平成30年度全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 大学入学者選抜改革エキスポ
大学入学共通テストでの問題例の説明
大杉住子氏 独立行政法人大学入試センター 審議役(新テスト作問担当・調査研究機能強化担当)
本日私からは、大学入学共通テスト(新テスト)の実施に向けて行われた試行調査の問題例等についてお話をいたします。時間が限られていますので、詳しい内容や資料、具体的な問題につきましては、ぜひ大学入試センターのホームページ(※)をご覧になってください。
※大学入試センター[平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等]
http://www.dnc.ac.jp/sp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h29_01.html
教科教育と学問領域の知見を集め、各教科・科目における問題作成のねらいを明確化
まず、大学入試センターがどのような体制で新テストの準備を進めているかについてお話しします。現在大学入試センターは、下図のように現行のセンター試験を実施する体制と、それと並行して新テストを検討して作っていくという二本柱の組織になっています。そして、右側のピンク色の網がかかった部分、新テストの作問担当の一番下に「試験問題企画官」というポストが設置されています。これは全国の都道府県の高校教員の指導主事経験者等が、各教科・科目の立場から問題の在り方を考えるという常勤のポストです。
試行調査の作問過程では、この試験問題企画官のほか、高校の各科目の教員にもご協力いただき、高校と大学の先生方が一緒になって、高校教育の成果をどう捉えて大学教育につなげていくかを議論し、問題作成のねらいを整理し作問につなげていきました。このような高大連携という形を採った理由は、これから知識や理解の質を問う問題や、思考力を発揮して解くことが求められる問題を作っていく場合、問題のねらいや場面の設定等において、これまで以上に高校における授業や指導の実態を踏まえることが重要になるからです。実験や観察を通じて探究する活動を取り上げた問題などにおいても、これまでも高校生が出会う学びの場面として不自然にならないよう配慮しながら、大学教育の基礎力を問う工夫がなされてきました。新テストではこうした探究の過程を重視されることから、高校生の先生に、教科の立場からどういう学習をしているのか、高校ではどのような学びの経験を積んでいるのか、ということの中から場面設定の在り方について幅広い発想をいただくことが非常に重要になってまいります。
一方で、そうした発想に基づき作られた問題が、学問的な意味での正確性に欠けるということはあってはなりません。具体的な作問は、大学の先生方の手によって学問的な専門性を踏まえしっかりと作り込んでいただくという共同作業で、試行調査の問題は練り上げられてきました。
具体の作問に高校の現場の先生が携わるということになると、問題の秘匿性などの問題が生じますので、高校の先生方には、問題の作成方針づくりに関わっていただき、どのような資質・能力を問おうとするのかと行ったねらいの明確化や場面設定の在り方といった、大きな枠組みに関するアイデアをいただく予定です。そして、具体的な問題作成については、試験問題企画官がサポートさせていただきながら、現行のセンター試験と同様に大学の先生が行うという方向です。
高校から大学へ学びの形が変わる時、入試でどんな力を評価して次につなぐか
高大接続という文脈の中で、高校の先生と大学の先生が入試を通じて何を問うのかを一緒に考え、高校教育がどういう力を育てようとしているのかということと、大学がどのような基礎力を求めているのかということの接点をしっかり作りながら、作問のねらいとするところを整理して作問につなげていく、これがある意味、今回の高大接続改革の一番の要ではないかと思っています。
現在、高校も大学も、何をどのように学び、何ができるようになるかということを、カリキュラムを通じて明確にして育んでいくことを目指した教育改革が進められています。その接点となる大学入試を通じて、高校生の学びの成果をどのように評価し、それを大学教育につないでいくのか。教科書に基づく教科教育という高校教育の世界から、教科書のない大学教育に飛び立ち、その中でより主体的に、より深くより対話的な学びへ進んでいく時、その接点でどういう力を評価して次につないでいくのか。これが問われているということです。
試行試験では問題とともに作問の意図を示した「問題のねらい」も公表
昨年11月に実施した試行試験については、問題例だけでなく、これとセットで作題にあたってどのような問題で、どんな力を測ろうとしたかを示した「問題のねらい」を公表しました。今後の入試を考えるにあたって、この「問題のねらい」こそ重要であると考えていますので、ぜひ問題と併せてこちらも一緒にご覧になってください。
こちらが試行試験の国語の問題のねらいです。表の真ん中に、各問を通じて主に問いたい資質・能力として「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」をそれぞれ示してあります。高校の先生方には、こうした力と日々の授業での指導がどうつながっているかを考え生かしていただく。あるいは大学側にも、センター試験後継の新テストでは、このような力を問うのだということを踏まえて、個別入試の在り方や初年次教育、その後の専門教育の在り方ということを考えていただくことが非常に重要であると思います。
