New Education Expo2019
「ICT環境の充実を目指して 〜1人1台の端末整備やモデル校での取組〜」
公立の中高一貫校における1人1台端末の実践
川崎市立川崎高等学校附属中学校 杉本昌崇先生
ICTを活用して主体的・対話的で深い学びの環境を作る
私は理科の教員で、本校は5年目になります。今日は、最初に簡単に本校の紹介をして、普段自分がどのようなことを意識して授業をしているかをお話しさせていただいて、次に学校として他教科も含めてどんなこと取り組んでいるかを説明し、総合的な学習の時間を軸にカリキュラムマネジメントのお話もいたします。その後、今後に向けてという形で、課題点や改善点についてお話しします。
本校は、平成26年4月に川崎市初の公立中高一貫校として開校しました。本年度ようやく附属中学からの入学生だけで6学年そろったことになります。
学校目標は、高校と同様に「心豊かな人になろう」ということで、人権感覚豊かで高い志をもって学び続け、国際都市川崎をリードするたくましい人材の育成を目指しています。特徴としては、生徒1人1台のタブレット型PCを所持しており、これは各ご家庭で購入していただいています。
本校の教育の三つの柱が、「体験・探究」「ICT活用」「英語・国際理解」です。本日は、このICT活用の部分についてお話しします。
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既に皆さんもご覧になっていると思いますが、学習指導要領の改訂の方向性が下図です。また、次期学習指導要領に向けた審議のまとめの、こちらは理科の部分ですが、「『主体的な学び』や『対話的な学び』の段階でICTを活用することも効果的である」と明記されており、これを実際にどのように活用するかということをしっかり考えることが大事だと思います。
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こちらのICT環境整備のステップの表も、よくご覧になっていると思いますが、本校は1人1台のPCを持っていますので、下図で言えばステージ4の段階に来ています。今日の実践事例は、このステージ4におけるものです。
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理科:タマネギの細胞分裂の観察にタブレットとコラボノートを活用
まず私自身の担当教科である理科の実践報告をいたします。私は、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた1人1台の端末整備環境をいかに効果的に活用していくのか、ということについて研究してきました。生徒にどのように活用させるかということに視点を置いて、授業内だけでなく、授業外というところも考えました。
中学3年生では、玉ねぎの根の細胞分裂の観察という実験を行います。この実験は準備が結構たいへんで、スライドで示しておいても、この作業だけで説明も含めると10分以上取られるという状況です。
さらに面倒なのは、細胞分裂をしているものはごく少数で見つけづらく、初めて見た子にとっては、それが本当に正しいかどうかを判断するのも非常に難しいのです。教科書にはさらっと書いてありますが、意外に難易度の高い実験観察です。
この実験では、分裂している細胞を見つけたら細かなスケッチをさせますが、そこまですると時間的にかなりタイトな授業になります。2コマ連続という形で編成していれば何とかなるかもしれませんが、なかなかそういうわけにもいきません。
そこで、この授業にタブレット型PCのカメラ機能とコラボノート(※)を組み合わせてみましたら、非常に効率的に進めることができました。コラボノートは、(株)ジェイアール四国コミュニケーションウェアが開発した共同学習支援ソフトで、川崎市内の各校に配置されているタブレット端末にも搭載されています。イメージとしては、インターネット上で共同編集の書き込み作業をするものです。
※https://www.collabonote.com/edu/school/
具体的な進め方です。まず、スケッチをするのでなく、顕微鏡の接眼レンズにタブレットPCのカメラのレンズを近づけて、写真を撮ります。
そして、撮った写真を先ほどのコラボノートに貼り付けると、記録を取ると同時に、自分の席にいながら他の子の結果とも比較することもできます。
そして、自分のデータは違うなと、確認をすることができたり、教員側からも「これはちょっと違うからもう一回探してごらん」とアドバイスをしたりすることで、本当に玉ねぎの細胞分裂をしている細胞かどうかを確認できることになります。
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こうすることで、子どもたちが自分で確認できるとともに、記録のためのスケッチの時間も省けるので、細胞を見つけた後に話し合ったりする時間を創出することができ、より主体的・対話的な深い学びの実現につながるかなと思います。
意見交換、既習事項の振り返り、反転学習にもICTを活用
