New Education Expo2019

となりの高校、ICT活用どうしてる?

「コミュニケーション英語I・II」の授業を例に

東京都立両国高校 布村奈緒子先生

私の勤務校の東京都立両国高校は、附属中学校を併設する中高一貫校です。中学校が3学級で、高校入試をして2学級分の生徒を高校から取り、高校は5学級です。併設型というのは、学習課程の先取り学習は行っていないので、中学校で3学年分をきっちり終えて、高校で新しい生徒を受け入れて全員同じところからスタートする、という形です。教科は英語で、進路指導部も担当しています。

 

きょうは本校のアクティブ・ラーニングについてお話しします。普通の公立高校ですので、ICT環境としては、今年度ようやく全教室にプロジェクターがついたというところで、BYOD(Bring Your Own Device)もありませんし、Wi-Fiもつながっていません。その中で、普通の40人学級でどのようにアクティブ・ラーニングを行っているのかについてお話ししたいと思います。また、新しい学習指導要領が告知されましたので、その部分についてもお話しします。

 


1点目は、新学習指導要領とアクティブ・ラーニング、すなわち主体的・対話的で深い学びとの関係とはどのようなものかについて、私なりの解釈をお話しします。2点目として、英語の授業の中でニュースや社会的な話題を用いて考える活動の実践についてお話しさせていただきます。そして最後に、本校はまだICT環境が整っていない状況ですが、その中で、フリーで使えるものを中心に、私が使っている授業支援ソフトなどについて紹介いたします。

 

英語科から見た新学習指導要領の「資質・能力」

今回の学習指導要領の改訂には、二つの大きなポイントがあると思います。一つは資質、能力として、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」の三つが、全教科にわたって示され、この三つをきちんと伸ばせるようにしていきましょう、ということになったことです。

 


英語で言う知識・技能とは、文法的な力や語彙力といったものです。そして、自分の考えを話したり、判断したことを書いてみよう、などというのが思考力・判断力・表現力にあたります。これは知識・技能も、思考力・判断力・表現力も、全てが学びに向かう力・人間性、つまり人との関わり合いの中で育成していくもので、学びに向かう力・人間性は全てに絡んでくるということが書いてあります。

 

学びに向かう力・人間性というのは、おそらくこの「主体的・対話的で深い学び」に向けた授業改善の中で行うべきであろうということで、この2点目、主体的・対話的で深い学びの授業改善という言葉が入っています。学習指導要領に「アクティブ・ラーニング」という横文字が入れられなかった、ということが話題になっていますが、それでも「何を学びなさい」ではなく、「どのように学ぶのか」という授業の仕方が書かれたのは、大きな転換であると思います。

 

三つの資質・能力について、もう少し詳しくお話しします。「知識・技能」というのは、『生きて働く』知識・技能の習得となっています。そして、『未知の状況にも対応できる』思考力・判断力・表現力の育成。『学びを人生や社会に生かそうとする』学びに向かう力・人間性ということです。

 

 


要は、知識・技能は「何を理解しているか・何ができるか」。思考力・判断力・表現力は「理解していること・できることをどう使うか」。そして、学びに向かう力・人間性は、「どのように社会と関わり、よりよい人生を送るか」という、学校を卒業した後のことも書かれています。

 

この「主体的・対話的で深い学び」という言葉を、なぜわざわざ新学習指導要領に入れたのか、皆さんにも考えていただきたいと思います。今から周りの方と一緒に話し合ってください。まずお互い自己紹介していただいて、その後、「文部科学省はなぜこの言葉を新学習指導要領に入れたのか」ということを話し合ってみてください。正解はありませんので、思ったことをお話ししていただけたらけっこうです。では、1分間でよろしくお願いします。

 

…それでは1分経ちましたので、どなたかご意見をお話しください。

 

参加者A「私は大学を卒業して社会に出てからも、教えてもらわないと何もできない人が多すぎるからだと思います」。

 

ありがとうございます。ほかにいらっしゃるでしょうか。…なかなか手が上がりませんよね。それでは先生方、立っていただけますでしょうか。今、お二人で話していただきましたので、どちらかの方が挙手をして、「こういう話が出ました」ということを発表されたらお二人とも座れるという形にしたいと思います。それではどなたか、お願いします。

 

参加者B「『主体的・対話的』をひっくり返した『受動的・一方的』というのが、今までの授業だったかもしれないので、そこを変えてほしいという、強いメッセージがあるのかなと思いました」。

