第11回全国高等学校情報教育研究会 講評講演
これからの情報教育~全容が明らかになった次期学習指導要領と、情報科の未来を見据えて
鹿野利春氏 国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 教育課程調査官
今回は、この秋田公立美術大学のすばらしいキャンパスをご提供いただきましてありがとうございました。どの会場もたくさんの人で、最後は扉の外まで人が溢れていて、入れずに諦めたということもございました。大変な熱気だったと思います。
ポスターセッションでは、私もいろいろと勉強することがあり、「中等教育資料」の中で紹介しなければいけないなと思うところもございました。また企業展示についても、皆さんが知っておかれた方がいいなというものもありました。
分科会につきましては、皆さんにお願いしたいのは、お帰りになったらぜひ皆さんの都道府県の先生方にお伝えいただきたいということです。今回の発表資料は、全国高等学校情報教育研究会のホームページに掲載していただけるとのことですし、またご自分でホームページを作っていらっしゃる方があれば、事務局にお知らせいただいて、そこにリンクを張っていただくと、今回の発表以外にも皆さんのお持ちのものを全国で役立ていただけます。皆さんのページがつながることによって、大きな情報教育の資料になると思います。これを毎回続けていくと、素晴らしい資料の宝庫になっていくと思いますので、ぜひよろしくお願いします。これは都道府県の研究会においても同じことで、授業法を研究されたり、あるいは実践されたりする時には、できれば公開を前提として、Web上で成果を分かち合う形で行っていただきたいと思っています。
情報科の使命の確認と再定義
この大会の役割は何かを考えると、やはり使命の確認と再定義をするということであると思います。今回の秋田大会のテーマ『新時代の学びをリードする情報教育 秋田から全国に向けて』は、私たちはこうやっていくぞ、という力強いメッセージであると思います。これは、子どもたちの教育を通じて健全な情報社会の構築に寄与するというミッションを皆さんと一緒に確認し、そして再定義していくことです。この定義はこのまま続くということではなく、毎年振り返って確認し、修正すべきところは直していく、ということです。これは私の想いですから、皆さんの中で「私は今後、こうやって情報教育にかかわっていくぞ」というそれぞれの想いを確認していただければいいと思います。そして、それを常にアップデートしていただきたいと思います。
このスケジュールについては皆さんはもうご存知ですね。今年3月に新しい学習指導要領が出ました。7月には解説書(※1)も公開されました。2022年から始まる新しい授業に向けて、これからまさに準備をしていくところです。学習指導要領の解説書をお読みになって、結構大変だな、と思われた人もいるかもしれません。
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学力は高くても自信が持てない日本の子ども
皆さんご存知のことと思いますが、現在の日本の子どもたちの学力は、間違いなく世界のトップクラスです。1位はシンガポールで、他にアジアでは香港、上海、台湾あたりが上位に来ています。
これはPISA調査の結果ですが、OECDの学習到達度調査では、科学的リテラシーも数学的リテラシーもトップで、読解力はちょっと低いということになっています。この調査はCBT(Computer Based Training)で行って、複数のWebページから必要な情報を取り出すような形の出題もありました。
この読解力の低さを受けて、文部科学省の方でも人工知能の時代にどのような読解力を育てるべきかを考え、環境整備のための施策を打って、全教科・全科目で読解力、問題発見・解決力と並んで情報活用能力の育成を入れています。
こちらは、『日本の高校生は勉強しているか』という調査ですが、「全くしない」という生徒が39%、1日30分未満と1時間未満を入れると半数以上になります。それにもかかわらず、総合的な成績では世界トップレベルというところです。これをどう見るべきなのでしょうか。
一方で学習時間の経年変化を見ると、この水色のグラフが、偏差値で言うと55以上の生徒ですが、この層については、V字で回復傾向にあるのですが、一方で偏差値の低いグループでは伸び悩んでいて、偏差値50を境に傾向が変わるということが見てとれます。
生徒の自己肯定感ということでは、これはよく出る話ですが、自分にそれなりの能力があると思っている人は日本では50数パーセントです。米国や中国は、学力調査の結果は日本よりも低いにもかかわらず、80%から90%が「人並みの能力」があると答えています。
