事例354

高等学校「情報」実践事例と共通テスト模試

愛知県立旭丘高校 井手広康先生

いよいよ来年1月から共通テストが始まることで、高校の現場では共通テストで頭がいっぱいになっている先生も多いところです。本日は、高等学校の立場から情報提供をしたいと思います。

 

私は情報科の教員16年目になりました。これまで3校経験して、今年4月に旭丘高校に赴任しました。旭丘高校は、愛知県内でもトップ校といわれる学校で、中学時代はオール5の生徒ばかりというところです。

 

令和元年度にSSHに指定され、現在2期目です。1学年10クラスありますが、10組は美術科でカリキュラムが別なので、普通科の9クラスでSSHの学校設定科目の「課題研究(情報)」という形で情報の授業を行っています。こちらは、1年生と2年生でそれぞれ1単位の分割履修です。

 

旭丘高校では、学校を掲げて「全人的完成教育」を目指しています。要は「部活動や行事、自分の趣味や生徒会活動など、勉強以外にも一生懸命になりなさい」ということなのですが、これが本当にできてるのがすごいところで、生徒も全てにおいて主体的に活動しています。まさに今の学習指導要領が目標とするところを具現化したような学校で、私自身が日々生徒から勉強させてもらっています。

 

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どの学校でも、授業の内容や方針、伸ばしたい力は変わらない

 

これまで3校を経験して、それぞれ学力や環境が全く違う学校でしたが、実際に3校やってみて思ったのは、生徒の学力層が違っても、授業の内容や方針は変わらないということです。「旭丘って、どんなすごい授業をやってるんですか?」と聞かれることもありますが、授業の流れはそれまでの2校と同じで、むしろ私がしゃべる時間がどんどん少なくなっています。授業では、単に生徒に自由にやらせるのでなく、授業の大枠は用意して方向性を決めておくことは必要ですが、どの学校でも伸ばしたい力自体は変わらないことを実感しています。

 

このスライドのように「どうして勉強しないといけないのか」という質問は、これまでの学校で生徒からよく聞かれました。

 

それに対する答えも、私のそのときの思いで変わってきました。

 

もちろん唯一の正解があるわけではありませんが、昨今の学校教育の内容を見ていると、やはり幅広い視野や視点で世の中を俯瞰して、そこに新たな価値を見出すためには、いろいろな勉強をしておいたほうが具合が良い。旭丘高校ではまだ聞かれたことはありませんが、今なら私はこのように答えると思います。

 

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例えば、完全自動運転について言えば、科学技術が寄与する部分として、スライド右上の枠で囲ったような技術は当然必要ですが、実際に運用することになれば、道路交通法など法学的な視点や、人の意識や行動特性を踏まえた運転支援のための心理学などの知見も必要になります。

 

STEAM教育はまさにこれを体現したもので、文理問わずさまざまな分野からアプローチをかけていくことが大事であると言えます。

 

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主体的・対話的で深い学びへの転換が求められるが…

 

学校教育をとっても然りです。このスライドの左側が従来の授業スタイルで、先生が用意した箱の中で、皆が一緒に、同じ内容を、同じペースで学習するというものでした。ただ、生徒はそれぞれ能力が違いますし、背景も多様化しているので、今日はスライド右側のように、個別最適な学びの中で協働的に学んでいきましょう、生徒が主語になるような授業を設計しましょう、という考え方が重要視されています。

 

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このスライドは、資質・能力を重視する教育課程へどのように転換するかということをわかり易く説明する資料です。真ん中に書かれている「主体」や「学校種・学年」などの形態が、左側からだんだん右側に移行していかなければいけないというものです。

 

例えば、「主体」では「教師による一斉授業」から「子ども主体の学び」へ、「教師」では「指導書のとおり計画を立てて教えるTeaching」から、「先生が伴走者になるCoaching」へと移行していくべきなのですね。

 

