公開シンポジウム「情報教育の参照基準」 

はじめに~「情報教育の参照基準」策定までの背景と経緯

東京大学 萩谷昌己先生

平成28年3月に、日本学術会議から「情報学の参照基準」が公開されました。これは、日本学術会議の30の分野別委員会の活動として作ったものです。

 

この中で「情報学の参照基準」は、私が委員長をさせていただいた情報学委員会の、「情報科学技術教育分科会」 (情報学教育分科会の前身です)と、「情報処理教育委員会」の協力のもとで策定したものです。

 

分野別委員会の、各専門分野の参照基準はほぼ出揃い、情報学は、名古屋大学情報学部や九州工業大学情報工学部で実際にカリキュラムを設計する際に参照していただいています。

 

参照基準は、大学の学士専門課程における知識体系と、養成すべき能力を定めるものです。情報学分野の特徴は、文系と理系に広がる情報学、特に社会情報学の分野を含んで、「社会的価値の創造」を目標に据えていることです。

また、「メタサイエンスとしての情報学」を強調しており、全ての学問分野で活用される学問としての「情報学」を定義しています。

 

小学校から大学までの情報教育を体系化する

これを受けて情報学教育分科会では、大学の学士専門課程だけではなく、小学校から大学の教養課程まで、それから専門の基礎教育としての情報教育を体系化しよう、という活動をしてきました。これが本日ご紹介する「情報教育の参照基準」です。

 

この「情報学教育分科会」は、先ほどの「情報科学技術教育分科会」が、名前を変えたグループで、私が委員長を務め、後ほどお話しいただく電気通信大学の久野靖先生に特任連携会員として加わっていただいています。ここでは現状をまとめるだけでなく、将来実践されていくことが期待される「理想形」を定めることを目標としてきました。

 

さらに、後ほど國學院大學の高橋尚子先生からご紹介がありますが、大阪大学が中心となり、東京大学と情報処理学会の情報処理教育委員会が連携して受託した、文部科学省の大学入学者選抜改革推進事業にも策定に協力していただきました。

 

「情報教育の参照基準」の大きな特徴は三つあります。一つは情報教育の分野を11分野に分類し、その中で知識・理解だけでなく、いわゆるジェネリックスキルについても定めていることです。

 

二つ目は、11の各分野に、3つから4つのサブ項目を設けて、さらにそれぞれに4つの水準を与えています。この水準が小学校・中学校・高校・大学という教育段階に対応しています。つまり、各教育段階でどのような知識を学ぶか、どういうスキルを養うべきか、ということを定めています。

 

各項目で指定している教育段階がこちらです。これは、後ほど久野先生の方から詳しく説明していただきます。

 

三つ目は、情報教育の最終的な出口として想定している大学の専門基礎教育について、大学の専門分野を、5つのグループに分けて、それぞれのグループの情報教育の専門基礎教育をある程度定めようとしていることです。

 

専門分野の5つのグループがこちらです。

 

最終目標は「情報教育の木」を定めること

これは私の個人的な考えですが、最終的には「情報教育の木」を定めたいと思っています。

 

情報学というのは、いろいろな分野から成り立っています。それぞれの分野の教育は、年齢が下の方の小学校・中学校・高校ではほぼ同じようなことをしています。

 

これが大学に入ると、分野ごとに少し枝分かれし始め、専門基礎教育になると、さらに専門分野のグループごとに分かれていきます。こういった情報教育の木のようなものを定めていくということです。「情報教育の参照基準」は、こうしたイメージで作ってきました。

統計学の方でも、このようなかなり幅広い参照基準を定めています。情報教育の参照基準を策定することになったのは、統計学の参照基準が出てきたので、やはり情報教育も広い意味で体系化することが必要だろうということで、取り組んできました。この後は、久野先生から詳しい内容をご紹介いただきます。

 

公開シンポジウム「情報教育の参照基準」(主催:日本学術会議情報学委員会情報学教育分科会)

2019年5月18日(土) 東京大学山上会館