なぜこうなるかというと、日本の親は子どもを叱る、あるいは「あなたのお子さんは非常によくお出来になりますね」と言われると、「いえいえ、うちの子なんて」ということを言ったりする。そういうことではなくて、自分の子どもをもっと褒めてあげていただきたいです。先生方も、子どもたちを「何でこんなことができないんだ」と叱咤するのでなく、ちゃんと褒めてあげてください。
また校長先生も、先生方のことをちゃんと褒めてあげてください。日本の先生は、本当に世界一すばらしいと思うのですが、日本は先生の自己肯定感もこれまた低くて、「自分はダメな人間だと思う事がある」というのが70%以上なのです。こういうところはぜひ改めなければいけないです。やはり学校の影響は大きいので、生徒に関する接し方や指導の仕方を変えていかなければならないだろうと思います。
高校生に「自分が社会を変えることができる」と思っているかどうかを聞くと、「そう思う」と答えるのは日本では30%くらいですが、韓国、中国、米国だと70%~80%近くいます。つまり、「俺が社会を変えてやる」と思っている人が8割近くいる国と「そんなことはどうせできないよ」と思っている人が7割いる国とでは、どちらが将来的に伸びるか、というのは明らかです。ここは早急に改善しなければいけないところですが、そのためには「自分はできる」という自己肯定感を上げなければいけない。だから、授業の中で小さな成功体験を積み重ねるような経験を積んでいくのが、おそらく役に立つのではないかと思います。
こちらは各国のGDPの推移です。90年代初めまでは、皆が「それ行け!」でよかったのですが、その後はご存知の通りです。先ほどの気持ちの問題もありますが、現実の生産性も上がっていないのです。具体的に言えば、OECDの中でホワイトカラーの生産性が最下位グループにあるのが日本です。中国のGDPはどんどん伸びていますし、インドは今後もっと急角度で伸びていきます。さらに、ここには記載がありませんが、この次はアフリカなど人口の多いところが伸びてくるのではないでしょうか。こういった中で、日本は勝ち負けの話ではなくて、日本としての在り方を示さなければいけないということだと思います。
高齢化、人口減少、人工知能の台頭…社会はどのように変わっていくか
日本の人口推移はこのようになっています。
今から50年くらい経つと、働くことができる人口は現在の半分くらいになってくる。もっとわかりやすいのが、生産年齢だけを取り出したこのグラフです。ですから、現在と同じ生活水準を保とうとするならば、もっと生産性を上げなければならない、ということになります。ただ、今後は人工知能などが発達していきますから、人口は減っても生産性を上げることはできるだろうとも言われています。
労働生産性水準はどのくらいかと言えば、これは2005年頃の数字ですが、アメリカが50とすると日本は30くらいです。ということは、まだまだ余地があって、もっと上げていくということは可能であるということになります。ですから、人口が減るからといっても、この先はどうなるかはわからないよ、というお話です。
つまり、人工知能が発達するから人間の仕事がなくなるということではなくて、仕事の質が変わるということだと思うのです。今人間が担当しているところのある部分は機械に任せる、という形になってきます。逆に、そうならないと、今あるような社会の仕組みや生活を維持していくのは難しいでしょう。
そうすると、機械をうまく使うことができる、ということもその人の能力として判断されるということになってきます。現在もそうですが、今後はそういう傾向がますます強くなる、ということになるでしょう。
仕事を任せた方にしてみれば、求めていることができたかできなかったかということが全てです。仕事をどのようにやったかということは問われません。そうすると、機械にうまく任せることができる人は、それだけ時間の余裕ができるし、生産性も上がるということになります。同じ仕事を1時間でできる人と10時間かかる人のどちらが求められているか、ということになれば、それは明らかです。そういうことも含めて、人間の能力として求められるものが変わってくるということになります。進路指導をされている先生は、将来のことをよく考えて指導しないと5年後、10年後に生徒に合わせる顔がない、ということになってしまう可能性がないとは言えない、というところがあります。
学習指導要領の改訂の方向とその背景
学習指導要領の改訂の方向として、『どのように学ぶか』『何を学ぶか』『何ができるようになるか』ということがあります。『どのように学ぶか』というところでは、ひところ話題になった「アクティブ・ラーニング」という言葉が消えたのではありません。「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業改善お視点としてちゃんと残っており、根底にあるものは同じです。
