事例294

大学入試を見据えた「データの活用」の実践の検討

東京都立神代高校 稲垣俊介先生

私は、東京都立神代高等学校にて情報科の教員をしています。博士号は、社会人になってから、今大会の基調講演でご登壇されました堀田龍也先生のもとで取得しました。

 

また、今回の第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)の事務局長を務めています。たくさんの方に来ていただいて、そしてリアルで皆さんのお顔を見ながら実施ができたことを大変うれしく思います。ありがとうございます。

 

 

先日、日本教育新聞社に寄稿させていただきました。

 

こちらで書かせていただいた内容を簡単にまとめますと、2022年11月に公開された大学入学共通テストの「試作問題」は、すごくよくできた問題であると思います。問題が公開されたとき「うわあ、こういう問題か」と、きっと多くの方が感じられたと思いますが、私は、高校生が自分に関わることや興味を持っていることに合わせて授業すべきであると、より強く感じました。

 

また、ペーパーテストが目の前にあるからこそ、その対策の授業になってしまうのではないかという懸念があると思います。ですが、むしろこの問題を見たときに、やはり実習こそが大切なのだということを再認識しました。こちらについては、またあとでお話しします。

 

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ちなみに、最近は、文化庁の「インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト(※1)」の問題作成や教材の作製等をしていました。

 

もともとは一番興味があったのが「情報モラル教育」なのです。最近の稲垣は、あまり「情報モラル」教育に注力していないのではないか、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。「情報モラル」教育についても、今でも熱心に取り組んでおりますし、これからも大切な分野として研究し、実践をして行く所存です。

 

※1 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html

 

 

ですが、現在、やはり一番注目をされていて、みなさんの関心事としても大きいのは、情報入試関係だと思います。

 

河合塾の進学情報誌「Guideline」での対談(※2)や、学校教育情報誌View next ONLINEの記事、そして今年3月の情報処理学会第85回全国大会での発表(※3)でも、情報入試に関することをお話ししました。

 

※2 河合塾進学情報誌「Guideline」特別企画

    座談会「共通テスト試作問題から考える教科『情報』の指導」

 

※3 事例275 情報入試を見据えた高校での授業実践

 

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生徒の「自分ごと」にする、3つの実践

 

まずは、私の3つの実践について、簡単にお話しします。

 

1つ目は、私の定番中の定番の授業である「スマートフォンの利用時間の調査」です。

 

この授業は、スマートフォンの利用時間の集計、学年全体の利用時間の分析、学年全体の利用傾向の検討をし、学年全体の利用傾向を生徒たちが発表します。そして、最後に自分の利用傾向についてもう一度内観してみるという内容です。

 

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2つ目は「30歳の私」という授業で、これも定番中の定番の、私の大好きな授業の一つです。

 

この授業では、生徒たちが30歳になったつもりで、プレゼンをします。16歳くらいの高校生たちは、大学入学やもしくは大学卒業までくらいしか、将来の展望について考えられない生徒も多いのです。彼らからすると30歳はかなり大人です。そんな30歳のときに、自分はどうなっているのだろうと考えて、30歳になったOBOGとして発表をします。

 

生徒たちには、自分の将来を検討して、Society5.0を意識させ、Society5.0で、30歳となった自分として生きるためにどうすればいいのかということを考えさせます。この授業のからくりとしては、30歳になったときにはテクノロジーが相当進化しているという視点が足りない生徒たちに、一つ石を投げ込んで、将来を考えるときに、テクノロジーが進化し、Society5.0となった時代に生きる私たちなのだと、気付いてもらう授業です。

 

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3つ目は「プログラミング」の授業です。

 

いきなりプログラミングの授業の最初からアルゴリズムの話を始めると、何のためにプログラミングを学ぶのかがわからないのです。ですので、一番最初に、スマホを操作している際に、自分が不都合に感じることを書き上げてもらい、それを解決するようなアプリはどんなアプリだと思うか考えさせる内容です。

 

最終的にはそれをお互いに発表しますが、その後、私から「これら全部、人の手で作ることができるものだよね。一生懸命プログラミングを勉強すると、こういったものが作ることができるかもしれないね。さあ、今からプログラミングを勉強してみようか」という話をすると、生徒たちを「おお、やってみようかな」という気持ちにさせることができます。

 

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今ご紹介した3つの授業は、実はとても盛り上がります。なぜ盛り上がるのか、また、これらの共通点は何なのかというと、神代高校の生徒が元気だからという理由だけではありません。

 

やはり生徒の「自分ごと」であるかどうかに関わることだと思います。生徒にとって何も関係のない世界の話をずっと聞かされていたとしたら、恐らく、それに興味がある生徒以外は、やはり自分に関わることでない限り、基本的には興味を持ってくれません。ですので、そういったことを意識して授業を行うようにしています。

 

 

