第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)

講評講演

現在の授業を充実させつつ、次期学習指導要領への準備を

鹿野利春氏

文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課情報教育振興室 教科調査官

国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 教育課程調査官

 

全国大会10回の歩み

 

この大会は、今回10回目です。私自身もこの間、教員から教育委員会へ、そして現職といろいろ立場を変えてきました。この全国大会の10年の歩みと私の思いをお話しできればと思います。

全国大会は、第1回が平成20年。東京都市大学、当時の武蔵工業大学の世田谷キャンパスで開催されました。第2回がつくば市、そして第3回の金沢大会は私が担当しました。この時、日本海側に持っていったことには実は理由がありまして、1回目が東京、2回目が茨城で、もし3回目を関東でやったら、関東以外の人から見たら、「全国という名前は付いているけど、実際は関東大会ではないか」ということになってしまうので、一度外に出した方がいいね、ということになり、それなら自分の所に来ていただければいい、ということで、3回目は石川県になりました。

 (※鹿野先生は、石川県立の高校で情報科の教員をされていました)

 

まだ全国高等学校情報教育研究会に加盟していない道府県の方もいらっしゃると思いますが、加盟自体にはお金はかかりません。石川県は、加盟と第3回大会開催の届けを同時に出したという状態でした。金沢大会は、参加した方はご存じのことと思いますが、おかげさまでたいへん盛り上がりました。

 

また、これから開催しようと思われる地区の方は、ぜひ大学との連携を強固になさってください。会場についても、今回の電気通信大学のような立派な会場を提供いただけるようなところがあれば、大会はもう半分以上成功したようなものです。

 

そして第4回は大阪、第5回が千葉、第6回が京都で第7回が埼玉と、関東地区と地方を行ったり来たりしています。それから第8回が宮崎、第9回目が神奈川。第10回はやはり節目の大会ということで、東京ということになりました。

 

一つ自慢をしますと、予稿集を始めたのは金沢です。今回は記念大会ということで、冊子の後半には10回の歩みも掲載され、たいへん立派に作っていただきました。これから開催される地方の皆様は、この前提にこだわることはありません。輪転機で印刷して、くるみ製本でもかまいません。できる範囲でやっていただければよいと思います。

 

全国高等学校情報教育研究会の加盟都道府県に印を付けてみて気が付いたのですが、どうも日本列島の真ん中辺が少ないようですね。また、これから東北の県がどんどん入ってくださるかな、と思っております。また、北海道には素晴らしい組織がありますが、まだ加盟していただいていません。これは、今後お話をしながら進めていくのかなと思います。

 

そして、新潟と兵庫と徳島が加盟していないのですが、この3県はちょうど教職大学院があるところなのです。現職の先生方が行く、教職大学院がある県が加盟していないのはどうしたものか、一人で悩んでおりました。その他、政令指定都市では横浜、私立高校連盟は京都と大阪が加盟していただいています。

 

全ての国民に必要な情報活用能力を育てる教科としての「情報」

今回の大会では、情報入試がクローズアップされました。私ももちろんこの教科を入試に入れたいと思っていますが、入試に入れることを判断するのは私ではなく、別の部局です。私にできることは、この教科には入試として十分な内容があること、そしてこの内容は、大学に行く・行かないにかかわらず、全国民に必要であることを伝えていくことです。これは、今後皆さんと一緒に進めていかなければいけないと思っています。

 

大学にはディプロマポリシーがありますので、そこで情報活用能力というものは当然必要になってきます。となれば、アドミッションポリシーで大学として情報活用能力をどの程度求めているかを示して、入学する学生には、こういう力が必要ですよ、ということをメッセージとして示さなければいけないのではないかと思っています。

 

この大学入試開発のグループは毎月1回、時には2回、合宿のような形で仕事を進めていただいておりまして、大変感謝しております。

 

教科「情報」は、今年で15年目になります。教科のないところから「情報A・B・C」ができ、そして現行の「社会と情報」「情報の科学」、そして次の学習指導要領では「情報I・II」という形になります。この科目構成は、その時代で必要だったものを反映していると思います。例えば、教科「情報」が始まった時には、今まで教科がなかったわけですから、やはりいろいろなタイプのものが必要だろうということで、スタートするための科目構成としてはこれが一番合っていたのだろうと思います。

