事例332

東京都立六本木高等学校における「情報Ⅱ」の授業実践

東京都立六本木高等学校 千葉緑先生

私からは、都立六本木高校における「情報Ⅱ」の授業実践についてお話しします。

 

様々な背景を持つ生徒のために、多様なニーズに応える体制・授業

 

東京都の先生方はご存知と思いますが、本校は「総合学科・単位制・三部制・チャレンジスクール」と特色のある学校です。

 

多くの生徒は、中学校までに不登校を経験しているます。そのため、義務教育で身に付けるべき学力が十分に定着していない生徒や、対人コミュニケーションに不安を抱えている生徒も多くいます。

一方で、自ら主体的に学習を進めることができる生徒もいるため、多種多様な生徒の学習ニーズに対応する必要があります。

 

また、長期欠席や入院している生徒もいます。

三部制ということで、朝から登校する生徒、12時頃から登校する生徒、夕方から登校する生徒もいます。さらに、定時制は基本的には4年で卒業ですが、3年で卒業する人もいれば、5年、6年で卒業する人もいます。

 

 

本校は、総合学科でもあるので、様々な学校設定科目も多くあります。

 

「必履修および選択必履修科目」を履修し、このような科目を含めて、合計74単位以上修得で卒業ということになっています。

 

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本校の一人1台端末は、iPadを使っています。いろいろな事情のある家庭の生徒がいるので、なるべくいろいろ使える機種の方が学校にも持ってきやすいということもあって、iPadを採用しています。

 

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情報科の授業の設定

 

ここからは情報科についてです。

 

本校では、今年度3年次以上(3~6年生)の生徒が旧課程になるので、「社会と情報」「情報の科学」を置き、1・2年次は、新課程なので「情報Ⅰ」と、2年次には上位科目として「情報Ⅱ」を設置しています。

 

専門科目として、「情報システムのプログラミング」と「コンテンツの制作と発信」を行っています。生徒にとっても教員にとっても、かなりチャレンジが必要なカリキュラムになっています。

 

 

 

生徒たちの授業の取り方がこちらです。

 

1年次で「情報Ⅰ」と、学校設定科目の「キャリアスタディ」を必ず受講します。「キャリアスタディ」とは、小学校・中学校の復習や、パソコンの使用方法についても学ぶ内容になっています。

 

特にパソコンの使用方法については、他の授業でも使用することも多いため、ローマ字入力の方法やレポートの書き方などの指導も行っています。

 

「情報Ⅰ」も1年次に置かれています。「情報Ⅰ」を履修したら、2年次以上で「情報Ⅱ」か「コンテンツの制作と発信」「情報システムのプログラミング」から好きな科目を登録することができます。

 

 

1年次の選択科目の「情報演習(基礎)」は、Word、Excel、PowerPointの使い方が中心の授業です。

 

 

教科書は、「情報Ⅰ」は東京書籍の「新編情報Ⅰ」、「情報Ⅱ」も同じく東京書籍の『情報Ⅱ』を使っています。

 

 

「情報Ⅱ」の授業案の作成と流れ

 

「情報Ⅱ」の授業は、全てパソコン教室で行っています。大体教科書に沿って授業をしているので、1章「情報社会」が前期の中間考査まで、2章「コンテンツ」が前期期末考査まで、3章「データサイエンス」が後期中間考査まで、4章「情報システム」が後期期末考査まで、というスケジュール感で進めています。

 

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本校には、4人の情報科の先生がいます。授業の時間帯は、朝から夕方までの先生と、昼から夜までの先生がいますが、この4人が手を取り合って「情報Ⅱ」の授業案を作り、私が授業を行っています。

 

 

授業の流れがこちらです。出欠を確認して、タイピングの練習をしながら遅刻してくる生徒の対応をしつつ本題の授業を始める、という形です。

 

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課題の提出・考査はMicrosoft Teamsで、行っています。

 

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先ほどの年間計画の進め方がこちらです。この表で、色がついているところが実習になります。今日は、この中から第2章「コンテンツ」の中から「プロジェクションマッピング」をご紹介します。

 

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「情報Ⅱ」の実習のために準備する環境・モノは…

 

具体的な内容に入る前に、それぞれの授業で使用した環境やモノについてまとめたものを紹介します。

 

1章「情報社会」では、A02で、RESAS(※1)を使っています。これはWebブラウザを用いてやるので、比較的簡単にできます。

 

※1 RESAS 地域経済分析システム

 

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2章の「コンテンツ」では、Processing、3DBuilder、3Dアニメーションソフト、PowerPoint、プロジェクター等など、いろいろなものを使います。

 

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3章「データサイエンス」では、jSTAT MAPを使いました。これはブラウザで使えます。プログラミング言語のRも使います。

 

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4章「情報システム」では 使うものが増えます。micro:bit、Visual Studio Code、Webカメラ、バーコードリーダー等など、いろいろなものを用意する必要があります。

 

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それぞれの章で使用するものをまとめたのがこちらです。

 

 

今年本校は情報科の先生が4人いたので、4人で分担して、4週に1回、それぞれが作った授業案を持ち寄って皆で話し合い、悩みながら授業を作っていました。ただ、多くの学校は情報科の先生は1人ですので、皆さん頑張りましょう!

