事例302

単元の導入の協働学習の授業デザイン ~ソーシャルリーディングのプロンプトエンジニアリング~

千代田区立九段中等教育学校 須藤 祥代先生

本校は東京都千代田区にある中高一貫校で、4年生(高校1年生)に「情報Ⅰ」を設置している学校です。年間のカリキュラムはスライドのようになっています。カリキュラムマネジメントの関係で「総合的な探究の時間」と連動しているため、教科書とは一部順番を変えて実施しています。

 

各単元の最初の部分、知識の獲得が必要になるパートでは協働学習を行っています。今回はその協働学習について気づきがありましたので、共有できればと思い、発表することにしました。折角なので、今日は皆さんにも実際に協働学習を体験してもらおうと思います。

 

 

知識習得の授業デザイン ~ソーシャルリーディングによる協働学習~

 

始めに本校での授業の流れを説明します。

 

知識獲得パートの授業デザインは、2時間連続の授業のうち、冒頭の10分程度でざっくり中学校の復習を行い、その後はずっと生徒の活動を行うという構成になっています。

 

活動パートでは、生徒はまず、教科書と副教材の『トピック集』から担当ページを割り振られます。次に担当ページをざっと読み、読んだらすぐにその内容をプレゼンして、グループ内で質問を交換します。その後グループでまとめを作り、まとめたものをクラスでシェアするという流れです。

 

最近はワードウルフ(※1)という、人狼ゲームのようなこともしながら、さらにアウトプットの機会を増やしています。授業の最後にはリフレクションと、まとめの作成、確認クイズ、確認ドリルを行います。

 

※1 数人のグループで、あるお題について制限時間内に雑談をして、「みんなとは違うお題」を与えられた人を見つけ出すゲームのこと

 

副題にある「ソーシャルリーディング」とは、読書体験を共有する手法のことです。スライドの「担当ページをざっくり読む」というところから「解答のシェア」までがソーシャルリーディングにあたります。

 

 

ソーシャルリーディングを体験してみる

 

さて、ここからは皆さんにソーシャルリーディングのミニ体験をしていただきます。短縮版ですが、生徒たちが実際に授業で行っていることを、一緒にやっていきたいと思います。

 

 

本はお手元の『全高情研論文集』を使います。皆さん、準備はいいですか?

 

まずお近くの方とペアを組んでください。

 

今から1分間、本の概要をつかむ時間を取ります。ざっとで良いので、その後30秒で、ペアの方にその本の紹介をしてください。本を見ながらでも構いません。時間が来たらベルを鳴らしますので、そこで次の段階のご案内をしたいと思います。

 

それでは1分間、行きます。よーいスタート。

 

(ここで、参加者は各自持参した『全高情研論文集』に目を通す。1分後、ベルが鳴る)

 

はい、終了です。ではここからペアワークに入ります。お話しされる方はぜひ笑顔でお願いします。笑顔が苦手な方は口角だけ上げておいてください(笑)。

 

聞き手の方はいろいろ質問したくなると思いますが、この後に質問の時間がありますので、この場は全力で頷いていただいて、笑顔で聞いていただければと思います。お話しされる方は30秒で話してください。最初の話し手は、今朝起きた時間が早いほうにしたいと思います。

 

 

はい、終了です。ではここからペアワークに入ります。お話しされる方はぜひ笑顔でお願いします。笑顔が苦手な方は口角だけ上げておいてください(笑)。

 

聞き手の方はいろいろ質問したくなると思いますが、この後に質問の時間がありますので、この場は全力で頷いていただいて、笑顔で聞いていただければと思います。お話しされる方は30秒で話してください。最初の話し手は、今朝起きた時間が早いほうにしたいと思います。

 

(ペア同士で「何時に起きました?」などの会話が交わされる。その後、話し手は30秒で本について説明。会場内には話し声や笑い声が飛び交う)

 

 

はい、一旦終了です。聞き手の方は拍手をお願いします。

(場内拍手)

 

ではもう一人の方にいきたいと思います。よーい、スタート。

 

(場内は再び話し声と笑い声で溢れる)

 

はい、終了です。聞き手の方は拍手をお願いします。

 

(場内拍手)

 

今度は、「話を聞いた上でもう少し聞きたいところ」や、「新たに浮かんだ質問」を相手に伝えてください。今回は短縮版ですので、ぱっと思いついた質問で構いません。「これを知りたいので考えてください、調べてください」で大丈夫です。調べるのは相手の方で、自分じゃないので(会場笑)。

 

1分間、時間を取りますので、「もう少し詳しく教えて欲しい」ことをお互いで共有してください。1分経ったらまたベルを鳴らしますね。それではどうぞ。

 

