全国高等学校情報教育研究会 第9回神奈川大会 講評講演
「人間としての強み」を伸ばしていく情報教育を目指して
~新学習指導要領における教科情報の位置付け
国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官
文部科学省生涯学習政策局情報教育課情報教育振興室
文部科学省初等中等教育局児童生徒課産業教育振興室
教科調査官
鹿野利春先生
今回の分科会発表では、一つひとつの発表にキーワードがついていたのが、興味深く思われました。全部で30個近くありましたが、一つとして同じものはありませんでした。私の方で、これを「育成すべき資質・能力の三つの柱(=「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」)」に分類してみたのがこちらです。様々な課題があり、先生方が真剣に取り組んでいらっしゃることがわかります。
また、今回の研究会には2年目・3年目の先生方が発表する若手分科会というものがありました。本人にとってはたいへんなプレッシャーですが、ベテランの先生から優しい声をかけてもらったり、各県の状況を聞いたりすることができ、すばらしい経験だと思います。
各県の情報の教員で若手分科会をしようと思ってもなかなかできないという実態があることを考えると、神奈川県でこのような若手分科会ができるのは、全国的にも恵まれた環境ではないかと思います。
学習指導要領改訂の背景とスケジュール
平成18年に改訂された教育基本法の第一条では、教育の目的を「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」としています。「社会の形成者」というのは、単に形成するだけではなく、その社会を担っていく、変えていくといったことまで含めたことなので、そのために必要な基本的なところをおさえていかなければならないということです。
また第二条の五には『国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う』とあります。これは、「他の国がいろいろ頑張っているから、日本も頑張らなくてはいけない」ということではなく、「日本人は日本人としての特質を発揮して、日本も、また他の国もより良く発展するために手を取り合っていきましょう」ということではないかと思っています。
学習指導要領の改訂の背景も、おそらくこういったことを踏まえているのではないかと思いますが、「未来の創り手となるために必要な知識や力」が目指すところになります。
そして、そのために具体的にどのような資質・能力が必要かを議論していくことになります。それらは、『人間の強み』であることが前提で、そこには「みずみずしい感性」や「目的を考え出す力」、「目的に応じた創造的な問題解決」が挙げられています。
これはどういうことかというと、AIがものすごく進歩すると、ルーティンで書かれたことは全部機械がやってくれることになります。機械にできることを人間が追い求めても勝負にならないので、人間にしかできないこと、つまり人間としての強みを伸ばしていくという形になります。
「育成すべき資質・能力の三つの柱」が何を目指すのかを示したのが下図です。「知識・技能」は単に覚えてとっておくものではなく、生きて働くものでなければいけない。「思考力・判断力・表現力」は、未知のことに対応できるもの。そして「学びに向かう姿勢」は、学びを人生や社会に生かそうとする態度も育成していかなければいけない。そうなると当然、学び方も変わっていきます。
そこで重要なのがカリキュラム・マネジメントです。先ほどお話ししたようなことを実行しようとすれば、1つの科目だけでは間に合わないので、当然いくつかの科目を連携させることが必要となってきます。
また、実施したことを評価し、改善するPDCAサイクルを回していくことも必要です。さらにこれを実施するためには、学校全体のマネジメントが必要となってきます。カリキュラム・マネジメントには、こうした3つの側面があります。
こちらが学習指導要領改訂のスケジュールです。細かくて見づらいと思いますが、本講演のスライド(図)が全国高等学校情報教育研究会のHPにアップしてありますので、そちらでご覧になってください。
http://www.zenkojoken.jp/pdf/20160809_zenkojoken_kanagawa_kano.pdf
