第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)

パネルディスカッション「来るべき情報入試を考える」

[パネリスト]

萩原兼一先生(大阪大学大学院情報科学研究科)

神藤健朗先生(東京都市大学付属中学校・高校)

三井栄慶先生(神奈川県立横浜翠嵐高校)

加藤光先生(大阪府立岬高校)

[コーディネーター]

小原格先生(東京都立町田高校)

思考力・判断力・表現力をはかる問題づくりとは

~フロアからの意見

小原先生:3人の先生方に、それぞれの学校のお話をしていただきましたが、ここでフロアの先生方からご意見をいただきたいと思います。先ほども言いましたように、これはよい・よくないというのでなく、ブレインストーミングとして気楽に「うちの学校ではこんなことをしている」とか「こんなことができたら面白いんじゃないか」「こういうことをしてもらえたら現場は助かる」ということでもけっこうですので、ご自由にご意見をください。

 

公立高校教員1:先生方のご意見の中で、何となく「社会と情報」は「情報の科学」よりも劣っているというようなニュアンスの発言がいくつかあったように思われましたが、私はそれはちょっと違うんじゃないかと思います。

 

「社会と情報」は、「情報の科学」で扱うような定量的に扱えるものよりも、定性的に扱うものの比重が大きいと思います。このことは、「情報A・B・C」が「社会と情報」と「情報の科学」に再編されたときの趣旨でもあると思います。ただ、定性的であるがゆえに評価が難しいというのは確かだと思いますが、「社会と情報」の実践は非常に多様で、体系的にカリキュラムを組んでしっかり取り組んでいる学校もたくさんあります。

 

もし「社会と情報」はたやすいと考える先生がおられるとすれば、恐らくその認識が問題なのであって、「社会と情報」の授業は決して簡単ではない、むしろ非常に深いものだと私は思うので、そこはご理解いただけたらと思います。

 

小原先生:ありがとうございます。今おっしゃったような認識は、もちろん先生方で共有していらっしゃると思いますので、あえて念押ししておきたいということでよろしいですね。

 

ほかにはいかがでしょうか。「うちではこんな問題を出しているよ」というご意見をいただけるとありがたいです。

 

大学院生:非常勤で情報科を教えていますが、生徒が自分の経験を踏まえて回答するということを評価にうまく取り入れられたら面白いんじゃないかと思っています。例えば、「この授業でこんなことを聞いて役に立った」とか「こんな話を聞いてみたい、将来こんな勉強してみたい」ということを表現する力をはかるための問題作成について、何かご意見やヒントがあれば教えていただきたいと思います。

 

公立高校教員2:私の学校では1学期末のテストで記述式の問題を出してみました。例えば私は「半角文字と全角文字の違いをできるだけ多く述べなさい」という問題を出しました。データ量が多い・少ないということとか、あとは文字の種類の違いとかいったことをはじめとして、解答数だけでなく、解答に使われているキーワードの内容によって採点を変えています。

 

小原先生:ありがとうございます。今、記述式というキーワードが出ましたが、思考力・判断力・表現力をはかる手法としては、やはり記述式を使うことは多いと思います。先生方にお聞きしたいですが、中間考査や期末考査で記述式を取り入れている先生はどのぐらいいらっしゃいますか。

 

(※会場全体の半数以上が挙手)

 

かなりいらっしゃいますね。その先生方にもうかがいたいのですが、どのような採点をされているでしょうか。例えば、必須のキーワードが入っていることをチェックするとか、文字数をカウントするとか、いろいろな方法があると思いますが、うちの学校ではこんな採点の仕方をしているよ、ということを教えていただけると、皆さんの参考になるかなと思うので、ぜひご紹介ください。

 

 

私立高校教員1:本校では、昨年の2学期の期末試験から、マークシート80点分、記述式20点分で試験を行っています。昨年出した問題で、採点に非常に苦労した記述問題のことをお話しします。

 

包丁の絵を示して、個々の部分にマークを付けて「この部分の名称を知りたい場合に、どのようなキーワード検索をかけるかを書きなさい」という問題を出しました。生徒は画像検索はできないので、解答欄には例えば「包丁 部位 名称」と書いてきます。採点では、実際に生徒が書いてきた内容で検索をかけ、正しい名称がでてきたら正解としました。全ての解答用紙をそのようにしたので非常に時間がかかりました。

 

小原先生:ありがとうございます。それでは、今度はテーマを少し絞り込んで、その記述式の中で、特に自分の考えや意見を述べるような問題を取り入れている方はいらっしゃいますか。よろしければ、どのような問題で、どんな採点をされたか教えていただけますでしょうか。

 

