事例346
紙飛行機制作から始める問題解決・情報デザイン・データ活用の授業
アサンプション国際高校 岡本弘之先生
「情報Ⅰ」の授業は、今年で2回目になります。まず、前回からどのように改善したかをお話ししたいと思います。
まず、プリントを冊子にして、1~2回の授業で1つの冊子を完成して提出させることにしました。
授業を、「ミニ実習を行ってから知識を整理し、確認課題に取り組んで提出する」という流れにしました。
また、学校全体が一人1台環境になって生徒たちがiPadを持っているため、今年から普通教室で授業を行っています。QRコードが使えるため、授業が非常にスムーズに進められるようになりました。
最後に、進度にメリハリをつけました。実習の時間をしっかりとるために、座学の部分はできるだけ早めに進めてしまおうと考えて、1学期で「問題解決」と「情報デザイン」まで進み、後半で実習を多く行う形にしました。
「問題解決」をできるだけ楽しく・体験的に・興味を持って学ぶために
ここからは、「問題解決」をどのように教えるか、というお話です。
「問題解決」が教科書に出てくる順序は、出版社によって異なるようですが、本校で使用している日本文教出版の教科書では、冒頭に「問題解決の手順」が載っています。学習指導要領でも最初に出てきます。
学習指導要領を見ると、「情報デザインを通して問題解決する」「プログラミングを通して問題解決する」など、いろいろな流れがあることが示されていますので、生徒に対しても最初にしっかり「問題解決の流れ」を教える必要があると考えています。
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ただ、これをできるだけ工夫して面白くしたい、というのが、今回の授業のきっかけです。さらに座学ではなく、できるだけ体験的に学んでほしい。そして、問題解決は身近にあるということも知ってほしい。何よりも、興味を持って学んでほしいと考えました。
そこで、「よく飛ぶ紙飛行機を作る」という実習を行って、問題解決のみならず、情報デザインの視点やデータの活用・分析も盛り込んだ実践にしてみました。
さらに、共通テストの「試作問題」では箱ひげ図も出題されていたので、これも組み込みました。
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よく飛ぶ紙飛行機を作るには~まずは問題解決のための情報収集
こちらが授業の流れです。
3時間の授業として計画しましたが、最後の振り返りは時間が足りなくなって、最終的には3時間半使いました。
まず、紙飛行機を作るための情報をWebサイトなどから集める。次に実際に制作して、作り方を他の人に伝える手順書を手書きで作る。そして、実際に作った紙飛行機を飛ばしてみて、飛距離を計測し、分析する。最後に振り返る、という流れになります。
それぞれの工程を見ていきます。
まず目標の確認です。「A4のコピー用紙を使ってよく飛ぶ紙飛行機を作る」ということです。
問題解決の「問題」は、「理想と現実のギャップのことです。「飛ばしたいけれどもうまくいかない」という問題を示し、その解決案として「よく飛ぶ紙飛行機の作り方と、その飛ばし方も調べよう」という話をしました。
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最初の授業では、その情報を集めるところから始めました。生徒は1つ見つけるとそこで終わりにしてしまうので、2つ以上から調べることを条件にしました。
なお、この紙飛行機の実践は、2019年の全高情研和歌山大会の際に、ポスターセッションで一度お話ししています。
今はYouTubeなどで「よく飛ぶ紙飛行機」、「日本一飛ぶ」、「世界一飛ぶ」などで検索すると、当時よりもたくさんの動画が見つけられます。
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手順書作成を通して、わかり易く伝えるための情報の可視化・構造化の大切さを実感する
次の時間は、前半の20分で実際に紙飛行機を作りました。
写真は以前の授業のものですが、不器用な生徒も友達に聞きながら、楽しそうに折っています。
後半30分は、その折り方を説明する手順書を作りました。最初はデジタルで作らせようと思いましたが、時間がかかりすぎるため、今回は手書きにしました。
その工程で、情報デザインの視点として、可視化や構造化の大切さを話しています。
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こちらは、実際に過去の授業で何も説明せずに手順書を作らせたときのものです。字ばかりだったり、絵と説明がばらばらだったりしていました。
これらを例示しながら、改善するためにはどうしたらよいか。番号があるといいね、矢印がわかりやすい、図解した方がよくわかるね、など意識してほしい点をアドバイスしています。
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このような説明を聞くと、生徒はすぐ納得して良いものを作ってきます。これは「情報デザイン」の単元でも説明する内容ですが、ここで少し触れておくと、その後の理解がとてもスムーズになると思います。