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幼稚園と小学校・中学校は今年度中に改訂を告示することになっていますので、担当の教科調査官と教育課程課はたいへんな作業をしています。今年度に出すということは、年末くらいまでには形が見えなければいけませんし、それを公表して意見を伺うパブリックコメントを行わなければなりません。そして必要があればそれを反映して修正し、内閣法制局で最終的な文言調整をして今年度中に告示することになります。というわけで、小学校についてはプログラミング教育も含めた形のものが今年度中に出てきます。そして来年度中に教科書がだいたい作られます。中学校も、教科書以外はほぼ同じスケジュールです。
高等学校は、平成29年度中に学習指導要領を告示するということで現在動いています。1年間の周知徹底期間があって、平成31年度から33年度に先行実施になります。「我が校はこの科目を先行実施する」ということにすれば、それは実施可能です。そして新課程に向けての教員の研修はやはり平成30年度から33年度あたりで行わなければならないか、ということで現在検討しているところです。
情報活用能力は、言語能力と並ぶ力として、すべての教科の中で育成する
情報活用能力については、ここに挙げたような形で、言語能力と同様に各教科において扱うということになっています。ですから、小・中・高等学校すべての科目で情報活用能力ということを意識した作りになっています。
こちらが「資質・能力の『三つの柱』」でそれぞれ育成する情報活用能力を具体化したものです。
特徴としては、赤字で示した部分です。まず「知識・技能」には、「情報の科学的な理解に裏打ちされた形で理解」「情報と情報技術を適切に活用するために必要な技能」をプラスした形で出しています。「思考力・判断力・表現力」では、見方・考え方を重視しますので、情報活用能力をより前面に出した表現になっています。そして、最終的に「学びに向かう力・人間性等」では、「情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度」を養うことを目指します。
ここで学習指導要領改訂の検討過程をご紹介します。中央教育審議会の教育課程部会情報ワーキンググループは、平成27年10月から平成28年5月までに計8回開催されました。
検討体制は下図のようになっています。中学校から高等学校までの各教科についてのワーキンググループが下段の部分、そして中ほどの部分が各学校種の部会です。改訂案は教育課程企画特別部会を経て、中央教育審議会教育課程部会に上がって最終案ということになります。8月1日に各ワーキンググループの主査預かりとなった改訂案をもって8月19日の教育課程部会で審議のまとめを出し、それが学習指導要領の骨格になります。
検討の流れとして、例えば先ほどお話した「情報活用能力は各教科でこういう形でやってほしい」ということは、情報ワーキンググループから総則・評価特別部会に出します。それを総則・評価特別部会から各ワーキンググループに下ろし、各ワーキンググループで検討した結果として上がってきたものを、再び総則・評価特別部会でとりまとめ、教育課程としてまとめられる、ということになります。
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下図が情報ワーキンググループで整理した情報活用能力の考え方です。今まで共通教科情報科で使っていた情報教育の目標の3観点からの「内容・学習活動の視点からの整理」に加えて、すべての教科で情報活用能力の育成を行うにあたって、「『資質・能力』の観点からは同じものを見ますが、見方、あるいは方向性は少し違いますよ」という整理で、この2つは並立するということで進めていくことになっています。
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下図が各ワーキンググループに提示した、問題発見解決のプロセスの中でどのようにICTを使っていくかを例示したものです。「問題の定義・解決の方向性の決定」というところで、「協働での意見の整理」や「インターネットを活用した調べ学習」が、「解決方法の提案・計画の立案」には「シミュレーションの活用・データ分析」などいろいろ書かれていますが、これらは今進めている学習活動でもどんどん意識されて「対話的な学び」「深い学び」「主体的な学び」を作っていただければと思います。
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小・中・高等学校を通じた情報教育~高等学校卒業段階で必要になる力から逆算して各段階での目標を設定