下図は、3年生のエネルギーの単元で、原子力発電所の必要性に関するディベートを行って、終わった後の感想をコラボノートで書きました。ただ感想を書くだけでなく、記入用紙の色を、原子力発電所が必要と思うか、思わないかによって変えることにすると、意思表示もすることができて、一覧表示をすることによって、ぱっと見れば、どんな意見があるのかを共有することもできます。こうやっていろいろな意見を感じることで、さらに高い学びに到達するのではないかと思います。
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また、既習事項の振り返りや反転学習への応用もすることもできます。それには、ラインズ(株)のeライブラリアドバンスというコンテンツを使っています。本校では毎朝、このeラーニングの時間を15分程度取り、朝学活とeラーニングの時間という形で実施しています。
例えば、中学2年生の電流の単元は、生徒が最も理科でつまずきやすくて、理科を嫌いになるきっかけの一つなのですが、ここに対してeラーニングで反復練習をしていくと、非常に効果的であることがわかりました。
※https://www.education.jp/education01/education01_1.html
eラーニングを使うと、先生は前に習ったところから、振り返りの課題として出すことができます。子どもたちの中には、小学校や中学1年生の教科書を、もう持っていない人もいると思います。でも、このeラーニングを使うと、例えば小学校4年生の「電気の働き」というところをクリックして、小学校で習った内容を中学2年生に要にアレンジした課題を生徒に解かせて、既習事項を授業前に確認させることができます。そうすると、子どもたち自身が前にやったことを想起することができるので、授業内で前にやったことを確認する必要性がなく、効率よく授業を進めることができます。
また、実際に回路に流れる電流を測るという作業の実習では、回路図の見方や電流計の使い方といった内容をピンポイントで予習させることができるので、授業内で説明の時間を短縮することができ、実験や話し合いといった活動にあてる時間をかなり増やすことができます。そうすると、主体的・対話的な時間を増やすことができて、深い学びの実現につながるかなと思います。
学ぶ意欲や有用感を高める、個に応じた活動が可能に
また理科の自由研究は、やりっ放して終わってしまうことがよくありますが、それでは非常にもったいないので、自分の自由研究のレポートの内容を5分くらいのスライドにまとめて、グループ内で発表するようにしました。グループ内で発表し合って、良かったものを全体で発表することしたのですね。そして、他の人は発表を聞いて疑問に思ったところを質問し、発表者が答えるということを行います。
これを通して、思考力・表現力・判断力を高めることにつながり、また質問するという作業も経験します。そうすることで、理科を学ぶ有用感や意欲も高まりますし、単に自由研究をやらされているというところから、さらに一歩先の学びが経験できると思っております。
日々の授業では、文書ソフトを使って記録を取っている生徒もいます。手書きでノートを書くのは苦手でもパソコンで打つことならできるという人もいるので、いろいろ生徒が授業に参加するきっかけ作りになり、とても良いなと思っています。
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また、授業を欠席した生徒にも、友達にノートを見せてもらうだけでなく、教員が授業で使ったスライドも見ることができる共有フォルダーを作っておいて、そこにどの授業で使ったスライドかを明記して格納しておくと、授業を休んでも何とかついていこう、という気持ちにつながると思います。
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下図は、PowerPointに貼り付けた花の写真を、自分で観点を決めて仲間分けしてみよう、という活動です。実際に生徒一人ひとりにやらせました。このように写真をドラッグして動かしてグループ分けして、自分の考えや気が付いたことを書き込みさせたりしました。紙のワークシートでは、実際に写真を動かしたり、近づけて比較したりということもなかなかできないので、理科の授業では非常に有効であると思いました。
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ここまでを簡単にまとめます。効果的にICTを活用することによって、1人1台のタブレットの環境によって、主体的・対話的で深い学びの実現につながります。また、理科を学ぶ有用感も高められますし、子どもの得意・不得意に合わせて、個に応じた指導にもつながることを実感しました。
様々な教科の学習で、状況に応じてICTを活用
理科以外の教科でも様々な取り組みをしています。
国語の授業では、「調べたことを伝えよう」という内容で、提示装置を使って自分で作ったスライドを小グループで発表しています。
数学では、3人一組でグラフの形状がどのような変化があるかということをGRAPESというソフトを使って確認し、なぜそのような形になるかを説明します。いわゆる学び合いの活動です。