公立高校教員3:私のテストでは、オープンエンド(※)で「情報格差が防災面で与える影響でどんなものがあるかをできるだけたくさん考えなさい」というという問題を出しました。私が期待した解答は、高齢者とか、情報機器を持っていないといった方々が災害に遭ったときに、避難場所など必要な情報が行き渡らない、ということだったので、採点基準として、解答の項目数という点が一つと、デバイスが使える状態にあるのかどうかということが記述に入っていること、実際に身の安全を守ることや健康が維持できることを想定していること、という基準を設けて採点をしていきました。

※回答を自由に記述できるアンケートの設問方法

 

しかし、実際生徒が書いてきたものには、情報を得る方ではなく、自分の安否を書き込むとか、自分が必要なものを外に訴えかけるといった、情報を発信するという点に注目したものがかなりありました。さらに、あるところでは必要とされている物資が、別のところではあまり必要とされてないといった偏りのようなものも、実は情報格差につながってくるのではないか、ということが書かれており、ここは非常に採点に苦労しましたが、結局こういったことに気が付くことができた、ということでこれを書いてきた生徒は全員マルにしてしまいました(笑)。

 

私立高校教員2:小テストの形で行った内容ですが、白紙を渡して「友達に基数変換を教えるために、あなたはどのような板書計画を立てますか。わかり易く書いてください」という問題を出しました。言うなれば、教員の板書計画ですよね。採点は、小テストという形なので、私が解答を見て理解できれば○、できなければ×、部分点はナシということにしました。

 

私立高校教員3:私の学校では、期末テストと中間テストだけでなく、小テストで記述を取り入れています。その記述の中で、アクティブラーニングで学んだことを生かして記述する、というところをしています。

 

具体的には、アクティブラーニングで「本で書かれている内容とインターネットで書かれている内容の違いはなぜ生まれるのか」ということを考えた後、たぶん生徒には「インターネットの情報には信憑性がない」という固定概念があるということを踏まえて、小テストでは「インターネットでも使ってもよいサイト、使ってはいけないサイトはどのようなものか。Wikipediaを参考文献としては使っていけないのはなぜか、その理由を答えなさい」という問題を出しました。

 

採点では、著作者などがきちんと書かれていないとか、知識のない人でも勝手に記述することができる、自由に書き込んだりできるので発言の責任がない、複数の人が脈絡なく書く場合がある、などということがポイントになります。そういうところが2つ以上書けていれば〇、1点書ければ△、全く書けなければ×という採点をしました。

 

小原先生:ありがとうございました。それでは、今は記述式という話をしましたが、今度は視点を変えて、マークシート等も含めた選択式の問題で、知識だけでなく思考力や判断力、表現力をはかっているという学校、あるいは先生はいらっしゃるでしょうか。

 

公立高校教員4:これは他の先生が考えたものを参考にしたものですが、アルゴリズムやプログラムの考え方で思考力や判断力を問うために、選択肢アは左に回る、選択肢イは前に2つ進む…といったいくつかの選択肢を組み合わせて、ロボットに指定された動きをさせる、というものを行っています。選択式で思考力・判断力・表現力を問うものは、今のところそういったものしか出していないです。

 

小原先生:貴重なご意見をいろいろありがとうございました。テストで思考力・判断力・表現力を問うのはなかなか難しいということが、明らかになってきたように思います。それでは萩原先生から、コメントをいただけますでしょうか。

 

情報入試模擬テストの結果は…

萩原先生:基調講演でもお話ししたように、情報入試の模擬テストを、東大と阪大の1年生の学生ボランティアに対して実施しました。

その学生に、高校の教科『情報』ではどの科目を学んだかについてアンケートで訊きました。図中の円グラフは、外側から全体、理系、文系の三重のチャートになっています。

 

4分の1弱が「社会と情報」(青の部分)で、「情報の科学」(オレンジ色)はそれよりもやや多く、黄色の部分は両方履修しています。明らかに3分の1は「情報の科学」を学んできていることになります。少し情けないのは、「覚えていない」(緑色)が3分の1います。そんなものかと思いますね。茶色い部分は「その他」で、これはいい意味でも悪い意味でもよくわかりません。先ほど「情報の科学」は難しいのか、試験に出しにくいといったお話もありましたが、この結果からは確定的なことは言えませんが、東大・阪大に入ってくる学生は、比較的「情報の科学」も勉強しているという結果です。

 

記述式の問題を、我々の模擬試験で出題しました。20~30文字程度で説明するもので、設問内容はいわゆる情報倫理の範疇です。解答やアンケートの感想を見ると、意見などは書きやすいのかなと思います。

 

