事例330

生成AIを活用した授業デザイン

千代田区立九段中等教育学校 須藤祥代先生

「リーディングDXスクール事業」の生成AIのモデル校として、校内GPTを導入

私は、現在千代田区にある公立の中高一貫校に勤めています。「情報科」に関わることとしては、文科省から出ている「初等中等教育段階における 生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下、「生成AIガイドライン」)の作成に協力したり、NHK高校講座「情報I」の監修・講師、AdobeEducation Leaderとして生成AIAdobe Fireflyの授業活用などに取り組んでいます。 

本校は、「リーディングDXスクール事業」の生成AIモデル校に指定されています。1人1台端末として、Surface Pro7を教員および生徒に全員貸与しています。Microsoft 365のTeamsを学習プラットフォームとして使っており、Adobe CreativeのCloudも導入しています。

 

 

今日は、本校で導入している生成AIについてご紹介します。

 

画像生成AIはAdobe Firefly、およびAdobe Creative CloudのPhotoshopに搭載されている機能等が使えるようになっています。

 

テキスト生成AIについては、ChatGPT3.5と4.0の、利用回数制限や文字数制限がないタイプのものを使っています。校内で収集したデータは校内限りで、校外のChatGPT側には学習されない、利用されないという、個人情報等についても安全・安心に使える形(※)で、校内GPTとして導入しています。セキュリティポリシーなどは、このシステムの会社のものに従うということで、年齢制限なく使えるようになっています。

 

※1 ARSAGA INSIGHT ENGINE powered by GPT

 

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「情報I」の年間カリキュラムに、「生成AIガイドライン」に関連付けた活動を組み込む

生成AIの導入では、「生成AIガイドライン」と関連する取り組みとして、今年度は、まず生成AI導入の懸念やリスクに対応するために、校内GPTを導入した上で、パイロット的な取り組みとして、高校1年生と全教員だけで限定された機能を活用してみるということを行いました。

 

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「情報Ⅰ」の年間のカリキュラムから、生成AIに関するものを取り出してみたのがこちらです。

 

年間を通じて行われている「ソーシャルリーディング」(※2)は、知識のベースとなるものを得ることを目指す協働学習です。そこに生成AIの実習や活用するための力を養う学習活動を取り入れ、年間を通じて情報活用能力を養っています。

 

※2 「単元の導入の協働学習の授業デザイン ~ソーシャルリーディングのプロンプトエンジニアリング~」参照

 

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「生成AIガイドライン」にも、「生成AIを活用する4段階」が載っていますが、本校ではこれを段階的に高めるだけでなく、学習サイクルを何度も回しながら、行ったり来たりすることで徐々に情報活用能力を高めていく、という授業デザインをしています。

 

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生成AIを使う前に、まず「質問を投げる=プロンプト」の工夫や、回答のチェックの必要を知る

今日は、その中で事例を3つご紹介します。

 

1つ目は「ソーシャルリーディング」です。生成AIを使わずに行い、生成AIを使うための素地を作るために実施しました。

 

この「ソーシャルリーディング」の授業では、もともとテキストを読んで情報を共有することで、知識の獲得や定着を図ることを目指していましたが、今回は生成AIを導入するということで、プロンプトをどのように書いたらいいかも意識しながら実施しました。

 

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授業の流れがこちらです。まず、私から単元に関する概要の説明を5分から10分ぐらいで話し、その後にグループで担当を割り振り、テキストの該当ページをざっくり読んで、すぐにミニプレゼンをします。

 

その後、質問の交換をしながらさらに読み深めていって、それを説明する資料を作って共有する、という流れになっています。

 

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この活動は、質問を投げる「ユーザ」と回答する「エキスパート」に分かれて行います。ユーザは、知りたい答えを得るための質問を作ってエキスパートに投げ、エキスパートは書籍などを調べて、それに対するもっともらしい回答を返します。

 

ユーザは、もらった回答が知りたかった答えになっているかを見て、わからなければもう1回それを聞く、もしくは、他の情報とクロスチェックしてさらに追加の質問をします。

 

