事例337

大学入試の教科「情報」対応、何が必要なのか、どう進めるのか

鹿児島県立鶴丸高校 春日井優先生

私は、鹿児島県立高校と言いながら、昨年の春まで30年、埼玉県立高校で数学と情報の教員をしていました。昨年何を思ったか、鹿児島の教員採用試験を受け直して、鹿児島に来ました。この話をすると、これだけで終わってしまいますので、本題に行きたいと思います。

 

 

私が現在勤務する鶴丸高校は、40人×8クラス、1学年320人ですが、現役・浪人合わせて200名以上が国公立の大学に進学します。そういった学校ですので、共通テストで「情報」が課されることについては、私が着任する前から一大関心事ということで、誰が担当するかということも含めてさまざまな議論があったそうです。

 

そんなこともあって、先生方は、「情報」に対して温かく見てくださっています。とはいえ、受験に向けて教育課程をしっかりチューニングして、国公立大学合格を目指したカリキュラムになっているので、検討の結果「情報Ⅰ」は2年生で開講し、1年生と3年生では授業がないという状況です。

 

 

各入試方式にどのように対応するか~総合型選抜では、探究活動の成果を外部のコンテストへ

 

各入試方式への対応という点については、いろいろな入試方式がありますので、まず概要からお話しします。

 

ご存じのように、一般選抜だけでなく、総合型選抜や学校推薦型選抜など、さまざまな入試方式で年内に受験をして進路を決めていく生徒も増えてきています。そういった生徒をどのように指導するかについても考えておいたほうがよいかと思います。

 

 

一般選抜については後ほど取り上げるとして、まず総合型選抜では、学外の研究発表会や、各種のコンテストなどの実績が求められる場合もあるので、アドミッション・ポリシーを確認して取り組んでいく必要があります。

 

また、学校推薦型選抜には、評定平均値の基準があるので、「情報」を含めて全ての学校の授業にしっかり取り組んでいくことが必要になります。

 

総合型選抜への対応として、スライド左側は、情報処理学会が開催する「中高生情報学研究コンテスト」(※1)です。こちらのエントリーが9月2日から始まります。

 

最近はかなり応募者が増えたため地区予選が始まり、全国大会出場はなかなか狭き門になっています。全国大会は来年の3月15日、立命館大学いばらきキャンパスで行われます。関西の先生はお近くですので、エントリーする、もしくは高校生の様子を知っていただくために、会場に足を運んでいただくとよいかと思います。私も一昨年、東京の電気通信大学で行われた大会を見に行きましたが、さまざまな取り組みをしていておもしろいので、見る価値はあると思います。

 

※1 https://sites.google.com/view/87postersession

 

また、鹿野先生のデジ連のホームページには「[学生が応募できる]募集中のデジタルコンテスト一覧」のページ(※2)があります。「総合的な探究の時間」などで取り組んだ成果を発表する機会がいろいろありますので、ぜひチャレンジされるとよいと思います。

 

※2 https://dle.or.jp/contests/

 

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では、このような学外研究発表会に向けて、生徒はどのように学習したらよいのか、ということにつきまして。

 

DXハイスクールの要件に「情報Ⅱ」「探究活動」が入ったことで、「情報Ⅱ」を開講する学校が広がりましたが、文部科学省で作っている「情報I」「情報Ⅱ」の授業・研修用コンテンツの動画(※3)は、生徒が見て学べるように作られていますので、学校で「情報Ⅱ」を開講していなくても、こういったものを使いながら生徒が自分で探究を進めて、先ほど紹介したようなコンテストに参加するもできます。チャレンジする生徒が増えていくとよいと思っています。

 

※3 https://www.nttls-edu.jp/joho/

 

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一般入試~共通テストの配点比率はバラバラで、一律の対応は難しいが…

 

次に一般入試です。個別入試については、実施する大学数が少ないので、共通テストを中心にお話します。

 

共通テストの配点比率もさまざまで、本校の生徒が受験しそうな大学の中でもウェイトはバラバラです。そういったこともあって、一律に「『情報』にこれくらい時間をかけなさい」という話は難しいと思います。

 

最近、3年生の担任の先生から、「生徒が北の方の国立大学を志望しているのだが、『情報』はどうしたらよいか」という相談を受けました。本校は、第1志望の大学には浪人を視野に入れて挑戦する、という生徒がかなり多くおります。この大学は、今年度の「情報」の配点はゼロですが、すでに来年度は配点があることを公表しているので、「今年度、それほど時間はかけられないと思うけれど、全く何もしていないと浪人したとき大変だよ。校内の実力試験や模擬試験を受けるときは、きちんと準備して受験しよう」と伝えてもらいました。