ただ、今の日本の学校教育が現在どの辺りにいるかを考えたときに、なかなか右側には移行できていないと考えます。愛知県の先生方とこの話題を話し合ったときも、どの先生も「左から3分の1ぐらいの位置かな」と言っていました。もちろん、学校や地域によっては全く異なってくるとは思いますが、全国規模で見ると、まだまだ従来のやり方のほうが多いのではないかと感じます。

 

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こちらは学習指導要領で言われていることです。「主体的、対話的で深い学び」を情報の授業だけでなく、全ての授業で実現しなくてはいけません。

 

教員は常にこれを考えながら授業設計・授業改善を行わなければいけないのですが、実際はなかなか難しいところがあります。

 

 

「この主体的・対話的で深い学び」の実現には、学習者の視点と授業者の視点があります。「主体的な学び」を実現するために重要なことは、学習者はまず自分の興味・関心を持つこと。さらには粘り強く取り組んだり、フィードバックして改善したりしていくことが必要です。まさに今の課題解決学習と問題解決学習が、これにあたるかと思います。

 

一方、「対話的で深い学び」では、授業者は学習者の視点に立って、生徒が自走できるようなサポートをすることが大事であると感じています。

 

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さて、こちらは愛知県高等学校情報教育研究会で実施したアンケート結果です。「情報I」の授業を行うに当たって、4つの領域の中で一番不安に思うのはどこかを訊いていて、2022年から3年間に渡って毎年100人弱の教員が回答しています。

 

これを見ると、どの先生にも苦手な領域はありますが、やはり「コンピュータとプログラミング」と「情報通信ネットワークとデータの活用」が多いです。

 

3年の間にプログラミングを不安に思う先生が減ってきているのは面白いですね。情報Ⅰが始まるまで、授業で「プログラミング」をやったことがない先生も多くいたようですが、1年授業をやってみてこれなら大丈夫と思った先生も多かったのではないかと思います。

 

一方で、「プログラミング」の回答が減った代わりに、「データの活用」を不安に思う生成が増えています。今日は、この「プログラミング」と「データの活用」のお話をしたいと思います。 

 

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プログラミングを主体的に学ぶ~言語は生徒自身が選ぶ

 

「主体的、対話的で深い学び」という視点を私も常に授業で意識しています。プログラミング教育の中でどうすればこの3つの観点を育成できる授業ができるかを考えたとき、主体的にプログラミングを学んでもらうために、授業で使うプログラミング言語を自分の興味・関心、進路希望、将来の夢を踏まえて、生徒自身に選んでもらうことにしました(※1)。

 

※1 この実践については、2024年8月の第17回全国高等学校情報教育研究会全国大会(愛知大会)で詳しく紹介されています。

プログラミング教育における言語統一型と言語選択型での学習効果の比較

 

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スライドに挙げた4つのプログラミング言語(Python、JavaScript、VBA、Scratch)は、情報Ⅰの教科書に掲載されているものです。

 

生徒にはこの4つのプログラミング言語から1つを選んでもらうために、スライドのような流れで1時間の授業を行いました。授業の最後にアンケートでプログラミング言語を回答してもらいました。なお、夏休み明けのプログラミングの授業が始まるまでに、プログラミング言語は変更してもよいことは伝えました。この流れは、去年の小牧高校も同様になります。

 

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こちらが、小牧高校(昨年度)と旭丘高校(今年度)で生徒が選んだプログラミング言語の内訳です。どちらもPythonが多いですが、旭丘高校ではScratchが数人しかいませんでした。逆に、VBAが少し増えています。

 

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「プログラミング言語をどのように選んだのか」という過程は大きくは変わりませんでしたが、旭丘高校は「何も調べていない」という生徒が多くなっているという印象です。

 

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プログラミング言語別に見ると、VBAとScratchは「何も調べたり相談していない」と回答した人が多かったです。逆に、JavaScriptは「インターネットで調べた」と回答した人が多いのが特徴的でした。

 

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プログラミング言語を選んだ理由を聞いてみたところ、「将来役に立ちそうだから」と回答した人が半数を超えていました。これは旭丘高校の特徴だと思います。小牧高校はどの理由も同じくらいですが、「友達と一緒の言語をやりたいから」という理由が多かったです。旭丘高校はそれが全然なく、「自分でやりたいものを選ぶ」という傾向が顕著でした。

