事例304

完全ペーパーレス授業~その時、生徒は?教員は?〜

岡山県立岡山操山高校 太田重成先生

ご本人提供
ご本人提供

昨年、一昨年に続いて、今年もこの実践事例報告会で発表します。今回のテーマは、「完全ペーパーレス授業~その時、生徒は?教員は?~」です。

 

まず、完全ペーパーレス授業で何が変わるのかということについて、実践の中で感じたことをお話ししたいと思います。ここでは実務、もしくは実務に対する考え方といったところも変えていかないといけないなというところを感じたので、その部分についてもご紹介します。

 

そして、一人一台端末の普及で、デジタル化が進展したと言われるのですが、果たして生徒にとってどうだったのかというところが見えて来ない部分もありました。これについては、今回生徒からアンケートを取ったので、その結果から分析してみたいと思います。

 

 

初めに実践校の概要をご説明します。

 

岡山県立岡山操山高等学校は、1学年7クラスという大規模校で、120年以上の歴史を持つ伝統校です。進学実績は国公立大学が約50%。東大、京大、医学部から地方大学、名門私立まで、幅広い学力層の生徒が集まっています。

 

私は4月に本校へ赴任しました。

 

この学校で完全デジタル授業をやってみようと思ったのは、実は本校は、ICT活用の実践事例校として、新型コロナ禍前の2019年度から無線LANの整備、2020年度入学生からChromebookの全員購入ということで、一人一台端末の実践を始めていました。

 

では、他の学校よりも進んでいるのかというと、実は先行して始めたために、一つひとつ着実に歩みを進めてきたことが、むしろ足かせになっている部分もあります。

 

この実践事例校の立ち上げメンバーだった先生が異動されたのと入れ替わりで、私がこの学校に赴任しました。そこで、従来よりもさらにもう一歩踏み出して、完全ペーパーレス授業やデジタル化をもっと推進していかないといけないと思ったのが、今回の実践のきっかけになります。

 

 

スライドやワークシートはデジタルで配布。ノートや演習、振り返りも電子ペンで

具体的な実践内容について説明をします。

 

授業のパターンとして、前日に授業スライドを、当日朝にワークシートなどを配布しています。授業は、教科書の概要説明からの実習が中心で、ノートはスライドに電子ペンで入力します。問題演習も同様にpdfに電子ペンで入力します。

 

授業後には振り返りシートを入力してもらって、これを振り返りシートのまとめサイトに掲載します。これは、東京都立立川高校の佐藤義弘先生の実践を参考にさせていただきましたが、生徒にも非常に好評で、私もたいへん勉強になっています。

 

授業終了後には、授業動画を配信しています。実習であればこんな実習をしたということを自分で振り返ることもできますし、欠席者や、授業の中で理解できなかった生徒にも役立ててもらえる、ということで発信しています。

 

 

最初から反転授業は、生徒にとってハードルが高い

こうすると、「だったら反転授業でいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、実は反転学習は生徒が希望しなかったのですね。

 

この完全ペーパーレス授業を始めるにあたって、最初に生徒に「こういう授業をやろうと思っているのだけど、どう思う?」と聞いてみました。すると、大体6~7割の生徒は興味を持って受け入れてくれたので、始めることにしたのですが、反転学習だけは、生徒にとっては少しハードルが高かったようでした。

 

ただ、生徒もかなり慣れてきましたので、この年明けからは反転授業も実施していこう、と計画しています。

 

定期考査は、ペーパーです。これは教務から「定期考査はペーパーにしてください」という指示がありましたので、それに従っています。

 

ただ、本校はデジタル採点システムを導入していて、情報の定期考査はマークシート方式にしているので、採点は一瞬で終わります。

 

副教材として問題集などは購入済ですので、これをGoogleフォームで練習できるものを作成しています。定期考査の返却はGoogle Classroomで返却しています。そして定期考査後は、ほぼ試験当日に全ての問題の解説動画を公開し、動画視聴レポートを週末課題として提出させています。

 

 

授業全体の満足度は高い。多様な資料の提供や復習スライドが高評価

次に、生徒の反応についてお話しします。

 

こちらがアンケートの実施概要です。夏休み期間中に2年生約270名を対象に行いました。「研究発表等に使ってよい」という承諾を得た193名について集計しました。

 

授業進度としては、第1章の「情報社会」、第2章の「情報デザイン」(デジタル表現まで)が終わった段階で、アンケートを採っています。

 

