2020年度の必修化を前に、プログラミング教育の授業づくりを実体験 ~大阪府小学校教員プログラミング研修

2020年度から、小学校でのプログラミング教育が始まります。今年3月には、「小学校プログラミング教育の手引(第1版)」も公表され、具体像が少しずつ明らかになってきました。それでも、どんな場面でプログラミングを取り入れたらよいのか、具体的にどんな教材を使ったらよいのか、実際に扱いやすい教具は何なのか、トラブルが起きたらどのように対応したらよいのか…など、先生方が知っておきたいことや確認しなければならないことは、むしろ広がってきているのかもしれません。

 

7月27日に大阪府教育センター(大阪市住吉区)で開催された小学校教員向けのプログラミング研修には、大阪府内から約50人が集まりました。午前中の3時間を使って、プログラミング教育の目的についての講義、プログラミングの基礎と教科での活用に関する演習・研究協議が行われました。

 

講義「小学校段階のプログラミング教育とは」

~小学校段階における「プログラミング的思考を育む」プログラミング教育について理解する

前半の講義は、大阪府教育センター教育企画部企画室指導主事の野部緑先生が講師を務められました。前半の講義とプログラミングの実習は、年代や学校の異なる4~5人のグループに分かれて行いました。

 

講義では、小学校段階におけるプログラミング教育の目的について、今後予想される社会の変化や、その中で未来の創り手となるために身に付けるべき力という観点から説明されました。人工知能が発達していく中で、人工知能と人間それぞれの強みと弱みを知ること。予測できない変化に主体的に向き合うことも含めてプログラミング教育の目的であること。そして、プログラミング的思考とは単なる論理思考でなく、コンピュータを意図するように動かすことをめざすことであることなどが丁寧に説明されました。

 

特に、小学校では、プログラムを作成することが目的ではなく、身の回りの様々なものにプログラムが使われていることやコンピュータを動かすための手順があることがあることに気付くことが重要であり、技術者ではなくても、作る側のことも考えることができるよいユーザーを育成することをめざすべきであるという説明に、出席者は大きくうなづいていました。

 

教材の特徴と使い方を学ぶ

実際の授業で教材として何を使うかという点については、アンプラグド(=コンピュータを使わないもの)と、小学生にも扱いやすいロボット教材を実際に体験しながら説明が進められました。

 

アンプラグドは、コンピュータの手順を考えることを目的としたもので、例えば給食の準備や掃除の仕方などをフローチャートで書くこともこれにあたります、日常の行動を要素分解したり、並べたりすることで、手順の特徴を知ることができるので、実践として取り組みやすく、子どもたちのイメージがつかみやすいという利点があります。一方で、「順次」のみに偏りやすく「分岐」「繰り返し」を扱う題材を設定することや、実際のコンピュータのプログラミングに直結させることが難しいという課題もあります。

 

例えば、このスライドのAさんの例ですが、このままでは不十分で、二等辺三角形を書くことはできません。手順を考えることは大事ですが、できれば他の人に確認してもらうことによって、不足部分がわかる、という経験も必要です。

 

また、ロボット教材は、画面上でなく実際にロボットが動くため、子どもたちの興味・関心が高められること、自由な制作ができるといった利点がある一方で、どうしても教材費がかかること、また動かすこと自体が目的となってしまって、単元の目標との関係が作りにくいといった課題があります。このためには、綿密なカリキュラム・マネジメントが必要になります。さらに、授業中に不具合が起きると活動が止まってしまったり、メンテナンスが大変だったりすることも考えておく必要があります。

 

さらに、プログラミング教材(言語)の特徴も紹介されました。小学校でのプログラミングでは、ビジュアルプログラミングのブロック型が使いやすく、また「アルゴロジック」(※1)や「プログル」(※2)などの問題を解いていく形のチュートリアル型のソフトは、単元の目標に合わせた使い方がしやすいなどの利点があります。

 

参考:『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』利根川裕太、佐藤智(著)、一般社団法人みんなのコード (監修) (翔泳社)

 

※1「アルゴロジック」

https://home.jeita.or.jp/is/highschool/algo/

※2「プログル」

https://proguru.jp/

 

アンプラグドの活動を体験してみる

このあとは、実際の活動を体験しました。

 

