事例356
高等学校での実践事例~生徒が主語の情報Ⅰの探究的な学び
千代田区立九段中等教育学校 須藤祥代先生
本校は、公立の普通科中高一貫校です。文部科学省のリーディングDXスクール事業に指定されており、生成AIのパイロット校でもあります。また、DXハイスクールにも採択されています。
「情報Ⅱ」は6年生(高校3年生)に設置していますが、今年度は履修希望人数が少なかったため開講しておりません。また、学校設定科目として「情報探究」の授業を置いています。
先ほど、高岡先生の「情報Ⅱ」のお話の中で、「情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究が重要」という話題もありましたので、今回は本校の「情報Ⅰ」の探究的な学びについてご紹介します。
単元の基礎的な内容を協働学習で探究的に学ぶ
今回は、単元の基礎的な学習についての探究的な学び(ECL)と、課題解決学習(PBL)の2種類の学びについて事例をご紹介します。
基礎的な内容の学習については、一方的な知識の伝達というやり方が多いと思いますが、そこを、生徒が主語の協働学習で行ってみました。
■デジタル表現
1つ目の事例が「デジタル表現」に関するところです。授業の流れがこちらです。
最初に学習内容の説明をします。最初に全体に対して授業内容の説明と活動の流れ、中学校で学んだことの復習をさらっと説明した後に、グループでの活動に入ります。グループごとにデジタル化の仕組みを調べて、他のグループの人に説明するための資料の準備をします。
そして、作成したものをギャラリーウォークという展示会のような発表形式で、クラス全体で共有しました。最後に個人で相互評価をしてリフレクションを行い、重要な事項については「確認クイズ」という形で押さえました。
授業は2時間続きで行います。発表準備では、数値・文字・音・画像・動画の5つのテーマのデジタル化について、グループでどれを調べるかを決め、そのテーマについてソフトウェアを使って仕組みをわかり易く説明する準備をします。
説明の内容は、教科書やインターネットの記事を調べたり、生成AIと対話して深掘りしたりしながら、チームの仲間で話し合って考えました。また、使うソフトウェアも自分たちで決め、共同編集をしたりしながら準備しました。
2時間目の後半で発表会を行います。発表会は、3~4人のグループの1人だけをテーブルに残して、残りの人は他のグループの発表を聞きに行き、これを何回か繰り返す形で行います。そのため、全員が同じ説明をできるよう、説明の内容を話し合って決めておきます。そして、自分が説明するとき以外は、他のいろいろなグループに行って、5分間の持ち時間で説明を聞いたり、質疑応答したりと、にぎやかに進めました。
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授業では、ルーブリックを活動前に生徒たちに提示しておきます。今回のルーブリックがこちらです。「態度変容なし(C)」から、「わかった・理解できた(受容的態度(B))」、「学んだ内容を活用することができた(生成的態度(A))」、「他のことにも応用することができた、学びを改善することができた(持続的態度(S))」という4段階を設定しています。
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ルーブリックに基づいた、生徒のリフレクションの結果がこちらです。1回目が発表準備、2回目がギャラリーウォークを含んだ部分ですが、「態度変容がない(C)」を選択した生徒はおらず、2回目の方がルーブリックの到達度が高くなっています。
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「デジタル表現」で私のインストラクションをほぼなくして、完全に協働学習にしたのは今回が初めてだったので、生徒に「一斉教授型の座学の授業と、今回のような協働学習で、あなたの学びには違いはありますか」と聞いてみました。
「主体的な学び」に関しては、「新しい理解も増えるし、取りこぼさずに覚えようとした」「自分で解決したり、新たな視点が得られた」といった、主体的に学んだ姿勢が見て取れました。
「対話的な学び」に関しては、「他の人の考え方を参考にして改善できる」「他の人も説明も聞いて理解することができるので、記憶に残った」というものがありました。また、「深い学び」に関しては、「新たに気付くことができて、学びを深めることができた」「自分でもっと知りたいということを調べられ、楽しかったし、深められた」といった記述が見られました。
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学習指導要領には、「主体的で対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」について、「習得・活用・探究という学びの過程の中で、教科等の特質に応じながら、『見方・考え方』を働かせながら、知識を相互に関連付けて、より深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に想像したりすることに向かう深い学びが実現できているかという視点」について書かれています。そこで、先ほどの生徒のリフレクションで、この「習得・活用・探究」というフェーズがあったのかについて見取ってみました。
まず、「習得」については、「聞いているだけのときより内容を飲み込めた」「自然に習得できる」といった記述がありました。「活用」については、「自分で情報を収集した後に相手に説明できるようにすることで、より理解が深まった」といった記述がありました。「探究」については「自分にない新たな視点を見いだすことができたので、視野が広がった」「他の人の考え方を参考にして改善していこうと思った」「さらに深めたり疑問を解決したりすることができた」という記述が見られました。
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今回の授業デザインでは、教師側が一斉教授をすることはなく、「習得をしてから活用、さらに探究」という段階的な手順も教員からは設定せずに、生徒自身が「習得・活用・探究」というフェーズを、個々の学びに応じて行ったり来たりしながら進めていくことにしました。
すると、生徒自身は「学びを深めている」という振り返りが多くありました。
