国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会

「New Education Expo2017」

教育の情報化は導入から普及の時代へ ~新たなスタンダード作りに向けて多くの企業が参入

国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会「New Education Expo2017」が開催されました(東京6月1~3日、大阪6月16~17日)。

2017年3月に小学校と中学校の次期学習指導要領が公表され、授業や校務へのICTの導入の必要性が

明記されました。また、イベント終了後の6月末には総務省から学校現場の教育クラウドの標準仕様が公表されるなど、学校現場でのICT機器やシステムは文字通り標準装備となります。これまで以上に企業の注目も集まり、企業展示では従来のオフィス用のソリューションを学校現場に合わせた新たなサービスの紹介が例年以上に多く見られました。

 

また、「情報活用能力」「学習指導要領」「プログラミング教育」などについて各学校種・教育委員会や自治体など対象別のきめ細かなセミナーや、実際にタブレットや電子黒板などを使った『フューチャークラスルーム』での模擬授業などに多くの教育関係者が集まりました。

 

セミナーレポート

総務省における教育ICT政策

総務省 情報通信利用促進課長 御厩祐司氏

 

次期学習指導要領と教育の情報化

東北大学 大学院情報科学研究科 堀田龍也先生

 

教育の情報化の動向と今後の展望

文部科学省生涯学習政策局情報教育課長 梅村 研氏

 

パネルディスカッション

プログラミング教育が目指すもの ~本当に必要な教育内容や体制とは

東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也先生

宮城教育大学教育学部 安藤明伸先生

相模原市立総合学習センター 渡邊茂一先生

草津市教育委員会 西村陽介先生

 

展示レポート

普及の段階に入ったICT機器やサービスは、使い易さや直感的に操作できることがポイントに

今回のセミナー・企業展示について、内田洋行ICTプロダクト企画部部長の畠田浩史さんにお話をうかがいました。

1996年以来22回目となる今年のNew Education Expo2017には、約140の企業が出展します。最初は内田洋行の本社ビルで開催していましたが、この大きな会場もそろそろ手狭になってきました。教育関係者のみならず、様々な分野の企業や団体からの関心が一段と高まってきていることを感じます。

 

セミナーも盛況です。東京会場のセミナーには、165人(70講演)の講師が登壇しますが、特に2020年の大学入試改革や高大接続に関するセミナーの人気が高いようです。「高校の教育-大学入試-大学での教育-社会で求められる能力」の整合性をどのように取るか、能動的・主体的に学習できる人材をどのように育て、選抜するかという問題意識の様々な講演が行われます。

 

デジタル教科書はここ数年でかなり普及率が上がってきました。小中学校の教育のICT化の手始めとしては、デジタル化された指導用の教科書が先生方になじみ深いようです。子どもたちが端末で使うタイプのものはまだこれからですが、今後2020年の学習指導要領改訂に向けて、児童・生徒用のものも出始めています。また、児童・生徒が使うデジタル教科書では学習履歴を残す機能がついてくることになると思われますが、先生方や教育行政に携わる方々が、そのデータを次の指導に役立てられるようにするためにも、学習記録データの標準化ということも必要になるでしょう。

 

もう一つ特徴的なのが遠隔授業です。少子化によって小中学校の統廃合が進められていますが、文部科学省では、地理的な条件で統合できない地域などで、ICTの活用によって児童生徒が協働学習を行ったり、社会教育施設等による遠隔講座を実施したりして、学校教育・社会教育での教育の質の維持向上を図る実証実験を行っています。さらに学校のWi-Fi環境については、学校が災害時に住民の避難場所となることから、防災拠点の公衆無線LAN環境の観点と併せて整備が進められています。これには、大手電機メーカーやセキュリティシステムの会社から様々な新規の商品やサービスが紹介されています。

 

