事例351

「情報Ⅰ」における横断的な視点を用いたデータの読み取りおよび活用を考えた教材の開発

東大寺学園中学校・高等学校 𠮷田拓也先生

「データの活用」でどんなデータを扱ったらよいか

「情報I」の授業を2年間行いましたが、生徒たちの学習の様子や理解度を見ると、授業の題材として何を使うか、ということについては今なお試行錯誤が必要であると感じるところがあります。

 

今回取り上げたのは、「データの活用」です。教科書には、データの傾向を見出す学習活動のために、天気情報やダミーデータを使ったテストの結果が載っていたり、「オープンデータを使いましょう」ということが示されていたりします。

 

それはそれで素晴らしい教材ではありますが、実はこれらのデータは数学の授業でも使われていたりして、生徒にとっては既視感のあるものです。またオープンデータは、データを取ってきたり、使える形に整えたりするためのコンピュータ操作の説明時間が、結構長くなってしまって、そのために、本題のデータ分析に入る前に生徒の意欲が減じてしまっているのではないかと考えます。さらに、分析に想定以上に時間がかかって、授業時間数が必要になってしまうこともあります。

 

そこで今回、「情報Ⅰ」の応用的な視点を入れたデータの読み取りと活用のための教材を考えてみました。そこでは、この学習指導要領解説書にあるような狙いは外さないようにしました。

 

 

情報関係の白書や報告書のデータを使うことで、現実に起きている問題を実感する

こちらが、データの分析で使った教材の概要です。

 

それぞれに掲載されていたデータからExcelの帳票を作って生徒に渡して、分析を行ってもらいました。

 

個人情報については、「情報通信白書(※1)」の企業の情報通信ネットワークにおける危害状況および被害内容に関するデータを利用しました。また、「サイバーセキュリティに関する情報ポータルサイト(※2)」には、個人情報の漏えいや原因などが約10年分、かなり細かく掲載されています。

 

情報セキュリティの分野では、先ほどの「情報通信白書」からインターネットの利用状況の推移や年齢階層別SNSの利用状況、「警察白書(※3)」からSNSに起因する事犯の被害児童の推移に関するデータ、「情報セキュリティ白書(※4)」から脅威の動向、インシデントの発生状況、被害実態等を利用しました。

 

知的財産については、海外に目を向けて、「特許行政年次報告書2023年版(※5)」で、特許、商標、意匠に関する登録件数や出願国、出願人国について、今、日本はどのような位置づけにあるかをデータにしたものを使いました。

 

 

※1 総務省:令和5年度版情報通信白書,日経印刷株式会社,2023年.

※2 株式会社セキュアオンライン:サイバーセキュリティ.com

※3 国家公安委員会・警察庁:令和5年度版警察白書,日経印刷株式会社,2023年.

※4 独立行政法人情報処理推進機構:情報セキュリティ白書2023,株式会社サンワ,2023年.

※5 特許庁:特許行政年次報告書2023年版

 

 

下図は、情報セキュリティの分野の読み取りに使った46種類36個のExcelデータ(𠮷田先生が成形されたもの)の例です。

 

図 情報セキュリティの読み取りに使ったデータ一覧

※クリックすると拡大します

 

分析作業に入る前に、基本統計量や散布図、相関などについて押さえた上で、それぞれのテーマについて2時間ずつ、データの読み取りと分析の授業を行いました。

 

生徒には、それぞれのテーマについてどのようなことがわかったのか、こういうデータがあればもっと分かったのかもしれないということを考えてもらいました。分析においては、「必ず相関係数を取りなさい」とは言わず、生徒が好きな方法でやらせていますが、見方と出た結果は提示させるようにします。

 

それぞれのテーマで、ここ では、「2つのデータを使って複合的に分かったことを考えてみましょう」という縛りを与えたり、ここについては、取り扱いが難しいところがあったので、自由に書いてみよう、ということにしたりしました (※6)。

 

※6  事例303「データの読み取りおよび活用を考える授業〜個人情報 編〜」

 

 

 

こちらは、生徒が実際に提出したコメントの一例です 。

 

「難しいけれど、学んでおかなければならない」という意識づけにもなった

授業アンケートで、学習の難易度と理解度について、生徒に感想を聞きました。

 

どの課題も難しかったようで、8割を超える生徒が「少し難しい」「とても難しい」と回答する一方で、一定以上の割合の生徒が「やってみると分かった」と答えています。

 

つまり、導入のところで苦しさはあるけれど、生徒たちも必要性のようなものを感じたのかなと思います。

 

その裏側にあるのは、私の仮説ですが、ここで扱った内容は、彼らにとっては一生関わってくるものなので、これは知っておかなければならないな、と感じたのではないかという、一定の強制力というか、課題に向かう態度が働いたのではないかと思っています。

 

 

生徒たちにとって、どれがなじみやすいものだったのか、ということについても聞いてみました。

 

「全部難しかった」という生徒がほとんどでしたが、「理解できた」という点については、約半数の生徒が3つともよく理解できた、と言っています。

 

この表では「理解できた」と「少し理解できた」をまとめてしまっていますが、ほぼどのテーマも満遍なく理解してくれたかなと思います。

 

ただ一方で、「全く分からなかった」という生徒もいて、この辺りの数字は意識して、もう少しいろいろ工夫しなければいけないなというところが課題です。

 

 

最後に、「情報1」のカリキュラム設計として、教科書を学習指導要領の第1章→2章→3章→4章の順でやりがちですが、私はまずコンピュータとプログラミング(第3章)をして、この情報セキュリティや知財関係のところ(第1章)とデータの活用(第4章)を一緒にやって、分析の結果をわかり易く伝えるために情報デザイン(第2章)を3学期に持ってくると、スムーズに流れるのではないかと考えています。

 

第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)ポスター発表