『ルビィのぼうけん』(※3)の「ダンス・ダンス・ダンス」を参考に、アンプラグドの体験を行いました。これは、サイコロを振って、出た面に書かれた動作をつないで一連の動作を作り、その通りに動いてみるものです。できた一連の動作(=プログラミング)でコンピュータ(=この場合は生徒)に命令すると、コンピュータは命令通りに動くはずなのですが、動きはバラバラです。さて、どうしたらよいだろうということを、グループごとに話し合います。これを通して、動きの回数や向き、テンポなども指定することが必要だね、ということに気づいていきます。それらを入れて修正した命令をグループ同士で交換して、指定通りのダンスになっているかを確認し合います。

※3 『ルビィのぼうけん』リンダ・リウカス作、鳥井雪訳(翔泳社)

 


 

先生方は、楽しそうに取り組んでいました。この活動を通してコンピュータは曖昧な命令では動けないので、きちんとした命令を出さなければならないこと、基本的にはコンピュータは勝手に判断できないことなど、たくさんの気づきを促すことができます。また、授業での活用場面としては、体を動かしたり動きを考えたりすることにポイントを置けば体育に、音楽や詩に合わせた動きを作るのであれば表現活動に、命令を英語で考えるのであれば外国語に、と様々な教科で応用できることも紹介されました。

 

アンプラグド体験の二つ目が道案内作りです。グループごとにワークシートに描かれた町の地図の上でスタートとゴールの地点を決め、2地点を結ぶ道順を決めて経路を文章で記入します。そして、それに合わせて「まえ」「ひだり」「みぎ」などと書かれたシールを貼って手順を作ります。できたものを隣のグループと交換して、相手のグループが設定した条件と同じ動きになるようにシールを並べて道順を作り、もとのグループに戻して正しく進むかどうか確認します。

 

この時、ワークシートに貼りつけるのでなく、透明のクリアファイルに挟んだ状態でシールを貼っていくと、いちいち貼ったりはがしたりする必要がなく、修正もスムーズにできることが紹介されました。また、シールの貼りつけはメンディングテープを使うと、修正が簡単にできます。小学生の活動では、目標とする活動(この場合はプログラミング)に集中させるためには、こういった細かい工夫が必要であることがわかりました。

 

一通り活動が終わった後、グループ内でどのような気づきがあったかを話し合いました。多くのグループででていたのが、「スタート時にどちらを向いているかを決めないといけない」ということです。人間であれば、「前」を決めるのは簡単ですが、コンピュータでは「前」とはどの方向かを設定することから始めなければなりません。これが前後左右ではなく、東西南北であれば明確になることにも気づきます。また、隣のグループと交換することによって、自分でも気づかないエラーの修正ができるというデバッグの重要性もここで確認されました。

 

この後、アンプラグドで行った「道案内」プログラミングを、ロボット教材を使って行ってみました。グループごとにロボット教材の「Ozobot(※4」「PETS(※5)」「プログラミングカー(※6)」を一通り体験しました。

 

※4「Ozobot」

https://www.ozobot.jp/

 

※5「PETS」

https://4ok.jp/pets/

※6「プログラミングカー」https://www.gakkensf.co.jp/pgc/

 

 

ロボット教材では、使っている先生方から「これは子どもが喜ぶね」「(ロボットは)今までちょっとなめてたけど、これは使える」「これならやり直しも嫌がらないでやれそうだ」などという感想が聞かれました。一方で、不具合で動かなくなってしまう機材が出てきたり、微妙なタイミングの取り方が難しかったりと、実際にクラス全員が行う場面を考えると課題となりそうな点もありました。

 

ロボット教材を使うと、子どもたちは試行錯誤を自然に体験することができるので、命令を確認することの大切さを知ることができます。一方で、間違った命令を出すとその通り動いてしまうという、機械の限界を知ることにもつながることが確認されました。

 

パソコンの実機を使った研修~アプリケーションソフトの応用

後半は2つのパソコン教室に分かれて、パソコンの実機を使った研修を行いました。

 

はじめにチュートリアル型のアプリケーションソフトの「Hour of Code(※7)」を使って、先ほどアンプラグドやロボット教材を使って行った道案内の問題をやってみました。

 