下図が小・中・高等学校を通じた情報教育と高等学校情報科の位置付けです。左側が18歳、つまり高等学校を卒業するまでに必要とされることで、右側がそのゴールに向けて小学校・中学校・高等学校の各段階ではこれくらいまで学びましょう、というところです。
例えば小学校で「プログラミングの体験」が入っています。また、ICTを使った教育のためには、基本的な操作技能、例えばキーボードを使った入力などは小学校の低学年くらいで入れていかなければならないだろう、ということです。中学校の技術・家庭科には、今までの「計測・制御」に加えて「動的コンテンツ」という形でプログラミングを強化する形となっています。高等学校の情報科については、科目の内容のところで詳しく説明いたします。
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我々はまず、高等学校卒業段階でこういうことが必要になる、ということを決めることから始めました。そうすると、中学校はここまでのことが必要だね、では小学校からそこにつながる形はこうだろうという形で、それぞれの学校段階でそれぞれの役割を果たしつつ高等学校卒業までに必要な資質・能力を培っていきます。そして、大学に進学する人は大学へ、就職する人は就職となりますが、そこまでに培う資質・能力は小・中・高等学校すべての教科科目につながっているということです。
下図が情報科における「見方・考え方」です。こちらも小・中・高等学校で共通する形で進めています。「見方」では、「事象をそのままの形ではなく、抽象化して情報とその結びつきとして把握」とありますが、情報の言葉で言えば「モデル化」というのがそれに相当します。
「考え方」については、やみくもに情報機器を使うだけでなく、場合によっては機器を使わなくてもいい、あるいは使ったほうが効率が悪くなる場合にはあえて使わないという選択肢もあります。それも含めて「考え方」ということになります。
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高等学校情報科で育む資質・能力~情報社会に求められる人間像に向かうために
情報科において育む資質・能力が下図です。よく「次の学習指導要領は『社会と情報』ではなく『情報の科学』寄りになる」と言われますが、先ほども申し上げたように、そもそもは高等学校卒業時にどんな資質・能力が必要なのかということから始まっています。ですから、例えば「知識・技能」には「情報社会の進展とそれが社会に果たす役割と及ぼす影響についての理解」「情報に関する法・制度やマナーの意義と情報社会において個人が果たす役割や責任についての理解」ということもしっかり入っています。
「思考力・判断力・表現力」は問題解決に沿った形で書かれていますが、例えば「複数の情報を結びつけて新たな意味を見いだす力」ということも重視しています。それから「学びに向かう力、人間性」には情報モラルも当然入っていますが、最終的には「情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度」、これが求める人間像ということであり、そこに向かっていろいろな資質・能力を育てて行くということになります。
評価の観点は、現段階では下図のような形で出していますが、評価できるものもあればできないものもありますので、先ほどの資質・能力に比べると、ここはもう少し簡単になっております。ただ将来的に評価の方法が進歩すれば、もっといろいろなものが出てくるかもしれません。
情報Ⅰ 問題の発見・解決に向けた情報の捉え方、情報技術の活用の仕方を学ぶ
これが情報I(仮称)として出している内容です。「(1)情報社会の問題解決」は中学校までに経験した問題解決の手法や情報モラルなどを振り返って、これを情報社会の問題の発見や解決に適用して、情報社会への参画について考えるような学習活動をしていきます。(2)、(3)、(4)はそれぞれ必要な技術や考え方を学んで、実際に使って行く中で身に付けていくということになります。
例えば(2)では「コミュニケーションと情報デザイン」とありますが、これはかなり広い意味を含みます。例えばユーザーインターフェースで、青い背景に青い字で書いたら見えにくいので、色彩的な知識が必要です。また、1つの画面に30個もボタンがあったら、どれを押したらいいかわかりにくいので、一画面に何個程度ならよいとか、階層的に作るといった人間工学的なことも当然必要になっていきます。