この流れ自体が、生成AIに問いを投げることに似ています。これを通して、「質問の質が適切でなければ、欲しかったものとは違う回答が出てくるし、エキスパートが言っていることが全て正しいとは限らないからこそ、クロスチェックも必要だよね」という体験をしました。

 

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今年度は、生徒に対して生成AIに関するアンケートを何回か取ってみました。この授業の前、年度当初に生徒に「生成AIを使いたいか」と聞いてみたところ、「使いたい」という生徒と、「使いたくない」という生徒が両方いました。

 

そして、このソーシャルリーディングの活動をやった後に、「知りたいことをこの活動で得られたか」と聞いてみると、はじめに「生成AIを使いたい」と答えて、「知りたいことが得られたか」にもYESと答えた生徒には、「知りたい答えを得るための質問には工夫が必要だ」と感じている生徒が非常に多くいました。

 

一方、「生成AIを使いたいけども、このソーシャルリーディングで必要なことを得られなかった」という生徒は、「質問をどのように考えるか、ということ自体が鍵になるんだな」というコメントをしている生徒が多かったです。

 

一方、当初「生成AIは使いたくない」と言っていた生徒たちの中で、「ソーシャルリーディングで知りたいことを得られた」と答えた生徒では、「質問をどのように考えるか」や「信頼性を確かめないといけない」といったコメントが多かったです。

 

なお、「授業前に生成AIを使いたくない」と答えて、「知りたいことを得られなかった」という生徒はいなかったので、その部分は該当なしということになりました。

 

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生成AIの導入ガイダンスを通して「生成AI活用3箇条」を作る

ここからは、実際にテキスト系の生成AIを導入した後の取り組みです。

 

「生成AIガイドライン」でも、生成AIを導入時には、ガイダンスをする、ということが示されていますので、そちらの授業を紹介します。

 

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この生成AIガイダンスをする前に、生徒に生成AIを使ったことがあるかということを聞いてみたところ、50%弱の生徒が「使ったことがない」と回答しました。そのような中で行った実践です。

 

 

テキスト生成AIのガイダンスは、2時間で行いました。まず、生成AIについて知るということで、私の方で10分程度、ルールや使い方についてざっと説明した後に、校内GPTのテキスト生成AIを個人で実際に使ってみました。

 

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このときに、TeamsのOneNoteに生成AIを使った結果や気が付いたことの記録を取りながら、どんなことに気を付けたらよいか、ということを個人で考えました。

 

その後グループで持ち寄って、生徒全員が生成AIを活用する際には、どんなことに気をつけたらよいかを話し合って、プレゼンシートにまとめたものをアップロードして、全体で共有しました。

 

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生徒たちは、実際に使ってみて、プロンプトとそれに対する回答の記録を全部OneNoteに貼って、「こういうことをしたら、こういう結果が出てきた」といったことを履歴としてして記録しています。

回数制限がないので、「質問をどんどん掘り下げていくとどんな回答が出てくるか」とか、「間違った情報を教え続けるとどうなるか」といったことを試すこともできます。

 

実際に、「最初聞いたときは好きなアーティストの情報を答えてくれなかったので、ひたすら教え続けたら、答えてくれるようになった」というものもありました。

 

また、「生成AIは計算が苦手」という特性を確かめるために、限界はどこか、ということを試した人もいました。

 

このように、いろいろなことを体験する中で、機械学習の特徴やプロンプトの出し方、生成AIの特徴として向いていること・向いていないことなども、体感として学んでいるようでした。

 

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これらをもとに、今後本校の生徒達が生成AIを使うにあたって、どのようなことを守っていきたいか、どのように使っていきたいか、ということについてグループで話し合って、「生成AI活用3箇条」を作り、そのプレゼンテーションを動画プラットフォームFlipに上げて共有するという活動を行いました。

 

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この生成AIのガイダンス後に、リフレクションを行いました。「生成AIの活用3箇条が考えられなかった」「生成AIについて理解できなかった」というような回答はなく、それぞれの学びの到達度で理解したり深めたりできたという回答でした。

 

