国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会

New Education Expo2019

小学校の新学習指導要領スタート目前、働き方改革も見据えて、教育ICTは標準装備の時代へ

国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会「New Education Expo2019」が開催されました(東京会場: 東京ファッションタウンビル、6月6~8日、大阪会場:大阪マーチャンダイズ・マート、6月14~15日)。

写真提供 内田洋行
写真提供 内田洋行

 

24回目となる今回は、来年4月からの小学校の新学習指導要領の全面実施や、先生方の働き方改革の推進をはじめ、かつてない大きな変革を目前にした時期の開催となりました。会場では約70のセミナーやフォーラム、遠隔授業や一人1台タブレットなどを最新設備の環境で体験する9つのフューチャークラスルーム・ライブ、140社の協賛企業を数え、例年以上の来場者で賑わいました。

 

セミナーでは例年以上に「教育の情報化」や「プログラミング教育」をテーマとしたものが多く、特にプログラミング教育に関しては、公立の小中学校での実践事例の紹介が目立ちました。

 

新学習指導要領の実施を前に、各自治体や学校でICT機器やシステムの導入が活発に進められているため、各企業のブースでは、具体的な条件を示して説明を求める来場者の姿が数多く見られました。

教材や機器の紹介では、目新しい機能というよりは、一番よく使われる機能に特化することで、使いやすさや低価格をアピールするものが数多く見受けられました。

 

校務支援システムの目玉は、何と言っても「働き方改革」です。展示では、ICTの手順を覚える手間以上に、これだけの作業が軽減できるということが、具体的に示されていました。さらに、複数のサービスをパッケージ化することで、調達の際の事務手続きや環境の構築の手間が省けることをうたうものも見かけました。

 

セミナーレポート

【特別講演】

「新学習指導要領における教育の情報化の推進」 

東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也先生

 

【特別セッション】

「教育の情報化の最新動向〜各省の施策から見える教育の情報化の展望〜」

教育の情報科の現状について

文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 高谷浩樹氏

Society5.0・働き方改革・一億総活躍社会と「未来の教室」

経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長 浅野大介氏

 

 

【パネルディスカッション】

「AI時代に必要となる情報教育 〜段階的な情報活用能力の育成と大学入試における教科「情報」~」

[コーディネータ]日経BP社「教育とICT Online」編集長 中野淳氏

獨協埼玉中学高等学校 相原結先生

東京学芸大学 副学長 松田恵示先生

東京藝術大学 先端芸術表現科 古川聖先生

放送大学 辰己丈夫先生

 

 

【パネルディスカッション】

「教科の学びにつなぐプログラミング教育 導入から授業実践

~先進自治体、取り組み校の導入・実践・支援から学ぶ~」

[ファシリテータ]

柏市教育委員会教育研究専門アドバイザー 西田光昭氏

[小学校の事例]

札幌市立伏見小学校 朝倉一民先生

大田区立矢口西小学校 和田直己先生

 

【パネルディスカッション】

「学習の基盤となる情報活用能力の体系的な育成 〜実践事例から考える育成方法〜」

[コーディネータ]宮城教育大学 教育学部 安藤明伸先生

長野県教育委員会 学びの改革支援課 松坂真吾氏

北海道教育大学附属釧路中学校 柴田題寛先生

鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 泰山裕先生

 

 【パネルディスカッション】

「となりの高校、ICT活用どうしてる? 〜アクティブ・ラーニング、ポートフォリオ(高大接続)、探究等の各場面〜」

 [コーディネータ]

関西学院千里国際中等部・高等部 米田謙三先生

 [事例]

東京都立両国高校 布村奈緒子先生

日本大学鶴ヶ丘高校 近藤明宏先生

東京都市大学等々力中学校・高校 鹿又裕毅先生

 

【パネルディスカッション】

「ICT環境の充実を目指して 〜1人1台の端末整備やモデル校での取組〜」

[コーディネータ] 東北学院大学文学部 稲垣忠先生

柏市立手賀東小学校校長 佐和伸明先生

川崎立川崎高等学校附属中学校 杉本昌崇先生

 