 

アンケートの結果を見ていきます。まず、1学期の「情報Ⅰ」の授業全体の満足度は、このような結果になりました。Googleフォームの特性上、どうしても「1(不満)」が回答画面の一番左に来るので、少し数が増えるかと思いましたが、「3」と「4(満足)」が合わせて90%ほどの満足度になっています。

 

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理由も聞いています。AIテキストマイニング(User Local)で分析してみると、このような結果になりました。

 

 

さらにChatGPTに、「スライド1枚程度で紹介できるようにまとめてください」と指示してまとめさせると、このような形になりました。

 

「多様な資料の提供が効果的」とか、「Chromebookを使用した授業のほうが分かりやすい」、あと「復習用スライドがよい」といった辺りが1つのポイントだったかなと思います。

 

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デジタルデータのみの授業は「満足」が圧倒的多数~紛失や忘れ物防止に効果大。一方でWi-Fi環境には課題も

続いて、デジタルデータのみで授業を進めたことに関して満足度を聞きました。

 

この結果には私も驚いたのですが、スライドのように「4(満足)」が半数と圧倒的でした。

 

こういったアンケートでは、通常は、「3」くらいでお茶を濁すかな、と思っていましたが、「4」と回答した人のほうが多く、「3」と「4」を合わせて、約85%が「満足」と答えています。

 

「1(不満)」よりも「2」の方が多くなっていますが、これは「紙も使ってほしいな」というような意見や、あるいは「他の人を見ると、もう少し紙があってもいいかなと思った」というような心優しい人が多かったのかなという感じでした。

 

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こちらも、自由記述部分を分析してみました。「取り組みづらい」という意見もありましたが、見返し易さや提出のし易さといったところがキーポイントだったかと思います。

 

 

ChatGPTの分析がこちらです。量が多かったので、半分ずつに分けました。まず、前半部分がこちらです。                               

 

デジタルの利点としては、紛失や忘れものの心配がないこと、どこでもアクセス可能であることが上がっています。一方、紙のメリットとして、一部の生徒は「紙の方が書いて覚えやすい」と感じていることはあるのですね。

 

デジタルの課題として出てくるのは、Wi-Fi接続です。実はこれは、岡山の県立高校では結構あることなのですが、本校も「コンピュータ教室は有線LANがあるから、無線LANは要らないですよね」ということで、無線LANが入っていません。そうなると隣の教室のWi-Fiを拾って来なければならないので、どうしても不安定になることで不便さを感じたのかなという部分がありました。

 

本校の情報教室の無線LANはもうすぐ整備される予定ですが、こういったことも課題として浮き彫りになりました。

 

あとは、活用に慣れることで今後の活動での利用に期待できるということもありました。これは非常に興味深い結果でした。

 

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後半の自由記述の部分がこちらです。デジタルの方が資料の管理がしやすいとか、荷物の軽減、プリントよりも迅速にメモを取って課題をこなすことができることが利点として上がっています。

 

一方で、デジタルデータによる    配布が他教科とは統一されていると良いと感じる生徒もいます。

 

これは、教科によってどうしても差があるので、その部分で生徒は不便さや違和を感じているのかもしれません。

 

あとは、演習問題と回答を同時に見たいときに不便ということや、画面の小ささに課題を感じているという部分もありました。

 

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「2学期以降もデジタルの方がよい」~背景には、将来のペーパーレス化への対応したいという希望も

続いて、「2学期以降の授業は紙とデジタルのどちらが良いか」と聞くと、約8割の生徒が「デジタルのほうがよい」という意見でした。

 

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これも自由記述をテキストマイニングとChatGPTで分析しました。こちらもChatGPTは前半と後半に分けて分析しています。

 

 

前半がこちらです。紙の利点もある程度は見ながら、デジタルの利点も挙げられています。「紛失の心配」ということが結構出ているのが特徴的なのかなと思いました。

 

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後半部分がこちらです。

 

「教科ごとに適した形式を採用してほしい」「ペーパーレス化の流れに合わせてデジタルに慣れたい」という生徒の思いには、私自身、結構ぐっと来ました。これはどんどん推進していかなければいけないなということを、非常に大きく感じました。

 

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端末だけでなく、使い易さのための周辺機材も必要

ここからは、私自身の気付きについて、ハード面とソフト面に分けてお話しします。

 

