情報処理学会第80回全国大会イベント企画
文部科学省 大学入学者選抜改革推進委託事業 「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」シンポジウム
思考力・判断力・表現力を評価する枠組みとルーブリック
東京大学 萩谷昌己先生
情報教育の参照基準~小学校から大学の専門基礎教育までの情報教育を体系化するために
私からは、情報教育の参照基準とルーブリックに関する研究について報告いたします。
まず情報教育の参照基準ですが、これは以前に日本学術会議で専門教育としての情報学の教育を定めた「情報学の参照基準」というのを策定しましたが、その中で情報分野というのは、全ての学問分野において活用できるような、普遍的な原理や技術を提供するメタサイエンスであると特徴付けました。
そのメタサイエンスとしての情報学をゴールとして、小学校から大学の専門基礎教育に至る情報教育を体系化しようということをしております。ここでの専門基礎教育とは、情報分野の専門教育ではなくて、他の学問分野における基礎教育としての情報教育ということになります。
先ほど鹿野先生から、次期学習指導要領で高校の情報教育が大きく変わるというお話がありましたが、当然それを受けて大学の情報教育も変わらなければいけないわけです。そのような状況の中で、小学校から大学全体の情報教育を俯瞰するような活動が必要ではないかということで、日本学術会議と情報処理学会、さらにこの大学入学者選抜改革事業の中で協力して、現在情報教育の参照基準を策定しています。中心になるのは、電気通信大学の久野靖先生です。最終的には、下図のような形の「情報教育の木」というものを作りたいと考えています。
知識と能力を11のカテゴリーに分けて各項目に4レベルを設定、教育段階と対応させる
情報分野は広いので、下図のように11のカテゴリーに分けて、各カテゴリーの中にさらに細かい項目を用意しています。
下図が一つの例です。各項目に四つのレベルを設けて、どの教育段階で教えるべきかという情報教育の体系化を行おうとしています。
教育段階の指定は下図のようになっています。小学校、中学校、高校の情報I、同じく情報II、高校の情報以外の科目(特に国語で扱ってほしい内容)。さらに☆1というのが大学一般情報教育、☆4が大学4年間で、専門によらず卒業研究なども含めて習得してほしいもの、★が各学問分野の基礎教育として行う専門基礎教育ということです。
また、学問分野を五つの専門グループに分けて、それぞれの専門基礎教育を特徴付けるということを行っています。
情報科の入試問題作成のためのルーブリックを作る
次に、ルーブリックに関する研究です。これは、情報科の入試問題を作る際にルーブリックを設定して、そのルーブリックの各レベルに合わせた問題を作るという方法論を展開していこうというためのものです。
これまでの経緯です。鹿野先生が以前に提示された、次期学習指導要領の共通教科情報のスライドをもとにして、12分野を設定して、それぞれの分野のルーブリックを策定しました。ここでは各分野とも4レベルを設定しています。そして、そのいくつかの分野に対しては、ルーブリックの各レベルと、我々が策定したTHE(思考力・判断力、表現力)を対応付けて、情報処理学会情報入試研究会が作成した既存の情報入試全国模試の問題について分析を行いました。これについては、昨年8月に行われた全国高等学校情報教育研究会の全国大会で発表しています。
この3月に次期指導要領の案が発表されましたので、現在はそれを整理、精査して、この分野分けとレベルを再検討しているところです。具体的には、分野数を10分野に変更しました。そして、レベル分けも基本は4レベルで分野によっては5レベル、あるいは3レベルという再検討をしています。
次期学習指導要領の高校共通教科情報は、情報I・情報IIがあり、それぞれ(1)から(4)の分野があります。その(1)から(4)のそれぞれに対して、「ア」として知識・技能、「イ」として思考力・判断力・表現力の内容が示されています。この「ア」と「イ」のそれぞれに(ア)から(ウ)というのがあって、これが要するに、より細かい単元です。つまり、情報I・情報IIの両方にそれぞれ12分野の項目が設定されているということです。
