事例348
観点別評価をどのように行っているか
鹿児島県立鶴丸高校 春日井優先生
評価はあくまで目の前の子どもたちの実態に即して行われるべき
今回は「情報I」の観点別評価をどのように行っているか、ということをお話しします。
今回のお話は、新しい評価の方法や、どの学校でもすぐ使えるというものではありません。また、評価はそれぞれの学校の実情に合わせて変えていく必要がありますので、その辺りをご了承いただければと思います。
はじめに、観点別評価の概要を最初にお話しします。
文科省が出している「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について」(平成31年)では、評価の付け方について、「学校や生徒や地域の実態に即して定めた当該教材評価の科目、目標や内容に照らしてA、B、Cの評価を付けましょう」となっています。先生方が実際に授業で担当されている生徒さんの様子が分からないまま「これができたらA、これならB」と言うことはできません。
これは5段階評価でも同様です。ですので、具体的な評価の付け方については、先生方の目の前の生徒に合わせていただくべきと思いますので、ここについては詳しくご説明はしません。
今回は、
・観点別評価を行うために考えておく必要があること
・観点の評価を行うためにしている具体的なこと
・観点別評価を実施して課題と考えていること
についてお話ししていきたいと思います。
観点別評価の再確認
まず、観点別評価を行うことの前提について確認しておきたいと思います。
「情報Ⅰ」の評価の3観点というのは、先生方もご存知のように、「知識・技能」はコンピュータやデータの活用などの理解、各技能の習得、人間社会と人の関わりといったことの理解。「思考・判断・表現」は、情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養うこと。「学びに向かう力」は、情報社会に主体的に参画する態度を養うこと、と示されています。
「主体的に学習に取り組む態度の評価」の詳細はスライドをご覧いただければと思います。
要は、「子どもたちが学習に対する自己調整を行いながら」というところと、「意思的な側面を捉えて評価しましょう」ということです。
自己調整という意味では、まず生徒が自分の学習状況をきちんと把握できるようにする必要があります。そして、学習前の診断的評価や挙手の回数、ノートの取り方と言った形式的な活動ではなく、自分で目標を定めて粘り強く取り組んでいくことができているかを評価しよう、ということが示されています。
そして、「情報Ⅰ」の授業を行うにあたっては、情報に関する科学的な見方・考え方を働かせて、情報技術を活用して、問題の発見・解決を行う学習活動が目標となっています。
ですから、教科書に載ってる知識をそのまま教えるだけの授業では、こういった活動にはなっていかず、評価にはつながらないことになります。
具体的な評価方法にはどのようなものがあるかを整理します。
こちらは、2015年の文部科学省教育課程企画特別部会の、評価方法に関する資料で示されたもので、様々な評価法が整理されています。
今まで長く行われてきた「客観テスト式」、いわゆる多肢選択や正誤問題、順序問題といったテストも、もちろん含まれています。それ以外にも、自由記述で推論させたり、短文を書かせたり、図を描かせたり、発問に対する応答や活動の観察も評価の対象になることが示されています。
その他にも、実技で評価したり、パフォーマンス課題として学習したことを基に成果物を作らせたりするもの、そしてこういった成果物を蓄積し、まとめたもので行うポートフォリオ評価もあります。これらの手法を組み合わせながら、生徒の様々な面を見ていきましょう、ということが示されています。
※クリックすると拡大します。
鶴丸高校の「情報I」の授業の目標と評価
ここからは、私が実際に行っている評価についてお話しします。
本校は40人×8クラスで、2学年で「情報Ⅰ」を行っています。320人を私1人で見ています。
本校は、今年度から定期考査を廃止しました。その代わりに、各教科でそれぞれ時期を設定して、「単元テスト」を実施しています。これは、単元の区切り目ごとにテストを行って、その単元の内容の定着を図ることを目標としています。
本校では、以前から「実力考査」という、学校独自の、かなり難易度の高い問題を使った試験を行っています。単元テストが始まる前は、定期考査の前に実力考査もあるということで、まさに1年中試験漬けという状況でした。
定期考査を廃止したことで、学校で一斉に実施する試験は実力考査だけとなり、その他に各教科で時期を設定した単元テストを行うので、生徒は継続的に自分で勉強していくことになります。
