文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」   

第3回シンポジウム「2025年度 高校教科「情報」入試を考える -思考力・判断力・表現力を評価する試験問題の作問方法- 」講演 

情報デザインとコンテンツに準じた問題案

國學院大學 高橋尚子先生

新学習指導要領に登場する「情報デザイン」と「コンテンツ」

今回は、「情報デザインとコンテンツ」の分野の問題作りについて、青山学院大学の伊藤一成先生と共同で行った研究を報告いたします。

 

「情報デザインとコンテンツ」という言葉が、新しい学習指導要領の中のどこにあるのかを調べたところ、まず「情報デザイン」は、情報Ⅰの「コミュニケーションと情報デザイン」で出てきました。

学習指導要領には、「メディアとコミュニケーション手段及び情報デザインに着目し、目的や状況に応じて受け手に分かりやすく情報を伝える活動を通して、次の事項を身に付けることで、情報デザインが人や社会に果たしている役割を理解すること」と、記されています。

 

 

「次の事項」にあたるのが、「情報デザインが人や社会に果たしている役割」の知識と、「効果的なコミュニケーションを行うための情報デザインとは何かを、理解し表現する」技能を身に付けるです。さらに、思考力・判断力・表現力に関しては、「コミュニケーションの目的を明確にして、適切かつ効果的な情報デザインを考える」「効果的なコミュニケーションを行うための情報デザインの考え方や方法に基づいて表現し、評価し改善する」となっています。

 

一方、「コンテンツ」が出てくるのは、情報Ⅱの「コミュニケーションとコンテンツ」のところです。

ここでは、「多様なコミュニケーションの形態とメディアの特性に着目し、目的や状況に応じて情報デザインに配慮し、文字、音声、静止画、動画などを組み合わせたコンテンツを共同して制作し、様々な手段で発信する活動を通して、次の事項を身に付けることができるように指導する」として、知識・技能では「文字、音声、静止画、動画などを組み合わせたコンテンツをする技能」と「コンテンツを様々な手段で適切かつ効果的に社会に発信する方法の理解」を身につける、となっています。また、思考力、判断力、表現力においては、「情報デザインに配慮してコンテンツを作り、評価し改善すること」、つまり作ったコンテンツを出しっぱなしにするのでなく、これでよかったかをきちんと見直しましょう、と言っています。さらに、コンテンツを社会に発信したときの効果や影響を考え、発信の手段やコンテンツを改善するということを身に付ける、となっています。

 

 

「コンテンツ」と「情報デザイン」は、学習指導要領では次のように定義されています。

まず「コンテンツ」とは、「目的や状況に応じて、文字、音声、静止画、動画などを組み合わせて制作したもので、例えばWebページ、ポスター、スライドなどである」となっています。この辺りなら高校生でも作れるのではないでしょうか。

 

「情報デザイン」となると、高校生には少し難しいかもしれません。どちらかというと、美術系やデザイン系の方がやっていることが多い内容だからです。

 

指導要領では、「効果的なコミュニケーションや問題解決のために情報を整理して、目的や意図を持った情報を受け手に対してわかりやすく伝達したり、操作性を高めたりするためのデザインの基礎知識や表現方法」と記載されています。今はやりのユーザーエクスペリエンスとか、ユーザーインターフェースといった面や、デザインの基礎知識や美術などとの融合も考えなさい、ということだと思います。

 

今回、皆さんのお手元には、白黒で印刷をされた資料が配布されていますが、私は、今回あえてスライドにいろいろなカラーを使ってみました。例えば、冬は寒いイメージだから全体に水色っぽくしてありますが、これを赤にすると温かみが出て、また雰囲気が違ってきます。こういう色の使い方も、「情報デザイン」の一つであり、情報と美術で学んだことを両方使えば、効果的なデザインが自分で簡単にできるということを、高校生にも知ってもらいたいところです。

 

ルーブリックと出題項目との関係

「情報デザインとコンテンツ」のルーブリックと出題の観点がこちらです。ルーブリックの項目はレベル1からレベル5まであり、レベル2はさらに2-1と2-2に分けられていて、正直問題を作るのは大変でした。問題例は後ほどご紹介しますが、ここでは、ルーブリック項目の各レベルについて、説明していきます。