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資質・能力の三つの三角形の図は、皆さんもすでにご覧になっていると思います。「知識・技能」の部分は、データで測ることができますが、だからといって、今まで通りでよいというわけではないですね。知識や技能を身に付ける時には、詰め込みではなく主体的な学びで身に付けさせていきましょうということが書いてあります。
「思考力・判断力・表現力等」は、詰め込んで身に付くものではないので、主体的な学びが必要です。そのためには対話を通して学びを深める設定をいなければいけません。そして「学びに向かう力、人間性等」の涵養。このような数字で測れないものも育てなければいけない、ということになっています。
これを学校で、授業の中で、あるいは授業以外の教育活動でやるということなのです。これらが育つような授業をやらなければいけない。そうすると、今までのやり方を考えなければいけないし、評価の仕方や褒め方・叱り方も考えなければいけないということになります。
新しい学習指導要領~時間数や教科・科目名はどのように変わったのか
こちらが小学校・中学校の標準授業時数、および高校の標準単位数です。黒い字は変化のなかった教科、赤い字は変化のあった教科です。小学校で変化があったのは外国語活動、そして教科としての外国語です。これが入った分だけ、時間数が純粋に増えています。中学校は、一つも変わっていません。
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高校は、教科科目が大きく変わりました。国語科は特に大きく変わりました。地理歴史も大きく変わり、「公共」という新しい科目もできました。「理数探求」は、「総合的な探求の時間」の代わりにやってもいいことになっています。これを誰が担当するのか、ということですが、「理科と数学の先生を中心に」と書いてありますから、結論的には誰が持ってもいいということになるので、学校全体で取り組んでいくということになります。これは「総合的な探求の時間」も同様です。
数学科は、今まであった「数学活用」がなくなって,新たに「数学C」ができ、さらに統計的なことが重視され、今まで「数学B」に入っていたベクトルが「数学C」に組み込まれたといった大きな変化があります。情報は、皆さんもご存知の通り大きく変わったという状態です。
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学力の三要素に基づいた観点別評価については、今のうちに慣れておこう
観点別の学習評価について。現行は評価の4観点による評価ですが、新しい学習指導要領では、指導と評価の一体化が言われていて、学力の三要素に基づいて評価しなさい、ということになります。しかし、2022年になって、今4観点で行っている評価をいきなり3観点でというのは難しいですが、観点別学習状況の評価を、できるだけ今からしっかりやっておくと、次につながると思います。
もう一つ、今までなかなかできなかった形成的評価をしっかりやっていただきたい。これも次につながります。先にお話しした自己肯定感を伸ばしていくのは、やはり形成的評価ではないでしょうか。評価の仕方を変えることでその辺りはだいぶん違ってくるのではないかと思っています。それをしっかりやることによって、先ほどの4割近くいた「全然勉強していない」という子どもも、少し勉強するようになるかもしれないと思います。
小学校・中学校・高校を通した情報教育のあり方はどうなるか
小・中・高を通した情報教育のイメージと、高校の教科情報のつながりが、下図です。左側に、「高校卒業までにこれくらいのことはできるようになろうね」ということがあって、右側には小・中・高のそれぞれの段階で、そのために何をやっていくか、ということを決めました。このような初等中等教育全体にわたる検討をした結果として、小学校は体験としてでも、必須でプログラミングを入れていきましょうということになりました。中学は、それをさらに強化しましょうということで、これまでの計測・制御に加えてネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングも入れていきます。必修ということは、高校に上がってくる生徒はすでにネットワークを使ったプログラミングを、中学で学んできているのです。そういう子どもたちに、高校で何を教えるのかということになります。
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こちらは今までの教科「情報」の変遷です。はじめに「情報A・B・C」があったのが、現行の「社会と情報」「情報と科学」になりました、次は共通必履修科目の「情報Ⅰ」と選択科目の「情報Ⅱ」になります。内容については皆さんも読まれた通り、かなり大変かもしれませんが、先ほど申し上げた検討と準備の結果、今後相当なレベルの子が高校に上がってくることになります。ですから、それに応じた内容としなければいけないのです。