コミュニケーションには、文字によるコミュニケーションも画像によるコミュニケーションも音楽によるコミュニケーションもあり、さらにそれらの組み合わせもありますが、それぞれのコミュニケーションの特性に沿ったデザインを考える、ということになります。
(3)は「プログラミングによりコンピューターを活用」ということになっています。まずはコンピューターについて知るということもありますし、問題解決の中で使うということもありますが、その時に、例えばアルゴリズムをあらかじめ全部勉強して、それを応用していく、という進み方である必要はありません。例えば、子どもたちがいろいろな問題解決をする中で考え方のプロセスを振り返る時に、そういえばアルゴリズムというものがあったね、ということでもいいですし、子どもたち自身が新しい手法を学ばなければいけないと思うような課題を出すことによって、自発的な学びを促すといった形であってもよいかと思っております。
「(4)情報通信ネットワークとデータベースの利用」では、情報通信ネットワークは当然学びますが、今の世の中を見た時、ネットワークとデータベースは切り離さない形でウェブを通じてわれわれに情報を提供しています。それならば、バックにはこういう技術があるよ、その仕組みも一緒に考えよう、というような学び方になってくるのが「情報I(仮称)」です。
情報Ⅱ 情報Ⅰをもとに、情報システムやデータの活用、情報コンテンツの創造を目指す
「情報II(仮称)」は「情報I(仮称)」の履修が前提ですが、「(1)情報社会の進展と情報技術」では、未来の技術についても考えていこうというところが情報Iとの違いになります。「(2)コミュニケーションと情報コンテンツ」では、実際に画像や音、動画を使ってコミュニケーションするということも行います。「(3)情報とデータサイエンス」は、現状では高校生にこれを教える有効な手だてがあまり見当たりませんが、この学習指導要領ができる頃には、皆さまの努力によって画期的なものができているものと思います。さらに学校では、こういった実践が積まれて、どのような資質能力が育ったかとか、子どもたちがどのように変化したかといった事例が蓄積されることを期待しています。私は、多様なデータを適切かつ効果的に活用する力は、これからの時代を生きていく子どもたちには、ぜひとも必要なものと思っています。ただ、「データサイエンス」という言葉自体は今後変わるかもしれません。
「(4)の情報システムとプログラミング」について、「情報I(仮称)」との違いは、「情報II(仮称)」で扱う情報システムはいろいろなサブシステムを持ったものを想定しているということです。例えば、実際に使われているシステムでは、何かを発見・検知するところ、それを処理するところといろいろ分かれています。システムを作る時には、目的に向かうための過程をまずそういったサブシステムに分け、分けたものの一つひとつを設計・制作することになります。そこには当然、協働的な働きがありますし、それぞれの調整も必要になります。そういうことも含めて、できればプロジェクトマネジメント的なところまで学ぶことができればと思っています。そして課題研究では、ここまで学んだことを活かして何かしら新しい価値を生み出すような学びを期待しています。
情報科の標準単位数は「情報I(仮称)」が2単位、「情報II(仮称)」が2単位です。すべての教科科目について、単位数が公表されておりますので、細かいところは、先のpdfをダウンロードしてご覧ください。
情報科の学習プロセスは下図のとおりです。今ある学習活動が大きく変わるものではありません。要は、中段にあるような問題の発見から振り返りまでの問題発見解決のプロセスを経て真の問題解決に向かう形です。その中に、例えば情報機器を扱うであるとか、結果を社会的に還元するとか、そういった視点で進めていただければと思います。
その時下段にあるように、個別の知識として学んだものが問題解決を経て構造化され、「使える」ものになっていく、もっと言えば「知恵」というようなものが育まれていく、ということになるだろうと思います。そういったことを通して、情報社会に参画・寄与しようという姿勢が出てくることを期待しております。
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数学科と連携して統計をより深く学ぶ
統計が苦手な方にはたいへん申し訳ありませんが(笑)、次の「情報」には統計が入ることが検討されています。高等学校では、統計を数学と情報で分担して教えていくという形になります。数学では、現在の内容をより統計寄りの、あるいはより使えるものにしていただくということで、今検討しています。
