事例323

サイバーポリスゲームの作成を利用した情報モラル教育

大阪府立門真なみはや高校 野部緑先生

今回は、「サイバーポリスゲーム」の作成を利用した情報モラル教育についてお話しします。

  

生徒に自分事として「ネットトラブルをどのよう解決したらよいか」を考えさせる取り組み

 

ご本人提供
ご本人提供

はじめに、これまで私が行ってきた情報モラル教育についてお話しします。

 

以前は、情報モラル教育というと外部の方の講演を聞くことが多かったのですが、生徒に自分ごととして捉えてほしかったため、平成16年からは、自分や周りのトラブルを絵本(スライド)にする、という取り組みを行ってきました。

 

当初この活動では、ネットトラブルにはどのようなものがあるかを明らかにするのが目的でしたが、ネットトラブル自体がよく知られるようになったため、今ではどのような原因でこのようなトラブルになったのか、解決するにはどうしたらよいかを考えてもらうための教材としています。

 

 

今回の「サイバーポリスゲーム」の作成についても、同様に「どのように解決をしたらよいのか」ということを中心に考えてもらっています。

 

情報モラル絵本についての試みについては、これまでの発表を見ていただけたらと思います(※1)。この取り組みもよかったのですが、それ以外にもう少し生徒が楽しみながらできれば、ということで教材を探しているときに、愛知県警の「サイバーポリスゲーム」(※2)を知りました。

 

※1 「情報モラル絵本のテーマの変遷~情報モラルを高めるとともに、生徒の情報に対する興味や悩みを映し出す鏡として」

  

※2 https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/cyber/game/cyberpolicegame.html

 

 

ゲーム形式で具体的なネットトラブルについて考える

 

「サイバーポリスゲーム」は、すごろく形式のゲームです。「問題発生」のマスに止まったら「問題発生」のカードを1枚引いて、そこに書かれた質問に答えます。

 

「クイズ」のマスに止まったら、「クイズ」のカードを1枚引いてクイズに答えます。クイズの答えは1つとは限りません。グループで対戦して、皆で考えて答えを出す形で行います。

 

この「問題発生」の質問は、SNSを利用した犯罪や、不正アクセス、写真を送ることによる被害など、小学生向けとはなっていますが、高校生でも十分に通用する内容になっています。

 

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まずはこの小学生版を実施してみることにしました。前任校で実施したときは、3年生の学校設定科目で行いました。コロナ禍中でしたので、紙のすごろくではなく、デジタル版を利用しました。

 

方法としては、教員がデジタル版のすごろくを見せて、クイズのマスに止まったらフォームで回答してもらい、集まった答えを見ながら教員が解説する、という形式で行いました。

なかなか話し合うということは難しかったですが、それでも隣同士で相談している声が聞こえていたので、結構考えてくれていたのではないかと思います。

 

このときの授業後のアンケートでは、5段階評価で「5」が「楽しい」としたもので4.24、「ネットについて学ぶことができた」は4.75と、かなり高い値になりました。

 また、フォームという形で意見共有をしたことで、他の人の考えを知ることができてよかった、という意見もありました。

 

 

高校生に身近な事例で高校生版サイバーポリスゲームを作る~解説を作ることが一番大事!

 

前任校での実施により、ゲームをするだけでも情報モラル教育に良い効果がある、ということがわかりましたが、より身近に考えてほしいということで、内容を高校生向けにした高校生版の「サイバーポリスゲーム」の作成を行いました。

 

私は、現任校は2年目ですが、この学校は総合学科で、「情報フィールド」という情報の専攻コースがあります。

 

2年生では3科目、3年では週2時間の課題研究の時間があり、この課題研究の時間で、高校生版の作成を行いました。昨年度は30名、今年度は36名が選択しています。

 

 

具体的な作成手順です。まず「問題発生カード」の問題と、「クイズカード」のクイズを考えます。そして、これらの解説を作ることが一番重要である、と位置づけました。

 

すごろくの中身については、昨年(令和4年度)については、とりあえずすごろくを作ってゲームの場面を作ってみよう、という形で特に指示はしませんでした。今年(令和5年度)は、あまり盤面を変えずに、クイズや問題発生の場所については、大体オリジナルのままにして、カードの内容について考えていこう、ということに変更しました。

 

 