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初年度の2022年の1年生は2024年度に大学入試ですが、大学の方は2025年度以降、つまり今から7年後の教育についてクリアなイメージはまだないかもしれない。ですから、「情報Ⅰ」、「情報Ⅱ」の内容、指導要領、解説を公開することで、大学の人たちに「こういう子どもたちが入学してきますよ、それに備えて入試や大学教育をやってくださいよ」いうことを示しているところです。
ただ、これだけではやはりイメージがわかないところもありますし、都道府県の教育委員会で研修をする資料も必要ですので、「情報I」については、2018年度末までに研修資料を作成して、PDFで公開するということにしています。もちろん、これは大学も見られるという形です。情報Ⅱについては来年度に作成という予定で進めています。
「社会と情報」「情報の科学」が「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」とどのように関係しているかを示したのが下図です。例えば、「情報デザイン」については「社会と情報」から来ていますし、問題解決もそうですね。プログラミングは、もちろん情報の科学から来ています。ネットワークは、両方から来ています。
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各科目の改訂の概要は下図の上、指導計画の作成と内容の取扱いは、下図の下になります。ここに書いてあるように、細かい注意が多々あります。また、今回の改訂では、どの科目についても、障害のある生徒には、その程度に応じて具体的な支援の内容が掲げてあります。情報については、この部分は他の科目に比べて相当多く書き込んであります。情報の先生は兼任が多いと思いますので、ぜひこの部分はしっかり読んで、今から心づもりをしておいてください。これについては、教具や補助器具などいろいろなものを準備しなければならない可能性もありますので、ぜひよろしくお願いいたします。
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情報Iから情報II、専門教科へのつながりは
共通教科は「情報Ⅰ」から「情報Ⅱ」へ発展するだけでなく、さらに専門教科情報科があります。専門教科情報科については、「情報Ⅰ」を終えてから直接やっても、「情報I」「情報Ⅱ」を経て選択科目として入れてもよいですが、一点注意としていただきたいのは、いきなり課題研究をするということのないようにということです。課題研究は、専門教科情報科の単元をいくつか学んだ後で行うもので、いきなり課題研究に入るという構成にはなっていません。共通教科情報科では、情報Ⅱの最後の(5)に探求が設定してあります。
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■ここだけはおさえておきたい! 「情報I」「情報II」各単元の要点解説
「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の内容については、詳しくお話しすると1日がかりになりますので、今日はここだけは押さえておくべき、という点についてお話します。
情報I(1)情報社会の問題解決は(2)以降のイントロダクション。問題解決の方法を身に付けて次に活かす
まず情報Iの「(1)情報社会の問題解決」です。この段階では、生徒は中学で学んだことしかわかっていません。ですから、中学のことをベースに問題発見・問題解決をします。
(1)は(2)以降のイントロダクションという位置づけです。ここをやることによって、この後で学ぶ情報デザインが必要だということや、世の中にはプログラミングというものが不可欠であるとか、データを扱う時は何が必要かといったことを感じてもらうための単元です。ここでは、問題解決の方法も身に付けます。
それから法規についても学びますが、「何々してはいけない」ということではなく、情報の科学的理解を通して、その意義をしっかり考えてほしいと思います。
そして、ここでは人間に求められる仕事や能力の内容や変化を考えてほしいと思います。というのは、現在の技術レベルならこういうことが可能だから、仕事はどうなって行くかということが、今の時点ではある程度見えます。しかし、5年経ったら違ったものが見えますし、10年経ったらとんでもないことになっているでしょう。ですから、先生も生徒も、毎年毎年これを考えていかなければなりません。先ほど申し上げたように、特に進路指導をされる先生は、3年後とか5年後とか、子どもたちが社会で活躍するようになる頃のことまで見越していないと、進路指導としての責任を果たせないのではないかと思います。
情報I (2) コミュニケーションと情報デザイン~コミュニケーションだけでなく、アルゴリズムやプログラミング、ネットワーク、データの扱いにも関係
