新学習指導要領における教育の情報化の位置付け
東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也先生
3.これからの課題
学習指導要領がICT環境整備に言及した
最後にまとめとしてこれからの課題をお話します。
先ほどお話ししたように、学習の基盤となる情報活用能力を付けるためには、学校の授業の中ICTを使う機会がたくさんあることが必要です。そうなると、学校にいろいろなICT環境が整備されていなければならない、ということになります。このスライドは、学習指導要領の総則の文言ですが、情報に関する『必要な環境を整え』とあります。学習指導要領は教育の内容を規定するものですが、時々、「チームティーチングをやったらどうか」とか、「習熟度別をやったらどうか」といった教育方法についても言及します。これは非常に珍しく、教育環境に口を出した初めての例です。つまり、学習指導要領に書かれているということは、これがちゃんとやれない学校では設置者義務を果たしていないということになります。
ただ、義務教育においては、学校の多くは市町村立なので、自治体による差が大きいということはあります。日本には約1740の自治体がありますが、そこには財政力に合わせて、地方交付税交付金という形で、財政力の高くないところには国からたくさんのお金がいくという形になっています。逆に、これが行かないところは、行かなくてもできるでしょ、ということになりますね。
国は学校のICT整備のために、地方交付税を1678億円毎年計上しています。そうして地方にお金は行っていますが、そのお金をどう使うかは各自治体の判断に任されます。橋を作ったり、耐震補強をしたりするのもすべて大事なことですが、教育に回すかどうかは各自治体の判断です。たぶん偉い人たちは、「子どもはコンピュータなどいじらずに外で遊んだほうがいいんじゃないの。小学校でコンピュータなんてあまり使っていないし…」とか、かなり時代錯誤な議論をされているのではないかと思います。今日お話をしたようなことがうまく伝わればと思うのですが、こういうところに偉い人が来ることはほとんどないんですね。是非みなさん、偉くなってください(笑)。
ICTの整備状況は自治体による格差が大きい
先ほど情報活用能力のところでお話したように、自治体による整備に差があると、利用頻度に差が出るので、それが子どもの情報活用能力の格差になり、子どもの情報活用能力が基盤として学習に機能しますから、そうすると教科の学習の深まりの違いになる。これは一大事だと思いませんか。整備なくして活用するのは無理ですから、整備をどう行うかは非常に大きな課題です。こちらは東京都内の23区と市の整備状況のグラフです。かなり遅れているところもありますが、そういうところは逆に次の1年でぐっと整備が進むとも考えられますね。
自治体の立場で言えば、ICT整備を進めるためのお金だけでなく、ICTに詳しい人が指導主事にいないとか、小さな自治体では指導主事がいない、教員系の人が教育委員会にいないということもあります。そのため、国は学習指導要領を満足するための最低限必要なICT設備を定義して、それを指針として出しました。
それの一つが、「学習者用コンピュータは3クラスに1クラス分」ということです。これは文部科学省が決定したことです。それに併せて、2018年の今年度から国は、地方交付税交付金を1678億円から1805億円に増額しました。人口減なのに増額するというのは滅多にないことですが、そこまでやって「入れてくださいね」ということです。これは今、大きな曲がり角に来ていることを示しています。
ICT環境の整備方針は小中高すべてに関係、次期学習指導要領にもつながっていく
有識者会議のまとめには、この整備方針は小学校・中学校・高校にも関係することや、次の学習指導要領にも関係することなど、いろいろ書かれています。とりわけ『…小学校についてはコンピュータ教室を必ず活用することを前提とした特定の教科等がないので、コンピュータ教室に配備されている学習者用コンピュータを順次可動式にして(可動式というのもすごいですよね。今時はだいたい可動式ですよね)、当該可動式学習者用コンピュータを普通教室及び特別教室において積極的に活用する』と。小学校にはパソコン室はもう要らないですよ。中学では「技術」があるのでそうもいかないのですが。これからはどんどんいろいろな場で日常的に使わせましょうというわけです。
大型提示装置は小・中・高・特別支援学校のすべての普通教室・特別教室に常設、と書かれています。実物投影装置も小学校や特別支援学校は普通教室・特別教室に常設です。中学・高校は、子どもがタブレットを持っているからそれで代替できるでしょう、という考え方です。
指導者用のコンピュータも授業を担任する先生、これは非常勤も含めて全員に持たせることになっています。学習者用コンピュータは3クラスに1クラス分ですが、「最終的には1人1台専用が望ましい」と書いてあります。つまりBYOD(Bring your own device)のようなものが理想なのです。今は難しいとしても、情報活用能力を駆使して、家でも学校でも学習が繋がっていくようなことを考えると、1人1台学校に持ってきて、持って帰って家でも続きをする、というのがこれからは理想です。国はそれを見据えた上で、今は現実的な予算措置から言えばこれくらいだというのが「3クラスで1クラス分」ということになります。
第三次教育振興基本計画では、整備状況とともに教員のICT活用指導力のチェックも
さらに、平成30年度から第三次教育振興基本計画がスタートしています。これは文部科学省ではなく、政府が主導するものですが、その中に今のようなことが書いてあって、さらに、「地方交付税交付金を出しているのだから、きちんと整備しているかどうか自治体をチェックしますよ」というわけですね。
KPI(Key Performance Indicators)という測定指標で、先生のICT活用力・指導力が伸びているか、子ども用の端末が3クラスに1クラス分整備されているか等について調べるものです。このことを知っている教育委員会の人がどれくらいいるか。それが今や課題ということになります。
もう一つが教員のICT活用指導力です。先生が子供たちにICTにまつわるいろいろな指導をするわけですが、丸が2つ付いていますが、上のBは先生が授業中にICTを活用して教えるということですが、これはずっと伸びて行ってC(児童のICT活用を指導する能力)を抜きました。特に平成22年くらいからぐっと伸びて、勾配が他のものより大きいのがわかります。これはICTが普通教室に普通に整備されるようになったら、先生も使うことになるので、おのずと伸びるのです。整備が先生の能力を底上げしているということになる。伸び悩んでいるのは、先ほど挙げたC(子どもがICTを使うことを先生が指導する能力)です。これからはこれが伸びなくてはいけないですね。これをどのように伸ばすかが課題になっています。
先生が指導する力を付けていくためには、まずは何らかの形でとりあえず活用を始める、ということだと思います。例えば、タブレットで料理のレシピを見ながら調理をするなどといった、家でやっていることとあまり変わらないですが、そこからでいいのです。
あるいは、外部の方が来られて特別な活動をする時、その様子を動画で撮って、あとで振り返る、ということもできますね。まずはそういうところから始めてみて、授業での感覚を先生自身がつかんでいくのがよいでしょう。
プログラミングは、最初からすべての子どもたちが急にできるということはないので、例えばクラブ活動から始めてみるとか、あるクラスからやってみるとか、そういうことを今から試行錯誤的に始めてみる、そういう段階にあると思います。
ICTの利活用は働き方改革にも
最後に、働き方改革と情報化は非常に密接に関係して、今同時に進んでいます。ですから最初に申し上げたように、名簿情報を出席簿に使うとか、成績処理や通知簿、指導要録に使うとかいう形で、だんだんデータの再利用が増えていくことは、入学の時から始まって指導要録を記録保持として5年間は保存するというところまで、全部つながっている話なのです。そういう校務の情報化ができているかを、今一度見直さなければならないタイミングに来ています。多くの自治体で校務支援システムの導入が実現していますから、導入したものがどのように活用されているかを確認する段階に来ていますよ、ということになります。