする

 

さて、情報入試を見据えた授業として、今回は「データ分析」の分野に絞ってお話しします。

 

ちなみに本校では3学期に実施をし、全部で11回の授業を行いました。「401」から「408」という数字は、私の授業動画の数値と対応しています。私のホームページに、その授業動画は公開していますので、よろしければご覧ください(※5)。

※5 https://inagaki-shunsuke.jp/

 

また、「データ分析」の単元で、生徒に示す目的としては、「自分たち高校生のスマートフォンの利用状況を分析してみよう」としています。なぜ自分たちのスマートフォンの利用分析なのかというと、ほぼ全ての高校生はスマートフォンに興味を持っています。さらに、自分たちのデータを使って実施をすることによって、結果的に生徒たちは自分たちのスマートフォンの利用状況を分析することになり、興味深く取り組むことができるのです。

 

加えて、よく調べてみると、けっこう無駄な利用をしていることに高校生たちは気付いてくれて、行動の変容のきっかけとなるような、そんな裏の目的も実を言うとあります。その目的のためにも、生徒にとって自分事となっているデータを利用した分析の実習としています。

 

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自分事となっているデータを利用した分析実習~アンケート収集

 

スライドに示している項目でアンケートを採っています。利用時間は、生徒のスマートフォンのスクリーンタイムなどのアプリを1週間使って、統計を取りました。

 

1年生全員分のデータを集め、生徒個人を特定できる情報を全て外した上で、生徒にそのデータを配布して分析をさせる実習です。実際に配布するのは、収集をしたタイミングより、かなり後の授業になるのですが、それについては、また後ほど述べます。

 

また、青色の文字部分が「予想利用時間」となっています。黒色の文字の部分を入力させる前に、自分はどの程度スマートフォンを利用していたのかな、ということも生徒たちに書かせることにしました。ちなみにこれは項目数が多いですので、入力に慣れない生徒のためにも、50分授業の中で30分くらい使って行いました。

 

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残りの20分は、共通テストの「試作問題『情報Ⅰ』」を見せました。第4問の「データ分析」の部分を見せたのですけれども、生徒たちは自分たちの入試に関わるかもしれないからこそ、一生懸命読んでくれ、実際に問題を解いた生徒もいました。

 

多くの生徒は流し読みをするくらいだったのですけれども、後でちょっと感想を聞くからね、と伝えて、聞いて回ってみました。そうしたら「文章が長い、これが『情報』のテストなの」と言われたり、「『情報』の割には計算問題とかないですね」と言う鋭い生徒がいたり、なかなか面白いなと思いながら意見を聞いていました。

 

生徒たちに見せた問題は「データ分析」自体の流れを示した問題です。全くこのとおりではないけれども、これに近い流れで実習をしていくことになると、生徒には伝えていましたので、内容の詳細な解説などは今回は控えました。

 

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自分事となっているデータを利用した分析実習~データ分析の方法

 

3回目から7回目の授業は、「データ分析」の方法について教えています。

 

実際の授業で、操作をさせながら授業をしていますが、高校生にとっては、けっこう高度な内容になっています。ですが、復習がしやすいように、授業よりもさらに詳細なところまで触れた授業動画を、私は公開をしています。生徒は、それを見ながら復習ができるような仕組みにしてあるわけです。

 

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自分事となっているデータを利用した分析実習~仮説をたてる

 

さらに8回目から11回目の授業について説明します。

 

先ほどのアンケートを回収したものを私がきれいにまとめて、生徒に渡します。生徒はExcelデータでもらいますが、「うわすごい、これ、誰だよインスタこんなにフォロワーいるやつ」と言っていたり、「あいつYouTube触り過ぎだよ」と、誰だか分かっていないのに、あの友達だと確定をして、そんなことを言っていたり、かなり盛り上がります。でもそれはそれでいいなと思っているのです。それはすごく興味を持っている証拠だと思いますので、ちょっと落ち着いた頃に「これを使って調べていこう」と言うわけです。

 

そして、このデータから調べられること、調べてみたいことを考えさせ、班の中で発表させて、仮説をつくらせます。班の中では「その仮説って今回のデータでは調べられないんじゃないの?」という意見が出ることを期待しています。鋭い方は、お気付きかもしれませんが、これが実は言うと、「試作問題『情報Ⅰ』」第4問の問1につながっていたりするわけです。それが面白いなと思いました。

 

 

そして、スライドに示したようなプリントを使って、仮説を個人で6つ立てることにしました。

 

後で、班で発表するのですけれども、この仮説を今まで習った分析方法の、どういった分析方法で、この仮説を調べることができるのかということも、班の中で話し合いをさせています。

 

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自分事となっているデータを利用した分析実習~分析をし、結果を発表する

 

そして、今まで学んできた知見を使って分析をし、その結果をもとにひな型に合わせてプレゼンを作成します。

 

プレゼン作成のひな型は主に以下の内容についてです。

 