この単元テストへの切り替えにあたっては、校内で研修会を行って、「客観テスト以外にもいろいろな評価の手法があるので、それらを組み合わせて評価しましょう」ということを校内で申し合わせて、各教科で評価の方法を工夫しています。
本校は、ご存じの方も多いと思いますが、進学実績が何かと注目される学校です。在職しているからにはその期待に応えなければ、とは思っています。
そのため、先ほど出てきた「情報I」の授業の目標3つの観点に加えて、「情報科目の入試問題に対応できる学力の育成」も目標に置いています。
ただ、生徒たちが18歳の入試の関門を突破した後には、長い人生が待っています。入試に対応できるだけで終わりにしないで、いろいろなことを自分たちでやっていく基礎を作っていくのは、高校の教育として必要なことであり、そういったところを含めた学力の育成を目標とした授業や評価を行っていきたいと思います。
■情報Iの授業実践1 シラバスで授業の計画と評価方法を明示。知識習得は動画配信で自学させる
その中で、情報科の授業で行っていることをご紹介します。
まず、年間の計画をシラバスの形で生徒に示しています。特に今年度は、全ての単元でどのような授業計画で進めるか、評価は何で付けるか、ということを示しています。
また、知識習得の部分は一斉授業では行わず、動画を配信して、生徒が自分で難しいとと思ったら見直し、理解できたらどんどん次へ進む、という自分の理解度に応じて進めるようにしています。
ただ、中には私が傍に行ったときだけ見ているという生徒もおり、そういった部分を含めて評価を考えなければいけないと思います。
このシラバスで示した評価は、生徒には抽象的でよく分からないかもしれませんが、実際の授業でもこういうことに気を付けながらやってね、ということは示しています。
※クリックすると拡大します。
■情報Iの授業実践2 実習で知識・技能を活用し、思考・判断を問う問題へ
知識・技能を身に付ける実習の例です。データベースで、sAccessを使って、「結合」や「射影」といった基本的な知識や技能は身に付けさせています。
sAccessには、学習用のプリセットデータが入っているので、これを操作して、例えばコンビニデータで年齢層別に一番売れている商品を探したり、曜日別に売り上げが多い日を探したり、といった練習を行います。
※クリックすると拡大します。
そして、データベースの知識の確認問題ということで、「選択」「射影」「結合」の操作を組み合わせて、知識・技能を組み合わせて考える課題を出しています。
※クリックすると拡大します。
※クリックすると拡大します。
さらに、商品の入れ替えをするために売れていない商品を4つ探すのですが、金額で探す人、個数で探す人と、いろいろな考え方の人がいます。
実は、この問題では4つ目にあたる商品が同率で並びます。4つ目を何を基準にして考えるか、というときに、正しく操作するだけでなく、何らかの視点を決めて、その理由を書かせる、ということもしています。こちらで準備した答えではなくても、きちんと考えていたら評価する。という感じですね。
このように、データベースの初見の問題を、選択肢ナシで限られた時間で解くという、なかなか酷な問題を出しています。
■情報Iの授業実践3 ミニッツペーパーで「指導と評価の一体化」を図る
続いて、主体的に学習に取り組む態度につきまして。
先ほど申し上げたように、「指導と評価の一体化」のためには、生徒が自らの学習状況を把握し、学習の進め方らついて試行錯誤するなど、自己調整を行う機会が必要です。
そのために行っているのがミニッツペーパーです。
生徒が自分で目標を設定して学ぶために、授業ごとに、その時間の目標に決めたこと、取り組みの内容、自己評価、実際やって分かったことや疑問に思ったことなどを書かせています。
結構書くこと多いのですが、今年度やってみて見直そうと思っています。
生徒が書いてきたものに対しては、時々コメントを入れたり、スマイルマークをつけてあげたりしています。
※クリックすると拡大します。
こちらに評価方法の課題を挙げました。
まず、コンピュータの操作が伴う課題は負荷が大きく、どうしても操作に集中してしまうところがあります。
また、問題解決の流れになるような試験問題の作問には労力がかかり、けっこうつらいものがあります。
さらに、生徒に授業の目標を書かせると、「○○を完成させる」のように、「何をするか」ということを書いてしまいがちで、自己調整につながらないところがあります。
「自分がどういうことを身に付けたいか」ということを書かせるためには、何度も言い続けて、指導を繰り返す必要があります。生徒が書いたものを見ることはもちろん必要ですが、生徒一人ひとりの活動見て、様子をつかんでいくことが大事であると思います。