 

それが、時代とともに小学校・中学校での情報教育が進んでくると、情報AはBとCに吸収される形となって「社会と情報」「情報の科学」となりました。そして、採択率が「情報の科学」が20%、「社会と情報」が80%というのは、学校や生徒の実態、あるいは実情に応じた結果ですので、この結果がいいとか悪いとかいうことは全くありませんし、科目の優劣も当然ありません。

 

今まで科目が三つあったものが、二つになって、そして次の改訂では一つになって共通必履修となります。発展的な科目として「情報II」が選択科目となりますが、できれば100%取ってほしいと思っております。「情報II」で学ぶ内容は、入試があろうがなかろうが、社会で必要なものではないかと思います。あるいは、子どもたちのほうからこれを取りたいというような中身にしていかなければいけませんし、今後皆様の力もお借りして、そういう実践を積み重ねて、次に向かっていかなければいけないと思っております。

 

プログラミングについては、上図の橙色の科目で扱っています。次の「情報I」では共通必履修ということになりますが、これから社会へ出ていく人たち、具体的には平成34年からこの科目を習って出ていく人たちにとってはプログラミングが必須だろうという、時代の要請を反映していると思います。

 

小学校・中学校のプログラミング教育とのつながり

小学校段階におけるプログラミング教育の実施例としては、下図の黄色の部分が学習指導要領に入ったところです。この辺りは小学校では教科書にも記載されていくだろうと思われます。

 

黄色で塗っていないところは、答申には書かれましたが、学習指導要領には盛り込まれませんでした。しかし、総則には「各教科等の特質に応じて」と書かれているので、全ての教科に入ってよいわけです。各教科の学習指導要領では、「理科」と「算数」と「総合的な学習の時間」にプログラミングの学習活動が例示されています。一度ぜひ、「総合的な学習の時間」の学習指導要領の解説を読んでみてください。「ここまでやるのか」、とびっくりされると思います。

 

中学校のプログラミングは、現行の技術・家庭科に「計測・制御」があって、次期学習指導要領ではそれに加えて双方向性のあるコンテンツのプログラミングも行うことになりました。双方向性のあるコンテンツとは、具体的にはQuestion&Answerであるとか、簡易なチャットであるとかいったものです。

 

左下に書いてありますが、情報のワーキンググループでは、「情報科の内容の検討に当たっては、学習内容の適切な接続・連携により学習に広がりや深まりが生まれるよう留意する必要がある」と述べており、この方針に従って、中学校と高校の内容がうまくつながるように作業を進めております。

 

現行の学習指導要領の授業内容を充実させつつ、次期学習指導要領につなぐ

今大会の分科会とポスターで発表された内容は、だいたいこういったところでした。この中で、評価と授業改善につきましては、現行だけでなく次の学習指導要領でも大切なことですので、併せて進めていただければいいと思います。また、基調講演でもお話のあった思考力・判断力・表現力の評価は、今後どの教科でも重視していくことになります。

 

下図では次期学習指導要領の情報の科目を提示しておりますが、やはり第一に優先すべきことは、現行の指導要領で学んでいる、今目の前にいる子どもたちの学びを充実させることで、その研究を進めていくということが大切です。それを続けていただきつつ、次の「情報I」の準備へつないでいただければと思います。

  

次への準備という観点で言えば、今回「コンピューターとプログラミング」はたくさん発表されまして、やはり皆さんの関心が高いことがわかりました。ただ、現行のプログラミングの授業についての言及あるいは研究、実践についての発表が少し少なかったかなと思います。先ほど申しましたように、まず目の前の子どものために何ができるか、そして次の子どもたちのために何が準備できるかということを積み重ねていく先に、次の時代がやってくるのではないかと思います。

 

また、データを使った授業、データサイエンスにつながるものもあって、活発に研究が進んでいることを感じました。

 