①【はじめに】

②【研究目的】研究の目的と仮説

③【結果】データの分布と度数分布表をヒストグラムで示す

④【結果】相関分析の結果を示す

⑤【結果】度数の比較か平均の比較をして、それに合った検定を使って効果量をきちんと出す

⑥【考察】まとめ

 

これに沿って、3分間で話すスライド、プレゼンを作って、班で発表の準備をし、練習をするという授業形式になっています。

 

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というわけで、最後の授業ではデータ分析発表会を行いました。

 

この授業は、実は校内の多くの先生に見に来ていただきました。さらに生徒には総合評価をさせて、授業は終了となりました。

 

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共通テストは授業の合間で意識させる

 

「試作問題」については、授業の合間に生徒に伝えることによって意識をさせています。

 

例えば仮説を立てるときには、「ほら、こんな問題、出ていたよね。確か仮説として立てられないのを選ぶという問題だったよね。君たちも、このデータから調べることができない仮説を立てては駄目だよね」と言ってみたり、プレゼン資料では箱ひげ図を作らせて、それを読み取って、そこから分かることもきちんと発表させたりしています。そうすると、その問題に近づくわけですね。

 

そして自分たちのデータだからこそ、生徒たちは熱心に取り組みました。生徒には難易度の高い「データ分析」の単元ですけれども、自分事だからこそ取り組んでくれたのかなと思います。

 

 

情報入試がなぜ始まるのか伝えるために、授業はできるだけオープンに

 

さて、今後の学校現場の抱負と、皆さんにお願いしたいこととして、情報入試に関して現場で得られることが重要であると思っています。

 

多くの他の教科の先生たちは、なぜ「情報」の入試が始まったのかを分かっていません。それをうまく伝える必要があります。まず授業はできるだけオープンにして、手紙を出して多くの先生に見に来てもらえるような状況にしています。先ほどの発表の授業も、できるだけ先生方に見に来てもらって、「おお、情報の授業では、生徒はこんなことを学んでいるんだ。」と思ってもらうことが大切です。

 

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さらに保護者にも手紙を出します。不安に思っている保護者もいっぱいいらっしゃると思いますので、「情報」では生徒たちはこんなことを学んでいるのですよ、というようなこともどんどんと発信していきます。

 

ちなみに、保護者に手紙を出す場合は、管理職も連名にすることが大事だろうと知ることができました。

 

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こういう草の根運動が効いたのかどうかは分かりませんけれども、探究担当者の方や、進路指導部の先生など、いろいろな所から質問が来るようになりました。情報入試に対して、関心が高まっていることを肌感覚ではありますが感じており、これを続けることが私の抱負だろうと思っています。

 

ただ、入試対策をする側の教員としてはやはり不安です。入試対策を検討する機会や、専門的知識を得られる機会は、ぜひともつくっていただきたいですし、それを情報処理学会で担っていただいているとも感じています。

 

 

大学が求める「情報」の学力を測ることができる情報入試を

 

あともう1つ、皆さんにお聞きしたいことがありまして、大学が求める「情報」の学力とは何ですか、ということです。何かといいますと、その学力が測ることのできる情報入試を、ぜひ作っていただきたいのです。

 

私たちも情報入試と授業が乖離している状況は避けたいです。ですので、その入試問題の対策を一生懸命しさえすれば、私たちが身に付けたいと思っている「情報」の学力を身に付けることができる、という関連は絶対に必要なことだと思っています。

 

 

というわけで、「試作問題」はすごく良問で、よい問題なのです。生徒の身近な問題を出してくれました。だからこそ私たちの「情報」の授業も、そういう授業でなければならないと思っています。

 

そして、それに合わせた教材をこれからどんどん作らなければいけないのですけれども、そういった教材を作るのは本当に難しいです。ですので、今回の講演を聞いてらっしゃる、専門家の大学の先生方に、ぜひともご協力をいただいて、私たちの授業づくりに参加していただきたいと思います。

 

 

「情報」を生涯学習に

 

大学入試が生涯学習となることが私の望みです。「情報」の勉強を生涯に渡ってやってほしい、そういう気持ちでいます。

 

現在の、私の一貫した教育の目標として、生徒の自分事にすることです。学ぶ理由をもった生徒は一生懸命に学びます。大学入試も乗り越えてくれるでしょう。そして、自分事だからこそ、「情報」がその生徒の生涯学習となると思うのです。「情報」が自分の生活に関連していることを、授業を通して知ってもらいたいです。

 

また、大学入試が学ぶきっかけになり、「情報」が自分の生活に近いことを知ってもらってもいいでしょう。さらに、大学受験をしない生徒であっても、授業を通じて、「情報」は生きるために学ぶ教科であると気づいてもらい、生涯学習へとつながれば最高です。

 

 

これらが、現在、現場の一高校教員が考えていることです。

 

そして、情報入試を踏まえた授業を、多くの皆さんの協力のもと作っていきたい、そう願っています。

ご清聴ありがとうございました!

 

第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」 講演より