大学入学者選抜改革の動向
文部科学省 高等教育局大学振興課 大学入試室 室長 山田泰造氏
高校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的な改革が必要
私からは、高大接続改革の一部を担っている大学入学者選抜、つまり大学入試の改革についてご説明したいと思います。
急速かつ大きく変革していく社会の中で、新たな価値を創造する力を育てることが必要になります。このため、高校教育・大学教育を通して、社会で自律的に活動していくために必要な「学力の3要素」、つまり知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、生徒の主体的な取り組み・学びに向かう姿勢をバランスよく育むことが求められます。
そのためには、高校と大学のつなぎ目となる大学入試でも、今までのような知識・技能中心でなく、学力の3要素の他の二つ、つまり思考力・判断力・表現力や、生徒の主体的な取り組み・学びに向かう姿勢というものも評価していくことを目指しております。
大きな改革の柱は、下図にある三つになります。そのうち二つは大学入学共通テスト、現在のセンター試験の改革です。こちらは平成32年(2020年)度、すなわち平成33年(2021年)1月に実施されるテストが、「センター試験」ではなく、「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)」という名前で実施をされることになります。記述式問題の導入とありますが、国語と数学でそれぞれ3問追加をいたします。また、これまでどおりマークシート式の問題も実施しますが、マークシート式の内容についても改善を図っているところです。
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国語は80字から120字程度の記述問題を3問、数学は問題の中に混ぜて文章で答えを書かせるタイプの問題を3問、それぞれ国語は20分、数学は10分、時間を追加して実施をしていきたいと考えております。またマークシートについては、大学入試センター(以下、センター)でこれまで作問の工夫をしており、その成果でマークシートでもいろいろなことが測れるようになってきています。センターが実施した大学生を対象としたフィージビリティスタディでも、同じような問題でも選択肢と記述式では正当率に差が出るという結果が出ており、やはりマークシートでは測れない部分があるのではないか、ということが考えられます。ただ、50万人が一斉に受験する試験で評価できる範囲には限界がありますし、また共通テストは、基礎的・一般的な部分を評価するものとして実施することが目的です。思考力・判断力・表現力を完璧に評価するのは、どんな試験でも難しいことですが、共通テストではあくまで基礎的、基盤的な思考力・判断力・表現力を評価するために、3問ずつ実施をしたいと考えています。
また英語については、学習指導要領における外国語の学習においては、「読む・書く・聞く・話す」のいわゆる4技能の習得とその評価が必要です。我々が高校3年生に対して行った調査でも、圧倒的に書くことと話すことが苦手という結果が出ています。これは高校教育だけが悪いのではなく、大学入試が原因となっている部分もあるのではないかと思います。この4技能については、民間事業者が実施する試験についても活用できるようにする必要があるのではないかと考え、試験の内容と実施体制を評価し、入学者選抜に適した試験を認定しました。高校3年生は、事前に登録した業者試験を、3年生の4月から12月までの間に2回まで受検できることとします。この成績データを大学入試センターに提出してもらい、センターが電子データで共通テストの成績とともに各大学に送るようにすれば、受験生も出願しやすく、また大学側も4技能部分の評価がしやすいという仕組みができると考えています。
個別の各大学の入試については、先ほどお話ししたように、現状では知識・技能の評価に偏っていて、学力の3要素を十分に評価できていないという問題があります。また、いわゆるAO入試や推薦入試の中には学力不問のものがあり、早期に合格が決まってしまった人の学習意欲が低下するという指摘があります。そういった課題を見直すために、どのような形式の試験であっても、小論文やプレゼンテーション、共通テストなど何らかの形で学力を問うようにすることとします。さらに、調査書の様式を改善し、また高校生活への影響を考えて、試験時期や合格発表時期を現在よりも後ろにずらすなどといった改革も併せて実施していくことになっています。
共通テスト試行調査から明らかになってきた課題
昨年(2017年)11月に、共通テストの試行調査(プレテスト)を実施しました。下図にあるように、多くの高校生に受験していただき、アンケートを感想で答えていただきました。また、同じ問題を有識者の方にも解いていただいて、こちらも感想をうかがっています。それらを通して、様々な課題が明らかになりました。
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その中で我々が一番知りたかったのは、共通テストの中で記述式の問題をどのように実施していくかということです。例えば、作問するセンターと採点する業者との連携の仕方です。試行調査では、情報の漏えいが起こらないことを重視して、テストが始まるまで業者にほとんど内容を知らせず、実施して初めて業者に渡して採点してもらいましたが、やはり厳重な守秘義務を課した上で、作問の段階から両者で擦り合わせていった方が、よりよい採点ができることがわかってきました。また、途中で何回かセンターがチェックをしますが、その頻度をもう少し増やしたほうがよいということもわかりました。