まずハード面について。

 

学びの共有という点では、ドキュメントやスライドは、端末のスペックが低いとしんどいかなと思いました。そのため、一方的に見せるものについてはGoogleサイトで配布していくのが一番便利なのかなと思います。

 

また、書き心地のいい液晶保護フィルムが必要であると思います。電子ペンで書くのはどうしてもペンが滑りやすく、なかなか難しかったという部分があります。本校はBYADで電子ペン付きのChromebookを選ばせていますが、生徒たちからもパームリジェクションが利かなかったり、滑りやすくて書きづらかったりといった不満は多々ありました。液晶保護フィルムを紹介したら、相当数の生徒たちが購入していましたが、ケント紙のようなざらっとした手触りのものを選んだ人が多かったようです。

 

そして、貸し出し用端末をどうやって維持していくかという問題があります。

 

端末本体の確保の問題もありますが、本校では司書の方が図書室から貸し出してくださっています。これが司書本来の業務なのかということが校内で議論になっていて、貸し出しの仕組みも含めて考えていかなければいけないなと思います。

 

そして、ある程度の大きさのサブモニターが必要であると思います。これは、教員はもちろん、生徒用もあると、活用の幅が広がるということは感じました。

 

さらに、これは貸し出し用端末の問題にも関係しますが、生徒は端末を持って来るのを忘れるよりも、充電がなくなるということが結構あります。モバイル充電すればよいのですが、実はサブモニターを導入してUSB接続すれば充電することはできます。これは、原則自宅で充電してくるように、ということにしてあるので、あまりおおっぴらにはできませんが、とりあえずの措置にはなります。

 

 

提出されたもののチェックだけでなく、提出できていない人の躓きのフォローも可能に

続いてソフト面です。まず、提出日を気にしなくてよいことが大きいです。提出期限日が来たからチェックするのでなく、提出されたものから、どんどんチェックができるので、隙間時間を使って作業ができたのは非常に良かったと思います。

 

さらに、提出されていなくても、生徒の提出物の状況を見て、どこで躓いているのかを観察してフォローできるのは、非常に大きな効果だと感じました。

 

一方で、Classroomの提出物の切り替えのタイムラグの問題は大きいかなと思いました。私は、Classroomで新しいタブでどんどん提出物を開いて、全てのタブを順番にクリックしておくと先読みしておいてくれることで対応していましたが、それでもかなりしんどいなと感じました。これについては、もっとよい対応策を考えることが必要だと思います。

 

 

教員自身の考え方のシフトチェンジが必要。端末のスペックも考慮すべき

最後にまとめです。

 

生徒はデジタル化を求めている、ということは、非常に強く感じました。私たち自身が、教育効果や学びの変容を考えながら、どんどんペーパーレス化できるものは、ペーパーレス化していくことで教育効果を高めていきたいと感じました。

 

もちろん、紙媒体ならではの良さはありますので、それを認識しつつ、場面や状況に合わせて進めていくことは言うまでもありません。

 

そして、働き方や時間の使い方、具体的には隙間時間で少しずつ作業をこなしていくというような、考え方のシフトが必要であると感じています。

 

そのためには、まず評価基準を明確化して、ルーブリックをどんどん導入していく必要があります。「採点は一気に見ないと評価基準がブレる」ということを心配される先生方も多いので、この辺りはデジタル化以前に、評価基準の明確化ということが第一にあるのかなと感じました。

 

そして、教員用端末のスペックをどうするかという問題があると思います。生徒たちと同じ学習用タブレットが手元にないと指導が難しいので、教室にはタブレットを持って行きますか、生徒たちの提出物を見たり、本格的な作業をしたりしていくためには、やはりデスクトップレベルのスペックの端末が必要かなということを感じました。

 

 

今回、この発表をお聞きくださって、皆様にもぼんやりと「こうじゃないかな」と思われていたことと共通する部分、もしくは新しい発見がいろいろあったことと思います。ぜひ皆さんも、生徒たちの声聞いていただき、彼らが何を求めているのか、私たちがそれにどう応えていくかということを考えながら、様々な授業デザインを開発していただければと思います。

 

私も、この発表をする頃には第2回の、年度末には第3回のアンケートを取って、さらに分析をしてみる予定です。また機会がありましたら、この続きの発表ができればと思っています。

 

神奈川県情報部会実践事例報告会2023オンライン オンデマンド発表より