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実際に紙飛行機を飛ばしてみた結果を分析する~「よく飛ぶ紙飛行機」にもいろいろな見方がある
次の時間は、講堂で実際に紙飛行機を飛ばしました。
飛距離がわかるようにするために床に2mごとの表示を作り、講堂の舞台に背中を付けて立って、そこから飛ばすというルールで、各自10回チャレンジすることとしました。
今年の高校2年生は5クラスありますが、最初のクラスは練習なしでいきなり飛ばしたところスムーズにいかず、飛ばしても戻ってきたためスコアはマイナス、ということも起きてしまいました。
そこで、その後のクラスでは最初に10分間練習をした上で、10回飛ばして記録を書くことにしました。
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こちらが結果です。
全然飛ばない生徒も、とてもよく飛ぶ生徒もいました。10回飛ばし終わったところで他の生徒と交換してみて、自分の飛ばし方が悪いのか、機体が悪いのかを確認して、後の分析に使う材料としました。
ここに30分程度かけた後、そのまま講堂でメガホンを使って授業をしました。ここでは、生徒たちに「そもそも『よく飛ぶ』とはどういうことだろう」と投げかけました。そして、飛距離の長さなのか、最低でもこれくらい飛んだということか、中央値なのか、平均値なのか等など、いろいろな数字で表すことができることを話しました。
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また、ここで飛距離の結果を箱ひげ図で表すこともやってみました。最初からスムーズに書けることを想定していなかったので、「ここにはこう計算して、ここにはこの数字を入れて…」とスモールステップで進めようと思っていましたが、思ったよりスムーズに計算できました。
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今年度は自分の箱ひげ図を描いたところで終わっているので、次年度への改善としては、自分が書いた箱ひげ図と、他の生徒のもの比較して分析させればよかったと思います。
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最後の分析部分です。ここで初めて教科書が登場します。
まず、「今回の紙飛行機実験は、実は教科書の『問題解決の流れ』と同じだよ」という話をします。
まず問題があって、問題点を整理して分析し、解決案を考えて、実行してみて、うまくいったかどうか評価して共有し、次の改善に生かす。ほら教科書の内容と一緒だねという話をすると、生徒もよくわかってくれました。
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知識を整理し、「問題解決」が活かされる場面を考える
今回は、そこから問題解決について更に考えさせるために、世の中には、同じように問題解決していることが多い、という話をしました。
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例えば、スマホは「いつでもどこでも情報を得たい、連絡を取りたい」という「問題」の解決のツールです。同様に、身近なものは何の問題解決のためにできたものなのか考えさせてみました。
私は情報系のものをイメージしていましたが、生徒たちからは、例えば「靴は足をけがしないためのもの」というように、いろいろな意見が出てきたので、1つは必ず情報系のものを考えてもらうようにしました。
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また、今回は一人でいろいろ調べて実行しましたが、人と共同で問題解決を図る方法もあって、そのフレームワークには、ブレインストーミングやKJ法、ロジックツリーなどがあることを伝えました。
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紙飛行機という親しみやすいテーマを通して、「情報デザイン」や「データの分析」の視点も取り込めた
授業の結果です。
生徒の様子を見ていて、やはり紙飛行機はとても楽しいテーマだったと感じました。
情報を集めて調べる際にも、結果を分析する際にも、勉強っぽさがないので、失敗しても改善するために真剣に取り組むことができました。また、生徒同士の教え合いも自然に生まれたいう点でも、とても良いテーマでした。
「情報デザイン」の視点から振り返ると、手順書は相手に伝わらないと意味がないので、実際にどのような点を意識すればわかりやすいのかを踏まえて作ることができました。
また、授業の中で「情報デザイン」の手法の話をするで、生徒の意識がずいぶん変わることがわかりました。ですから、「情報デザイン」の単元で扱う内容であっても、このタイミングでやってみたことは良かったと思います。