ICTのツールは、各社ともこれからがいよいよ普及の段階になります。出始めの頃は多機能や先端性を謳っていましたが、普及期に入ってからは、知っている・よくわかっている人だけが使えるのではなく、使い易さや直感的に操作できることが訴求のポイントに変わってきています。先生方は授業の流れを大事にするので、いろいろな機能をいちいち試しつつ使うよりは、なるべく手順を減らしてスムーズに進められるものを好まれます。全体に、幅広くいろいろな人に様々な場面で使ってもらえるような仕様が主流になってきており、この流れは今後も続いていくと考えられます。

 

■直感的な操作を重視して、使いやすさと蓄積データの活用につなぐ

タブレットや電子黒板は、子どもや教員の直感的な操作を重視して授業が途切れることなく進められる工夫が随所に見られました。例えば、子どもがタブレットで作った作品やワークシートを提出する際には「ていしゅつ」ボタンを押すだけで開いているフォルダーに保存できたり、先生が机間指導しながら選んだ子どもの作品を一気にまとめて提示したりするなど、授業の動作の中にICT機器が組み込まれやすい機能が充実しています。

 

また、保存された作品や教材のデータには日付や児童名、単元名が自動的に付与されるので、蓄積したものをタグ付けして時系列や子ども別、単元別等様々な観点で整理し直すことが可能になります。学校内・学校間でデータを共有し、活用することもできます。

 

■3Dモデリングのプログラミング×3Dプリンター

学校用の3Dプリンターのメーカーが、小中学生向けに3Dモデリングに親しむことができる教育ソフトを紹介しました。ビジュアルプログラミングで正方形のブロックを積み重ねて3Dモデルを作り、作った作品をプログラミングによって画面上で動かすこともできます。ブロックを立体的に組み上げる中で、子どもたちが苦手意識を持ちやすい正面・平面・側面の三面図についても感覚的に学べます。

 

■授業で使う機能に特化したデジタルカメラ

「学校専用」を謳ったデジタルカメラは、ハイスピードや分散連写など、授業で使い易い撮影機能を搭載。タブレットにつないで、体育の実技の良い例・悪い例を並べて比較したり、一つの動きを数台のカメラでシンクロさせていろいろな角度から観察したりすることが簡単な操作でできます。一般向けでは10万円以上するハイスペックな機種搭載の機能が安価に利用できます。特に小学校で人気の高い書画カメラとしても使うことができ、様々な「見せ方」の工夫が可能です。

 

■電子黒板×会議システムを活用して遠隔授業や協働授業にも活用

電子黒板やプロジェクターは、ほぼ機能が出揃った感があります。今年の展示は、すでに導入済みの電子黒板やプロジェクター、テレビなどを先生用のタブレットから簡単な手順で操作し、ICT機器を活用した学習を実現するためのソフトの充実が注目されました。

 

また、従来はオフィスで使われてきた会議システムを、遠隔授業や離れた学校同士での協働学習のための機能やインターフェイスで進化させ、従来の電子黒板からさらに進んだ活用の可能性が示されました。

 

■セキュリティを強化したクラウドサービス

クラウド上の学習・校務システムに、校外学習などで外から安全にアクセスするために、セキュリティを強化し、なおかつ複合機とつないで利便性を図るなどのサービスも出てきています。また、学校パンフレットなどの印刷物からウエブサイトなどへリンクするといったサービスも登場していました。

 

■使う人の手間を極力減らしたセキュリティサービス

セキュリティのうっかりミスは、使う人が「面倒だ」と思ってしまうことから生まれるという問題意識のもと、先生方の負担を極力減らしたセキュリティのサービスが紹介されました。セキュリティの基盤となるパソコンのログオン時の本人認証を、パスワードに加えて顔認証でも行い、自動的に二要素認証が行えるようになっています。また、一定時間パソコンから離れると自動的にロックがかかる設定になっているため、やむを得ず席を外すことになっても安心です。さらに、サーバーでユーザーを一元管理することができ、「利用者に実際のパスワードを教えない運用」も可能であるため、パスワードを忘れる、あるいは流出するといったトラブルを防ぐこともできます。

 