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共通テストで問いたい力と各大学の個別試験で問いたい力の役割分担とは
科目別には下図のように、作問のねらいとする主な思考力・判断力・表現力、およびそれらと出題形式との関係をイメージした表を作っています。今後は、共通テストでこのような力を問うていくということを踏まえながら、各大学の個別入試でどのような力を問いたいのかが議論されてくるようになることを期待しています。
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例えば、国語では新テストで問いたい力として表の左側の(1)から(4)を挙げていますが、共通テストを通じて問うことができるのは、記述問題の最大80~120文字という制約の中で、(3)「テクストの精査・解釈に基づく考えを解答する」ことまでになります。各大学においては、共通テストを通じて(1)~(3)までの力を問うことができていることを前提に、例えば一番下の(4)「テクストの精査・解釈を踏まえて発展させた自分の考えを解答する問題」、つまり自由記述式や小論文を通じて、より発展的に、自分の考えをもっと自由度の高い形式や十分な字数で表現することを個別入試のほうで問うていこう、というような議論を進めていただければと考えています。
大学教育や社会生活における言語活動としても、時数や時間の条件のある中でも端的に考えをまとめて表すということと、制約なく自由に表現する力の両方が大事になってくると考えていますので、共通テストの中では前者をしっかりと問うていく、個別入試では後者のほうに光をあてるという役割分担がなされていくことにつながれば理想的ではないでしょうか。
数学も同様に、この表の左側の(1)~(3)の(2)と(3)の間に二重線が入っていますが、共通テストの記述式問題では数式や短文で解答する形となります。これを踏まえて、問題解決の過程をしっかりと書かせたりする問題など、共通テストでは問えない形式の問題を個別入試の在り方の中で考えていただくということが大事かと思います。
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歴史が下図です。表の左側が考察・構想で、右が説明となっています。マークシート方式では、どうしても説明の部分が手薄になり、考察・構想の力を問うことが中心となります。ただ、例えば資料を活用した問題において、ただ受け身で情報をとらえるのではなく、この表の右上、「説明」部分の点線の中に書いてあるように、資料を活用して論述したり討論したりするというように、情報を能動的に取り入れ使う場面を想定し問題設計に生かすことを検討しています。これは地理や現代社会も同様です。
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理科についても、物理・化学・生物・地学共通で、下記の表を作成しています。課題の把握から解決まですべてを大問に収めきれないこともあるので、プロセスの一部を取り出して作問することもあります。
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センター試験の蓄積を活かしつつ、場面設定では望ましい授業の在り方をメッセージとして出す
このような知識の理解の質を問う問題、思考力・判断力・表現力を発揮して解くことが求められる問題とも、センター試験の蓄積を生かしながら次に向かっています。センター試験でもこれまで様々な良問が出題されています。その蓄積をしっかり生かしながら、さらなる良問作成に向けた工夫・改善を重ねていくことを重視したいと考えています。
知識の理解を問うたり、思考力を発揮させたりするためには、どのような場面で知識や思考力を求めるのかという問題の場面設定が重要になります。ここに挙げられた三つの場面は、最初からこの三つがあったわけではなく、昨年の試行調査の作問過程を通じて知識の理解の質を問う、あるいは思考力等を発揮させるためにはどのような具体的な場面が必要かを検討してきたところ、おおよそこの三つに落ち着くというところが見えてきた、というものです。共通テストでは、このような場面を重視していく方向です。
[具体的な問題例の解説]
■国語:実用的な文章が題材として加わる。記述式の表記に関する周知も必要
このあとは、試行調査の具体的な問題例についてお話しします。
国語の記述式問題は、共通テストを通じて問うことのできる力と題材の相性を踏まえ、当面はこういった実用的な文章と論理的な文章、あるいは実用的な文章と論理的な文章の組み合わせの中から出していきたいと考えております。したがって、文学や古典からは記述式問題は当面出題されない見込みです。
書き出しをひとマス開ける必要はないなど表記の仕方も、高校の国語教育を通じて今一度周知していただく必要があると考えています。
6月には、こういった点も含めて、共通テストの作問方針についてお伝えする通知を発出させていただきます。ぜひご活用ください。
→http://www.dnc.ac.jp/news/20180618-01.html