「情報I(仮称)」では、統計を使って問題を発見したり、あるいは問題解決したところの評価に使ったりということを行います。「情報II(仮称)」ではデータサイエンスの部分で使っていきます。ただし、数学では確率分布、統計的な推測まではやりますが、原因を探るような統計(例えばベイズ統計など)までは今一歩ということがありますので、詳しい数学的な裏付けは学んでいないけれども、情報では使っていくことになり、一部はある程度ブラックボックスの可能性もあるということを、お伝えしておきます。
アクティブ・ラーニングについては、下図に概要をまとめてありますので、クリックしてお読みください。
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下図は専門教科情報科の今後の在り方です。共通教科も変わっていきますが、専門教科も当然変わっていきます。赤字のところに書いてあるところ、情報セキュリティに関しては各分野に共通した科目として行います。また情報コンテンツについては、運用管理も含めたプログラミング的なところも入ってきます。そして実習については、今までシステムとコンテンツに分かれていましたが、それを合わせていろいろな選択科目を自由に組み合わせて実習ができるようにという形に変えます。専門高校の各学科では、共通教科情報Iの内容についは代替科目になりますが、その内容はきちんと保持されます。専門高校の情報に関する学科につきましては、「情報I(仮称)」・「情報II(仮称)」を基礎的科目の中で対応し、その上でシステムなど専門的な科目に進んでいく予定です。
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高校の教科・科目構成がどのように変わるかをまとめたのが下図です。公民科で「公共(仮称)
」、国語科で「論理国語(仮称)」、外国語科で「論理・表現(仮称)」など新しい科目が出てきていますが、これらの科目の中でも情報活用能力の育成は図られています。文字以外の表現についても国語で扱うような表記もありますので、我々はそういうところも見ながら、情報科に特化したものは何かということを、考えなければいけない状況です。
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高大接続における情報科の位置付け
初等中等教育から大学教育までの接続イメージが下図です。
皆さまに一番関心があるのは大学入試かと思いますので、そこに特化して今、どういうことになっているのか、というのが下図になります。
高等学校の教育改革と大学の教育改革の接点が、大学入試改革です。大学では育てる人間像があります。そのために、どんな学生を受け入れるのかということをアドミッションポリシーではっきり示していただいて、高等学校はそれに対応した形でいろいろなことを行っていきます。
入学者選抜では、これからは知識のみでなく、思考力・判断力・表現力を見ていくようにしましょう、ということになります。そのためには、ペーパーテストでは測れないものもあるかもしれないという前提で、コンピューターベースのテスト(CBT)で行うという検討も進めている状況です。CBTで記述式の解答をするとなった時に、その記述は鉛筆で書くのではなくて、キーボードで入力するということが今後出てくることになるでしょう。
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下図が大学入学者選抜のイメージ図です。大学入試については、「大学入学希望者学力評価テスト」で測定可能な学力面を見て、大学はそれ以外のところで試験をしていただくという形です。下の方の赤い部分は「高等学校基礎学力テスト」です。高等学校基礎学力テストに対して、大学入学希望者学力評価テストは、より思考力・判断力・表現力の部分が強いテストということで計画されています。
これが大学入学希望者学力評価テストの概要です。全体的には、思考力・判断力・表現力をより適切に評価できるものとすることになっています。具体的には、歴史ではただ年号を答えるのではなく、「歴史的思考力」を重視するというような形に変化します。情報科については、現在行っている教科情報に関する中央教育審議会による検討と連動しながら適切な試験科目を設定するということで、現在検討が進んでいます。他の教科・科目と合わせた形になるのか、情報という教科単独で行うかの決定はされておりませんが、情報科単独ということも含めて、検討が行われているということです。