(2)が「コミュニケーションと情報デザイン」です。マスコミは、プログラミングが必須になったとか、データサイエンスが入ってきたとかは報道してくれますが、「情報デザインが必須になった」となかなか言ってくれません。しかし、ここで扱う情報デザインというのは、『効果的なコミュニケーションや問題解決のために、目的や意図を持った情報を受け手に対してわかりやすく伝達したり、操作性を高めたりするためのデザインの基礎知識や表現方法及びその技術』です。これまで「社会と情報」でやってきたことを、より洗練された形として、専門的にもう少し深めていきましょうということで、「情報デザイン」という言葉を使っています。
この「情報デザイン」は、コミュニケーションのためだけではなく、アルゴリズムや、プログラミング、ネットワーク、データの扱いにも関係します。ですから(3)でプログラミングを、(4)でデータやネットワークを学ぶ前に置かれているのです。そして、プログラミングやデータの扱いを学ぶ時に、この情報デザインで学んだことをしっかりと活かしていただきたいと思います。一口に「情報」と言っても、コミュニケーションに使う「情報」とデータという意味の「情報」は当然違いますから、指導要領解説でもその二つは分けて書かれています。
情報デザインで扱う内容として、アクセシビリティ、ユーザビリティ、ユニバーサルデザイン、色や造形、論理性というのは当然必要なことです。この情報デザインを全部の子どもが学ぶことによって、世の中が良い方向に変わると思っています。
情報I (3) コンピュータとプログラミング~言語は指定しないが、関数などの使用によって構造化ができるものを使う
「(3)コンピュータとプログラミング」で扱うのは、こちらに挙げているような内容です。ちょっと踏み込んだところで、「内部表現」というのは今までもありましたが、今回は誤差とか計算限界といったところまで踏み込んでいます。例えば、画面の中で飛び回るキャラクターの座標については普通の精度でいいし、ここからこちらまで飛ばす時にはもう少し高い精度が必要だろう、といったところの判断ができるようになってほしいと思います。
「モデル化とシミュレーション」もここに入っています。アルゴリズムを表す表現はフローチャートだけではないよ、ということを知って、複数の方法の中から用途に応じて使い分けることができなければなりません。また、プログラミング言語は指定しないということで、解説書にも「これを使いなさい」とは書いてありません。ただし、言語を身に付けるのに1年かかるようでは何をしているのかわかりませんから、すぐにできるようなものであることが必要です。また、一つだけ注意があって、それは「関数などの使用によって構造化ができる言語であること」、ということが取り扱いのところに書いてあります。ですから、そういうことがしっかりできる言語を選んでください。ネットワークは中学の技術・家庭科技術分野で学んでいますから、当然高校ではネットワークを使うことを前提としたものが入ってくることになります。
情報I(4) 情報通信ネットワークとデータの活用~自分の部屋のインターネットの設定くらいは最低できるようにすべき
「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」については、ネットワークを構成する機器やプロトコルとかいった話がありますが、例えば子どもたちが大学に入って、独り暮らしの部屋にネットワークの環境を作ることくらいは自分でできなければいけないし、情報セキュリティという点も注意しなければいけない。ですから、小規模なネットワークを設計できる力は、全ての人が持っていなければいけないだろうということです。
できれば、教室の中程度のネットワークのつなぎ方も理解できるようになるとよいですね。難しいことでなくてもいい。「先生、つながりません」と言う前に、まず足元を見てハブの電源が抜けていないかとか、そういう程度でもよいのです。そういうことをしっかり教育しておけば、学校や会社で無駄な時間がなくなります。まず自分である程度のことはできるようになってほしいものです。
そして、セキュリティをしっかりすることがわかっていれば、軽々に情報が漏洩することもないはずなのです。これからの子どもたちは、セキュリティ上の失敗は公私ともに厳しく責任を追及されますので、セキュリティは無線も有線も両方やりましょうということですし、「データベース」という言葉はあえて明示的には出していませんが、データを蓄積・管理・提供する仕組みもしっかり学びましょうということです。
ネットワークで言えば、ウェブサイトを支えているバックにはデータベースというものがあり、それはこんな仕組みで動いていて、ということは知っておいた方がよいですし、できれば自分でデータベースを触って実感してみるのがよいと思います。