 

 

「情報Ⅱ」の授業を振り返って~生徒の感想から

 

先に、「情報Ⅱ」を実施したことについてのまとめをご紹介しておきます。授業の最後に、生徒にアンケートをとった結果がこちらです。

 

「印象に残っている内容はどれですか(複数回答可)」と聞くと、生徒たちにはキャラクターの3Dモデルを操作してコンピュータアニメを作る3DCGソフトのMikuMikuDance(※2)を使った「キャラクターを動かそう」「楽しく体を動かそう」、アンケートの当日にやった授業を挙げた生徒が多かったです。

 

「星座ランキングを分析しよう」は、Excelを使って行いましたが、「星座占いって、実はこんなものなんだね」という悲しい事実がわかりました。その他には、顔認証とARを体験する「顔検出とARを体験しよう」などが記憶に残っていたようです。

 

※2 Wikipediaより

 

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「理解が深まったと思うことは何か」では、プログラミングの難しさ重要性だと答えてくれました。今年の受講生は、かなりやる気のある人たちだったので、このように答えてくれたかなという感じです。

 

 

「身に付いたと思うこと」については、プログラミング能力、タイピング力になっています。

 

 

また、「もっと学びたかったこと」がこちらです。「パワーポイントやExcelなどもすこしは触れたかった。」ということについては、他の授業でも扱うところは「情報Ⅱ」ではかなり省いていたので、このような回答が出てきたのかなと思います。

 

 

来年度「情報Ⅱ」を取ろうという人へのメッセージを書いてもらったのがこちらです。

 

「ゆるい」や「授業スピードが速い」「復習はしろ!」といういろいろな声がありました。

 

 

実際に私が授業を担当しての感想がこちらです。

 

教科書ベースで授業を行うことによって、欠席した生徒にも対応できるようになりましたが、とにかく時間が足りません。授業準備も授業の時間数も足りなくて、毎回3分間クッキング的に、途中までできたものを用意している感じでした。

 

「今日はこれをやります。途中ここまでは作っておいたので、ここからやってください」ということになるので、生徒はやる気満々だったのに、「ええ?!この難しいところからやるの」ということになることも多かったです。

 

 

 

プロジェクションマッピングの実習~生徒の進度に合わせて3段階のゴールを準備する

 

プロジェクションマッピングの実習について、実際の授業で使ったスライドでご説明します。

 

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プロジェクションマッピングは、YouTubeで検索する様々なものが見つかります。プロジェクションマッピングのイメージを掴むために、いくつか生徒に紹介します。

 

生徒には、プレゼンテーションソフト(PowerPoint)を使って、画像を平面や立体物に投影する、という活動を行ってもらいました。

 

 

著作権の関係で、授業の展開はスライドではご紹介できませんが、ご興味のある方は、東京書籍の『情報Ⅱ』のp28,29をご覧ください。

 

教科書を見ながら、①入門(平面)、②基本(立体)、③応用(自由制作)という3つの課題に取り組ませています。必ずやらなければならないのが平面で、早い人は立体、自由制作まで進めることにしています。早い人は飽きないように、遅い人は最低ラインをクリアできるように、ということでステップを設定しましたが、今回自由制作までいけた人は1人だけでした。

 

 

この課題に関しては、私たちの方で手順書を全て作り、実習は手順を細かく説明する動画と、手元の資料を使って行います。

 

プロジェクターとコンピュータを接続して、箱に白い紙を貼ったものに画像を投影します。

 

ここで使用するプロジェクターは、単焦点などでなく、小さいものでもできるので、どの学校でも比較的簡単にできますが、プロジェクターの数が必要になります。

 

紙の四隅に投影する範囲をマーキングします。マーキングした範囲内に投影でき、その範囲に絵を描いたり画像を貼り付けたりできるよということを、動画を見ながら、実際にパソコンで作業していきます。この動画と手順書は、立体版、自由制作版のそれぞれについて作成しています。

 

作成した作品については、実際投影したものを写真や動画で撮影したものと、設定したパワーポイントを提出してもらいました。

 

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情報処理学会第86回全国大会 直前! 新課程「情報」2025年度入試 講演より