下図がスケジュールです。平成34年度から学習指導要領が変わりますので、次期学習指導要領の内容による入試としては、平成36年度からということで計画されています。
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小学校段階でのプログラミング教育が目指すものは
プログラミング教育については、これが今計画されている、小学校段階のプログラミングのありかたです。具体的には「体験」で、新たな教科ができるわけではありません。ですから、小学校でプログラミング教育を受けたからといって、フローチャートがすらすら書けるということにはなりません。
ここでいう「体験」は、プログラミング的思考(我々の言葉でいえば、Computational Thinkingにつながります)のスタートになるものです。プログラミング的思考は、図にあるとおり、何かしらの目的があった時、記号を組み合わせて実行できるようにしたり、それを改善したりしていくというのが、小学校で行うプログラミングです。
小学校段階のプログラミング教育の実施例が下図です。これは検討段階のものですが、例えば理科では電気製品のプログラミングを考えます。この例として、信号機の制御などを行っている学校もあります。算数では、図の作成に数学的思考を含めて、プログラミング的なところを入れていくという形のものが、今進んでいます。音楽では、すでに実践していただいている学校もありますが、創作用のICTツール、具体的にはボーカロイドを使ったものも一つのプログラミングというような形で見ていこうと。このように、いろいろな教科でプログラミングを取り入れた実践が行われています。
中学校では、現在行われている計測・制御に加えて、動的コンテンツも含めて行っていくことになります。そこではインタラクティブなもの、例えばユーザーの働きかけによって返答が返ってくるようなものも含めて取り組んでいこうと思っております。
アクティブ・ラーニングと評価のあり方
今後に向けては、アクティブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善が必要です。アクティブ・ラーニングについては、すでに皆様がいろいろと実践されていますので、こういったことを目指しているということをお出ししておきます。
ただ、アクティブ・ラーニングはこういう形で、というものではなく、イメージとしてはこんなものであるというものです。
これを実現するためには、授業設計がたいへん重要になってきます。今後も授業設計に重きを置き、結果についてしっかり測定し、次に向けて改善していくのが大事かと思います。
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評価については、知識だけでなく思考力や問題解決力、態度、経験というものも測らなければならないとなると、今後ICTを使って評価を行っていくことが検討されています。パフォーマンス評価やルーブリックであるとか、ポートフォリオ評価といったものです。
情報科教員の資質向上への取り組み
情報科がスタートした時の免許取得者の中には、すでに退職された方もいらっしゃいます。現在、全国で27.6%の方が免許を持たずに教えているという状態です。専任の方が20.4%ですが、そのほとんどが東京と大阪の先生です。東京と大阪で全国の人口の何%になるか、その比率を考えてみると、地方の学校には専任の先生はほとんどいないという状況です。兼任の先生が52%。しかし、今お話ししたように「情報I(仮称)」・「情報II(仮称)」となって科目の内容が大きく変わるということを考えた時に、他の教科を持ちながら、次の学習指導要領に向かっていくとなると、その先生の負担はかなり大きいものになります。何とかしなければならないと考えております。
教員の資質向上に向けてについては、3月3日に文部科学省から各都道府県等に「情報免許保有者をしっかり配置してください」という主旨の通知を出しました。文部科学省側は情報教育課長と教職員課長の連名、教育委員会は情報教育主管課と人事主管課にこの通知が届くという形です。今年の教員採用試験には間に合いませんが、来年の採用試験は変わるだろうと期待しております。
現場の教員だけでなく、大学の教員養成課程の改善も必要ですが、これは今、議論されています。また、研修機会については、様々な研修を実施する機関がありますが、我々としてできることを検討した結果として「産業・情報技術等指導者養成研修」を、来年度からは、情報免許を持つ先生方(専門教科以外)全員をこの研修の対象とすることにしました。実は今までもこの制度があったのですが、今後は県にも周知して、多くの先生に参加していただけるような形で進めていきます。参加料も現在より抑えていく予定です。