また、データの整理・収集・分析は、「数学Ⅰ」としっかり連携して行うことになります。どの程度までやるかという点では、「数学Ⅰ」では検定まで踏み込んでいますから、当然そこも入ってくることになります。情報科の先生も、高校数学の統計の部分については、今から勉強しておいていただきたいと思います。「情報I」の教員研修資料には、この部分について最低限何を・どこまでやっておくべきかということをわかりやすく書いていきたいと思っていますが、何分にも早く始めるに越したことはないので、ぜひお願いしたいところです。
データの形式や尺度水準の異なるデータの扱い、というものもあります。尺度水準というのはあまり聞かない言葉だと思います。これは具体的に言うと、身長や体重は平均を出す意味がありますが、例えば「馬と猫と犬の中ではどれが好きですか」ということでアンケートを取ったとして、この回答の平均を出すことに意味はありません。このように、平均できるものとできないもの、順番だけがある尺度、間隔だけがある尺度等、それぞれ意味があります。内容としてはそんなに難しい事ではありませんが、きちんと学んでいないといと、大学生になっても平気で訳のわからないグラフを書いてみたり、変な分析をしてみたりするわけです。これをどこできちんと学んでおくのかと言えば、ここしかない、ここが一番よいだろう、ということで「情報Ⅰ」に入っています。
「量的データ」と「質的データ」というのは、具体的に言えば、先ほどの身長や体重は量的データですが、性別や血液型などは質的データです。それぞれの扱いは当然違うことになります。例えば、生徒会でアンケートを取ったあとで「たくさん意見が出てきました。主な意見は~でした」と箇条書きに並べて報告書に書いたらそれでいいのか、質的データの分析としてどのように踏み込んでいけばよいのか、ということです。
そして、「統計的処理とそれに基づく解釈」については、数学科でも、情報科でも統計を扱いますが、数学では理論を中心に、情報ではそれを活用する、というところでお互いの棲み分けをするということになっています。「情報Ⅰ」は2単位ですから、「情報I」で理論までしっかりやるという時間はないので、「数学Ⅰ」でやった理論を活用することになります。
情報II(1) 情報社会の進展と情報技術~情報Iを振り返り、情報II全体のイントロダクション。「理解する」だけでなく「対応する」ことを目指す
情報Ⅱの「(1)情報社会の進展と情報技術」は、情報Iの(1)~(4)を振り返り、さらに情報IIの(2)~(5) に向けたイントロダクションという位置づけです。「情報技術の発展や進展を踏まえる」とか、「法律の意味や目的を考えて対応する」ということで、単に「理解する」ではなく「対応」しなければいけない、さらに、将来の情報技術や情報社会についても考えましょうよ、という辺りが大事なところです。
さらに、情報技術が担う部分と人が担う部分があり、それは技術の進展につれてどんどんと変わっていくのですが、それを考えることによって自分の役割とか能力を再定義していくことも必要です。それをやっていかないと、知らないうちに自分の力が発揮できない、もっと言えば、自分が学んだスキルが全く役に立たないということがないとは言えないという社会になっています。ですから、ぜひここをしっかりやっていただきたいと思います。
もちろん、人の役割の変化とか知的活動、働き方が変化することで、人に求められる資質・能力は変わっていきます。先生方の役割自体も変わってきて、「教える」という役割から、「学びを設計する」という役目に変わっていくと言われています。そういう役割の変化が、今後様々なところで起きてきます。子どもたちも、今後に役立つ力を付けようと思ったら、情報技術をバックグラウンドとして、どんな世の中になるのかを常に考えてもらわないといけない。高校3年生の卒業の時に考えるだけでは、もう間に合わないのです。
情報II (2)コミュニケーションとコンテンツ~情報デザインの応用ステップ。ルーブリックによる総合評価が必要に
「(2)コミュニケーションとコンテンツ」は、ここに書いてあるように、情報I(2)で身に付けた情報デザインの力をしっかり活用していきましょう、ということです。ただ、この評価については、ルーブリックなどで掲げた評価規準表による自己評価や相互評価ということをやっていかないと、総合的に評価することはできません。ルーブリックというのは、何段階かの評価基準を定め、「〇〇までできたら評価B、さらに△△までできたら評価A」という客観的な基準が明示されているものです。
さらにその段階評価に「ここまでできた生徒にはさらにこんな活動を与えよう」ということまでセットになっていれば、先生が一人ひとり付きっきりで指導しなくても生徒は動いていくことになります。
情報II (3)情報とデータサイエンス~多様かつ大量のデータの活用方法を学ぶ。人工知能の仕組みにも触れてみる
