事例276
「情報Ⅰ」実施により何が変わるのか
埼玉県立川越南高校 春日井優先生
最初に自己紹介をいたします。
1986年、37年前に川越南高校に入学し、自分自身の高校生活3年間と教員生活9年間の合計で12年間本校に関わってきました。
近年は生徒と取り組んできたことについて発表や執筆をしたことにより、さまざまなお仕事も多くいただいています。
「社会と情報」「情報の科学」から「情報Ⅰ」へ
まず「情報Ⅰ」が始まるにあたって、今までの「社会と情報」「情報の科学」からどのように変わったかを確認していきます。
旧課程では、「社会と情報」の実施が80%、「情報の科学」が20%という割合でした。それが新課程になって、「情報Ⅰ」が全国で2902校、「情報Ⅱ」が502校で予定されているとの記事がありました。
旧課程の「情報」の授業で私自身がどのようなことに取り組んできたのか整理してみると、「コンピュータを使うために思考する」「コンピュータに何かしらを処理させ、その結果をもとに思考する」という内容のことを多く取り上げてきました。
そういった観点から、旧課程と「情報Ⅰ」の比較をしていきます。
「情報の科学」には、大きく4つの分野があります。その中の「問題解決とコンピュータの活用」では、問題の解決と処理手順の自動化、いわゆるプログラミングにあたるもののほか、「モデル化とシミュレーション」、情報の管理と問題解決としての「情報の蓄積管理とデータベース」などが、「情報I」に対応してくると思われます。
同様に、「社会と情報」について「情報I」に対応するものを探してみたところ、「社会と情報」はデジタル化やネットワーク、コミュニケーション、モラル、セキュリティなどが主な内容であることもあり、コンピュータを自動で動かすような内容はあまり盛り込まれていませんでした。
「情報Ⅰ」では、4つの大きな分野のうち「コンピュータとプログラミング」で「プログラミング」という言葉が表に出てきており、内容にも「プログラミング」「モデル化とシミュレーション」があるほか、4つ目の分野の「情報通信ネットワークとデータの活用」では「データを蓄積・管理・提供する方法」や「データの活用」が大きなウェイトを占めています。
また、共通テストの試作問題の配点を見てもこの分野の割合が高くなっているため、指導する先生方も困っておられるという調査結果があります。
新しい学習指導要領の情報科の授業が始まって、高校生全員が「情報I」を学ぶことになったことで、情報科の授業でコンピュータを使うための思考をしたり、コンピュータに何かを処理させた結果をもとに、思考したりする経験を持つ生徒が、今まで全高校生のうち、「情報の科学」学んでいた20%程度だったのが100%になるのだろう、ならなくてはならないと思っています。
本校の教育課程の変遷を見てみますと、私が着任した平成26年は、2つ前の学習指導要領の最後の1年で、「情報B」が3年生に置かれていました。
平成27年からは旧課程「情報の科学」が3年生で始まりましたが、センター試験から大学入学共通テストに移行する機会にカリキュラムを検討して、新課程の学習指導要領が公表された平成30年から「情報の科学」を1年生に移し、今年度からは「情報Ⅰ」が1年生で教えられている、という状況です。
「情報Ⅰ」の授業で何ができるのか?
では「情報Ⅰ」の授業で何ができるのか。ここでは、「情報の科学」「情報Ⅰ」を含めて、これまで私が取り組んできた実践を振り返ってみたいと思います。
「モデル化とシミュレーションの授業」「質的データ」「量的データの分析」「プログラムとGISを組み合わせ考えさせた授業」「プログラミングそのもの」などです。それぞれについて、少し詳しく解説します。
■モデル化とシミュレーション~表計算ソフトで現象を数式モデルでシミュレーションする
「モデル化とシミュレーション」では、現象を何らかの数式のモデルとして表し、表計算ソフトを使ってシミュレーションします。何ができそうか生徒に考えさせ、いろいろやってみさせて、その結果から考察し、解決策なり問題を見つけて発表する、という流れです。
あるグループの取り組みをご紹介します。何かしらの疫病が広がって、その感染者数がある倍数ごとに増えていくと感染爆発の状態になるので、ワクチンを開発したらどう感染者数がどのように減るかを考える、というものでした。これらを、表計算ソフトを使って簡単なモデルで試しました。
コロナ前に取り組んでいた内容で、その時はまさか世の中がこのような状況になるとは思っていませんでした。
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■質的データ・量的データの分析~生徒が自分で分析に使えそうな場面を見つけて考える
次に「質的データの分析」です。基本的な流れは「モデル化とシミュレーション」と同様で、私は考え方やツールの使い方を示し、あとは生徒に何か使えそうな場面を見つけて考えてもらう、という流れで行いました。
ここで生徒が取り組んだ具体例としては、スポーツを「するのが好き」と「見るのが好き」をクラスで集計し、χ2乗検定をしてその関係性について調べる、というというものがありました。
他には、「たい焼きを頭から食べるか、尻尾から食べるか。こしあんが好きか、つぶあんが好きか」といったテーマで考えた生徒もいました。
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「量的データの分析」も同様です。
手が大きい方が、スマホで文字を打つスピードが速いのではないか、という仮説を立てたグループは、手の大きさと入力スピードの関係を調べるために、実際に「崖の上のポニョが横断歩道で側転」という不思議な文章を打たせることで、漢字変換の有利不利が出ないようにして測定し、結果を分析しました。実際は、あまり関係がなかった例が多かったです。
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■プログラムとGISを組み合わせる~位置情報の取得と人口分布のクロスから問題発見・解決を図る
「プログラムとGISを組み合わせた」授業では、プログラムを使ってさまざまな施設の位置情報を緯度・経度として取得し、e-Statの人口分布の情報と重ね合わせて、問題の発見・解決策を考えさせました。
ここに挙げた例は、「高齢者が住みやすい街」について考えたものです。高齢者の人口分布と、病院・講演などの施設の重なり具合を、3つの市と町について調べています。
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■プログラミング~学習したプログラムを自分の関心のある動作をするものに改編する
「プログラミング」では、プログラムの仕組みを説明するための、基本的なサンプルプログラムをいくつか用意しておき、それを改編して自分たちで何か役に立つものを作ってみる、ということをしました。
取り組みを通して、生徒に自分がやりたい動作を実現させるために、プログラムのどこをどのように変えたらよいかを考える機会を作りました。
スライドの例は、惑星の直径を比較して★マークの数で表現する、というものです。単純なプログラムですが、よく考えられています。
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「情報Ⅰ」の授業で何が変わるのか?(まとめ)
ここまでのお話は、「情報Ⅰ」の構造の中では「プログラミング」や「データの活用」に関係する部分で、問題の発見・解決の「ツール」という位置付けになると思います。
このツールも一生懸命使っていくと、「コンピュータを自分の考えで動かす」という技能を身につけることにつながり、さらに人手では追いつかない処理能力を生かして情報処理する力や、必要な情報を自分で入手したり生み出したりするための考える力を身につけることに期待が持てると考えています。
ここまでのまとめになりますが、「情報Ⅰ」では、コンピュータを道具として使う機会が、従来の「社会と情報」「情報の科学」よりも多くなると思います。コンピュータに計算させることで、データのままでは見えなかったものが見えてくる、そのような「情報Ⅰ」の学び方をしてほしいと思います。
そのような学び方を行うことを通して、必履修科目の「情報Ⅰ」の内容が、今後の高校段階での共通の素養として根付いてほしいと願っています。
第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「第4回初等中等教員研究発表セッション」より