事例339

3年生で「情報I」を履修する生徒は、 授業を通して情報入試対策をどう捉えたか? ~プログラミングを中心に~

フェリス女学院中学校・高等学校 堺和貴子先生

進学校の3年生に「情報I」をどのように教えるか

私は今年度、本校に入職しました。本校は、教育方針として「深い学びと幅広い学び」「学問の尊重」を掲げ、国公立大学進学を希望する生徒も多いです。共通テスト「情報」の対策を必要とする生徒が多いことになりますが、本校の現高3生は、「情報I」が3年次に配置されています。

 

3年生は、12月末で授業が終了するため、授業時数が他学年に比べ少なくなるので、その分、年間計画の工夫が必要です。さらに、共通テストを受験する生徒がいることと、共通テストを受けない生徒がいること、両方の存在を考えなくてはなりません。

 

今回は、年度初頭の早めの時期にプログラミングを実施しました。そして思い切って、入試に全振りしない授業を組み立てました。今回の発表では、プログラミング単元を中心に、生徒たちが入試に対してどのような思いを持っているのか、「情報I」内で実施した授業内アンケートを紹介しつつ、最適な授業内容とはどのようなものか、皆様からもご意見をいただきたいと思っています。

 

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8割近くの生徒が「情報入試に不安がある」。特にプログラミング単元

 

まず、実際に生徒たちが情報入試をどのように受け止めているかを知るために、4月の第1回目の授業でアンケートを取りました。

 

このアンケートでは、共通テスト「情報」を受験する予定であるか、という質問も入れています。ここで紹介するアンケート結果は、その質問に「はい」と答えた生徒の回答をまとめたものになります。

 

「『情報』入試について不安な点があれば教えてください」という自由記述の回答データを、内容別に分類したところ、まず「不安材料がある」と分類できる回答が全体の80%近くありました。その内容をさらに詳しく分類していったところ、特に学習方法への不安と、共通テストそのものに対する不安60%ほどを占めていましました。これは他の学校でも同様であると思います。この時点では、まだ授業も始まっていない状態でしたので、「全く何もわからない」「イメージがつかない」という回答もありました。

 

 

次に、それまでに「情報」の模試を模試を受けた生徒を対象としたアンケート結果を紹介します。アンケートの実施が年度初頭であるため、模試を受けている生徒は2年生の3学期に当たる期間に受験していることになり、結果として「情報I」の内容を知らないまま模試に挑んだ生徒が大多数だったのではないかと推測しています。

 

質問内容は、「模試を受けて、受験対策について率直に感じたことを答えてください」というもので、こちらも記述内容にしたがって「手応え(47.9%)」と「対策(50.0%)」に分けて分析しました。

 

「手応え」については、「プログラミングが難しかった」「ほとんど問題が解けなかった」「わからない問題があった」といった答えが目立ちました。全く情報科の授業がなかったので、そのような回答が出てくることも想像できます。

 

「対策」としては「知識が必要」ということが出てきていますが、具体的な単元を見てみると、手応えにしても対策にしても、「プログラミング」という記載が共通してあったのが特徴でした。

 

逆にそれ以外の単元はほとんど出てきていません。「論理回路が難しい」という回答があったくらいでした。共通テスト試作問題第4問の「データ活用」にあたる部分ではどうだろうと思っていたのですが、「相関」「グラフ」など、「データ活用」に関連する言葉は出てきていませんでした。反対に「数学の知識があればできそう」といった記述が見られており、ひょっとしたら数学の知識で問題を乗り切れたのかもしれません。

 

 

「情報Ⅰ」の初めからプログラミングを実施する

 

アンケート結果から、「やはりネックになるのはプログラミングなんだ」ということ、共通テストで「情報」を受験する生徒のことを考えると、受験対策の面で、やはり不安材料のプログラミングを最初にやっておかないと、生徒も落ち着いて勉強できないと思いますし、模試を受けても困る状況が続くのはよくないと判断し、4月中旬からプログラミングを実施しました。

 

単元計画はスライドの通りです。前期中間試験前までの、10時間での実施です。開発環境は、PyTry(※1)を使い、言語はPythonを使いました。

 

※1 PyTry

 

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全10時間という授業時間の中で行うため、自力で教材を作り授業を進めていては、時間が足りなくなると感じたので、基本的な内容は副教材で購入していたBenesseの「Pスタディ」で押さえて、その例題をアレンジした自作の練習問題を解かせる、という形で行いました。

 