実力考査では、問題解決の流れで思考・判断を問う問題を出題
昨年度の定期考査、今年は実力考査で出題した問題を紹介します。こちらはプログラミングの問題です。題材を何にしようか考えていたところ、たまたま家に電気料金の請求の紙が入っていました。
「この電力量料金の『段階別』というのはプログラミングでやれそうだ」ということで、AさんとBさんの会話の台本を私が書いて、会話の内容に当てはまるものを入れていく形の問題にしました。
さらに、プログラムをもっと工夫したり、関数を入れたり、といったプログラミングのエッセンスを盛り込みつつ、同時に会話の内容が矛盾なくつながるように作るのはたいへんでした。ただ、本校の生徒は、将来こういったいう試験に対応できなければいけないので、慣れておいてもらうために、このような問題を作って出題しました。
※クリックすると拡大します。
こちらは「データの活用」の問題です。試験問題を作る際に、25点分の問題にするために、ある程度項目を多めに入れよう、ということで、札幌と鹿児島の気象データと家計調査(2人以上の世帯の支出額)項目の項目を比較する、という問題を作ってみました。さらに、鹿児島市の月別の電気代の支出額と、その移動平均のグラフを見て、読み取れることを選ぶ、という問題も出してみました。
※クリックすると拡大します。
さらに、季節に影響を受けそうな商品の支出額と気温の相関があまり大きくないので、商品の購入時期と購入時期のタイムラグを考えるために、気温とガスストーブやヒーターの売れる季節がどれくらいずれてるのか、その理由は何か、ということを初見で考えて解いてもらいました。
ガスストーブやヒーターを選んだ理由は、回帰直線を引いても、きれいな結果にならないためです。生徒たちには、自然現象にはこういったことが多い、ということを一度は見ておいてもらいたい、ということがありました。彼らは試験問題を使って、自分たちでもう一度勉強することができるので、それも狙ってこのような問題を出してみました。
※クリックすると拡大します。
観点別評価を行うために~教員自身がアンテナを高くして、問題解決の場面を授業に取り入れる工夫を
まとめです。講義一辺倒の授業では、観点別評価はなかなか難しいので、どのように評価するか、ということまで含めた授業の検討が必要です。
生徒が自分で考えたり試したりする場面を作ること、授業で行う学習活動や試験で出題する問題も、何か一連の問題解決の流れを考えて検討する必要があります。
そのためには、教員自身がアンテナを高くして授業に取り入れるような授業の工夫や改善が必要であると思います。
それぞれの観点における生徒の様子を知るためには、一斉授業からの転換が必要になります。逆に、観点別の評価ができていないと思ったら、授業の改善を考えていく必要があると思います。
確かに手間はかかりますが、継続的に評価を行っていくためには、どのような形で評価するのかを検討しておく必要があるでしょう。
最初はうまくいかないところはありますが、教員自身も授業や評価を行いながら試行錯誤し、改善していく必要があると思います。
[質疑応答]
Q1-1.大学教員:
今回、幾つか問題例を見せていただきましたが、こちらは主に実力考査で使っている問題ですか。単元テストでも使われていますか。
A1-1.春日井先生
昨年と今年では状況が違うので、整理してお話ししますと、昨年は実力考査ナシで定期考査だけだったので、定期考査とは思えないような酷な問題を出していました。
今年度は、単元テストを行っているので、いわゆる定期考査的な基本知識の確認問題を単元テストで行っています。このあと、まだ問題はできていませんが、8月下旬に、今回紹介したような問題で実力考査を行おうということで、今は頭の中で問題案が渦巻いています(笑)。
Q1-2.大学教員
単元テストは、どれくらいの単元を括って、どれくらいの時間で行っていらっしゃるのですか。
A1-2.春日井先生
例えば、情報デザインであれば、8~10時間で知識を習得させて、成果物を作らせて、最後に知識を確認するテストを行う、という感じです。
本校の生徒は、本当に試験慣れしているので、情報デザインであれば、50問を20分から25分でやっています。覚えてきたことをそのまま答える問題なので、たくさん覚えてきたね、という感じですが、ただ、自分で考えてきたのかどうかはまた別の話で、その辺りの評価をどのように工夫すべきか、考えているところです。
第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)分科会発表