また「コミュニケーションと情報デザイン」、これも大切なところですが、プログラミングに比べるとやや発表数が少なかったと思います。来年度の大会では、現行の実践の発表や、今回あまり取り上げられなかった部分についてもバランスよく発表があるとよいかなと思います。

 

「情報II」では、「情報とデータサイエンス」「情報システムとプログラミング」の部分にあたるものがかなりたくさんありました。「課題研究」的なところにも取り組んでいただくと、ステップとして次へどのように活かすかというという点で非常にありがたいと思いますが、今の授業の中ではちょっと難しいのかもしれません。また、「コミュニケーションと情報コンテンツ」の部分についても、実践の事例がもっといただけるといいなと思いました。

 

将来の技術を展望するということについては、授業の中で子どもたちが自分の将来を考えて、そこでどんな力が必要なのか、この先自分は何を勉強していくのか、ということを考える取り組みがあってもよいと思います。それを考えないと、「よくわからないながら一生懸命勉強したけれど、卒業後に自分の人生に何も結び付かなかった」ということになりかねません。現行の授業の中でも、将来どんな情報技術が生まれるか、必要になるかということを考えさせる機会を作っていただければと思います。

 

統計については、数学と情報が連携しようという動きが進んでいます。先生方の中には、統計が苦手な方や全くやったことがないという方もおられると思いますが、次期学習指導要領に向けては、少なくとも今の数学に入っている程度の内容は、予備的な知識として持っていただきたいと思います。現行の学習指導要領の中でも、問題解決学習の問題発見や結果の評価、モデル化などの部分で使っていただければ、今後の子どもたちの人生に役立つと思います。今回の発表でも、こういった内容があり、頼もしく思いました。

 

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これからの授業のあり方に向けて考えるべきこと

これからの授業では、先生が教えることと、生徒が学ぶことのバランスが多少、あるいはかなり大きく変わってくることになるでしょう。また、今までは「何を教えるか」という教材研究が重視されていましたが、これからは教材そのものでなく、授業のストーリーを考えることで、子どもたちがどのように学ぶかということが実現されるということになっていくと思います。

 

授業のやり方も、アクティブラーニングとかいろいろなことが言われていますが、先生が一人で一度に40人の様子を十分に見ることは不可能です。そうなると、生徒による評価というのを取り入れていくというのは当然のことになると思います。その時、生徒が自己評価、あるいは相互評価をするために、何か拠り所になるものを出してあげる必要があります。その一つの解答としてルーブリックというのが出ておりますが、それだけではないと思います。

 

それから、結果の評価と形成的評価というものがあります。結果の評価は、今皆さんもなさっていると思いますが、形成的な評価は、している人・いない人が分かれると思います。あるいは、授業によってする・しないということもあると思いますが、形成的評価は、今後確実に増えてくると思います。今後、子どもたちが自己評価や相互評価を行うことが形成的評価につながるという授業設計が出てくるのではないかと思っています。

 

上図で矢印が付いている二つの言葉は、この二つのバランスを考え、そしてそれを徐々にずらしていくような形で、次期学習指導要領につないでいくということになると思います。そのとき大切になるのが授業のストーリーであり、授業設計力ということです。

 

情報科教員の資質向上に向けて~研修とともに、教員自からが学ぶ姿勢を持つこと

教員の資質向上については、私は全ての講演で下図を出し、全ての教育委員会にこれを見せ、そして情報科の先生を何とかしてください、という話をしています。最近は「採用してください」ではなく、「採用しなくて本当に大丈夫ですか?」という言い方に変えました。

 

教育委員会でも、情報科教員を採用しなければいけないということは、数字を見ても十分わかっているが、実際には踏み切れない、というところだろうと思います。

 

私は現職に就く前に1年間、教育委員会におりましたので、教育委員会の考え方はよくわかります。行政は安定性も必要ですので、なかなか踏み切れないところはありますが、今年はその中でもいくつかの県で情報科教員の採用が少し動き始めており、良い流れができていく兆しかなと思っています。

 

もう一つ重要なのが、現職教員の研修です。新たに採用する先生だけで全部を満たすということは当然不可能ですので、現職の先生方の研修も進めていかなければなりません。これについてはここにおいでの先生方・企業の方々、情報処理学会、情報科教育学会をはじめ学会の皆様にご協力をお願いしなければならないと思っております。