 

参加者C「今、受動的という意見がありましたが、自分でものを考えたり作ったりという力、そのためのコミュニケーション能力などを磨いてほしいというメッセージがあると思いました」。

 

ありがとうございました。すばらしい答えが出たので、いったんここまでにして、おかけください。私の授業で生徒に意見を出してもらうときには、こういうことをしますよ、という実践例の一つ目でした。

 

今出てきたように、一つは受動的でなく、自分たちが参加できる授業にしてくださいねということなのだろうと思います。また、受け身だったり指示待ちだったりという人が多すぎる。これではいけないという、社会からの要望もあったのではないでしょうか。

 

下図は、リクルートマネジメントソリューションズの新入社員に対する調査です。今の新入社員が苦手に感じることとして、「苦手な人とうまく付き合う」「間違いを恐れず意見を言う」「よりよい方法を自ら提案する」「自分の気持ちを素直に出す」「自分から周囲に協力をあおぐ」「困難にぶつかっても逃げない」の6点が上がっています。 

 

 

授業が安心・安全の場であるからこそ生まれる「主体的・対話的で深い学び」

これを私はこのように解釈しました。「間違いを恐れずに意見を言ってもいい」「よりよい方法を自ら提案してもいい」「自分の気持ちを素直に出してもいい」「自分から周囲に協力をあおいでもいい」。こういったことは、安心、安全の場がなければ、できるようになりません。

 

ですので、いろいろなところで「アクティブ・ラーニング」と言われていますが、「何を言ってもいいよ」と受け入れてくれるという、心理的に安全であるという場を授業の中で提供するための手段として、アクティブ・ラーニングのようなことがあればよいのではないかと思います。

 

 


そうすれば、間違いを恐れず意見を言ったり、自分の方法を自ら提案したりしようとする気持ちを、素直に出せるようになるのではないかと考えて、安心・安全の場を授業の中で取り入れられるように意識をしています。先ほど先生方にやっていただいたのは、その一つになります。

 

生徒に「どうですか」と聞いて、挙手させて答えさせようとすると、生徒は「先生は、一体何を求めているんだろう。今求められている答えは何かな」ということを探るわけですよね。探って、その答えを言えなかったら「Boo!」となり、それが嫌だからわざわざ手を上げて発言したくないと思うのでしょう。それを隣の人に話すことで、自分が思っているのは別に変なことではないということを、お互いに確認することができます。その上で挙手するのであれば、意見を言ってみようという生徒が多少は出てくるかもしれません。

 

さらに、皆に立ってもらうとのは半分強制のようなところがありますが、そういうことを繰り返しながら、自分で発言をするという体験が少しずつ積み上がっていきます。こうすることで、いざ自分の意見を言わなければいけないという場面に出たときも、大きな勇気が小さな勇気ぐらいで済むかなと思っています。

 

正解を出すためでなく、思考力を働かせるための問いかけ

そういったときに大切になるのが、正しい答えを生徒から引き出そうとするのではなく、「唯一絶対の正解」がない質問をすることだと思います。要は、先生は答えでなく意見を聞く。「あなた自身はどう思いますか」という、考えて答えるような質問をしてあげるとよいと思います。

 

社会的な問題も、ただ「社会でこういう問題が起きているけど、どう思う?」と聞くよりも、その問題を自分のことに落とし込んで質問するほうが多少なりとも話しやすいので、そういったところを工夫しています。

 

Readingのテキストの内容を自分の問題に引き付けて考えさせる

思考力を用いるタスクの作り方ということで、思考力にはいろいろありますが、例えば「これとこれを比較してみましょう」とか、「いろいろある情報を分類してみましょう」「違いを見つけてみましょう」「自分と関係づけてみましょう」という設問をすると、思考力がより働くかと思います。論理的思考力であれば、「理由をともなって結論を出してください」とか、「あなたはこういう意見を持っていますが、理由は何ですか」というところが、思考力をより用いるタスクだと思います。

 


ここで一つ、実際の英語の授業例をご紹介します。英語というのは、実はいろいろな教科の話題が入ってくるので、高校になるとに非常に題材が難しくなります。

 

例えば、こちらはCNNの教材で、このNews 5 Environment A  Most Basic Needというのは水問題です。水問題を考えようというときに、単に「水問題ってどう思いますか。水って必要だよね」と言われても、生徒はぴんとこなくて、「はい、その通りです」としか言えません。それを自分のことに引き付けて考えるために、どのようなことをしたかについてお話ししていきたいと思います。

