国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会
New Education Expo2018
~学校のICT環境整備は待ったなし、生徒にも教員にも安全・便利・快適な学びの環境作りへ
最新の教材・教具やソリューション、有識者や現場の先生方による多彩なセミナーが一堂に会する「New Education Expo2018」が開催されました(東京6月7~9日、大阪6月15~16日)。
小学校・中学校に続いて、今年3月には高校の次期学習指導要領が公表され、教育の情報化の内容がより明らかになりました。また、昨年12月には文部科学省から「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針について」が示され、これを受けて総務省では、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」(2018~22年度)として単年度1805億円の地方交付税措置を講じることを決めました。これはつまり、各教育委員会が「未来の創り手となるための力」を育成するために、自治体に働きかけて予算を取り、学校のICT環境の安定的かつ計画的な整備を推進することが、文字通り待ったなしの状況になったということでもあります。
小学校のプログラミング教育の必修化や教科活動の中でのICT機器の活用に向けて、既存の教材に小学生向けのバージョンや機能を付けたものも目立ちました。プログラミングのワークショップや実践事例報告には、多くの方々が集まっていました。
セミナーレポート
[特別講演]
東北大学 大学院情報科学研究科 堀田龍也先生
[高大接続の動向]
文部科学省高等教育局大学振興課 山田泰造氏
■大阪大学大学院情報科学研究科 萩原兼一先生
■広島大学副学長補佐 松浦伸和先生
[教育の情報化の最新動向~各省の施策から見た教育の情報化の動向]
■2020年度からの新学習指導要領を踏まえた教育の情報化の推進について
文部科学省生涯学習政策局情報教育課 梅村研氏
経済産業省サービス政策課教育産業室 坂本和也氏
■教育ICTと総務省の取り組み
総務省情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室長 田村卓也氏
[パネルディスカッション:小学校プログラミング教育の現状と展望]
放送大学 中川一史先生(コーディネータ)
宮城教育大学 安藤明伸先生
戸田市教育委員会 川和田亨氏
■教科教育の枠組みで実施する小学校プログラミング教育の授業実践
茨城大学附属小学校 清水匠先生
備前市立香登小学校 津下哲也先生
展示レポート
教具・教材のポイントは「どんなことができるか」から「どんな力を育てられるか」へ。校務の情報化は働き方改革も視野に
今回のセミナー・企業展示について、内田洋行ICTプロダクト企画部部長の畠田浩史さんにお話をうかがいました。
23回目となる今回は約100社(協賛のみ含め約120社)が出展しています。大型表示装置やデジタル教科書が出揃い、授業の中での使い方や主な機能がほぼ認知されたフェーズになったと言えます。それに伴って、教具や教材の展示では、「それを使ってどんなことができるか」よりも、21世紀型スキルや、資質・能力の3要素などに示されるような「どんな力を育てることができるか」ということをポイントにしているところが多くなったと思います。
今年の特色として、様々な英語教材の出展がありました。これは、2020年から小学校の英語が教科になり、また大学入試も2020年度から「読む・書く・聞く・話す」の4技能を評価するために、民間の資格・検定試験の利用が始まるため、これらのためのe-learningの教材が出てきています。4技能の中でも、特に話す・聞く力は、一斉式の授業では個々の生徒の理解に合わせた指導は難しいですが、ICTはもともとadaptiveな環境作りに適していますので、今後も4技能対策についてはいろいろな教材が出てくることでしょう。
また2020年には、小学校のプログラミング教育も始まります。今回の企業展示や「フューチャークラスルームⓇライブ」でのプログラミング教材では、ただプログラムを書くというだけでなく、より広い意味の次世代スキルの育成を意識したものが紹介されています。
また、現在法改正に向けて動いている「働き方改革」も今回のキーワードと言えます。校務システムの導入で先生方の業務を軽減し、労働負荷を下げるという観点を強調したものが目立ちました。ワンストップで様々な業務を関連付けたり、「使うたびにいちいち〇〇する」というちょっとした手間を減らす工夫をしたり、というきめ細かな機能改善の工夫が進んでいます。ICTはログを残すことができるので、先生方の業務量を把握することも可能になります。このように、ICTを使って授業だけでなく、学校全体を便利で安心・安全な方向に進めようとする大きな動きが見られます。