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「データ分析」の視点では、今回は「授業の課題だからやる」のではなく、「よく飛ぶ紙飛行機にする」という明確な目的があるので、生徒はスムーズに取り込めました。
計算も一人1台のiPadでできるので素早かったです。ただ、私は「なぜこの計算方法になるのか」といった部分を数学で学んだ上で、その結果を分析するのが「情報」の立場だと思っていますので、今後は分析の部分により力を入れていきたいと考えています。
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「問題解決」が身の回りで役立てられることを実感できた
生徒の振り返りです。様々な気づきがありました。
座学でやっていたら気付かないことで、体験したから気付けたこと、学べたことがたくさんあったことがわかります。
また、「問題解決にあたって情報は大切だと気づいた」という振り返りも多くありました。
「よく飛ぶ紙飛行機」を調べるにあたり「日本一」「世界一」というワードがたくさんあったそうです。大量の情報の真偽を見抜くメディアリテラシーの大切さにも気づいてもらうことができました。
3つ目は、「問題解決は普段から自分でもやっている」という気づきでした。
教科書に載っている問題解決やPDCAサイクルは、自分事からは遠くて、難しいことのように感じていたけれど、日常生活の中にあることを生徒自身が感じていました。
さらに、問題解決は日常でも役立つことを実感してくれました。
高校2年生は学校行事の中心にもなるため、文化祭のやり方もこうすればよかったなど、今後の日常への活用にもつなげて考えていました。改めて、この授業をやってみてよかったと感じました。
日常生活に結びついた生徒の興味を引く題材を通して学びを深める授業を
今回の実践は、授業の課題として義務的にデータ分析をするのとは異なり、身近なテーマを通じて「情報デザイン」の手法を意識しながら、生徒の高い意欲の中で行うことができました。
また、問題解決は自分の日常の中にあり、今後も役立てようという意欲が見られたことも成果でした。
情報科教員の仕事で大切なことは何でしょうか。
これはあくまでも私の考えですが、教科書に載っていることをそのまま教えることも大切です。ですが、それらを日常生活につなげたり、興味をひく方法がないか考えたりして、生徒の反応を見ながら修正していくことがとても大切だと感じます。
このことは、情報科の教員を目指す大学生に話す機会があった時にもお話ししました。
共通テストの出題方針にも「日常生活と情報と結びつける」という趣旨の記載があります。
共通テストだけのためではなく、生徒の将来に役立つ活動を行いつつ、うまくいけば共通テストにも役立つ、という授業をしていくことが大切だと思います。個別の細かい共通テスト対策は、高3の講習でやればよいと考えています。
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質疑応答
Q1.公立高校教員
問題解決の授業をするときに、私が悩んでいるところがありまして、先生がこんなことを注意している、というところがあれば教えていただきたいのですが。
今回で言えば、紙飛行機を飛ばした後の、PDCAで言えば「C」「A」にあたるところ、紙飛行機をもっと飛ばすにはどうしたらよいか、という改善に当たるものが、生徒たちからなかなか出て来ないのですね。
こうすればもっとよく飛ぶ、ということを科学的に工夫させたくてもうまくいかないです。先生が「改善」の指導の部分で、こんなところに注意をしている、というものがあれば教えてください。
A1.岡本先生
確かに、授業の中では実行して評価して、そこで終わっていることが多いので、そこは私も悩みの種ではありますが、生徒たちは大きな改善だけでなく、小さな改善をしている様子は見られます。
10回飛ばす中で、「うまく飛ばなかったから、次はどうしよう」と相談したり、各自が羽根の角度を調整したり、投げ方を変えて試したり、といったことをして、次にもっと良くするために何かしらの修正をしているのですね。そういった小さな改善もPDCAの一つだよ、と説明しています。
ただ、あまり長くやると生徒が飽きてしまうので、この程度の回数がよいかなと思っています。
Q2.公立高校教員
この手順書を書く「情報デザイン」のところで、途中で先生から「このままだと伝わらないよ」ということを伝える場面や、指導はあるのでしょうか。
A2.岡本先生
ここでは行っていません。生徒が作ってきたもので、良いものは褒めます。作っている途中も、見て回りながら、わざと「○○さんの作っているのはすごいね、見てごらん」っていうことは言うようにしています。
ダメなものについては言わず、上手に作っている人のものを褒めるのですね。そうすると、褒められた子は嬉しいですし、他の生徒も見て学ぶことができます。
「情報デザイン」のところで詳しく扱うので、ここではさらっと、実際にうまく伝わるように作るための方法として、こういうものがあるんだよ、ということを見せる程度にしています。
第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)分科会発表