漢文の問題は、テクストにある太公望について探究学習を行ったノートからも情報を読み取る場面を想定しています。先ほどの三つの場面でいうと、授業の中で生徒が学習する場面です。今回作問にかかわった高校の先生の頭の中には、どこかの高校で行われている「主体的・対話的で深い学び」を目指した古典・漢文の授業が念頭にあって、それを生かして問題を作られたわけです。実際の授業をそのまま出題するわけではありませんが、高校の先生方の授業の工夫が作問のアイデアのもととなり、このような問題が出題されることで、それが先生方の授業のアイデアのもとともなる。それがまた入試の良問にフィードバックされ…というように、「主体的・対話的で深い学び」を目指した授業の在り方と良問作成が相互作用をもって高め合っていく。そういったことも、共通テストの作問において重視していきたいと思います。
■数学:ICTの活用や問題解決のプロセスも重視
下図の数学の問題は、授業におけるグラフ表示ソフトの活用を想定したものです。ICT活用ということへのメッセージでもあります。「今は数学の授業でICTをあまり使ってないので、こういう問題は出さないでくれ」というお声もあるかと思いますが、学習指導要領に各教科等の指導におけるICT活用の重要性が盛り込まれたのは、昨日や今日のことではありません。これからの時代ますますICTは学習においても生活においても活用されることになっていくでしょう。また、特に図形やグラフなどについてはICTを活用して連続的な動きをイメージさせることは数学の学びに非常に役に立つでしょう。今後需要の在り方をとらえながら、こういった問題も出されていくことになると思います。
試行調査の数学の記述式問題は、数式と文章を使いながら一定程度の分量を書かせる問題でしたが、試行調査の結果のデータを見ていただいてわかるとおり、正答率はかなり低く、無回答率も高かったという状況です。
数学の記述式問題にまだまだ慣れていないということもあるかと思いますが、こうした現状を踏まえると、2020年度からの実際の新テストの数学の記述式問題においては、当初はおそらく、もう少しシンプルに数式のみ、あるいは短文で書くということからスタートするということになると思います。作問委員としては本当はここに挙げたような問題を出して大学教育の基礎力を問うていきたい、という思いがあります。今後、数学の記述式問題に向けた学習が積み重ねられてこの先、こういった問題を共通テストで出せるということにつながっていくことを期待しています。
さらに、数学ではこのような対話の形で問題解決のプロセスを可視化し、その過程を吟味する問題も出題しています。
■理科:日常生活の場面や実験・探究の過程に関する出題も
理科では、日常生活や社会生活につながる問題発見・解決の過程を重視した問題も出題しています。
解決するために自分でグラフを書かせる問題も出しています。あるいは、大学の体験入学で聞いた新しい知識を、高校の授業で学んだ知識と組み合わせて解かせるという問題も出題されました。
また実験・観察を重視しています。こちらは地学で、岩石の性質について探究したノートをイメージした問題です。
■歴史:歴史的思考力とは何かという議論を踏まえた出題も
歴史でも、歴史的思考力を発揮して解くことを念頭に、初めて見る資料から情報を得て考えさせたり、時代区分にこだわらず時代を貫くテーマ設定をしたり、必ずしも正答が一つではないものを出題したりしています。
これらの問題はすべて大学入試センターのホームページで公開していますので、先ほどのねらいと合わせてぜひご覧いただければと思います。
また、各分野の専門の先生方からご意見もいただいておりますので、これを受け止めながら、さらに改善を重ねていきたいと考えています。また、英語については、4技能を評価する資格・検定試験との併用ということを踏まえて、試行調査では発音やアクセント、語句整除の問題は除いて、リーディングに特化した問題で行いました。
■入試だけでなく、「その先」の学習や生活につながる学びの充実を図るために
今回の試行調査の正答率や分布などの結果につきましてもすべて公表しています。今回は目標平均正答率を設定せず、新しいテストに向けたねらいを重視して傾向を見る調査とさせていただきました。結果として分布を見るとやはり左側に寄っていますので、もう少し難易度を下げた問題を加えてバランスをとる必要があります。こうしたデータもすべて公表しながら、生徒の解答の状況、誤答の傾向、質問紙調査の結果などを踏まえた作問にあたっています。
国語の記述式問題の総合評価は、最終的には総合としては5段階、小問では4段階を考えています。こういった方向性を踏まえて、今年11月にもう一度試行調査を実施させていただきます。今回の試行調査の結果を踏まえた構成で、より本番に近い問題構成ということになります。この問題もなるべく速やかに公表したいと考えていますので、ぜひこちらにも注目していただきたいと思います。
次期学習指導要領には、今までなかった前文というものが、新しく付け加えられています。そこには、教育課程を通じて何をどのように学び、どういう力を身に付けられるようにするのかいうことを明確にして指導していくことが重要になると書かれています。これは大学においても、アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーの三つのポリシーを通じて明確化が図られています。
指導要領前文には、大学教育を含む高校を卒業した後の教育、あるいは将来にわたる学びとのつながりということについても明記されています。共通テストの作問が高大接続がどうあるべきかの議論を踏まえた、高大の教育の特質を生かしながら間をしっかりとつないでいけるようなものになるよう心がけていきたいと思います。これからも皆様に様々な方面からご意見をいただきたいと思います。