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情報教育の一層の充実に向けて
最後に、今後に向けてやっていきたいことを並べます。
教科書の需要数から推測すると、「社会と情報」を採用している学校が全体の約80%ですが、そこでコンピューターの仕組みを知るためにプログラミングをやってみることは可能だと思います。
問題解決型の学習は、今も多くの先生方が進めておられますが、これからもどんどん広がっていってほしいです。「情報の科学的理解」についても一層推進していただきたいですが、その際はぜひ中学校の技術・家庭科(技術分野)の内容を読んでください。これは現行のもの、そして次の学習指導要領現在のもの、両方が必要だと思います。
そして学会や大学と連携していくということ。お近くの大学の先生と連携することは、一つ重要なものと思っています。そして、もし可能であれば、選択で学校選定科目を置くとか、専門教科情報科の科目を置くなどしていただきたいです。これは先生方の資質向上にもつながりますし、生徒の可能性の拡大にもつながります。例えば、1学年5クラスの学校では、共通教科情報の単位数は2単位×5クラス=10単位であり、専任の先生を置くことは難しいですが、専門教科情報科の科目を選択できるようにすれば、単位数が増え、専任の先生を置くことができるかもしれません。
次の学習指導要領までの間には、こういう形で専任を増やしていくことが必要だと見ております。そういう専任の方が増えて、47都道府県、政令指定都市、私学すべてで情報教育研究会を結成されるようになることを望んでおります。
今回参加された先生方は、学校に帰られたら、この研究会で学んだことをぜひ他の先生方にお伝えいただきたいと思います。全国で今だいたい情報の先生が6000名強いらっしゃいます。本日参加された方が二百数十名ということですので、1人当たり25人に伝えれば、全員に伝わることになります。なかなか計算通りにはいきませんが、そういう形の普及も必要です。さらに高等学校と大学をつなぐために大学の先生方、そして今後ICT環境の整備や教材の充実などのために企業の方々も不可欠です。今後とも皆さまで協力して、高等学校の情報教育を盛り立ててまいりましょう。
[質疑応答]
質問者1:中学校の技術・家庭科の内容を知るということは、私も重要だと思いますが、現状として今の中学校で、十分な情報教育がなされていないのではないかという部分も散見されると思います。今後、中学校の技術・家庭科での情報教育のフォローはどのようになされるのかということを教えていただけますでしょうか。
鹿野先生:中学校の技術・家庭科についても、学習指導要領が変わると、当然教員の教え方も変わります。現在の中学校の先生方に対しても、例えばコンテンツ分野のプログラミングが新しく入ることになれば、何らかの研修を実施することになると思います。また、高等学校の先生方には、まず技術科の教科書を読んでみられること、それから近所の中学校の先生と相互に授業を見学できるといいですね。こういったことは、学校どうしとか、県単位といった、組織対組織で行うのが一番よいかと思います。
質問者2:情報教育の現状を非常に苦しくしているのは、臨時免許という制度ではないかと思いますが、その辺りについては何か具体的な対策を立てられる予定でしょうか。
鹿野先生:臨時免許は廃止すべきという議論はあるかもしれませんが、一方で臨時免許によって支えられている部分があることも事実です。ただ、各県に対しては、「臨時免許は、あくまで免許を持つ者がそれを担当できないやむを得ない場合のためのものなので、安易に臨時免許を発行にしないように。そのためには配置を工夫するであるとか、きちんと大学で学んできた人を採用するといった、できることをまずやってからにしてください」ということを通知で出しているという状況です。
質問者3:最後の図で、「情報の科学的理解を推進する」とありましたが、これは自然科学だけでなく、社会科学も含まれるという理解でよいでしょうか。
鹿野先生:おっしゃるように、自然科学だけでなく社会科学も含まれます。そもそも「情報I(仮称)」は、必履修で文系・理系に関わりなく全員が必履修で学ぶものですので、「科学」という時には自然科学だけでなく、社会科学、人文科学も同等に、バランスよく扱っていく形でなければならないと思います。
※全国高等学校情報教育研究会第9回神奈川大会 講評講演