音楽では、先ほどのコラボノートを使って、合唱の各パートで考えた工夫を共有して、実際に歌うときに生かすという授業を行っています。
英語では、タブレット端末の録音機能で自分のスピーチを録音してセルフチェックを行い、修正につなげるという授業を行っています。また、録音データを英語科の提出フォルダーにアップして、指導を受けるということもできます。
美術では、作品を実際に色付けする前にコラボノートを通して生徒同士で見せ合ってアドバイスをして、それから作品を仕上げるということを行っています。
また保健体育では、器械体操などでお互いの演技を録画し合って、映像を用いてアドバイスをし合うということに活用しています。
技術・家庭科では、お弁当作り、その結果と考察をレポートにまとめてプレゼンテーションを行うということをもしています。
生徒会の役員選挙では、選挙公報などの資料の各自の端末に送信して、資料は端末で読むようにしています。これによってペーパーレスにもつながると思います。
総合的な学習の時間を軸にした、教科横断のカリキュラムマネジメント
次に、カリキュラムマネジメントの部分についてお話しします。こういった実践報告のお話をすると、よく「どのようにしてPCの使い方を指導しているのですか」という質問を聞きます。端的にいいますと、一教科に限らず、様々な教育活動の中でとにかく活用させることが大事だと思っています。本校は総合的な学習の時間に力を入れていますので、総合的な学習の時間を軸にして教科横断的に行っています。
下図のように、教科から総合学習、総合学習から教科、教科から教科と連携をしていくことによって、みんなでそういったスキルを身に付けさせていくようにしています。
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理科と総合的な学習の時間のコラボレーションの例として、先ほどの自由研究のレポートと、総合的な学習の時間で各自で探究活動をするときの連携を見てみましょう。
理科の自由研究の指導内容のデジタル資料を使って、学年全体、課題設定について学び直し、発表時に使うパワーポイントの作成について学び直しを行いました。また、生徒を全員集めて、研究の仕方はどうしたらよかったかとか、パワーポイントの使い方はどうしたらよかったかということを学び直しさせました。
さらに、自由研究でどのようにテーマを設定したかということを確認した上で、ワークショップ形式で、自分の好きなものでスライドを作ってみよう、良い作品があったら保存しておこう、ということで、その後の発表や探求活動のテーマ設定に生かすための方向付けを行いました。
その一例が、音楽と国語の教科横断的な視点で作った問題解決の授業です。3年生の音楽に『春に』という歌唱曲がありますが、これは国語の授業でも詩として取り扱っていて、喜びや悲しみ、安らぎなどの対句的な表現を学んでいます。そうすると、このようにデジタルで蓄積した国語の学習履歴を活用して合唱に生かしていくことができます。
ICTの有効性を確認した上で、教員間の連携によって学習活動をより充実させる
主体的、対話的で深い学びの実現に向けた、1人1台の端末整備環境の効果的活用の研究を通して、以下のことがわかりました。
まず、作業の効率化に伴って時間を創り出すことができます。これには、カメラ、コラボノート、その他いろいろなものが使えます。
また、既習事項等の確認をeラーニングで行うことができました。また、横断的なカリキュラムにおいて、他教科のデジタルの学習履歴を活用して、より効果的に学習させることができました。
学習履歴の振り返りや、個に応じた指導もできました。これによって、授業における学習活動を充実化させることができ、主体的・対話的で深い学びの実現につながっていると思います。
今後の展望です。課題としては、カリキュラムマネジメントの重要性があります。要するに、パソコンを使うということで、身に付けるべきコンテンツ、コンピテンシーが逆に増えていくと思います。そうすると、これは一つの教科で全部やろうとすると、とてもでなく時間が足りなくなってしまいますから、各教科で活動項目や教える内容を精選させていくことが必須であると思います。
そうすると、教員間の連携が非常に重要になり、理科ではここ、国語ではここ、音楽ではここ、技術家庭科ではここを押さえていこうという、話し合いが必要になります。
もう一つは、使わなければ上達しないと言っても、情報モラルとリテラシーという部分でリスクがあります。リスクというのは、ネットトラブルだったり、学習で使うのとは違う使い方をしてしまったりということです。誘惑はたくさんありますので、ゲームに手を出す生徒もいなくはないです。
しかし、それを恐れて使わせないと、上達しないので、しっかりとその場で注意したり、いろいろな場面で安全かつ適切な使用方法を指導したりして、技術だけでなく、内面の教育もしっかりさせていかなければいけないと思いました。
本来この二点は、学校の現場として行わないといけないことですが、なかなか難しい部分もあります。タブレットを使うにあたっては、当たり前のことを当たり前にやっていかなければならないということを実感しています。