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この授業のリフレクションの自由記述を、情報活用能力の3要素で分類してみたところ、「情報活用の実践力」では、「ただ質問するだけでなく、様々な方法で生成AIを使用する工夫ができた」。「情報の科学的な理解」としては、「あえて生成AIが苦手な質問をすることで特徴を理解できた」。「情報社会に参画する態度」では、「使用方法に注意しながら、自分でも使っていきたい」といったことが出ていました。

 

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生成AIを活用してWebサイトを作る~ユーザ分析、テキスト・画像生成、Webライティング、バグ検出…

そしてガイドラインでは、ガイダンスが終わったらいろいろな授業や教育場面で、子ども達に主体的に使わせてみよう、としていますので、実際に生徒たちが生成AIを活用した事例をご紹介したいと思います。

 

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「情報デザイン」では、「WebデザインPBL」という課題解決学習で、グループでWebサイトのデザインに取り組んでいます。

 

今回のお題は、生成AIが導入されたので、「自分たちの理想とする中等教育学校を作り、その広報のためのWebサイトを作る」というテーマにしました。

 

 

 

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授業の流れがこちらです。まずWebページの企画をします。ここは全員で話し合いをします。その後、役割分担して、協働的に作っていくという形です。

 

ガイドラインの段階で言うと、「③各教科の学びにおいて積極的に用いる段階」と「④日常使いする段階」を意識して行いました。

 

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まず企画書の作成では、ユーザ分析をして、そこから自分たちのグループが考える学校はどのような特徴があるかを生成AIを活用しながらアイデア出しをします。

 

それを基に学校のビジネスモデルを作って、そこからワイヤーフレームやサイトマップに落としこんでいきます。

 

 

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その後、役割分担をします。全体を統括するプロジェクトマネジャー、Webライティングでテキストを作成するライター、コーディングするコーダー、デザインをするデザイナーと分かれていきます。

 

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デザイナーは、画像生成AIのAdobe Fireflyを使って画像を作ります。生成AIで作るか、あるいは自分で描くかの二択で、どこかから持ってきて貼り付けるのはダメ、ということにしました。プロンプトを工夫しながら、自分の得たいものを得るという形で行う場面が見受けられました。

 

 

ライターは、テキスト生成AI(校内GPT)を使ってアイデア出しとしてこのユーザに対して本当に適切かを尋ねたり、Webライティングをしたり、学校の教育理念を作った後に、教育課程はどうするか、部活をどうするか、といったことを掘り下げながら作っていました。

 

そして、コーダーは、コーディングの土台作りをしたり、バグを調べるときの参考にしたり、といった使い方をしていました。

 

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さらに、次のような場面がありました。画像生成はAdobe Fireflyを使うので、学習データはAdobe Stockです。もとの画像の著作権はAdobe Stockにあるのですが、実際に生成AIで作らせてみると、Adobe Stockにあるものと似た画像が出てきたことに、生徒自身が気づきました。

 

そして「この大仏の画像、見たことがある」ということで、Googleレンズにその画像を投げてリサーチをかけてみるとやはり似たものがあったので、違う新しい画像を生成しなおしていました。このように、生成AIを活用する中で、自然にメディアリテラシーも養われてることを感じました。

 

 

この授業後のリフレクションで、「生成AIを活用した学習は効果的だったか」ということについては、90%以上の生徒が「効果的だった」と回答しています。

 

「効果的ではなかった」という生徒は、今回「必ず生成AIを使わなければならない」とはしていなかったので、使う場面がなかったため、結果的に「いいえ」という回答をしていました。

 

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次年度は全学年に生成AIを導入~「習得」「活用」「探究」を経ながら情報活用能力の育成へ

今年度、まず「情報Ⅰ」でトライアルしたことを、来年度は全学年に展開するという方向性で動いています。

 

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この先も、「習得」「活用」「探究」というフェーズを経ながら、主体的・対話的で深い学びの授業を構築して、情報活用能力を養う授業に携わっていきたいと思っています。

 

情報処理学会第86回全国大会 第5回初等中等教員研究発表セッション講演より