身近な題材から出題された共通テストの「試作問題」

 

2022年11月に公表された「試作問題」の第4問では、データの分析が大きく取り上げられました。データ分析の内容では、特に生活時間の統計調査といった生徒の身近なものから出題されています。

 

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この「試作問題」の解説については、情報処理学会のnoteに書かせていただきましたので、よろしければご覧ください(※4)。

 

※4 https://note.com/ipsj/n/n1bd434d8c85c?magazine_key=m1ca81b5d1e66

 

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データ活用の実習「スマートフォンの利用調査」

 

本日は、先ほどご紹介した3つの授業の中から、データの活用の授業である「スマートフォンの利用時間の調査」についてお話しします。

 

実際の授業は、スライドの1~11のスケジュールで進めています。授業動画については、私のサイトをご覧ください(※5)。

 

※5 https://inagaki-shunsuke.jp/

 

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まず、スマートフォンの利用調査の授業では、スライドに記載の項目について、スクリーンタイムなどを使って、実際の利用時間などを調査しています。右側の色付きの項目は、調査の前に生徒に予想させています。

 

最初の頃は、自分の体感で利用時間を書かせていましたが「これ、絶対もっと多いんじゃないの?」と思って、今は、わざと最初に予想をさせています。そして、実際の利用時間を調査させると、予想とは差があるのですよね。でも、その差も人によって違いまして、そこについての分析は、また別の機会でお話しします。

 

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でも、利用時間についての分析をするといっても、最初にまず、インプットをして、少し統計について勉強しないといけませんよね。

 

データの活用のところは難しい内容だと思いますけれども、生徒たちには、実際のデータを見せてみて「これ分析してみたくない?」と伝えます。そうすると、自分たちのスマホの利用状況の傾向はどうなっているのか調べてみたいと気持ちが高まりますので、そこで、分析のために勉強しようと促すと、勉強し始めてくれるわけです。

 

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最終的には、出てきたデータを、個人情報等はすべて取り除いた状態で生徒に配布します。そして、仮説の検討、データの分析、プレゼン作成をして、そして発表会という流れで進めていきます。

 

 

データ分析の方法を学ぶ~度数分布とヒストグラム 

 

それぞれの授業について、簡単に紹介します。

 

最初にExcelの基本操作を少し勉強した後に、統計は一体何のためにやるのかについて話します。そのあと、度数分布とヒストグラムについて学んでいきます。

 

実際にどういったことやらせているかと言うと、変数、平方根、度数分布表、度数といった言葉について簡単に説明した後に、Excelでデータを見せながら、度数分布表と箱ひげ図を作ります。

 

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そして、最低限の知識はどうしても必要ですので、MAXやMIN、COUNTなどの関数を教え、それを使って実際にデータをまとめさせています。

 

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そして、このようなヒストグラムを作らせます。Excelでもヒストグラムを作成できますが、設定が難しくて、なかなかきれいに作れないですよね。ですので、生徒たちには棒グラフをくっつけて、ヒストグラムのように見せるやり方を教えています。そうすると、ちょうど度数分布表を作って、ヒストグラムを作るという順番で行うことができます。

 

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データ分析の方法を学ぶ~平均と分散

 

次に、平均と分散についての話もしていきます。

 

こちらは、LINEとTwitterとInstagramの利用時間です。このクラスは、全員がLINEも500分、Twitterも500分、Instagramも500分使うクラスで、すべて平均が一緒であるという話をした後に「いや、でもおかしくない?データの分布ってあるよね」と話して、分散について知っていくストーリーです。

 

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データ分析の方法を学ぶ~度数の比較

 

度数の比較については、実際に数の差はあるけれども、本当にそれについて差があると言っていいのかという話をすると、生徒たちは差があるとまだ思っています。では、例えば、スポーツで試合に1回でも勝ったら、絶対に勝ったチームが強いことになるのか、という話をすると、そうとも言えないかもしれないと考えだします。

 

そういった例え話から、生徒たちには、度数の比較をさせながら、検定の考え方を学んでいきます。もちろん、有意である、または、有意ではないということについての説明もします。

 

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検定は、Excelで行っていたこともあったのですけど、少し難しいので、Web上で統計ができる「js-STAR(※6)」という素晴らしいサイトを利用しています。

 

※6 https://www.kisnet.or.jp/nappa/software/star8/index.htm

 

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データ分析の方法を学ぶ~平均の比較

 

平均の比較では、棒グラフを作ってみて、標準偏差における、ひげの付いているもので比較をします。それを使って、標準偏差が大きい場合と小さい場合では意味が違うのではないのかということを考えるところからスタートします。

 

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そして、効果量について少し話をして、その平均の比較を生徒たちにやらせていく内容です。

 

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データ分析の方法を学ぶ~散布図と相関係数

 