また、授業デザインを「教員による進行で習得してから活用」という授業設計ではなく、「単元をミックスして、習得・活用・探究を行き来できるようにしたことで、昨年度に比べて少ない時間数で実施できました。
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■プロンプトエンジニアリング
もう一つの基礎的な学習についての探究的な学びの事例として、プロンプトエンジニアリングの授業をご紹介します。
本校は生成AIパイロット校でもあるので、生成AIの活用を広げる形でこの授業を実施しました。
まず授業の流れを確認した後、グループで「生成AIで効果的なプロンプトを書く際のポイント」について資料を作成します。ここでは、プロンプトを書くために必要な要素を、示されたキーワードを中心に調べて、プレゼン資料をグループで共同編集して、全体に発表するという形で行いました。
プレゼン時間1分間の中で、「効果的なプロンプトを書くためのポイント」、「効果的なプロンプトとそうではない場合の回答の違い」、「効果的なプロンプトを書くためのアドバイス」を説明し、特に最後のものは入れる、ということで実施しました。
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プロンプトエンジニアリングの授業のルーブリックがこちらです。
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到達度で言えば、9割以上の生徒が「生成AIを活用すればよいシーンが選択できた」「効果的に有用な回答を得るプロンプトを作成できた」という評価をしていました。
これを見ると、スキルの獲得においても、「探究的な学び」によって学びが深まることが見て取れると思います。
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基礎的な学習をさらに深めるためにPBLを行う
ここまでは基礎的な内容の学習でしたが、PBL形式の授業も行っています。
本校では、単元の後半で基礎的な力の学習が終わってもう1サイクル回すところで、PBLを実施しています。
■アンケート実習のPBL
1例目が、アンケートの実習PBLです。今年度は、「仮想の行政職員として施策を提案する」という設定で行いました。この提案の部分では、クラスでWebアンケートを採り、可視化して実態を明らかにしたうえで立案して、プレゼンテーションを動画でアップロードして共有し、相互評価を行いました。
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こちらが、この授業のルーブリックです。
数回連続の授業ですので、自分がどう変わったかということも含めて評価をしてもらいました。
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生徒の振り返りでは、いずれの項目も9割以上が「B」以上、5割以上の生徒が「A」の到達度に達していることが見られました。
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■デザイン思考を取り入れたWebデザインのPBL
昨年度は、WebデザインでPBLを実施しました。こちらは、自分たちで仮想の学校を考えて、その学校の生徒募集のための学校紹介のWebサイトを作るということで、デザイン思考を取り入れた形で行いました。
具体的な流れとしては、まず企画書を作り、グループ内で役割を分担して、企画書に沿ってWebサイトを制作します。サイトができたら統合テストをして、最後にギャラリーウォークで相互評価をします。
企画書の段階では、ユーザ分析を行います。今回は仮想の学校なので、ユーザ分析をもとに問題を定義し、どのような学校を作るか考え、教育理念なども考えて、企画を練りあげていきます。ここではメンバー同士で話し合うだけでなく、生成AIとの対話で掘り下げながらアイデア出しをする場面も見受けられました。
Webサイトの制作では、プロジェクトマネージャー、ライター、デザイナー、コーダーの4つの役割を設定しました。それぞれ仕事内容が違うので、他のグループの同じ役割の人に相談したり、生成AIに聞いたりしながら進めていました。
具体的には、デザイナー担当であれば、生成AIでプロンプトを打って画像を作ったり、コーダーであればWebサイトのテンプレートのたたき台を作ったり、バグが出たときの解消のアイデアをもらったり、ということをしていました。
生成AIは、何度も問いかけても粘り強く、嫌がらずに答えてくれるので、生徒たちも粘り強く取り組めたと思います。また、この授業はプロジェクトで進んでいますので、タスクマネジメントも生徒が行い、それぞれの役割で作ったものの統合テストも行いました。
ギャラリーウォークでは、企画書とWebサイトを見比べて、制作者の人と対話しながら、1つずつの作品を見て相互評価を行いました。
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Webデザインの授業のルーブリックがこちらです。
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いずれの項目も、9割以上がB以上、7割以上の生徒がA以上となっていました。回数を重ねるごとに学び深まっていくことが見て取れます。
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生徒自身が習得・活用・探究を行ったり来たりする授業デザイン
今回、生徒は基本的なスキルや知識の獲得の場面でも、それを活用するようなPBL場面においても、どちらも習得・活用・探究というフェーズを行ったり来たりしながら学びを深めてることを感じました。
このような学びの深まりは、大学入試でも、DXハイスクールに関連したデジタル人材の育成においても必要であると感じています。
今後も、生徒自身が習得・活用・探究を行ったり来たりすることができるような授業デザインをする中で、主体的・対話的で深い学びの視点からも、授業改善をしながら、文理横断、探究的な学びを通じて、デジタル人材を育成していきたいと考えています。
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高校教科「情報」シンポジウム2024秋 講演