 

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共通テストで問われること~ポイントは「身近な題材と情報技術の関り」が考えられること

 

ここで、共通テストの出題について、どういったことが検討されているのか確認しておきます。

 

大学入試センターが問題作成方針として出しているのは、日常的・社会的な事象を情報とそのの結び付きとしてとらえること、探究活動の過程、情報社会と人の関わりといったことを重視してそういった問題を作っていく、ということです。

 

 

さらに、「試作問題」では、学習指導要領が示す「情報Ⅰ」が育成を目指す資質・能力を重視した形で作題する、ということになっています。

 

 

「情報Ⅰ」で育成を目指す資質・能力として、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「学びに向かう力」のそれぞれが出ていますが、特に注意したいのは、「知識・技能」にある「情報社会と人の関わりについて理解」のところです。

 

「思考・判断・表現」では、「情報と情報技術を効果的に活用する力」。「学びに向かう力」の「情報社会に主体的に参画する態度」は、入試で問うのは難しいところがあるので省略します。

 

 

そして、情報科の目標は、「情報に関する科学的な見方・考え方を働かせて、情報技術を活用して問題の発見・解決を行うこと」。この言葉は、繰り返し出てきています。

 

 

大学入試センターの試作問題を作成したときの考え方にも、「日常的な事象や社会的な事象と情報との結び付き」「問題発見・解決に向けての探究的な活動の過程」「情報社会と人の関わり」を重視する、とほぼ同じようなことが言われています。

 

 

さらに、題材や出題方法にも、「社会や身近な生活の中の題材」「資料等に示された事例や事象」と、先ほどまでと同じようなことが繰り返し出てきています。

 

 

こちらは、中教審の「情報」ワーキンググループで、「情報Ⅰ」が検討された際の資料です。

 

ここに「問題解決の過程を通して学習しましょう」ということが示されていますが、この方向で検討が進められ、共通テストもこの流れにあります。

 

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試作問題には、ある教科書には載っているが別の教科書には載っていない、という内容も出題されています。

 

スライドの左側は論理回路の問題です。また、右側は情報の整理の問題で、ここには情報を整理する基準として「究極の五つの帽子掛け」という言葉が出てきます。この言葉が出ていない教科書もありますが、教科書にない言葉であっても説明文を付けて出題する、という可能性が示されています。

 

知識として知っていれば、説明の部分を読み込まなくても進められますが、知らなければその場で理解して解答していかなければならないことになります。

 

ただ、試作問題でも30ページを超える分量ですから、いちいち読み込むのは大変です。知識部分の扱いについては、授業でも考慮して対応していかなければならないと思っています。

 

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授業の中でどのように対応していくか

 

授業では、普段から入試に向けて対策をゴリゴリやっていけばよい、というわけではありません。入試に向けた教科指導として、最も時間をかけることができ、同時に内容が問われるのは、やはりやはり授業です。授業の中で、入試問題を解いていく上での基礎・土台になる力をいかに付けておくか、ということが重要です。

 

特に本校は、2年生で「情報I」の2単位(週2時間)の授業をしていますが、受験を控えた3年生との今年の関わりは、校内の実力考査を作って採点することと、昨年度の「情報I」の授業ではGoogle Classroomでいろいろな資料を提供していましたので、そこに時々確認のための練習問題を配信する、というくらいしかできていません。

 

そういったことで、まず授業で問題を解くための土台をしっかり作って、先ほどの問題解決の過程を経験させた上で入試問題に取り組ませていくといったことをしていきたい。演習問題だけ解いていても、なかなか対策は難しいかなと思っています。

 

 

私が考える「情報I」の授業の目標は、学習指導要領に示された3つの目標(スライドの①~③)に加えて、本校の置かれた状況としては、入試に対応できる学力の育成です。

 

さらに彼らの将来を考えると、大学に合格した後にも使える力を付けていくことが必要です。

 

この先どんどん進展していく情報社会の中で、技術の発展に対応できる基盤を作り。同時にその時必要となる視点も育成する、という、この2つを両立させるべく授業を行っています。

 

 

そのために、授業では単に知識を身に付けるだけではなく、その知識を使って何かを説明したり、現実の問題を考えたりする場面を作っていくよう心がけています。

 