そして、最後の3時間で自由制作課題という形で、自由に作りたいものを作ってもらいました。ここでは、input文とprint文とランダムライブラリを使うことを必須とし、他の制約はとくにありません。生徒には、評価について、「作りたいものが作れたか」を見るので、関数を使ったから加点、とか、forを使わなかったから減点、とか、そういったことはしないよ、と伝えています。

 

この授業を行うにあたって心掛けたのは以下の3つです。

 

まず、共通テストを受験しない人もいるので、「共通テスト用プログラム表記」は扱わないことにしました。とにかく自分で手を動かして、プログラムを動かす経験をすることを軸にして、それがどのよう意味なのかを理解することに重点を置きました。そして、最後に「自分で考えて作る」ということで、ランダムライブラリを用いた自由制作課題を入れています。

 

私が準備していた自作の練習問題では、作成するプログラムをこちらでお膳立てしたものでしたが、自由制作課題は、自分で最初から何を作るかを考える必要があったため、手応えのある課題になっていたようでした。

 

プログラミングの実習は肯定的にとらえる人がいる反面、共通テストとのギャップを感じる人も

 

自由制作課題が終了した後、再度アンケートを取り、共通テスト受験予定の生徒に「プログラミングの単元で学習した内容は、『情報』の入試の準備にも生かされると感じたか」を4段階で評定してもらいました。8割以上が概ね「そう思う」と答えています。

 

理由の例としては、表に挙げたようなことが出てきています。一番多かったのは「学んだことで模試が解きやすくなった」ことで、共通テスト用プログラム表記を扱っていなくても、「解き直したら簡単に感じた」といった記述がありました。

 

「共通テストの試験範囲と同じ部分を学習したから」というのは、確かにそうかな、という部分ではあります。

 

「仕組みが理解できた」とか「実習することに意味があった」という意見もあり、プログラミングの理解を深めていけばそれだけ、共通テストにも対応できていくのかなという感触を得ました。

 

 

一方で、やはりそうでない、という生徒もいます。「共通テストの内容とギャップがある」「テストはマークシートだから」「Pythonで出題されていないから」という意見もありましたし、やはり「実習だけだと共通テストには対応出来ない」という声も出ていました。

 

また、4段階評価では低い評価だったものの、「教養としてやっている感じで、一般入試というよりも総合型入試に近い」ためにそのような評価にしたという、はっとするような回答もあったことも紹介します。

 

理由の記述内容と、評定の関係をグラフにしてみたのがこちらです。

 

「実習することに意味があった」と書いてくれたのは、「4」(そう思う)での評定をしていた生徒に多かったです。「授業と共通テストにはギャップがある」と答えた生徒の半数くらいが、実は「3」と答えた生徒でした。

 

 

自由制作課題があったからこそ理解が深まった?授業内で「共通テスト用プログラム表記」を扱うことは必要?

 

こういった結果を見て、今自分の中では、プログラミングの授業の中で「共通テスト用プログラム表記」に多くの時間を充てなくても大丈夫ではないかと感じています。反対に、自分で手を動かす経験は多く設定する必要があると思います。それが、共通テストプログラム表記への理解に関係していくと考えます。

 

ただ、今回は最後にある程度時間を取って自由制作課題を行ったのですが、これがなかったら同じようなアンケート結果になったのだろうか、ということが、自分の中で1つの疑問として残っています。

 

とはいえ、共通テストとの内容にギャップを感じる生徒がゼロではないので、「共通テスト用プログラム表記」の扱いをゼロにしてしまってよいのかというのは悩みどころです。

 

去年の全高情研で、プログラミングで「Scratchのようなビジュアルプログラミングを経験した後で、Python(テキストプログラミング)に進むと、Pythonの学習が進みやすくなる」というのは本当か、ということについて発表しました(※2)。当時は、「多分あまり役に立つことはないだろう」と考えていたのですが、蓋を開けてみると、プログラミングの考え方が似ていると気づいている生徒は、ビジュアルプログラミングはテキストプログラミングの学習の役に立っていると考えていたのです。

 

今回のPythonと共通テスト用プログラム表記に関しては、「両方テキストだから、すんなり繋がっていくだろう」とぼんやり考えていたのですが、どうやら生徒の中にはそうではないと考えている生徒もいることがわかり、そうなると、プログラミングの考え方は同じであることに気づかせるような工夫が必要なのかもしれないとも感じています。この点、皆さんはどうお考えでしょうか。ぜひご意見をお聞きしたいと思います。

 

※2 事例285 ビジュアルプログラミングはテキストプログラミングの学習に生かされている? ~授業内アンケートによる探索的検討~

 

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第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)ポスター発表