 

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この理由も言語別に見てみると、VBAで「将来役に立つから」と答えた人が顕著に多くなりました。これは、もしかすると私のプログラミング言語の説明でバイアスがかかったのかもしれません…。

 

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こちらは小牧高校で1組から7組までのどのクラスでどの言語を何人選んだかを表しています。(A)が2021年度にクラスごとに言語を統一して行ったときのもの、(B)が2023年度に自分で言語を選択したときのものですが、クラスによっても選択した人の数はバラバラでした(いずれも小牧高校で実施したデータ)。

 

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プログラミングを対話的に学ぶ~同じ言語の生徒同士を近い席に配置する

 

次に、「対話的な学び」の視点についてお話します。どうしたらプログラミングを対話的に学べるかとかなり悩んだ結果、同じプログラミング言語の生徒同士を近い席にしました。

 

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こちらは小牧高校での座席の配置です。プログラミングの授業の流れは、まず私が始めの10分だけ説明して、「あとは自分たちで相談してやってね」ということになります。その後、一緒に取り組んだり相談したりするために席を自由に変わってよいことにすると、席を移動する人が多かったです。

 

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旭丘高校の座席がこちらです。なお、旭丘高校ではプログラミングの授業は2年生で行っています。クラスによっては同じプログラミング言語の人がほとんどいなくて気の毒なところもありましたが、彼らは「自分が好きなものをやりたい」という想いをもっています。授業の雰囲気もクラスによって全く違います。

 

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授業の流れは小牧高校と旭丘高校で全く同じです。最初に私が10分説明して、あとは生徒は授業スライドを見ながら、例題→発展の順に各自で進めていきます。

 

昨年(小牧高校)に初めてこのスタイルで実施したので、毎日夜中まで翌日の授業スライドを作りながら自転車操業で授業を回していました。今年(旭丘高校)は全てのスライドが用意できているので、初回から全ての授業スライドを生徒に提示し、早く終わった人は各自でどんどん進めていくスタイルをとりました。

 

今年の旭丘高校で、3回目の授業中に「もう8回分のスライドの内容が全部終わったんですけど、何をしたらいいですか」という生徒が出てきて驚きました。そのように早く終わる生徒が出てきたので、急遽、授業スライドに発展課題をいくつか追加しました。

 

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プログラミングの授業は10回を予定しており、このスライドの学習内容で実施しています。8回目の「関数」までは全国の高校生が学ぶ内容です。プログラミング言語を自分で選択する形の授業にしてから、9回目・10回目で「総合演習として自由にプログラムを作って発表会を行う」ことを取り入れています。

 

旭丘高校は、現在5回目ぐらいが終わったところですが、総合演習で生徒がどのようなプログラムを作成するのかがとても楽しみです。

 

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次に、協働的に学ぶことができたのかということについてお話します。こちらは昨年の小牧高校のアンケート結果です。

 

3~5割の生徒が、8回の授業を通して「誰かに教えることができた」と回答しています。

 

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一方で、8回の授業を通して「誰かに教えてもらった」と回答した人がこちらです。

 

この点で授業の様子を比較すると、旭丘高校の生徒は全く席を立ちません。小牧高校の生徒は、多くの生徒が席を立って「わからん、教えて」とワイワイやっていました。

 

小牧高校で「先生、教えてください」と訊いてくる生徒は、まず隣の人に聞いて、隣の人もわからないので先生に訊くことが多かったのですが、旭丘高校の生徒は隣の人には聞かないで最初に先生に聞きます。わからないことを聞く習慣がないのか、隣の人がどんどん進んでいるので聞きづらいのか、理由はわかりませんが、授業の雰囲気は学校によって全然違う印象を受けています。

 

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プログラミングで深い学び~自分で作ったプログラムを他の人に説明する

 

最後に、プログラミングにおいて「深い学び」を実現するという点についてお話します。プログラミングを「深い学び」にするために、プログラムの自由制作と発表会を授業に取り入れました。