これを従来のように、一斉授業の講義形式で知識の部分の説明をしていると、考えさせる時間が足らなくなってしまうので、説明については3分程度、最長でも5分の短い動画を作って、見ておいてもらうようにしています。昨年度1年かけてほぼ教科書1冊分に対応する内容を作ったので、今年度は「動画を見て予習してきなさい」という形で行っています。

 

一方、プログラミングやシミュレーションなどでは、コンピュータを操作して、実際の過程を経験させています。

 

 

知識の説明部分は短時間の動画を準備、入試対策でも活用

 

こちらが実際の動画で使っているプログラミングの知識の部分を説明するスライドです。

 

凝った作りこみをするのでなく、画面下に私の顔を出す形で、授業中に説明する部分をそのまま動画にしています。

 

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授業の中では、例えばデータ量の計算であれば、単に計算問題として出すだけではなく、音声・静止画・動画のデータ量をそれぞれ示して、「スマホを買い換えとき、自分の使い方を考えるとどれくらいの容量が必要か」といったことも、合わせて考え、説明を書かせています。

 

このような題材を考えさせるのはおもしろいですが、当然ですが時間はかかります。

 

 

他の分野についても、例えば「情報社会」ではケーススタディ的な内容、「情報デザイン」では実際に成果物を作らせることも行っています。「ネットワーク」ではなかなかできませんでしたが、実際にネットワークを構築して通信を体験できたら、と思っています。

 

 

動画を活用した理由としては、授業の時間内で納得して定着する学習よりも、課題や問題を解決するための知識を得て、活用していく学習に転換するためです。

 

入試では、全然知らない内容が出題される可能性もあります。全ての知識を授業で網羅することはできないので、持てる知識を使って考えを進めていく経験が必要であると思っています。

 

 

また、先ほどもお話ししたように、本校はほとんどの生徒が共通テストを受験しますが、2年生で「情報I」を履修して3年生で「情報」の授業がないので、入試に向けた技術的な対策を行うことができません。

 

ですので、模試や問題集の解説を行う際には、授業動画とのリンクを貼って、復習用として見てもらう。新たに説明が必要なことになどついては、必要に応じて新規の動画を補充する、ということにしています。

 

 

授業の中では、生徒同士で教え合う雰囲気や状況を作り、「情報」が得意な生徒が他の生徒の質問に答えられるような学習の進め方を経験させておくようにしています。

 

また、定期考査や実力考査では、共通テストを意識して会話文を入れたり、問題解決形式の出題をしたりしています。逆に、用語の問題は「知ってて当然でしょ」ということで、あまり出題していません。

 

 

3年生には模試だけでなく校内の実力考査も

 

3年生は「情報」の授業がないため、日常での対応は難しいので、入試まで時間のある準備段階では、知識の確認をして問題解決の流れなど思考・判断・表現を伴う形の問題を解いてもらい、直前期になったら、共通テストと同質の練習問題を解いていくよう、指導していきます。

 

また、長期休暇では補講の時間が取れそうなので、生徒が苦手にしている部分の問題演習と解説を補う必要があるかと思います。そして、授業はありませんが、校内の実力考査で共通テスト形式の「情報」を課すようにします。

 

 

その実力考査の問題がこちらです。

 

左側が情報デザインの問題です。金魚の飼い方のサイトを見て私が作文したものを図で表現するのであればどの形がよいか、というものです。

 

中央はプログラミングで、これは問題解決というよりは、プログラムを読んで書く問題になっています。

 

右側はデータ活用で、札幌と鹿児島について気温と灯油の消費量の散布図を描いて単回帰分析をしています。暗記だけでなく、考えて解くことをねらった出題です。

 

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共通テストに向けて、授業で何が必要かについてまとめます。

 

まず、生徒がさまざまな経験をできる授業が必要であると思います。思考・判断・表現、コンピュータを実際に動かす経験、身の回りの事象を情報と結び付けて考える経験など、できるだけ盛り込んでいきたいと思います。

 

また、生徒がきちんと考えられるようになること。単に暗記したことを吐き出すのではなく、新たな場面や設定が出てきたときに、自分が持っている知識を使ってその場で考えていく経験を積まないと、考える姿勢はなかなか伸びてこないと思います。

 

現在、各社がさまざまな問題集を作ってくださっています。そういったものがもっと増えてくると、先生方の指導も少しは楽になるかと思っています。一方で、生徒が考える姿勢を持ちながら受験対策を進めていかないと、単に問題演習を繰り返すだけでは、情報入試自体が結局砂上の楼閣になってしまうのではないかと思っています。

 

New Education Expo2024大阪 セミナー「大学入試の教科「情報」対応、何が必要なのか、どう進めるのか」 講演より