事例361

探究学習の要素を取り入れたシミュレーションの授業

―単元の初回に入れると盛り上がると思います―

神奈川県立小田原高校 三井栄慶先生

今回は、「モデル化とシミュレーション」の授業の題材について紹介します。

 

先生方は、「モデル化とシミュレーション」の最初に、どのような授業をされるでしょうか。正直、ここは「生徒が楽しく取り組める導入」というのが難しいジャンルではないかと思います。

 

今回は、本校の公開研究授業で行った内容をご紹介します。「シミュレーションの最初におもしろいことができないかな」と思っておられる先生方には、特におすすめの教材となっています。

 

能力もコストもバラバラな5人でアルバイトのシフトを組む

今回の教材は、あるカフェテリアのアルバイトスタッフを配置するという、いわゆる「割り当て問題」を、アナログを駆使しながら実際にやってみる、という内容です。

 

 

実際のアルバイトのシフト組みの内容がこちらです。

 

仕事の内容を単純化して、アンディ・ボブ・クレア・ディーン・エマの5人に対して、「接客」「厨房」「レジ打ち」「発注」「ごみ捨て」「買い出し」「掃除」「仕込み」の仕事を割り振る、ということを考えてもらいます。

 

 

ただし、実際はこの5人は万能ではない、ということを示すと、生徒はどっと盛り上がります。この表のように、0を基準としてプラスの値のところはよくできるけれど、マイナスのところは単独で仕事をさせてはいけないよ、ということを見せると、なるほど、と納得するわけですね。

 

 

さらに、もう1つ条件を複雑にして、「能力のスコアの高いものにはコストがかかり、低いものはそんなにかからない」ということを示して、いかにコストを抑えて効果的に組むか、ということが、シミュレーションのポイントになります。

 

 

実際の授業では、パラメータという形で、スタッフ一人ひとりにかかるコストの幅と、実際の熟練度を表やレーダーチャートにしたものなどを見せると、生徒は大喜びします。この個性豊かな5人をどのようにシフト組みするか考えよう、というわけです。

 

 

条件のもとで熟練度の和が0以上、コストの合計が最小になるように組む

これを実際に考えるのですが、最初に制約条件として、「コストの合計が最小になるように組もう」と提示します。

 

そしてシフトの条件は、

・各人に割り振る仕事は最大3つまで(ホワイトな会社なので)

・「接客」「厨房」「レジ打ち」「掃除」「仕込み」は2人割り振る

・「発注」「ごみ捨て」「買出し」は1人

・「接客」と「厨房」は、ワンオペにならないように別の人が担当する

・最大のポイントとして、各仕事を担当する人の熟練度の和は 0 以上にする

としました。

 

 

この「熟練度の和が0以上」というのは、例えばこのスライドで言えば、厨房をディーンとエマに任せるとすると、ディーンが万一何かやらかしても、エマがフォローするので、この場合はプラス1でOK。

ただし、掃除をクレアとディーンにすると、クレアが頑張って掃除をしても、ディーンが台無しにしてしまって、マイナス1になるからダメだよ、という説明をしています。

 

 

このような条件で、実際にどのように仕事を割り振ればよいかを考えるわけですが、すぐに答えが出る問題ではないので、紙とExcel枠の2つを用意して、「実際にはめ込んでみて、試行錯誤しながらやってごらん」と指示しています。

 

紙の枠
紙の枠
Excelの枠
Excelの枠

※クリックすると拡大します

 

 

本校では、この作業に15分程度時間を取りました。生徒は四苦八苦しながら頑張って考えましたが、15分ではなかなか最小コストまで求めることはできませんでした。お勧めとしては、3~4人でグループを組ませて考えさせるのがよいかと思います。

 

最小値を求めるだけであれば、いわゆる「ハンガリー法」というアルゴリズムで求めることができ、13,380が、最小値となります。

 

ここまでであれば、コンピュータにやらせればいいじゃないか、という話になるかもしれませんが、ここでの最適解というのは、あくまで各熟練度がほぼ0に近い形で組まれているのですね。

 

 

そこで、生徒には次のステップとして、「接客も普通、料理も普通という店では、あまり人気が出ないよね」ということで、さらにもう一段階ギアを上げた問題を出します。

 

 

単にコストを抑えるだけでなく、店の方針に合わせたシフトを考えてみる

その問題がこちらです。

 

ただコストを小さくするのでなく、配置の方針、つまり料理を美味しくするのか、内装をしっかりするのか、全部を追求するのか、ということをグループで決めて、その中でなるべくコストが小さくなるように割り振る方法を考える、という形で、答えを1つに絞らせない形に持っていきます。

 

また、答えが1つではないので、スライドで発表することもやらせたいと思い、10分程度時間を取ってプレゼン資料をGoogleスライドで作成することも行いました。

 

 

そうすると、50分の授業では時間いっぱいになるので、次回は持ち帰りにして、複雑なシミュレーションをどのように考えたか、ということを振り返ってもらい、次回に活かすということにしました。

 

本校では、「表の上で試行錯誤するのは大変だけど、Excelで数式をうまく使うとこのシミュレーションが簡単にできるよ」という形で、シミュレーションの本題につなげています。

 

このつなぎ方については、各校それぞれ方法があると思いますが、まずはシミュレーションで試行錯誤してはめ込む、ということのおもしろさを体験する教材を置くことで、生徒も前のめりになって取り組めると思います。ぜひお試しください。

 

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神奈川県情報部会実践事例報告会2024オンライン オンデマンド発表より