 


英語ですので当然ながら英語で授業していますが、日本語だったらもっといろいろ答えられるでしょう。そこを、不自由な言語の中で、いかに思考力を使いながら発言をするところまでもっていくのか、というところを考えていただければと思います。

 

最初に、ブレインストーミングとして“List the things that you do in a day that require water.” 朝起きてから夜寝るまでの生活の中で水を使う場面にはどういうものがあるか、ということをそれぞれ書いてもらいました。

 


これができたら、今度は今作ったリストに出てきたことについて、“what if”という質問を考えます。例えば「歯を磨く(とき水を使う)」という答えが出ていたら、“What happens if you can’t brush your teeth?”(歯を磨けなかったらどうする?)という問いを立てます。同じように、“What happens if you can’t use the toilet?”(トイレに行けなかったらどうなる?)といった質問もできます。

 

 


いきなり議論でなく、Round Robinで質問を出し合ってみる

こうやって、自分のこととして落とし込んだ質問を作って、Round Robin(ラウンドロビン)、つまり4人1組のグループの中で、右回りでぐるぐると1人ずつ質問を出して次の人が答えていく形式で回します。

 

“What happens if you can’t wash your face?”(顔を、洗えなかったらどうする?) “Well, I think my face will get dirty and I will be uncomfortable.”(顔が汚くなって、気持ち悪いと思う)というくらいでよいのです。いきなり「さあ、今のことについて英語で話し合ってみましょう」と言われてもハードルが高いので、このようなセンテンスゲームの形で、一人ずつ意見を言うことに慣れていきます。

 


この後、1班から1人ずつ立たせて、どんな意見が出たかを発表してもらい、それを私がPCでスライドにどんどん打ち込んでいきます。1クラス10班なので、10個の答えが出てきます。こちらが、実際に生徒たちから出てきた発言です。

 

 


テキストを実際に読んでから、「日本は何ができるか」を考える

こういった活動をしてから、実際のテキストを読みます。それにあたって必要な語彙が出てくるので、衛生はsanitationというね、食糧不足というのはfood shortageなんだねと、水問題に絡んでくるトピックとして知識を入れてから、読み進んでいきます。

 


 

このwaterの話題をさらに広げて社会につなげていくために、どんなことをするのかというのが、次のお話です。

“What could Japan do to help people in other countries?”“Whose responsibility is it to provide people with water?”という問いについて考えます。

 

 


ちょっと難しい話題ですが、ここでは例えばUNICEFと博報堂はコラボして、水問題の解決のためにこういったことをしているといったことなど、いろいろな映像教材を使って実態を伝えます。「この子どもたちは、毎日水汲みに行かなければならないから学校に行けないんだよ」という映像を1~2分見せるだけでも、自分のことに引き寄せて想像することができると思います。

 


フリーのソフトで広げる活動

最後に、私が使っている授業支援ソフトがこちらです。Edmodo(※1)やSchoology(※2)、QUIZLET(※3)いう単語のアプリも使っています。

 

例えばSchoologyでは、先ほど紹介した参考映像のURLを貼っておきます。時間がなくて授業時間内で使えなかったとしても、生徒が家でアクセスして見ることができますし、もう一回確認したい人はここで確認することができます。

 

授業のスライドなども全てこの中に入れてありますので、復習に使ったり、欠席した授業でどんなことをしたかを見ることもできます。

 


また、課題で事前に読んでおくテキストを「Reading Pack」としてアップしておき、4人一組のグループで4人が別々の新聞記事を読んでおいて、授業ではそれぞれ読んできたことをシェアするという活動ができます。Listeningでも同じようにして、前もって聞いておいてほしい音声データをアップしておき、授業の場ではディスカッションをするという反転授業のようなこともしています。

 

Speakingについては、どうしても話すのは苦手な子がいますので、授業の中では、先ほど使ったRound Robinの手法をよく使っています。SchoologyやEdmodoでは、他の生徒にコメントを書いてもらうことで他の人の意見を見ることもできます。また、ディスカッションの内容についても、できるだけいろいろな意見を出し合い、正しいとか間違っているとかを気にせず話あえるような工夫をしています。

 

※1 https://new.edmodo.com/?go2url=/home

※2 https://www.schoology.com/

※3 https://quizlet.com/ja