 

 

<レベル1>「与えられたコンテンツが表現する情報や社会での役割を認識できる」

情報は人が作って作為的にデザインをしている、そして発信をしているものであるという前提で、その意味をきちんと理解し、社会にどういう影響を与えるかということを考えましょう、という段階です。小さなものであればピクトグラム、あるいはイラスト、グラフ、ポスター、動画、音声などのコンテンツにはどういった意味があるのか、社会でどういう役割を果たしているかを理解できていることが評価基準になります。

 

<レベル2-1>「与えられたコンテンツが表現する、情報デザインの考え方や手法を理解し、説明できる」

ポスターやスライドには、ピクトグラムよりも多くの情報が入っていますが、その情報がどういう意味を持っているのか、どうしてこのレイアウトになっているのか、などまで考えられているかを評価します。

 

<レベル2-2>「与えられたコンテンツが表現する情報デザインが、伝達したい情報と合致しているか評価し、改善できる」

言いたいことを文章にしたとき、どこかニュアンスが違っていないか、また表や絵にしたとき、内容に間違いや漏れがないか、など情報が正しく伝わっているかどうかに気づくことが、評価の対象になります。

 

<レベル3>「伝達したい情報を、目的に応じてコンテンツとしてデザイン・制作できる」

コンテンツの制作を行うとき、知らない情報を相手に正しく伝えるため、スライド全体の配色やシナリオの作り方などが的確に考えられているかが、評価の対象です。

 

<レベル4>「コミュニケーションの目的に応じて、より効果的なコンテンツの情報デザインを考え、制作できる」

この段階までくると、より上流の設計レベルで全体を見ることになります。コミュニケーションの目的に応じて、効果的なコンテンツの制作をする、情報デザインをして制作をするということになってきます。自分の周りやクラスの人だけではなく、もっと視野を広げた様々な人を対象にして、目的に合った内容が作れるかということを評価します。

 

<レベル5>「デザイン・制作したコンテンツを発信した場合の効果や影響を考え、評価し、改善できる」

実際にあるWebサイトやポスターについて、その効果や社会に与える影響を考えられるか、評価をして、改善の提案ができるかどうかが重要です。

 

[「情報デザインとコンテンツ」レベル別問題案]

それでは、具体的な問題案を見ていきましょう。

 

<レベル1の問題案>

左側は(1)から(3)のコンテンツが表現する情報、および社会での役割を説明するというものです。(1)は緑色で描かれていて、答えは「非常口」ですが、これを黒で描いたら「落とし穴に注意じゃない?」と思う人もいるかもしれません。

 

(2)は、製品についての安全表示です。正解は感電注意ですが、「雷注意じゃない?」と思う人もいるかもしれません。

 

(3)カメラに×マークですから普通は撮影禁止だと思いますが、「カメラ持ち込み禁止?」と思う人もいるかもしれないのです。

 

その意味で、形や色は重要な意味を持つことがわかります。黄色や赤は「注意」とか「危険」あるいは、停止」などをイメージさせますが、一方、緑色で描かれていたらこれはOKという意味かな、と思うでしょう。

 

そういう物と色を組み合わせて、どういう表現をしているか、社会の人にどのような影響を与えているか、ということが考えられ、自分たちでもプログラムを作ることができるということに気づくわけです。

 

右側のイラストは、情報デザインとは何か?ということを、言葉を使ってわかりやすく伝えたいと思い、図にしたものです。問題としては「次の情報デザインの図が表す意味を説明せよ」と、なります。この3つを合わせて、「情報デザインは伝えるもの」ということを図で表しました。

 

この図はMicrosoft社のOfficeについているSmart Artを使いました。実はこの講演をする前に、あるメーカーのユーザーエクスペリエンスの専門家の人に「どうしたら一番簡単に説明できるの?」と、聞いたところ、簡単なのはSmartArtだと紹介してくださいました。私は、マイクロソフトの手先でもないですし、使っていない方も多いとは思いますが、こういうものを試してみるのもよいのではないかと思います。