■AIを利用したアクティブ・ラーニング
授業の中で話し合いをしたり、自分の意見を書かせたりする場面で、クラス全体でどんな意見が出ているのかを先生が把握したり、共有したりすることは現実にはなかなか難しいことですが、AIを使って生徒の意見のキーワード抽出をする仕組みが登場しました。これは、予め先生が設定した質問に生徒がタブレットやスマホで答えると、その答えをAIが読み取って、キーワードをワードクラウドのように表示するものです。
これによって一人ひとりの意見が可視化され、少数意見ももれなく汲み上げることができます。また、一つのキーワードをタップすると、この言葉を含んだ解答がテキストで表示されるため、同じキーワードを使っていてもとらえ方が違う場合があることを知ることもできます。
これは、話し合いの段階ごとに表示することで、話し合いを経て全体の意見がどのように変化したかを
見ることもでき、生徒自身が思考のプロセスをとらえることにもつながります。
■複数クラスや学年でタブレットをスムーズに使い分けるための運用管理ソフト
ICT環境の整備目標として、まずは「3クラスに1台分のICT端末」が示されているように、当面は複数のクラスや学年で同じタブレットを共有して使う場面が多くなりそうです。その際、先生が自分が使いたい設定にスムーズに切り替えるためのソフトが紹介されていました。予め決めておいたアイコンやメニューのセットを選択するだけで、全てのタブレットを一度に切り替えることができます。またこのソフトでは、タブレットの端末が故障したり動作不良を起こしたりした時に、再起動をかければすばやく正常に動く環境に戻すことができるので、サポートデスクに依頼する手間をかけなくてよいところがポイントです。
■電子黒板や大型投影機は「先生の使いやすさ」を重視する機能へ
今や教室の必需品となった電子黒板は、先生方が授業で使う際のちょっとした使いやすさをフォローする機能が前面に出る展示が多くなりました。特に、インターフェイスをよりわかりやすくして、いろいろ書き込みをしてもボタン一つでホーム画面に戻れたり、大きな容量のデータが流れても動きが途切れないようにしたりするなど、「ICT機器ならではのストレス」をできるだけ軽減する改良がなされています。
また、電子黒板は、遠隔地の学校同士をICTでつないで合同授業をする際にも活用されています。以前は、機器本体の品質としてアピールされることが多かった広角画面や内蔵マイクの品質が、遠隔授業でよく行われる活動をよりやり易くする機能として紹介されているのが目立ちました。
■学校内の無線LAN環境構築に向けて
様々な場面でタブレットなどの端末を使うようになると、安定的な通信環境を作ることが必要になります。授業で一斉に動画を見ても通信が切れないよう、各社ともアンテナの形を改良したり、自動的に帯域を割り振ったりすることで、安定した通信状態を確保できるようにしていました。特に、空港や基地周辺など通信に規制がかかることがある地域でも通信状態を途切れることなく保つなどといった、地域の特色にも配慮したサービスも紹介されていました。
また、校内で生徒が好き放題に無線LANを使うことのコントロールをするために、スケジュール機能を搭載して生徒が登校しない日には自動的にOFFにできる機能や、予め登録した端末以外はアクセスできないようにするといった管理機能にも配慮が見られました。
また、学校が災害時に避難所として使われるために、授業での使用時とのスムーズな切り替えやセキュリティ保護に配慮した機能も目立ちました。こういった環境整備は、個別の学校よりも自治体・教育委員会単位での問い合わせが多いとのことでした。
■器材の保管や充電にも一工夫
学校内で一度に多数のタブレットを使うことになると、その保管や充電もスムーズに行えることが必要です。こちらは、保管庫と充電装置が一体化したもので、仕切り版に付いた溝でケーブルを固定できるようになっており、タブレットの出し入れがスムーズに行えます。また、5パターンのタイマーが設定できるので、夜間の電気料金が安い時間帯に充電することができます。
■デジタル教科書は学習者用と教員用の機能のブラッシュアップ
ほぼ基本的な機能が出揃った感があるデジタル教科書ですが、学校教育法の改正で、今後学習者用のデジタル教科書の使用が認められるようになると、どのような力を付けさせたいか、ということを明確にして、学習者用と教員用で機能を分けていく、あるいは連携させて使えるようにすることも重要になるという話を聞きました。