「(3)情報とデータサイエンス」は、特に難しいことをやろうということではありません。ただ、今までやっていなかったことなので、その意味では難しいかもしれません。例えば、今まで一度も泳いだことのない人が泳ごうとすれば、当然恐怖を覚えますが、それと同じようなことだと思うのです。それをやっていくということになれば、やはり研修資料をしっかり作って出さなければいけないということで、予算を取っていただいて、今準備をしているという状態です。もちろん、それが出るのを待たずに学習を始めていただければもっといいな、というところです。
具体的にどのくらいを見ていけばいいのかがこちらです。「多様かつ大量のデータ」というのは、皆さんご存知のビッグデータです。例えば、コンビニで仕入れる弁当の量をどれくらいにしようかという時に、曜日や天候だけでなく周辺の行事の予定など、いろいろな条件を勘案して発注すれば、無駄を最小限に抑えることができます。これはコンビニに限らず、どんな業種の人でもデータをうまく分析すれば最良の選択ができるはずなのです。周りが皆そういう分析ができるようになっているのに自分だけできないというのでは、お店などでは潰れる方向に行ってしまいますから、大学に行く・行かないにかかわらず、この辺りはしっかり身に付けておいた方がよいと思います。
学習指導要領の解説には、「データサイエンスの手法」について詳しく説明してあります。それを使ってデータを分析したり、モデル化したり、予測・関連・結果の評価をしたりといったことをやっていきましょう、ということです。今まで教科書などで出てきたデータというのは、クリーニングされたもので、空欄や外れ値などが入ったデータとかはありませんでした。しかし、クリーニングされていないリアルなデータを扱うためには、抜けているところ(欠損値)や外れ値を除かなければいけない。そういった扱い方とか、データの信頼性・信憑性などについても見ていきましょう、ということです。今までこれはどの教科でもやっていませんでした。ですから、難しいように見えますが、学ぶ価値はあると思います。
「回帰、分類、クラスタリング、人工知能」の辺りは、数学的な裏付けのあるものは数学の理論にお任せしますが、数学で踏み込めない部分も、「情報II」ではその大枠を扱いますということで入っています。モデル化して予測がつくようになると、機械側の判断につながっていくのですが、人工知能の仕組みはどのようになっているのか、ということを、例題やモデルを使って理解できるところまで行ければいいかな、というのがこの辺りの目指すところです。
情報II (4)情報システムとプログラミング~ある程度大きな「システム」を手分けして作る経験をする
「(4)情報システムとプログラミング」と情報Ⅰのプログラミングはどこが違うかと言えば、情報Ⅱで扱うプログラミングは、ある程度大きなシステムを考える、ということです。具体的な規模としては、分割して4、5人で作って、それを結合して、システムとして稼働させるというところまで考えています。これをどの言語でやるかということで、情報Iと同様に、文部科学省としては指定しません。
情報II (5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求~情報I・IIで学んだことを新たな価値につなぐ探究活動
最後が、情報II「(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求」です。答申の時には『課題研究』として出していたのですが、このようなタイトルになりました。
ここでやっていただきたいのは「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」で学習したことをそのままで終わらせるのではなく、新たな価値につながるような営みや探究活動をしてほしい、という期待をこめています。
それをしなかったら、新たな価値を作り出そうとする態度というのはどこで育つのか、というとなかなか難しいものがありますし、単に知識として身に付けたとか、少し応用してみたという程度では、やはり足りないのではないか、と思います。
ここまでについて、詳しくは学習指導要領の解説をじっくりと読んでいただきたいと思います。
普通教室のICT環境はBYODによって一気に加速
これは何度もお話ししている、普通教室のICT環境整備のステップです。今、ステージ3に向けて整備を進めていますが、現状を見ておりますと、高校ではBYOD(Bring Your Own Device)で、1学年全員にPCを買わせたという学校が結構出てきているという状況で、すでにステージ4の「1人1台可動式PC」というのが現実になりつつあります。ただこれは学校や地域の状況に応じて柔軟に対応していただくということになると思います。