昨年(令和4年度)、やはり高校生で身近なのかな、と思う項目が、問題発生やクイズでの取り扱いが多かったようです。具体的には、危険行為等の投稿による炎上(例えば立ち入り禁止のところに入って、その動画を投稿するといったようなこと)やフィッシング詐欺、ワンクリック詐欺です。

一方、小学生版でもよくとりあげられている、SNSの投稿による個人情報の流出や知らない人との出会いがありました。

 

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意外に多かったのが、パスワードを友達に教えてしまって、なりすましをされたり、アイコンを乗っ取られてしまった、といったことでした。

 

また、クイズでは無料Wi-Fiの問題がけっこう出ていました。やはり自分の身近な経験やニュースで聞いた話が多かったようです。

 

ただ、盤面を自由に作らせたため、ゲームの構造(○○モード、分かれ道多数など)を考えることに時間を取られ、またプレイヤーも問題やクイズに取り組むよりも、そういった部分に興味が移ってしまいました。

 

 

 

昨年度からの改善点:ゲーム構成はシンプルに。「なぜその行動を問題にしたか」も考えさせる

 

令和4年度の反省を踏まえて、令和5年度は、まず基本的に問題やクイズをじっくり考えてもらうために、ゲームの構成は変更しない、ということにしました。

 

そして、クイズや問題については、「なぜその内容を取り上げたのか」を記述することで、インターネットで見かけた問題なのか、それとも自分自身の周りにあるような行動なのか、ということも考えてもらいました。

 

さらに、ゲームの作成や、実際にゲームをすることによって、知識や考えがどのように変わるか、ということも知りたいと思ったので、作成の前後、ゲームの前後でスマホの使い方やSNSの使い方についての質問をするようにしました。

 

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令和5年度の実施結果です。

 まず、昨年度と同じ内容でアンケートを取ったものについては、「情報モラルの勉強になった」という点については4.03から4.35、「他の班のゲームをすることによってより学べた」という点では4.23から4.35と、いずれも今年度の方が上がっています。

 

 

次に、令和5年度の振り返りから、昨年度と大きく違う部分について取り上げます。特徴的なのは、ネット犯罪について調べたことで、このような行動がどんな法に違反するのか、と法律についても調べるような生徒が出てきたことです。

 

また、自分が今まで知らなかったトラブルに触れて、「わかっているから大丈夫」と思わずに、もう一度調べた、という意見もありました。全般的に昨年度より、より詳しく、また範囲も広がって調べていたようです。

 

主に取り上げた内容としては、令和4年度と大きく変わってはいないのですが、著作権問題などに触れることが多くなっていました。

 

 

また、前後で実施したアンケートについては、SNSの使い方等については、もともと正解率が良かったため、それほど変化はありませんでしたが、著作権等の法律関係の問題については正解率が向上しました。

 

 

1年生にゲームをやってもらうことで、相互の学びにもつながる

 

さらに今年度は、この3年生が作ったゲームを1年生の授業で実施しました。

 

実際には全てのゲームではなく、いくつか問題を選んで実施するという形になりましたが、「面白くてわかりやすく、そして知識が向上した」という反応が出ています。先輩たちが作ったゲームということで、興味を持って取り組んでくれました。

 

また、ゲームが終わった班では、実際に使わなかった「問題発生」やクイズのカードに取り組むなど、積極的に学んでくれていたのが印象的でした。

 

 

課題研究の題材として有効な素材。「情報デザイン」や「コミュニケーション」にも通ずる

 

まとめです。生徒自身がクイズを考えることによって、身近な問題として捉えることができることはもちろん、解説を作ることで正しい知識を得ることができます。その意味で、課題研究の探究課題の一つとして今後も取り組みたいですし、3年生が作って1年生が実施する、という流れも継続したいと思います。

 

また、有用性を実証するための事前・事後のアンケート内容については、もう少し精査する必要があるのではないかと思います。こちらについては、協力者と一緒に今後考えていきたいと思っています。

 

今回は「情報モラル」という括りで発表していますが、どのようにわかりやすく伝えるか、わかりやすい場面にするのか、という点では、「情報デザイン」や「コミュニケーション」といった部分についての要素も含んでおり、課題研究として取り組む価値があるのではないかと思っています。

 

神奈川県情報部会実践事例報告会2023オンライン オンデマンド発表より