下図が情報Iと情報IIの各12分野、合わせて24分野を表にしたものです。
例えば情報Iの(3)の(イ)は「アルゴリズムとプログラミング」です。それぞれに対して「ア」知識・理解と「イ」思考力・判断力・表現力が挙げられており、その記述を挙げてみると、いくつかの分野・項目に関しては「評価」「改善」という言葉が使われています。
次期学習指導要領の情報I・情報IIを10分野に整理
これをもとにして、ルーブリックの分野設定をしました。下図の10分野です。「データベース」は情報システムと合わせています。「データ分析」は、データベースよりもデータサイエンスに近いですね。それから、「情報デザインとコンテンツ」ということで、情報デザインの中にコンテンツを含めました。「デジタル表現」は、指導要領の独立した項目分野にはなっていませんが、教科としては重要であるので、分野を一つ立てました。
これは情報教育の参照基準の11カテゴリーと対応付けると、下図になります。
問題解決に関しては、ある意味情報分野全体の総合力ということで、情報I・情報IIの分野としては設定しませんでした。
ルーブリックの一般形を作り、分野や目標レベルに合わせて評価軸や観点を変えていく
ルーブリックの一般形が下図です。レベル1が、与えられた記述を理解して、それをそのまま実行できるというレベルです。レベル2は、そういう記述の意味を理解して説明できるということです。また、異なった目的に対して、修正や変更ができるというのもこのレベル2です。
レベル3は、目的に応じて何らかの記述やプログラムを作ることができるということです。そしてレベル4は、何らかの尺度にしたがってよりよいものを作ることができる、ということになります。
従来我々はこのレベル4まで作っていましたが、指導要領に評価・改善という考え方が入ってきたので、新たに5番目のレベルを設けました。これは、私の考えでは時間軸が入っていて、要は作ったものを評価・改善できる、ということです。作ったものだけでなく、作る過程も振り返って、それを評価してよりよいものに改善していけるというレベルであると解釈しました。ただし、全ての分野に5レベルがあるわけではなく、「アルゴリズムとプログラミング」「情報システムとデータベース」「データ分析」「情報デザインとコンテンツ」の4分野だけに設定しました。
「アルゴリズムとプログラミング」のルーブリックの具体的な記述が下図です。分野ごとにレベル分けが多少違っていて、例えばこの分野では、レベル2が2-1から2-3まで作ってあります。そして、先ほどお話ししたように、レベル5として「設計したアルゴリズム/プログラム、およびその過程を評価し改善することができる」という高次のレベルを入れてあります。
我々の考えでは、情報Iと情報IIのルーブリックは同じで、情報Iでも評価・改善まで含まれると考えています。ただ、情報Iと情報IIでは評価の観点や軸が違います。例えば、プログラミング言語では、情報Iは手続き型の制御構造と関数定義までですが、情報IIではモジュール機能やオブジェクト指向まで入ってくることになります。また、開発体制に関しては、情報Iは個人または少人数のチームですが、情報IIでは設計、実装、テスト、運用の段階を踏むという、チームとしての開発という観点や軸が入ってきます。そういうことで情報Iと情報IIを区別しようとしています。
我々は各ルーブリックの各レベルに対して必要な思考力・判断力・表現力を明確化して、それに従って、各レベルの問題を作る方法を定式化するということを目指しています。
今後は次期指導要領をもとに先ほどの10分野でルーブリックを洗練し、確定していく。それから、各分野の各レベルとTJEもしくはTJEM(思考力・判断力・表現力・メタストラテジー)の対応付けということですね。特にレベル5と新しく入った「メタストラテジー」との関係を検討していきたいと考えています。また、各分野の各レベルの問題作成方法の定式化も行っていきたいと考えています。
さらに、この事業の目標として自動作問という課題が入っているので、こちらについても研究を進めて行きたいと考えております。