【パネルディスカッション】

「これからの「探究」をデザインする学校へ ~変革の時代に創造する生徒を育てるために~」

[コーディネータ]

横浜国立大学 教育学研究科 脇本健弘先生

[事例]

福井県立若狭高校 渡邉久暢先生

桐蔭学園中学校・高校 登本洋子先生

 

展示レポート

セミナーは教育の情報化をテーマに具体的な事例が中心。展示はAIを使った教材やソリューションが登場、取ったデータをどのように使うかが課題に

今回のセミナー・企業展示について、内田洋行ICTプロダクト企画部部長の畠田浩史さんにお話をうかがいました。

今年の東京会場では、昨年よりもかなり多くの方が来場されました。小学校で新しい学習指導要領が来年から始まることで、先生方も自治体や教育委員会の方も、例年以上に関心が高まっていることが背景にあると思います。

 

今年のセミナーは、「教育の情報化」に関するものが最も多いですね。新学習指導要領の教科学習でICTをどのように扱うか、というテーマが目白押しです。特に、現場の先生方が来場されやすい土曜日は、ほとんどこのテーマに関するものです。

 

今回は、小中学校の先生方が、実際の授業の中でICTやプログラミングをどのように導入しているか、という実践事例を紹介するものが多いですね。また、文部科学省など省庁の方や有識者の方は、教育の情報化の政策的な位置づけを説明するというお話が中心です。

 

展示では、小学校のプログラミング教育が始まるので、やはりその関係が多いですね。単にロボットを動かすだけでなく、コンテンツを作ったり、考え方の手順を学んだりすることを通してプログラミングを学ぶという幅広さを感じさせるものが増えてきているのが、特徴だと思います。

 

また、「AI」をうたう展示が様々なところで見られました。現段階では「AIを使うとこんなことができる」というレベルですが、中学校の数学で、AIを使って一人ひとりの理解度に合ったドリルを与えるQubenaというシステムがありました。これは、経済産業省の「未来の教室」の実証実験事業で東京の麹町中学校が導入して、同じことを習得することにかかる時間を減らすことができると報告されていますが、これはAIを使ったAdaptive Learningの例です。

 

また、顔認証を使って登下校や出欠の確認をするシステムもありましたが、これなどは例えば教室の中の子どもの表情をチェックして、子どもの状態や理解度をつかむことにも使われるようになるかもしれません。

 

ただ、AIを使って大量のデータを集めることはできますが、取ったデータをどうするかについては、まだ議論の余地がありそうです。何でもデータ化して取るのはよいのですが、今後は誰のために・何のためにそのデータを取るのかということが、問題になってくるかもしれません。本来は学習する人のためのはずですよね。今後は、データの倫理的な利用と合わせて、ビッグデータを扱う際に避けて通れない問題になるとおもいます。

 

地方交付税交付金の措置がついて、各自治体や学校でのICT環境の整備が進んでいますので、ネットワーク環境構築にも関心が集まっていますね。今後5Gになったら、無線LANと同じスピードで大容量のコンテンツが使えるようになるので、自治体でも学校内に改めてネットワークや無線LANの設備を作るのでなく、デバイスに附属しているネットワーク機能を利用して、LTEでそのまま使ってしまえばいいのではないか、というところが出てきています。特に高校ではBYOD(Bring Your Own Device)が中心になってくるでしょうから、その傾向は一層加速するかもしれませんね。

 

また、電子黒板や書画カメラといった機材については、使う時にわざわざ教室へ運ぶというのでなく、

教室に常設になるので、使いたい時にいつでもすぐ使える、ということがポイントになります。そうすると、立ち上がりが早くて機能もシンプルで、一番よく使う機能がぱっと使える、しかも価格が安い、ということをアピールするものが目立ちますね。

 

面白いのは、教室内の拡声システムです。日本の先生は教室内でマイクを使うことはほとんどありませんが、海外ではごく一般的に使います。今後、英語の4技能の教育が進むと、発音の細かいニュアンスを聞き取ったり話したりするためにマイクを使う機会が増えてくるかもしれません。