 

発表会では、生徒はランダムに席替えをして、自分が作ったプログラムをペアの生徒に説明します。

ペアと同じプログラミング言語になる可能性もありますが、別のプログラミング言語の人にプログラムを説明するケースも多いです。そのようなプログラムの自由制作と発表会を通じて、プログラムの楽しさを生徒間で共有できたらと思い取り入れてみました。

 

スライドの写真は去年の発表会の様子ですが、生徒たちは発表会を非常に楽しんでいました。自分の作ったプログラムを相手に説明して「すごい」と言われることで、大きな達成感を感じていたと思います。大変よい取り組みでしたので、今年の旭丘高校でも同じスタイルで実施する予定です。

 

 

このアンケート結果を見ると、プログラムの制作に結構時間をかけていることがわかります。6割違い生徒が、授業以外でもプログラム制作に時間をかけていました。

 

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また、事後アンケートの「プログラミングが楽しかったか」という質問に対してもかなり高い数字が出ています。「全く楽しくなかった」と回答した人は0人、「あまり楽しくなかった」と回答した人も3人だけで、99%の生徒がプログラミングを肯定的に捉えられていたことは非常によかったと思います。

 

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一方で、事後アンケートの「プログラミングは難しかったか」という質問に対しては、約8割の生徒が「難しかった」と回答しています。恐らく、「難しい」という感じ方にもいろいろな視点があり、「こんなプログラムが作りたい」「こんな機能を追加したい」と高いレベルの内容を考え、さまざまな壁にぶつかる中で感じる難しさだと思うので、この結果はむしろよいことではないかと考えています。

 

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「情報I」の「データの活用」は、大学の数理・データサイエンス・AI教育にも近い

 

次に数理・データサイエンス・AI教育についてお話します。

 

国のAI戦略の中では、デジタル社会の読み・書き・そろばんとしての数理・データサイエンス・AI教育の重要性が謳われています。

 

大学では「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」が設けられるなど、文理を問わず全ての大学生が数理・データサイエンス・AI教育を受けることの重要性が示されています。そのため、数理・データサイエンス・AI教育の基礎を小・中・高、特に高校で学んでくことが重要になってきます。

 

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また、数理・データサイエンス・AI教育教科拠点コンソーシアムが作成したモデルカリキュラムには「リテラシーレベル」と「応用基礎レベル」があります。こちらは情報Iとモデルカリキュラムとの関係をまとめたものになります(※2)。

 

スライドの青枠が「カリキュラムモデル」、緑枠が「情報Ⅰ」、赤枠が「情報I」の「データの活用」の範囲です。これを見ると、情報Ⅰとモデルカリキュラムとの重複している内容が多いことがわかります。そのため、高校で数理・データサイエンス・AI教育の基礎を学んでおくのは非常に大事であると思います。

※2 数理・データサイエンス・AI教育教科拠点コンソーシアム ニュースレターvol21.2024年6月 

 

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情報Iの「データの活用」について、学習指導要領の解説では、基本統計量やグラフの作成などデータの傾向を読むことを容易にする工夫を行う力、散布図・相関関係・回帰直線などからデータの変化を予測する力を養うことと記載されています。

 

 

また、気象データやe-Statなどのオープンデータを使うという言葉も出てきていますし、生徒同士でデータの分析結果を協議して評価する学習活動も求められています。

 

 

授業で使うオープンデータとしては、スライドに挙げたこの3つ(e-Stat、RESAS、SSDSE)がよく使われていると思います。RESASは、小学校や中学校で使われている実践をよく耳にします。

 

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自分で取ってきたデータを分析して発表する活動の中で、教科の連携に気づく

 

こちらは昨年、小牧高校で行ったデータ分析の授業です。オープンデータを取得して箱ひげ図・基本統計量、散布図・相関係数・交絡因子・回帰直線について学ぶところまでは一斉授業で行いました。その後の授業では、自分で取得したオープンデータを分析して最後に発表するという内容で、全部で6時間をとりました。

 