ゲームは子どもが興味を持ってのめりこみやすく、また正誤の確認や試行錯誤が行いやすい反面、個人作業になりやすいというところがあります。また、道案内について言えば、画面上になると左右の向きが把握しにくいため、アンプラグドを経験したから行った方がよいだろうという指摘もありました。アプリケーション型のソフトには導入向けにいろいろなものがあり、目的が明確なので単元の目標からブレが少ない、という利点があります。また、ブロック型のプログラミングソフトは、高学年でScratchを使う場合の導入ともなり、低学年の間に触れておくことがベースになります。いずれにしても、小学校6年間のプログラミング教育全体を見渡したカリキュラム・マネジメントが必要になります。

 

※7「Hour of Code」 https://hourofcode.com/jp

 

Viscuitを使った「漢字作り」

次に、ビジュアル型プログラミング言語の「Viscuit」(※8)を使って「漢字作り」を行いました。漢字の「偏」と「つくり」にあたる部分をViscuitで作って画面内を動き回るように設定しておき、偏とつくりが出会ったら漢字ができる、というプログラムを作るものです。最初に入れておくアイテムを変えたり、動き方を工夫したり、偏とつくりだけでなく「かんむり」や「にょう」なども入れたりと様々な工夫ができることを体験し、先生方は思い思いの作品を作っていました。さらにこれを授業で行うときにどのような条件設定をすればよいか、他にどのような応用が可能かなどについても話し合いました。

 

※8「Viscuit」 https://www.viscuit.com/

 

ルールを考える論理思考+コンピュータに正確に仕事をさせること

実習を終えて最後のまとめでは、改めて小学校段階でのプログラミングの意味についてお話がありました。アンプラグドでプログラミングの考え方を理解したり、教科のねらいに即して手順を考えたりすることはとても重要ですが、実際にそれをコンピュータに実装できるかどうか、という点では難しいものも多いのです。一方で、例えば正多角形の作図で「線を引く→○○°曲がる」ことの角度をどんどん大きくしていくことで、正多角形が次第に円に近付くことはプログラムの数字を変えていくことによって観察できます。このように、コンピュータを使うことによってできること・わかりやすくなることに焦点を当てて、「ルールを考える論理思考」と「コンピュータに正確に仕事をさせること」「できなかったら修正すること」を経験させるのが、小学校のプログラミング教育の大きな目標であると言えるでしょう。

 

その際大事なのは、あれもこれもやろうとするのでなく、一つのベースから発展する形で学校内のカリキュラム全体を発展させることにつなぐことです。子どもたちの裾野を広げ、興味を持った子どもがさらに発展的な活動ができるようにする環境つくりも大事です。

 

さらに、このようにコンピュータを使っていく中で、情報モラルについても身に付けられるようにしていきましょう。これは、小学校から基本的な交通法規を少しずつ身に付け、いずれ大人になって自動車の運転を習得するときに活かされることと通じるものがあります。

 

[今回の研修の講師を務めた野部先生にお聞きしました]

■今回の研修プログラムを作るにあたって、特にどのような点を工夫されたかお話しください。

 

アンプラグドからコンピュータまでの一連の流れを行うことで、それぞれの目的、子どもたちに気づいて欲しいことを、先生方自身が体験から考えて欲しいと思い、少しずつ多くのことを体験できるような研修を目標にしました。

 

 

■2020年度の全面実施に向けて、小学校の教育現場でまず解決しなければならない課題は何でしょうか。

 

小学校のプログラミングについては、2020年度からですが、それまでに、プログラミングを取り入れた授業を実施してくださいということでしょうか。今回の研修では、先生方も生き生きと取り組まれている様子でした。子どもたちが興味を持って取り組む様子を見て、プログラミングの授業は難しいという考えが変わってほしいと思います。

 

■今回の大阪府の研修は、いつ頃から計画されましたか。また、今後2020年に向けてどのくらいの頻度で行っていかれますか。

 

小学校のプログラミング教育が話題になってきたころに、「技術者の養成のために小学校でプログラミング教育を行うのか」という質問をいただいたことがあり、導入の背景や目的を伝えていく必要があると考えて、昨年度は、教員ではなく市町村教育委員会の指導主事を対象に学習会を実施しました。その流れとして、今年度は教員対象の研修を行うことを昨年度の1月ぐらいに考えました。

 

■今回の研修を振り返って、今後どのような内容をやってみたいと思われたかお教えください。

 

今回の研修は「まず体験をしてみましょう」を目的としていましたので、今後は応用編として、時間をかけて段階を追って作品を作るということに取り組むことができればと考えています。