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また、昨年の試行調査は、会場はそれぞれの高校で、期間にある程度余裕を持たせるために、1週間の中で都合の良い時に受験してもらう、という形にしましたが、今年11月に行う予定の2回目の試行調査は、本番直前の最後の試行になります。これが終わると、センターは本番に使う問題の作問に取り掛かりますので、大規模なものとしては、これが最後になります。ですから、これはぜひ本番と同じような方法や環境で実施したいと思います。大学に会場をご提供いただき、高校3年生皆さんにも受験のご協力をいただければと思います。
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昨年実施した試行調査は、問題全体のバランスよりも、こんな問題を出したらどうかという、作問の狙いそのものをかなり重視したため、いわば「とんがった問題」が多くなりました。今回は、入試問題としてのバランスを重視し、難易度についても、50パーセントぐらいの正答率を意識して作ろうと考えています。
また、例えば英語は民間の資格・検定試験も活用しますので、共通テストでは発音問題やアクセント問題、従来ライティングの代わりに実施していた語順の並べ替え問題などは、役割分担の観点として出題しないということにします。そういった視点で今回の試行調査の問題をご覧いただければ、本番の共通テストがどのような形になるかということがおわかりいただけるかと思います。
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英語4技能の民間団体による資格・検定試験の扱い方
先ほどもお話ししたように、英語の4技能の評価、民間の英語の資格・検定試験の結果を活用することになっています。今までは、受験生がAO入試や推薦入試などで、資格・検定試験の結果を提出する際には、受検結果の証明書をもらって、願書と一緒に大学に紙で(一部データで)提出していました。しかし、一般入試で何千人、何万人という受験生がいる場合にはこの方法は使えないので、大学入試センターが窓口となってデータのやりとりをすることとなりました。
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センターは、受験生が事前に登録した2回分までの成績を実施団体からデータで頂戴しておきます。大学はセンターに、「この受験生は、〇〇の結果を使いたいと言っているから、データを提供してほしい」と請求します。センターは、「この人の大学入学共通テストの受験結果は、国語は〇〇点で、国語の記述試験の評価は◎ でした。数学は△△点でした…」というのと一緒に、英語の民間試験の成績とそのCEFR(※1)とともに大学に戻し、活用してもらう(※2)、というのがこのシステムの仕組みです。できれば一般入試だけでなく、夏以降に行われる推薦入試やAO入試においても、大学入学共通テストを受験しない生徒の分も成績提供できるようにすると、より利便性が上がるのではないかと考えて、現在検討を進めています。
※1Common European Framework of Reference:
※2 2023年度までは大学入試センターが実施する共通テストでも英語を実施。外部業者による資格・検定試験と共通テストの英語のいずれか、または双方を活用するのかは大学の判断に委ねられる。
大学入試英語成績提供システムへの参加要件
実施団体の確認には、これまでの実績や、1回の試験で4技能を偏りなく評価できることなど、様々な要件を定めました。今まで実績があっても一次試験・二次試験に分かれているものは、今回の対象とはしませんでした。さらに高校の学習指導要領との整合性や、CEFRが定めるマニュアルにのっとって、参照ができるようになっているかということも検証しました。
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実施については、原則全都道府県で複数回実施、最低でも16ブロックで実施できることとしています。さらに受検料や障害のある受検生への配慮、試験官は外部の人が行うこと、不正の防止や不測の事態への対処方針というものも要件として定めました。そして、一度採用を認定したとしても、要件を満たさない場合には、認定の解除もありうるということを条件として、下記の7団体23の試験を認定しました。
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高等教育の無償化に大学入試も含められるように制度改革を実施
これまでは、大学を受験するかどうかということは個人の範疇に属するものであるということで、国のお金を個々人の大学受験のために使うことはほとんどありませんでした。また、英語の4技能のために資格・認定試験を受検することについても、個人の資質・能力の開発であるということで、これまで国が支援をすることはほとんどありませんでしたが、昨年12月に「新しい経済パッケージ」ということで、高等教育の部分的な無償化が決定され、現在、政府部内で詳細を検討しているところです。
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この政策には二つの柱があります。一つは高等教育の授業料の減免です。経済的に厳しいご家庭のご子弟については、授業料を取らない、あるいは減らすということができないかということ。二つ目は、給付型の奨学金を準備するということです。これは学費に加えて、学生生活を送るのに必要な生活費も含めようとしています。この生活費の中には、大学等の受験料を計上します。ただし、この給付型奨学金は大学生に対するものなので、実際に受け取れるのは合格して大学に入学した後となります。今は、いろいろなつなぎ融資があるので、そこで給付型奨学金の予約をしていただいて、大学の受験料を出していただけるようにします。今、政府部内で具体を調整をしているところです。
高校に対して各団体の試験に対するニーズ調査も実施