 

 

他に、どんなアイデアがあるかということで、まとめたのがこちらです。

 

最後に挙げた、「CBTにするのであれば、様々な内容を15秒程度の映像で見せて、その意味と役割を考えさせる」というのは、「情報デザイン」はまさにこういう形がCBT試験ならでは実現できるのではないか思い、提案したものです。

 

<レベル2-1の問題案>

下図は2枚のポスターを比較して、Bの方がよい、とする理由を述べるという問題です。プリンとアイスクリームの両方を、同時に売りたい場合は並べたほうがいい、という理由になります。縦に並べると上から見て、スクロールが必要なら見ないこともありますから。

 

ただし、このポスターには実は決定的な欠点があります。「桃のプリン」「桃のアイスクリーム」と書いてありますが、桃の絵がどこにもないので、「桃」をりんごやメロンに置き換えても使えてしまいます。こういったことにも気づいてもらいたい、という問題です。

 

 

<レベル2-2の問題案>

こちらは市民マラソン大会の概要を説明した文章から、記載漏れと書き方の不統一を指摘する問題です。だらだらと書いてあって、いつから何が始まるのかがわかりにくい文章です。赤字で終了は15時と書いてありますが、手元の資料は12時になっています。8時半にスタートして、12時に終わったら、ゴールできずに残りの時間はどうしたらいいんだ、ということになってしまいますね。

 

問題は、作成した表と、文章とを合わせて、間違いはどこにあるかということを見つけてもらいたいと思います。

 

 

回答のポイントが書いてありますので、こういうところに着目してもらえればよいでしょう。簡単かもしれません。

 

 

<レベル3の問題案>

伝達したい情報を、目的に応じてコンテンツとしてデザイン・制作することができるかを見る問題です。

 

「セパタクロー」という、マレーシアのスポーツについて説明している文章から、コンテンツのデザインをしてみましょう、ということになっています。失礼かもしれませんが、あまり知られてないスポーツを取り上げて説明する問題です。(1)から(3)の小問が設定してあって、(3)が情報デザインの問題です。いきなり(3)を聞いてもよいのですが、(1)から順に聞いていくことによって思考の過程が整理できるようになっています。

 

 

解答例がこちらです。まず(1)の問いに沿って内容を4つに分けます。(2)で、分けたものをどのような目的で、どんな順番に並べるかを考え、シナリオを作ります。そして、(3)で、4つのスライドを制作します。イメージしやすいように、コートで競技しているイラストやボールのイラストなどを配置しています。

 

 

<レベル4の問題案>

コミュニケーションの目的に応じて、より効果的なコンテンツの情報デザインを考え、制作する問題です。ここでは、マラソン大会の案内をWebで発信する際に、いくつかのバナーを用意して、参加者の目線でどこにどのように配置したらよいかを考えさせる問題です。

 

このレベルになると、共通テストや一般入試で出題し、簡単に解けるものではなく、正解が一つとは限りません。また、バナーの配置など制作環境も必要なので、AO入試等の方が向いているといえます。

 

 

<レベル5の問題案>

デザイン・制作したコンテンツを発信した場合の効果や影響を考え、評価し、改善できるかを見る問題です。高校を紹介するホームページを作って、「この高校を目指す中学生の目線で」改善点を指摘する、という問題案です。この画面で言えば、トップにあるキャッチコピーの「キミを待っているぜ」が高校として相応しくないとか、それに対して「私達の高校は歴史が古く…」と細かい文字で書かれた文章は読まれないだろうから不要だ、ということを指摘してほしい、ということになります。

 

 

このようなWebデザインのルールを基準に問題文を作ったり、出題をしたりすることができるのではないかと考えています。ただし、この問題も正解が一つではなく、解答した理由を記述するなどが必要ですから、共通テストや一般入試ではなく、AO入試などに向くと思います。

 

レベル4の制作とレベル5の評価・改善がどちらが難しいか、入れ替えた方がいいといった意見もあります。以上です。

 

文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」  

第3回シンポジウム「2025年度 高校教科「情報」入試を考える -思考力・判断力・表現力を評価する試験問題の作問方法- 」講演より