事例363
生成AIの活用と課題について生徒に話合わせてみた
アサンプション国際高校 岡本弘之先生
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今日は「情報Ⅰ」で行った、生成AIの活用と課題について生徒に話し合わせた授業について紹介します。
生成AIを使う前段階として、しくみと現状、活動の課題について考える
授業の背景と目的です。
今年は生成AIが話題になり、今後生徒が活用していくことが予想されます。生徒の中には、既に使っている人もいます。
そのような中で、生成AIを利用する前段階として、「生成AIに対するメディアリテラシーを育てる必要があるのではないか」また「新しい技術を社会のためにどのように活用するかということについて考えさせたい」というところから、今回の授業を企画しました。
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授業の実践です。
本校は、「情報Ⅰ」は高校2年生に行っているので、2年生の6月に、「情報技術の進歩」の2コマの時間を使って実践しました。授業の展開としては、まず生成AIの仕組みを知り、その現状を知って、活用について話し合う、という3段階で企画しました。
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導入は実際のCMで使われるAIタレント
導入では、いきなりAIの話をするのでなく、まずこのCM(※1)を見せました。
こちらは伊藤園のCMですが、皆さん、このタレントは誰かわかりますでしょうか。
※1 https://itoen.co/catechinCM_2024
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実は、この人は実在するタレントではなく、AI生成によるAIタレントです。伊藤園のホームページ(※)には、「誰もが健康的、活動的、進歩的、意志の強さを感じる人物像として、AIが作ったものをもとに、人間が少し調整して作った」とあります。
ここから、AIの話について授業を進めていきました。
※2 https://www.itoen.co.jp/news/article/64855/
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従来の技術とAI技術はどこが違う?
まず、従来の技術とAIの技術の違いについて、スライドを使って説明をしました。
従来の技術は、考えるのは人、作るのはコンピュータ、という分担がありましたが、AIは考えるのもコンピュータが行います。人間が簡単な命令をすれば、キャラクターやその動きもAIが考えてくれる。こういったところが従来の技術とは違うんだよ、という話をしました。
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またAI技術のしくみについて、ちょうどNHKの特集番組で紹介されていた「目の不自由な人のために信号の表示を判定するアプリ」を例に、「コンピュータに信号を判定させるために、たくさんの信号の写真をコンピュータに見せて、これが青信号の状態、これが赤信号の状態、ということを学習させている」という話を紹介しました。
そして、「今カメラに写っている画像と、今まで学習した状況を比較して、確率的に赤なのか、青なのか、ということを判断しているんだよ」という説明をしました。
つまり、AIというのは、人間のように意味を理解しているわけではなく、これまでの学習の中から確率の高いものを選んで答えるという仕組みだということを話しました。
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「生成AIができること」を実際に実演してみせる
この後、実際に生成AIでどんなことができるのか、という実演をしました。本来ならば、生徒が実際に生成AIに触れられればよいのですが、現状では年齢制限の問題があるので、今回は私の方で生徒たちの前でやって見せる形で進めました。
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実際にやってみたのが、こちらの6つです。質問に答えたり、計画を立てたり、画像やイラストを作らせたりと、できるだけいろいろなバリエーションをやって見せました。
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例えば「アサンプション国際学校について教えてください」と聞いたところ、生成AIから「ヒントをください」と言われたので、最初に「日本」と返してみました。しかし、これだけでは、データベースにないために答えられなかったらしく、「知らない」と帰ってきました。
さらにもう1回聞いてみると、今度は、本校は大阪にあるのですが、東京都渋谷区にある、と返してきました。このように、「本当っぽいけれど、実はでたらめな情報」が返ってくることがあるところも、実際に見せました。
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一方、「母の日に送る感謝を伝える手紙を書いて」という問いについては、このようにけっこう感情豊かな手紙が返ってきました。これを見て生徒たちが何と思ったかについては、後ほどお話しします。
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イラストも描かせてみました。「屋根の上で昼寝をする猫の絵を描いて」ということで、ChatGPTと、Geminiが描いた絵がこちらです。
生徒たちにはワークシートを配布しておき、生成AIがそれぞれの問いかけに対してどのような結果を返して来たのか、それを見てどう思ったのか、ということを書いてもらいました。
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生成AIの作品や答えに対する生徒の反応は…
例えば、質問に対して正確ではない答えが返ってきたケースについて。この生徒は「(私たちは)正しいかどうかがわかっているけれど、知らない人が見たら、これが本当に正しい内容なのかわからない、間違っていても信じてしまうだろうな」ということを指摘しています。
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またこの生徒は、生成AIが出してきた答えが信じられるか、使えるか、という視点で評価していますが、まあまあ信じられる、結構使える、ということを書いています。
ただ、写真や動画の結果は、海外のタッチに近いなど、いろいろな意見を書いてくれています。