下図が、先ほどお見せした7団体の試験の一覧です。我々が今、高校の関係者にお願いしているのは、この試験に対するニーズ調査です。
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具体的には、現在の高校1年生が2020年に高校3年生になって、その年の4月から12月に英語の資格検定試験を受検するとして、何月頃、どの試験を、できれば何級まで受検しそうですか、という情報を頂戴したいと考えています。
その結果で個々の試験に対する具体的なニーズがわかれば、試験会場をより都合のよいところに設定したり、あるいはある程度受検者が集まるのであれば受検料を下げられないか、ということをお願いしたり、ということが考えられます。
各大学では今、この資格検定試験をどのような観点で活用するかを検討いただいていると思います。その結果を、今年7月末頃に次年度の募集要項を出すのと一緒に予告できるよう準備していただいていると聞いています。高校には、その予告を見てどの試験をどのように受検するかということを検討していただき、先ほどのニーズ調査に回答して、9月に返送していただければ、と考えております。
下図は大学に提示するCEFRの対照表です。例えば「Aさんはケンブリッジ英検の、この試験を受けて、この時は111点でした。それはCEFRの A1に相当するものです」という情報が各大学に行くことになります。
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AO・推薦入試でも何らかの学力試験を実施。一般選抜でも調査書や本人記入の資料を重視
ここからは各大学の個別入試についてお話しします。個別選抜は、名前が若干変わって、これまでの一般入試が「一般選抜」、AO入試が「総合型選抜」、推薦入試が「学校推薦型選抜」となります。そして、どの試験区分においても学力の3要素を重視していこうということで、総合型選抜(AO入試)、学校推薦型選抜(推薦入試)でも何らかの学力の評価を課します。さらに、一般選抜についても、調査書や、志願者本人が記載する資料を重視するようになり、どの試験区分でも多面的・総合的な評価を実施していただくことになります。
また、一般選抜試験にあたっては評価項目を増やす、記述問題を多用する、英語は4技能を使うようにする、といったお願いも併せて出しています。
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先ほどお話ししたように、総合型選抜や学校推薦型選抜は実施時期・合格発表が若干後ろになります。
さらに大変細かい話ですが、現在「推薦入試の合格発表は一般入試の10日前までに実施する」というルールがあります。これは基本維持しますが、今回共通テストの提供が現在より10日間遅れるので、共通テストを使う推薦入試の場合は、一般入試の前日まででよいということに改めることを予定しています。
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また、現在一番遅いところでは4月15日頃まで試験を実施し、合格発表は4月20日でよいとされているのですが、やはり年度をまたぐのはよくないということで、合格発表までを全て年度内に収まるようにします。
逆に、12月以前に入学が決まった生徒に対しては、入学前教育を積極的に講じることとしていただきます。これは、各高校が大学と連携して、生徒の学習意欲を維持するよう必要な指導を行うよう努めていただくということです。
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個別大学の入試については、各分野の評価指標について、文部科学省から委託をして様々な研究をしております。このあと情報分野の大阪大学と理数分野の広島大学の先生からお話をしていだきます。
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この中にある主体性の評価では、ICT の活用による主体性の評価ということができないかということで、「JAPAN e-portfolio」というものを開発をしており、既に80数大学と千数百校の高校もご参加いただいています。これは国の研究開発の一環なので、入る、入らないは各高校・各大学のご判断ですので、われわれはこれを強制したりとか、これに入らないと不利益になりますよ、ということを申し上げることはございません。
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大学入試の出題ミスの防止と対策の強化
最後に大学の入試の出題ミスの防止についてです。最近立て続けに大きなミスが発覚しましたが、一昨日、6月5日に林文部科学大臣から発表しましたように、この時の反省を踏まえ、また両大学の再発防止策等も踏まえて、新たなルールを設定して、各大学や高校関係者に通知をしました。
入試問題は、今までは各大学に対しては、試験問題・解答例ともになるべく開示に努めてください、という言い方でしたが、今後は、原則として公表ということになりました。ただ、記述式の問題については、ねらいを書いてもらうとか、標準的な解答例を公表してもらうというような形でもよい、としております。
さらに、入試業務全体に対するガバナンス体制をしっかり作り、全学的な体制でミスの防止をしていただきたい。また、問題作成時のチェックはかなりされていると思いますが、試験中または試験後においても再チェックを実施して、なるべく早くミスを発見し、合格発表に影響を及ぼさないというよう取り組んでいただくということ、外部から指摘があった場合には組織的に対応していただくという形にしたいと思っております。
われわれの意図としては、これは今後例えば記述式の問題を出題する場合、採点が大変になりますが、選択肢問題を作る際の条件設定の厳しさなどからは自由になれるという意味で捉えていただきたいと思います。