文部科学省としては、全ての教室に大型提示装置やプロジェクターを付け、無線LANのアクセスポイントも設置し、それから個人フォルダも使えるようにする、という辺りまではしっかりやりましょうということを進めています。必要に応じて電子黒板の設置も考えられます。私の方からは、各都道府県の指導主事に向けて、「学校がインターネットに接続する際の帯域をしっかりと確保しないと、機材を全部準備した挙句に動かないということになりますよ」ということを厳しく言っています。ここについては、早急に進めていただきたいと思います。
2018年度中に教員研修の資料を出すので、施行前の研修と予算取りに活用してほしい
これは皆さまご存知の情報科教員の状況です。年齢が上がり、ベテランの先生がどんどん辞めていくという状態です。採用は、今度もう少し増えるかなと期待はしております。
さらに、現在免許外の先生が30%いらっしゃいますが、できれば免許を持った人が教える方がいいだろうということで、研修や、免許を取るための単位取得の促進など、情報教育に小・中・高で総合的に取り組むための施策を概算要求に盛り込むことを検討しています。
今後の情報科関連のスケジュール感は、ざっくりこんなところです。3月に学習指導要領が出ました、情報科教員の現況調査も行って、都道府県ごとの状況が集まってきています。そういうところをベースに、研修資料を作って各都道府県に提供していく予定です。また、専門学科情報科は教材共有サーバ(仮称)を立ち上げます。教員研修の講師推薦に係る学会の窓口は、現在準備中です。
教員研修については、2018年に研修資料を出したとして、2018年度中にあらかじめ準備をしておいたところは、2019年に開始することができます。研修資料が出たところで、それをベースに予算請求をする都道府県は2020年開始ということになりますが、それでも2020年・2021年の2年間は研修ができます。
研修資料は、高校の先生方のために作るということはもちろんですが、「どのくらいの研修を・どのくらいの量やるのか」ということを、各自治体の財政課に対して予算請求をしなければならないので、その時の説明資料にできるという形で作っていこうと思っています。ちなみに、情報Ⅱについては1年遅れになりますから、それでも研修を2年間はできるという算段でおります。
大学入試の実施方針がいつ出るのか、ということですが、2022年に新しい学習指導要領が始まるとすれば、過去の例を見れば、最低でも2021年度当初には出なければいけません。ただ、今回は教科・科目が変更になりますから、もう少し早い段階で出すことも考えられます。そこは、大学入試センターの対応というところになります。「情報Ⅰ」は2022年から学年進行で始まりますので、大学入試が実施されるとすれば、2024年度からですね。
課題と対応としては、こちらに挙げたとおりです。まず、先ほどお話しした現職教員の研修はしっかりやってねという働きかけを各教育委員会に行っています。
教員採用の実施についても通知を出しています。通知を出したからといって、すぐに状況が動くということではないので、例えば、学習指導要領ではこうなるよとか、入試に向けてもこんな感じですよ、といった形で総合的に働きかけているところです。
指導事例の蓄積、情報入試に関する検討については、今進めているところです。これには大学等の課題もあります。予定としてはこんなところですが、最後に入試に向けた動きをざっとお話しします。
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5月17日に、未来投資会議で総理が「大学入試に情報を入れる」と発言しました。5月25日には、文部科学大臣から「大学入学共通テストで情報を入試科目に入れること検討する」ということが出ました。
6月4日には、未来投資会議の素案の中で、文章として「大学入学共通テストにおいて、国語、数学、英語のような基礎的科目として、必履修科目「情報Ⅰ」(コンピュータの仕組み、プログラミングなど)を追加する」ということが盛り込まれています。さらに7月17日には、大学入試センターから、「教科『情報』におけるCBTを活用した試験の開発に向けた問題素案の作成について」ということで、都道府県の指導主事に対して情報入試の問題作成についての依頼が出ました。皆さんのお手元にも近く届くと思いますので、ぜひ対応していただきたいと思います。
目の前の授業・生徒を大事にしつつ、将来に向けた勉強を進めてほしい
最後にこちらが先生方に対するお願いです。現在担当している授業と生徒を大切にしつつ、これからの時代に必要な要素をさりげなく盛り込んでいってください。
そして、統計やプログラミング、情報デザインなど、次期学習指導要領で新たに出てくる分野について、ぜひ勉強を進めておいてください。同時に、中学校の技術・家庭科、小学校のプログラミングについてもぜひ目を向けておいてください。
そして、今回の全国大会だけでなく、先生方が独自につくっていらっしゃる授業の内容や資料なども研究会のページにリンクをはっていただき、皆で向上を目指せるようにしていただければと思います。