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こちらの生徒も、生成AIの答えは分かりやすく、詳しい反面、手紙はちょっとやりすぎ?と感じています。イラストは、何か温かみがない、とも書いていますね。
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AI技術の活用と課題について、個人で考えてからグループで議論する
このように、生成AIに何ができるかを話し合った上で、AI技術の活用と課題について、グループで話し合いをしてもらいました。
話し合いの準備として、まず個人で、生成AI技術でできそうなことと課題について調べてもらいました。そこで考えたことを持ち寄って、話し合いをさせます。
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話し合いにあたっては、各グループにA3の紙を配って、話し合いで出てきた意見をサインペンで記入してもらい、授業の最後に黒板に貼って皆で共有しました。
活用できそうなこととしては、「一からCMを作れる」「チラシの写真に生成AIで作ったものを混ぜられる」「人員削減ができる」「アイデアも出してもらえる」「レシピや献立を簡単に作れる」「心に響く文章が書ける」等など、いろいろな可能性に気づいています。
一方で、「情報漏えいがあるのでは」「偽情報が出るんじゃないか」「詐欺に使われるかもしれない」「フェイク画像や証拠の捏造ができてしまう」など、悪用されてしまう方法がいろいろあること、さらに「人間の能力が下がるのではないか」といった問題点を挙げてくれています。
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AI技術の落とし穴に気付けるようになる
話し合いの後、今のAI技術の課題について、私からいくつか話をしました。
生成AIが確率的に正しそうな答えを返しているだけの例として、(現在は既に改善されていると思いますが)この授業を行った時点では、4桁×4桁の掛け算をさせると、実はなかなか正しい答えが出ない、ということがありました。
実際に計算しているのではなく、人間が回答する確率の高そうな答えを返しているからとと説明しました。
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そして、AIの技術というのは、もっともらしいうそをつくところが現在の最大の課題で、その背景にはAIの仕組みがあるということ。そして、入力した内容も学習に使われていること、生成AIが出してきたものは誰のものなのかという知的財産の問題も残っている、といった話もしました。
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もう1つのワークとして、実際にAIが作った動画を見せました。
この女の人が歩いてる動画を何度か見て、実際の映像ではありえない、不自然な点を挙げてみよう、ということで、大阪でいうところのツッコミを入れる授業です。
こういった不自然なところを見抜く力が付けば、先ほど出てきたフェイク画像のようなものを見抜けるようになるかな、という狙いで行いましたが、何度か見ていくことで、生徒は不自然な点をいくつも指摘してくれてました。
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ここまで学んだ上で、ここからが一番の狙いになりますが、「皆さんが生成AIを利用するときに、どんなことに気を付ければよいか、考えてみてください」ということで、箇条書きで3つ以上書いてもらいました。
生成AIが出してくる答えには間違った情報があるので頼り過ぎないこと、リスクや限界を理解しておくこと。リアルな画像映像を見て、これが現実のものなのか、AIで作られたものか、見定めるような必要もあるのではないか、フェイクに引っ掛からないことも必要だ、ということを考えてくれています。
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自分達だけでなく、社会全体とAIとの共存のあり方についても考えられた
授業の結果と考察です。
「AIを使うときにどのようなことに気を付ければよいか」ということについて、生徒たちは、AIの情報の受け手、見る側、あるいは利用する側、作り手としてそれぞれがどのようなことに気を付ければよいのかを指摘してくれていたと思います。
また、最初にお話したように、AIを利用する上でのメディアリテラシーにも気付いてくれたと考えます。
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そして授業全体の振り返りからは、自分達だけの問題ではなく、「こういった新しい技術について悪用されないような教育が必要」と考えてくれています。
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さらに、どのように人間と分担すればよいのか、頼り過ぎるとどんなことが起こるのかといった、AIと人間の分担や協力のあり方についても意見がありました。
また、こういった技術が普及すると、人間の仕事がなくなってしまうのではないかという懸念と、それとは逆に、より良い方向に利用すると、とても良い社会を作ることができるのではないか、利用できる人とできない人では差が生まれるのではないか、ということで、個人だけでなく社会に与える影響についても考えてくれています。
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授業の結果と考察です。今後、高校生がAIを利用していくことは確実であると思います。教育の中でも、AI技術の利用が進むことも予想されています。そういった中で、まず利用する前の段階として、AI技術の仕組みや課題を知り、その上で利用するということが大切なのではないかと考えます。
そのためには、先ほどからお話ししている言葉を使えば、「生成AIに対するメディアリテラシー」というものを作らなければならないのではないか、というのが1つ目です。
そして2つ目に、こういった新しい技術を怖がるのでなく、社会のためにどのように役立てるのかという視点を育てることが大事であると考えます。その意味でも、今回のようにAIの特性を知ったり、どのようなに役立てるかを考えたりする授業というのは、今後も必要になってくるのではないかと感じています。
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最後に、どんな授業をしたかに関しましては、教材をホームページに上げています。こちらもぜひご覧ください。
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神奈川県情報部会実践事例報告会2024オンライン オンデマンド発表より