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分析するデータにはSSDSEを使いました。e-Statはデータが豊富なのですが、データにたどり着くまでの層がかなり深いので、データを取ってくるのが大変です。そこで、e-Statにあるデータを、データサイエンス教育用にわかりやすくまとめているのがSSDSEになります。

 

この授業の中で、都道府県別の食品(226品目)の年間支出金額がまとめられた「家計消費」のデータをSSDSEからダウンロードして、任意の項目を使用して散布図を作り、相関係数を出して分析を行うことを実践しました。

 

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こちらは、実際の生徒の発表スライドの例です。この生徒は「カステラ」と「紅茶」で相関を取っています。この「カステラ」と「紅茶」で相関係数を取ると-0.003となり、相関はありません。しかし、外れ値の「長崎県」を除くと、相関は0.32となり、相関があることになりました。この生徒は、「長崎県がカステラを食べ過ぎだっただけでした」と結論づけています。

 

外れ値の処理に関して、教科書には「外れ値を除いて処理する場合が多い」「どのよう処理するかを判断することが重要」「適切な処理が必要」など、曖昧な表現に留まっています。この生徒は、(考察自体はまだ甘いですが)体験的に「外れ値を除いたらこのように相関が出るから、この場合は除いて分析するといいんだ」ということが理解することができたと思います。

 

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発表会では、生徒たちは大変楽しそうに各々の分析結果を発表していました。こちらは事後アンケートの内容ですが、「数学に関する記述」が入っているものを持ってきました。

 

授業の中では「この内容は数学で学んだよね」というようなことを一切言っていないので、これは生徒が自分で気付いたことです。ただ、あえて数学で散布図の学習が終わったタイミングで授業を実施しています。そこで生徒が「これでグラフの実用性が学べた」「数Ⅰとも関連があった」「数学で学んだことを深く知れて楽しかった」と感じ、「数学で学んだことが情報でつながるんだな」と生徒自身の中で教科横断的な学びが得られたことはとてもよかったと思っています。

 

 

こちらは、今年の旭丘高校の授業の流れですが、時間数を7回から10回に増やしています。昨日、ちょうど7回目の「データの分析A」までが終わりました。なお、この授業の流れは、先ほどの電気通信大学の渡辺博芳先生のお話でも紹介された林宏樹先生(雲雀丘学園中学校・高等学校)にアドバイスをいただいています。今年は3回目の授業が終わったところで、経済産業省の「STEAMライブラリー」にある動画のうち「アイス売り上げと気温との相関関係を調べる」を視聴させています(※3)。

 

※3 質的データを用いたデータサイエンス授業実践~総合的な探究の時間と情報Iの接続

 

その上で、自分で選んだ地域の気象データを取得して、アイスの売り上げとの相関を分析することにしました。

 

「データの分析A」と「データの分析B」でスライド提出が2回あるのは、第1回の内容ではまだ考察が薄いため、一度返却してそこからさらに地域性や歴史的な背景なども入れて考察を深めてもらおうと考えています。

 

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こちらのオープンデータは、家計調査はe-Statから、気象データは気象庁のサイトから取ってきています。昨日生徒が提出したスライドを見てみると、アイスの売り上げを目的変数、さまざまな気象データを説明変数にして、多くの視点から考察ができていました。

 

このように、後の3回の授業でもう少し踏み込んだところまで分析することをやってみようと思っています。

 

来年度から大学に入学する学生は、高校の情報Iで散布図や交絡因子、回帰直線までは学んできています。ただ、実際に自分でデータを引っ張ってきて、自分でデータを加工して分析を行い、分析結果を踏まえて考察するという経験の有無は、学校によっては分かれるところかと思います。このような取り組みを全国の高校生に経験して欲しいと思っています。

 

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高等学校の情報で学習する内容は全ての教科の基礎になるものです。本日お話ししたような内容を学習した高校生が、来年度大学に入学します。大学の先生方には、高校で学んだ情報の力をさらに伸ばしていただけるようなカリキュラムの策定や授業の実施を是非お願いしたいと思います。

 

大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討シンポジウム2024 講演