 

高校の現職教員の研修主体は、都道府県および政令指定都市ということになります。その教育委員会が講師を募集する時、学会として、あるいは大学として「こういう先生がいるよ。」ということを提示していただけると、高校と大学の連携も進み、お互いにとって幸福なことになるのではないかと思っております。これについては、現行の学習指導要領下でも進める必要があるので、例えば大学の先生方でご協力いただける方が、「私はこういう専門分野で、こんな形の研修ができます、今までこんなことをやってきました」ということを、広く一般の方が見ることができるような形で示していただけるとありがたいと思います。

 

個人で学ぶには、JMOOCというものがあります。図に挙げたFisdomをはじめ、いろいろなものが出ていますが、実はこういう中にプログラミングや統計、データサイエンス、情報セキュリティ、応用情報学などの講座があります。無料で見ることができますので、こういうものを使うというのも一つの方法です。

 

こちらの「産業・情報技術等指導者養成研修」は、今年の開催は7月の末から8月初めで既に終わってしまいましたが、来年に向けてまた開催する予定です。こちらは、今年からは中身を全く変えました。今までは専門高校や産業に関係した高校を対象としていましたが、今回から共通教科を教えている先進的な先生や、技術を高めたい先生など、情報科のコアになっていただく方に来ていただければということで、「産業向けだけではないですよ」、ということを都道府県のほうに広報しています。しかし、今一つうまく伝わっておらず、こういう講座があるということさえご存じでない方がほとんどだと思います。

 

ぜひこれに申し込んで、参加してください。ご自身が難しければ、ほかの方に薦めてください。少なくとも、教育委員会から校長先生宛に通知や要項が届くので、通知が届いたら先生方に回していただく、ということができるようになればと思います。教科研究会等で回していただいてもよいと思います。

 

内容としては、アクティブラーニングってそもそも何かという学術的な話から実践例、そしてAIの実例、クラウドを実際に自分で構築したり、データサイエンスを専門家から教えていただいたりします。計測・制御では、実際にロボットを使って一人ひとり制御していただくということもします。

 

このように、先端的ないろいろなことを研修していただけるので、今年参加した方は大変満足されたと聞いています。

 

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こちらがそのスケジュールです。クラウドの構築は、私が講師になっています。クラウドを構築し、かつ教育に生かすということを同時にできる人というのがなかなか見つからなくて、自分でやってしまいました。

 

これからなすべきことは…

最後に、今後何をしていただきたいか、ということをまとめます。一番上の、次期学習指導要領と現行の学習指導要領のことは既にいろいろ申し上げました。二つ目の幅広い知識は、授業をする際に必要です。それは授業研究であったり設計であったりしますが、そのバックグラウンドには学習科学や認知科学といったものもあります。そういうものを、かじるだけでも構いませんし、できれば本も読んでいただければと思います。

 

そして、心理学や歴史、文学、宗教・哲学・芸術といった辺りは、情報には関係ないと思ってらっしゃるかもしれませんが、アートサイエンスという分野もあり、大学の学科も既にできています。海外ではメディアミックスがもっと進んでいますので、情報の未来を語るためにも、ぜひその部分も見ていただきたいと思います。

 

自分の学びの環境を作るためには、人のネットワークが不可欠です。ぜひ今この場でできるだけたくさん作ってください。知識の入手はWebだけではありません。書店もありますが、大学の中には近所の方々に図書館を公開しているところもありますので、調べていただければと思います。

 

石川県には、北陸先端科学技術大学院大学がありまして、24時間営業年中無休、冷暖房完備でいつ行っても開いているという素晴らしいところです。私はそこに大変お世話になりました。

 

時間の捻出方法については、年に2回は仕事の棚卸しをしてください。もしかしたら、やらなくてもよいことをしているかもしれません。そして、生産性の向上という点では、子どもたちにプログラミングを教えておきながら、自分の仕事にプログラミングを使っていないというのでは困ります。ぜひこの力をご自分の仕事にも生かし、子どもたちにも教えるということをお願いいたします。