■教員とIT支援員がWEB画面を共有してパソコントラブルを解決

もともとパソコン教室の保守・管理業務を行っていた会社が、教員がWebの画面共有によってIT支援員のサポートを受けるサービスを紹介しています。パソコンの操作を電話だけで指示するのは難しく、かと言ってリモート操作でトラブル対応をしてもらっている間はパソコンを使うことができません。そこで、パソコンの保守はブラウザベースで行い、トラブル時はIT支援員と教員が同じ画面を見ながら先生自身が操作して直します。支援員と直接話すというアナログな方法が、むしろ先生方の時間や手間を省くことにつながります。

 

■教育環境と災害時の地域インフラの役割を同時に担う工夫

校内無線LANの構築のために、従来の業務用の製品やサービスに、学校内で使用することに特化した機能を付加する工夫が見られました。例えば、Wi-FiのON/OFFを職員室で一元管理して、使う教室を指定して接続状態にすることができます。この時「○分後にONにする」という指定もできるため、先生が教室に到着する時間に合わせて環境設定ができます。この機能によって授業で使用しない時間には無線LANを無断でアクセスすることができなくなります。

 

また、教室内で使用する際に雑音のないファンレスのハブは、ホコリを吸わないので故障が少ないという利点もあり、一般のオフィスよりもハードな環境での使用でのトラブルを防いでいます。さらに、セキュリティ認証を強化する一方で、災害時に学校が避難所となった場合は即時にWi-Fiを開放できるようにするなど、地域インフラとしての役割も視野に入れた機能も付加されていました。

 

■プログラミング必修化に向けて

「MESH」は小さなブロック状の電子タグで、それぞれ動きや明るさや温度などのセンサー、LEDライト、ボタンなどの様々な機能を持っています。このタグは無線で「MESHアプリ」とつながっていて、タブレット上のMESHタグのアイコンをつなぐと、例えば「ボタンを押すとLEDが光る」という動作をさせることができます。一般的なプログラミング教育では、ロボット等を動かすためにはある程度厳密な指示を入力する必要があるのに対して、MESHタグは、直感的につなぐことで複雑な動作が実現でき、論理を理解することよりも、遊び感覚やおもしろさ、簡単さを重視することでプログラミングの敷居を下げようとする方向性が感じられます。

 


■デジタル教科書

先生が教科書の内容を拡大したりポイントを示したりしながら一斉に説明する、という使い方が定着しており、各社とも各教科に特化して児童・生徒の興味を惹いたり、理解を助けたりする様々な工夫がなされています。操作をより単純化したり、デジタルに不慣れな教員のために冊子のマニュアルを準備したり、といった説明に力点を置く会社も見られました。

 

取材を終えて

ICT化によって社会が大きく変わりつつある中、新しい資質・能力が求められるようになり、教育も大きく変わらざるを得ない状況となってきました。今までの授業法や教材ではカバーしきれない新しい教育のために、企業は様々な方面から教材やサービスを提供しようとしています。今回は、まさに変革の年と言えるのかもしれません。

 

この流れは、やがて変革から安定に向かいます。その時、現在出ているものの中から何がスタンダードになるのか。現場の先生方には、授業の中に機器やソフトを取り入れながら、どのような機能や使い勝手が必要かということを企業に対して発信していただき、企業の方もそれらを取り入れてさらなる改善を図っていかれることを期待します。

 

New Education Expo2017が開催された6月は、将棋の藤井聡太四段のデビュー戦以来の公式戦連勝記録が話題を集め、6月29日にはついに歴代トップの29連勝を決めました。藤井四段が注目されたのは、その若さとともに、AIを搭載した将棋ソフトを練習に活用して、形勢判断や最善手の選択に磨きをかけていることでした。ここ数年、AIが将棋や囲碁の名人に勝った・負けたということが話題になっていましたが、藤井四段の活躍によって、AIを活用することで人間の能力を大きく引き上げることができることが示されました。コンピュータを活用した学びの可能性を示す好例であると思われました。