最後のインプットの授業では、散布図と相関係数について簡単に学びます。ですが、先に生徒たちに相関係数について話すと、相関係数だけを見て、判断してしまいます。

 

そうならないように、例えば、ゲームの利用時間とSNSの利用時間のデータにおいて、男性が0.68、女性が0.39という値が出たとき、女性のほうが関連はないという結論になる前に「まず散布図を作ってみて、人間の目で見てみると、いろいろなことが見えてくるから、視覚化は大事だよね」という話に持っていきます。

 

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生徒たちが採った実際のデータを使って、実習を行う

 

続いて、やっとここから、生徒たちが実際に採ったアンケートのデータを使って、仮説を立てます。

 

「試作問題」の第4問の問1にも、分析できない仮説に関する問題が出題されていましたが、実際に仮説を立てるほうが難しいですよね。「試作問題」の問題よりも、もっと難しい実習をさせているわけです。

 

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そして、ここまで学んだ手法を用いて分析をした後、発表のひな型に沿って発表の準備を進めます。

 

ちなみに、発表が一体どんな内容かというと、例えば、「実際の予想のYouTubeの利用時間と、本当の利用時間を比較してみよう」という内容などが見られました。

 

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生徒の「自分ごと」に関わる実習と「試作問題」の関係性

 

このような実習を行ったあとに、実際の考査で「試作問題」の問題を、何の前触れもなく、出題してみました。ただ実習を行っただけで、筆記テスト的な対策は一切していません。

 

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結果は、スライドのような正解率になりました。ちなみに、神代高校は、中堅上位くらいの学校ですけれども、なかなかな点数が出ていました。

 

 

全問正解の生徒が271名中30名、1問誤答の生徒は46名、2問誤答の生徒は56名で、高得点であった生徒は約半分です。自分たちの生徒のことを褒めているみたいですけれども、相当なものかなと思っています。実習のみで筆記テストの対策はしていませんが、こういった実績を出すことができるのだなと思いました。

 

 

大学入試は、教員・生徒の指標になる

 

今後、学校現場でできることとしては、周りに理解を求めていくことが大切です。

 

私は、まず授業はできるだけオープンにし、案内を出して多くの先生に見に来てもらえるようにしています。

 

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また、保護者にも「情報」はどういった科目で、生徒たちがどんなことを学んでいるのか、また「情報」を取り巻く状況などを発信しています。

 

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さらに、今回生徒たちは、先ほどご紹介したような点数を出すことができたわけですから、そこから差を見ていくこともできました。生徒たちの点数の差は、このような分布でした。

 

 

なぜ、同じ授業を受けているのに差があるのということについては、情報教育シンポジウム2023(SSS2023)で少し発表いたします。私も生徒に負けずに研究をしていきたいなと思います。

 

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最後に、大学入試は、いろいろな意見もあるとは思うのですけれども、私はやっぱり指標になると考えています。

 

私たちが教えるときの大きな指標になるし、もちろん生徒たちも、頑張るための指標になっているのではないかなと思います。大学入試のために授業しているのではないといった主張をする場合が、たまにあるかもしれませんが、そうではなくて、大学入試にて出題される問題が、学校で行われる実習に則した内容であるならば、それに合わせて生徒に向けて授業していけば良いと思います。

 

■質疑応答

 

Q1.

生徒の自分ごとにというと、経験主義的にすればいいのではないかという話にも聞こえてしまう部分もあると思うのですが、そこの部分についてはいかがでしょうか。

 

A1.稲垣先生

経験主義的なところは、確かにいろいろ考えさせられるものがあると思います。私としては、やはり生徒が「興味を持つ取っ掛かり」にするためには、生徒たちに近いところからスタートしないといけないのかなと思います。

 

最初から、学問的にすごくこの部分に興味を持っている生徒であるならば、別にそういった取っ掛かりはなくても、おそらく、すっと入っていけると思います。ですが、そうではない生徒たちには、やはり自分に関わることだと思わせるところからスタートするのが、今のところは良いと生徒たちの反応を見ていて感じています。

 

 

Q2.

考査で出題された「試作問題」の問題には、知識よりの問題と思考よりの問題があると思います。生徒によって、いろいろな差があったと思いますが、現時点でどのようなことが考えられるかお聞かせください。

 

A2.稲垣先生

実は、そこについては、まだきちんと言及ができていません。ですが、そもそも同じ授業を受けていて、実力も似たような生徒たちの集まりなのに、今回のように抜き打ちで実施したときに、なぜ、点数に差が出るのかなと思ったのです。

 

そこに関しては、リフレクションを一生懸命取り組んでいる生徒とそうでない生徒に、もしかして差があるのではないかと、実は感じています。つまり、リフレクションの内容や量によって「試作問題」の点数に大きく影響が出ているのではないかということが、まだ根拠はないですが今のところの考えです。

 

第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) 口頭発表より