(お互いに質問を交換。最初のペアワークよりも打ち解けた様子で、会場は一層の盛り上がりを見せる。須藤先生からは「あと30秒」「あと15秒」と残り時間が伝えられる)

 

 

時間です。相手の方の質問は受け取れましたでしょうか。

 

次は個人の作業に戻ります。先ほどの質問の答えを探してください。本に載っていないことは、お手持ちの端末を使って調べても構いません。3分間で答えを探してください。その後1分で相手に伝える時間を取りたいと思います。ではスタート。

 

(3分間の個人作業に入る。各々、再度冊子を読み込んだり、携帯端末で調べたりしながら回答を作成。3分後、ベルが鳴る)

 

 

ではそれぞれ1分間で質問に対する回答を行ってください。相手の方は、さらに質問がある場合はその場で聞いても構いません。片方の発表が終わったら拍手をお願いします。

 

(会場内の各所で活発な意見交換が行われる。ベルが鳴るが、話が止まないペアもいる)

 

 

話、止まらないですよね。生徒もそうです。でも次に進みます(笑)。

 

授業からの気づき ~ソーシャルリーディングとプロンプトエンジニアリング~

 

今回は、ミニ体験として、ソーシャルリーディングにおける「担当ページの概要をつかむ」ところから「質問を考え」「解説をシェアし」「回答を精査し、さらに質問をする」ところまでを行いました。

 

今、皆さんに体験してもらった活動、このパートを授業で見取っていた際に「あれ?この活動、生成AIにプロンプトを聞いてやり取りをする時と似ている?」と思ったんですね。

 

 

具体的には、「エキスパート」役と「ユーザ」役に分かれて行うグループワークにおいてです。まず、エキスパート役は3、4人のグループを作り、それぞれが担当するエキスパート分野を決めます。

 

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担当分野を決めたら、先ほど皆さんが体験したように、まずその分野の知識をインプットして、その後すぐにアウトプットをします。

  

  

「ユーザ」役のグループには「掘り下げたいテーマ、質問を考える」というフェーズがありますので、エキスパートのアウトプットを踏まえて質問を作成します。

 

 

エキスパート役の人たちは文献などを調べながら回答を作り、作った回答をグループでシェアします。

 

 

ユーザ役は回答を見た上で、疑問が残る部分、知りたかったものとは異なる回答になっている部分などについて、質問を変えたりしながら、エキスパート役と質疑応答を繰り返して深掘りしていきます。

 

 

これら一連の流れ、質問と回答を繰り返すことで、より精度の高い回答を得るという活動が、生成AIでの質問と回答の一致度を上げる工夫に似ていると考えたわけです。ソーシャルリーディングにおける人間同士のロールプレイングが、人間とコンピュータとの対話のロールプレイングにもなっていると。

 

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実際、生徒の感想にも「質問の質によってアウトプットが変わることがわかった」といった、プロンプトエンジニアリングの本質にも繋がるようなものがありました。

 

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今後について ~生成AIの活用~

 

今後の生成AIの活用についてもお話します。年度の始めに生成AIに関するアンケートを取った際には、「生成AIを使いたい」生徒と「使いたくない」生徒の割合は、ほぼ半々でした。

 

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ソーシャルリーディングの授業を2回実施した後に、「知りたいことを得られたか」と質問したところ、アンケートで「生成AIを使いたい」と答えた生徒の多くが「はい」と回答しています。授業を通して、欲しい情報を得るには質問の仕方を工夫する必要があるということを実感した生徒が多かったようです。

 

アンケートで「生成AIは使いたくない」と答えた生徒たちは、理由として、生成AIが「情報の正確性や信憑性に欠ける」点を挙げていました。また「仕組みがよくわからないこと」や「自身の思考力や表現力が落ちてしまうこと」に対する不安もある様子でした。

 

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授業後のリフレクションを見ると、そうした生徒であっても、今回の授業を通じて、質問の仕方を工夫したり、クロスチェックを行ったりすることで、生成AIも活用できるということを学んだようです。

 

生成AIの仕組みを理解する必要があるという意見も上がっていました。

 

 

文部科学省による「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」では、生成AIの活用ステージを4つの段階に分けています。今回の「ソーシャルリーディングによる協働学習」は、その②「使い方を学ぶ段階」で実践できるのではないかと思っています。

 

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■質疑応答

 

Q-1.大学教員

授業内で生成AIは使っているのでしょうか。それとも高校の方針として生徒全員に見せたり、使わせたりしているのでしょうか。

 

A-1.須藤先生

「総合的な探究の時間」などで、自分で契約している生徒が使う場合にはそれを制限はしていません。実際に生成AIを活用してプログラミングをしてる生徒がいたり、英語の授業でディベートの前に活用してる生徒もいたりします。

 

第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) 口頭発表より