 

LEGOから小学校高学年から高校までのプログラミング授業向けシリーズが登場

レゴ・マインドストームやWeDo2.0、LEGO BOOSTなど、レゴブロックとプログラミングを組み合わせた教材を輩出しているLEGO educationから、新たなシリーズ「SPIKETMプライム」が発表されました(2019年8月発売予定)。

 

SPIKETMプライムは、新しい学習指導要領でプログラミングが必修となる小学校高学年から中学校・高校がターゲットとなっており、45分の授業の中で組み立てて試行ができるように構成されています。

 

プログラムはScratchベース、ジャイロセンサーやタッチセンサーなども搭載され、STEAM教育の幅を広げます。

 

新聞記事を使った読む・書く力を育てる教材をメールサービスで配信

コピー機や複合機の理想科学が紹介していたのが「読み解き新聞ワークシート」です。これは、同社が朝日新聞社と提携して新聞記事を使って、読む・書く力を育てるための教材です。小学校・中学校を対象としたもので、15分程度で実施できる内容です。理想科学の印刷機を入れている学校にメールサービスで配信しています。今までは先生方が記事を切り貼りして作っていたものを、ワークシートにしたもので、ちょっとした空き時間などに取り組める教材として好評だそうです。

 

twitter感覚で連絡や予定を確認できる 先生向けの情報共有ツール

ムーブボードは、先生方同士の連絡や行事等の予定をスマホやPC上で確認できる情報共有ツールです。サーバ上にページを作り、Google Cromeで閲覧用・投稿用のURLにアクセスして使います。

 

「連絡」「行事」「学年」など項目毎にページを分けることもでき、情報を探すのも簡単です。投稿はtwitterと同様に手軽に行うことができます。校外学習で引率した出先からでも投稿したり連絡を確認したりすることができるので、タイムラグなく情報を共有することが可能です。

 

「一番使う場面」に特化することで高性能でも価格を抑える

ここ数年書画カメラは高画質やワイヤレスなど機能が充実し続けていますが、これはパソコン接続専用の書画カメラです。「書画カメラを使うのはどんな場面か」を検討した結果、画質や倍率などその他の機能は高レベルにして、ワイヤレスより安価なパソコン接続としました。価格を抑えた分、同じ予算内で1台でも多く導入できるメリットを取った形です。

 

タブレットを使って「学び合う環境」を作る学習支援システム

タブレットを使う活動は、協働学習の場面は比較的作りやすいですが、ドリルやワークシートなどでは紙を置き換えただけになりがちです。SchoolTaktは、Webブラウザ上で生徒の学習状況を把握したり、生徒同士が作品や意見を共有したりコメントのやりとりをしたりする環境を作ることができます。

 

先生は自分で作った教材をPDFにして簡単にアップロードすることができるので、これまで紙ベースで作ってきた教材をそのまま使うことができます。

 

また、他の生徒の意見に「いいね」をつけたり、どの子がどの子の作品を見に行っているかといったログを把握したりすることもできるので、学級運営や生徒の理解度チェックに活用することができます。小学校から高校まで様々な場面で活用することができ、遠隔授業での利用も可能です。

 

デバイス・通信・教材のパッケージモデル

MicrosoftS、Lenovo、docomoの3社がコラボしたデバイス、通信、教材のパッケージモデル「ICT Goodstart」が今回初めて出展されました。実際の設置やヘルプデスクもサービスに含まれ、導入から運用までのトータルサポートとなっているので、これからICTの環境整備を進める学校や自治体には必要なものを漏れなく調達することが可能です。

 

また、すでに設置している施設や機材を活用してカスタマイズすることができ、システム全体を俯瞰した設計も可能になります。

 

調べ学習に使いやすい百科事典サービス

タブレットを使った調べ学習では、ネット上の様々な情報を得ることができる反面、必ずしも内容が適切でなかったり、子どもにはテキストが難しすぎたり長すぎたりして、探す時間がかかる割には、なかなか思うような効果が得られないことが往々にしてあります。百科事典のブリタニカでは、「総合的学習の時間」の教材としてカスタマイズした事典サービスを行っています。

