パネルディスカッション

プログラミング教育が目指すもの ~本当に必要な教育内容や体制とは

vol.2 汎用的な力や探究的な学びとプログラミング教育は相性が良い

宮城教育大学教育学部 安藤明伸先生 

どうする?小学校のプログラミングと中学校の接続

私は、かつては中学校の教員をしておりました。当時プログラミングは選択制でしたが、現在は必修になっており、その内容は、計測・制御をプログラミングで行うというものです。中学校のプログラミングは、「技術・家庭科」の「技術分野」の中で行っているので、生活や社会にどのように役立ち、産業とどう関わるかを重視しています。そのため、工業ならばオートメーションのためのロボットがあって、それを動かす「プログラミング」といった文脈が成立しています。

 

今回、小学校もプログラミングが必修化されますが、この間に産業構造も変わってきました。ソフトウエア産業が台頭し、ネットワークや情報通信などが非常に重視され使われるようになってきました。そのような社会の変化の中で、小学校では、そして各教科ではどのような授業をするかというお話です。

 

授業を行っていた身からすると、「技術」の中でプログラミングを学ばせることは難しい問題でした。「技術」の授業数は少なく、中学校1年生・2年生で週に1回、3年生になると2週間に1回しか授業がない中、必修の「材料と加工」「エネルギー変換」「生物育成」「情報」4分野の一つであり、さらにその中の一部が「プログラミング」なのです。

 

義務教育の中でプログラミング能力を身に付けることが求められるのであれば、中学校からのスタートでは本当は遅いのではないのかと思います。ところが、小学校に目を向けると、まず「情報」を教える教科がありません。諸外国では、情報を体系的に学ぶ授業がありますが、日本においては「情報活用能力」というくくりで体系付けている部分で扱うことになります。

 

宮城教育大学附属中学校は、文部科学省の研究開発指定学校になって今年で3年目です。この中で行っている「技術情報科」という教科では、プログラミングを柱とした新しい教育課程を作っています。そこでの実践から、プログラミングは探究的な学習過程と非常に相性がよく、また汎用的な力を使うことが多いので、総合的な学習の時間にやろうとしていたことにとても近いことがわかってきました。ですから、もともとはプログラミングそのもののカリキュラムに関する議論だったのですが、実は各教科で大切だと考えていることや、探究的な学びなどとの接点が見えてきつつあります。

 

過去にプログラミングを経験された方の中には、「写経」と例えられるように、計算機的なコードを、何の役に立つのかわからないがただひたすら書き写すという苦い記憶をお持ちの方もあるかと思います。また、ちょうど私が中学生の頃は、第一次プログラミングブームで、ファミリーベーシックなどでプログラミングができましたが、当時のプログラミングは、できる人はするけれども、そうではない人には関係ない世界でした。今の子どもたちがやろうとしているものは、これらとは違うということをご理解いただきたいと思います。

 

ここに至ってプログラミングが必修化されたのは、プログラミング言語が進化して、子どもたちが学びやすくなっていることもありますが、それよりも、先ほども申し上げたようにプログラミングが汎用的な力や探求的な学びなど、いろいろな学びとの接点があることがわかったことに、価値が見出されたのではないかと思います。

 

■堀田先生よりコメント:プログラミング教育の導入は社会の動きからの必然

堀田先生:昔のプログラミングは、一人ひとりがパソコンに向かって黙々とコードを打っているイメージでしたが、今はこの写真のように何人もの子どもが集まって楽しそうにやっています。楽しく苦しんでいる、と言うべきでしょうか。そこで友達に助けを求めたり教え合ったりというシーンがあります。

 

小学校でプログラミングを必修とした背景の一つに、今はプログラミングをピアノや水泳のように、学校以外で習い事としてやっているケースも非常に増えていることがあります。

 

さらに、コンピュータによって私たちの生活も大きく変わってきています。今話題の自動運転は、センサで車の動きを制御しますが、完全に無人運転のものも遠からず実用化するだろうと言われています。また、お掃除ロボットを使えば、家の中の掃除のある程度の部分は機械がやってくれます。そこには皆プログラムが入っているわけです。労働人口が減り、いろいろな機械に助けてもらいながら生活することになると、そういう機械がどんな仕組みで動いているのかということを、全部ではなくても、ある程度理解していないと、人間がコンピュータに使われてしまうということが危惧されています。

 

ここ数年、コンピュータが囲碁や将棋の名人に勝ったという報道が世間をにぎわせています。そうすると、「日本のコンピュータ教育は大丈夫か」という話も必ず出てきます。

 

2014年調査の各国のプログラミング教育の状況を見てみると、イスラエルやエストニアなど、あまり聞いたことがない国がけっこう先進的な取り組みをしています。

 

イギリスのように、もはやICT活用など当たり前なので、ちゃんとコンピューティングという教科を作って、小学1年生からプログラミングのみならず、アルゴリズムやデータ構造まで教えている国もあります。

 

今の段階ではその教育効果はまだわかりませんが、いずれ日本の子どもたちは、英語もプログラミングもバリバリできる人たちと競争していくことになるのです。このような事態に備えて、小学校は小学校なりに、義務教育としてできる範囲のことをしなければならないということです。

 

次期の学習指導要領で、中学の技術・家庭科ではこれまでプログラミングにほとんど時間が取れなかったのを、2倍程度増やすことになっています。高校は選択科目をなくして必履修の教科を一つだけにして、そこでプログラミングをみっちりやることにしました。今までは、小学校には情報を扱う教科がないので、いろいろな教科でやらなければいけないということになっていたものの、実は誰もあまりやっていないというのが実態でした。しかし、中学・高校もプログラミング教育を強化することになった以上、小学校の段階で、何を・どれぐらいやるのということを真剣に議論しなければならないと思います。

 

 

本日実践報告していただく中には中学校の話も出てきます。小学生にどれぐらい体験させるべきかというのは、中学校との接続という点で注目していただきたいと思います。

 

※New Education Expo2017 東京会場 (2017年6月3日)