今回紹介されていたある教員用の国語の教科書には、教科書に掲載されている本文を全文表示する機能がありました。ページをまたぐとつながりがわかりにくくなる意味のつながりを、全文表示することで可視化することで、より俯瞰的な読解力を付けることをねらっています。デジタル教科書は拡大だけでなく、資料の全体を見渡すことにも有効であることが示されました。
■小学校理科の学習指導要領に合わせたプログラミング教材
昨年度も出展された「MESH」は、動きや明るさや温度などのセンサー、LEDライト、ボタンなどの様々な機能の付いた小さなブロック状の電子タグで、タブレットの画面上でビジュアル操作で簡単にプログラムを書いて動かすことができます。
今回、このMESHにはスイッチの機能が加わりました。これは、5年生の理科の「電気の利用」の単元で、明るさや温度を感知して自動的にスイッチがON-OFFになる仕組みを扱うためのものです。これを使うと、暗くなると自動的にスイッチが入る照明の仕組みがプログラムによって制御されていることがわかります。またクラス全体でプログラムの手順を考えたり、グループで話し合ったりする時のためのボードや貼り付け用のマグネットなども準備されていました。
■小学校算数用の教材作成ソフト
小学校の算数で、先生が独自の問題や説明用の教材を作りたいと思っても、既存のソフトでは数式やグラフ、図形などを組合わせるのは実は非常に難しいものがあります。このソフトは、算数の各単元の内容をアニメーションやフラッシュカードなどにしたものが準備されているのとともに、先生が自分で例題を作る時に使う具体物のスタンプも準備されています。教材はブラウザ上で作り、できたものは保存できるので、前に作ったものを応用したり、先生同士で共有したりすることができます。
小学校の算数では、具体物を使って概念を理解することが重要ですが、教材を準備する時間がかかったり、切ったり貼ったりといった作業を理想的に行うのはなかなかたいへんです。このような負担を軽減することができるソフトです。
■コンピュータを使わないプログラミング教育=アンプラグドで論理的思考を育む
小学校のプログラミング教育導入にあたっては、実査際にコンピュータに触れる時だけでなく、コンピュータを使わない場面でも「プログラミング的思考」を育てていくことも必要になります。そのためのアンプラグド教材が紹介されていました。
好奇心いっぱいの女の子が冒険する中で、ダンスを通じて「ループ」を、服装選びのワークシートを通じて「条件分岐」を、歯磨きの仕方などの日常動作をワークシートに記入することで、シーケンス(順序)やデバッグ(バグ直し)を学ぶといった、プログラミングに必要な論理的思考を育む工夫がなされており、低学年の子どもたちにも無理なく取り組めます。先生用に指導のポイントをまとめたDVDも付属しています。
■「読むこと」が苦手な生徒をフォローする「読み上げ教材」
「読み上げ教材」は、英語教材ではすでに一般的になっていますが、読む速度が遅い・正確に読むことが苦手といった生徒のためのソフトがいくつかの企業から出展されていました。タブレットを使ってテキストや問題文を読み上げてあげることで、生徒はねらいとする活動に集中することができ、先生の負担を軽減することが可能になります。
文章のハイライト表示と音声の読み上げで支援をしますが、文字の大きさや色を変えたり、読み上げ速度を調節したりと、生徒の理解度やペースに合わせて学習を進めていくことができます。また、スキャンしたデータや文書作成ソフトで作ったものを取り込むオプションが付いているものもありました。
[取材を終えて]
この「New Education Expo2018」が開催される直前に、内閣府や文部科学省から「大学入学共通テストに情報を導入?」「小中高大を通して統計・データサイエンス教育の充実をはかる」などの発表が立て続けにありました。「Society5.0(=『狩猟社会』『農耕社会』『工業社会』『情報社会』に続く、人類史上5番目の新しい社会)」の到来と、少子高齢化による産業に従事できる人口減少に備えて、その中でAIを使いこなして働くことができる人材の育成は、重要な国家戦略の一つとなってきたことがわかります。教育改革は、今後これまでとは全く異なるスピード感と勢いで加速していくのかもしれません。
次期学習指導要領には、学校のICT環境の整備も明記されており、これは学習指導要領としては異例のことであるそうです。授業の進め方も、教室の環境もかつてない大きな転換点を迎える中で、先生方は何を選び、取り入れていけばよいのか。今回の企業展示やセミナーは、将来日本の教育を顧みる際に重要な通過点となるのではないかと思われたことでした。