 

子ども達が使うことを前提として、文章も簡潔にわかり易くしてあり、3か月に1回内容を更新して常に最新の情報が得られるようになっています。

 

このサービスでは、データを学校のサーバに保存することも、ブリタニカのサーバにアクセスして使うことも可能です。また、端末を選ばす、タブレットやCrome Bookなどからも使うことができます。

 

STEAM教育に活用できるクリエイティブツールをより手軽に

PhotoshopやIllustrator などプロのクリエイター向けのツールを開発しているアドビクリエイティブシステムズでは、グラフィックデザイン・動画編集・ウェブデザインのアプリケーションソフトをサブスクリプション方式(※)で利用できるAdobe Creative Cloudを紹介しました。Officeの次のクリエイティブツールとして、従来のPowerPointでは限界があるプレゼンのスライドやポスター制作などで幅広く利用できます。主に大学の共通教育をターゲットとしていますが、研究発表に力を入れているSSH、SGHの高校でも利用が増えているそうです。

 

利用者にはWebのチュートリアルがあり、オンラインで説明を受けることができるので。先生が操作方法を熟知する必要はありません。デバイスのライセンスはPC50台分、PC教室一つ分が基準になっており、ユーザーが250人以上いれば、ソフトを単体で入れるよりもこのサービスを入れる方が得ということになります。

 

※ソフトの利用権を借りて、利用した期間に応じて料金を支払う方式。

 

セキュリティは個々の端末の保護からあらゆる層を対象とした保護へ

これまでのセキュリティソフトやサービスは、個々のデバイスを保護することが中心でしたが、学校内のICT化が進み、いろいろなネットワークが併存するようになったことで、端末だけでなくサーバやネットワーク回線など、様々な層でのガードが必要になってきます。

 

特に校務システムでは、個人情報の暗号化や、先生方が学校外で仕事をする際の情報漏洩対策をいかに確実に保護するかが課題です。導入に際しては、個々の学校というより、教育委員会、教育センター単位で契約する例が多いようです。

 

PCにつないですぐ使える・キャプチャやpdf化が簡単・よく使う機能を極力シンプルに

様々な機能が出揃った感のある電子黒板ですが、実は授業でよく使われる機能は意外に限られています。また、使う前にPC側に様々なドライバをインストールしておく必要があるものも多く、使い始めるまでにけっこう手間がかかります。電子黒板はディスプレイタイプで、PCにつなげばドライバをいろいろインストールしなくてもすぐに使うことができます。

 

また、画面のキャプチャを取ったり、データをpdfにしたりといった授業で使われる場面の多い機能の手順を極力シンプルにすることで、授業の流れを止めることなく保存や再生を可能にしています。

 

取材を終えて

小学校の学習指導要領の実施まで1年を切り、過去最大級の教育改革ともいえる教育の情報化と、それに伴うICT環境の整備の真っただ中ということで、今年の会場は例年以上の多くの来場者の熱気にあふれていました。

 

セミナーでは、先の畠田さんのお話にもあったように、小学校の具体的な実践事例を紹介するものが多く、臨場感のあるものとなっていました。2021年度には中学校、2022年度には高校で新しい学習指導要領がスタートし、いずれは小学校プログラミングを学んだ子ども達が進学していきます。今後は中学校・高校でもプログラミング教育にも一層の関心が集まることでしょう。

 

写真提供 内田洋行
写真提供 内田洋行

 

ちょうど10年前、私達は当時内田洋行の本社ビルにあった「次世代ソリューション開発センター」を取材しました。電子黒板やデジタル教科書、実物サイズが投影できるプロジェクター、各自の手元のプリントを一斉に提示するマルチスクリーンなど、当時は目を見張るばかりだった技術の多くが、今や普通教室で標準装備されることになっています。次の次の学習指導要領が始まる2030年代、教室空間や授業の方法はどうなっているのでしょうか。今年いよいよ目立ち始めた「AI」が教育現場にどのような影響を与えていくのかと合わせて、注意深く見守っていきたいと思います。