思考力・判断力・表現力のルーブリックをどのように使うか

先ほどパネリストの先生方からいろいろなお話がありました。例えば加藤先生のお話は、3月に実施したシンポジウム(※)のために、大阪府の先生方にアンケートを取ってくださった結果で、思考力・判断力・表現力はテストで評価できると思うという意見が比較的多かったですね。このアンケートはシンポジウム前のものでしたので、シンポジウムでは今回の基調講演でお話ししたように、思考力・判断力・表現力というのを定義して、それに沿って例えば表現力についても、レポートだけでなく記述問題などで評価しようとしていますということを申し上げました。その時聴いてくださった先生方は好意的に受け止めてくださった記憶がありますが、シンポジウム聴講された後、どのように意見が変わったかアンケートもあれば嬉しいなと思いました。

※ https://www.wakuwaku-catch.net/kouen170401/

 

このプロジェクトで考えているのは、教科情報で育てたい思考力・判断力・表現力のルーブリックを作って、それに沿って試験問題を体系的に作ろうということです。ただ、午前中に教育関係の人と話をしていたとき、ルーブリックをどのように使うのがよいかという話が出ました。ルーブリックというのは、先生が持っている、昔の言い方をすれば「虎の巻」で、こういう試験問題を出すとか、こういうところがポイントであるというようなことが書いてあるものだと考えてどういう評価をするかを生徒には見せずに教えるよりは、むしろ生徒にそれをオープンにしたほうが勉強しやすいのではないかと言われたのです。

 

例えばプログラミングに関しても、訳もわからずプログラムを仕込まれるよりも、全体の到達目標を示して、今は自分が何を目標点とすべきかを意識させながら、演習させたりする方が、生徒にとってはよいのではないかというような話で、そういう考え方もあるのかと思ったところです。

 

情報社会で生活し、働くために必要な力を高校教育で身に付けるために

情報科が大学の入試問題になる/ならないということに依存して、高校での情報教育が熱心になる/ならないと言われています。しかし、高校生の全員が大学へ行くわけではないので、大学入試に依存してはよくないのです。この情報社会で生活し、働くために必要なレベルで判断できる素養が高校で付くように教育をする必要はあると思います。

 

例えば、高校生達に世の中の何か新しい問題を考えさせるのもよいのですが、現代社会を支えている様々な情報システムを、情報的な観点で理解できる力、つまり情報ネットワークでのセキュリティが、今学んでいるこういう暗号の仕組みがベースになっていて、企業活動やサービスを支えているのだ、ということが理解できるような情報教育が必要ではないかと思います。

 

また、モデル化を「情報Ⅱ」で学ぶことになっていますが、大学人の感覚では離散数学が必要ですが、これは情報I・IIにも、たぶん数学にも入っていないですよね。さらに、多くのモデル化で微分方程式も必要になりますが、これも数学から抜けている。

 

このような観点から、情報科の教育で、小学校から大学までを通して、数学も含めて全体として何をいつ教えないといけないかという筋が、まだ一本通ってないと思います。これに関しては、現在東大の萩谷先生や電気通信大の久野先生が、情報の教育として必要となる項目を、どのような内容でどの時期に教えるべきか、いうことを体系的に整理するための作業をしておられます。

 

この事業では、その中で高校の部分を切り出して、ルーブリックという形で、どのような観点を、どんな順番でどこレベルまで教えるべきであるというような体系的な構造を作ろうとしています。そして、それを参照することにより、試験問題も作ることを考えています。

 

思考力・判断力・表現力はどの教科でも必要だからこそ

まさに今は、情報科という単独の名前で入試に採用してもらうための、絶好のタイミングです。ただ、必ずしも情報科単独で出されることになるかどうかはわかりません。数学とか理科との抱き合わせで出されるかもしれません。また、思考力・判断力・表現力が問われているのは、必ずしも情報だけでなく、他の教科でも同様です。

 

論理的に文章を読むことや他人に理解しやすいように表現することは、国語でも教育されるようになります。この当たりの内容は、情報科で教育されている内容もかぶってきますので、情報がイニシアチブを取って試験科目として採用されるような方向に行けばよいと思います。そのためには、情報科で数学や理科のようにきっちりとした試験ができるという証拠を、入試科目を判断する方々に見せる必要があります。その意味で、我々の実施している事業の責任は重大ですので、先生方にもぜひいろいろとご協力いただきたいと思います。

 

小原先生:ありがとうございます。大事な示唆をいただきましたが、二つの点を皆さんと共有できると思います。一つは、我々教員自身がテストというと知識理解を問うことに陥っていた部分があったのではないか。それから脱却して、もっと高校教員の方から思考力・判断力・表現力を問うような問題を入れていく必要があるのではないか、ということです。もう一つは、絶対的な正解がある場合はその正解を目指すことも大事かもしれませんが、これが絶対的な正解だ、というものが必ずしもあるわけではない問題もあるでしょう。オープンエンドとなるような、答えが一通りに定まらないなどのたくさんのいろいろな問題を研究しながら、我々自身も問題作りに切磋琢磨していく必要があるということだと思います。本日はありがとうございました。