神奈川県高等学校教科研究会情報部会

「情報I・IIの実施に向けて必要な準備」

文部科学省/国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

鹿野利春先生

優れた実践を共有する仕組みと、自分の生徒に合わせる工夫が重要

今回も県の枠を超えて多くの先生方が集まりました。口頭発表もポスター発表も充実しており、優れた発表が多数ありました。

 

この教育委員会及び県立総合教育センターと教科研究会情報部会が協力して、教員研修の役割も兼ねて実践事例報告会を行うというスタイルは、非常にすばらしいと思います。これを現職教員研修の神奈川モデルとして、ぜひ全国に広げていきたいと思っております。私の方でも、指導主事会等で「こういった形でぜひ各都道府県でやってみませんか」と声をかけていきたいと思っています。

 

こういった実践で大事なのは、皆さんが発表されたことを共有することです。ここに来ていらっしゃる方の間で共有するというのは当然として、大変だとは思いますが、ぜひ今回の発表や資料などをWebなどで皆が見られるようにしていただければと思います。

 

また、今回の運営で、各発表に対する質問をクラウド上のフォームに書き込むというのは、とてもよいアイデアであると思いました。ここで出てきたQ&Aも、皆で共有すべき大切なものだと思いますので、今後はQ&Aも公開してくださるよう、お願いします。

 

ただ1点、皆さんに忘れないでいただきたいのは、同じ授業をしてもその成果は学校によって異なるものになる可能性があるということです。いろいろなすばらしい実践が紹介されましたが、自分の学校でそのままできるわけではありません。自分の学校の環境や教える生徒をきちんと把握して、オーダーメードで彼らに合った授業を作り、その学校としての成果を出していっていただきたい。先行してやってみたらここまでできた、こんな様子だったということは非常に参考になりますが、あくまで参考として、それを基に自分のものを創造するということが、次に向けての準備であると思います。

 

こうやってしっかり工夫や準備をした授業を行って、生徒に興味や関心を持たせられたら、次はそれをどのように伸ばすかということも大切です。授業の時間は限られていますから、放課後の部活動的な場を作っていただけると、興味を持った生徒がさらに限りなく伸びていくチャンスができます。

情報を担当している先生方の中にも、実はプログラミングはあまり得意ではないという方も、いらっしゃるかもしれません。そういった方も、部活動の指導という形でプログラミングに自由に取り組む機会を作ることで、生徒も伸びるし先生自身の力も付いていく。あるいは、そこに大学や企業の方に来ていただければ、さらに充実した活動になるでしょう。

 

そして、そういった子どもたちが、プログラミングのコンテストに出場するようになり、県大会を勝ち抜いた生徒が集まる全国大会が開催されるようになれば、力のある生徒同士が競い合って、さらに伸びることになるでしょう。また、裾野が広がることで、情報オリンピックなど、国際的レベルの大会に挑戦する人ももっと出てくるようになり、トップ層のレベルも上がってくるでしょう。このように、全体のレベルを上げていくとともに、能力がある生徒をさらに伸ばす環境造りにもぜひ取り組んでください。

 

学習評価をどのように行うか~事例の蓄積が大切

今年度は「情報I」の実施の準備として、教員研修用教材を公開しました。情報Ⅱは、今まさに作っています。いろいろな先生方の多大なお力をいただいて良いものを作ろうと頑張っておりますので、「情報I」とともに、「情報Ⅱ」の教員研修用教材も大いに活用していただきたい。そして、この中には大学の先生もいらっしゃいますが、情報科教員の養成もしっかり行っていただきたいと思います。

 

さらに来年度は、国立教育政策研究所で高等学校の各教科に向けた「指導と評価の手引き」を作成します。今年度は小学校と中学校のものを作成しています。

 

今回いろいろな実践の発表をしていただきましたが、来年度はぜひ「評価」ということについても、さらに踏み込んでいただきたいと思います。

 

具体的な学習評価の観点として、このスライドのような方向性を出しています。まず評価が児童生徒の学習改善につながること。これは当たり前ですね。そして教師の指導改善につながること。さらに、働き方改革ということもありますので、必要性・妥当性が認められないものは、見直していくことも必要です。

 


だからと言って、四六時中評価してばかりでは、子どもも行き詰まってしまいます。どこを・どのように評価して、目標に向けてどのようにつなげていくかということを考えなければいけません。その際に、「こうしたら子どもが伸びた」「こうやったら手間をかけずに効果的な評価ができた」という実践を発表していただくと、今後に向けた授業づくりに活かしていけると思います。

 

「知識・技能」の評価は、ペーパーテストを行ったり、文章で説明したり式やグラフで表現したり、といった方法が考えられます。一方、「思考・判断・表現」の評価は「レポートの作成」や「グループの話し合い」などと挙げられていますが、実際に何をどのように評価するかは、授業の内容や生徒の状況に応じて定めていく必要があります。

 

 

情報で言えば、プログラミングの授業をして生徒に感想を書かせると、「よくわかった」「こういうことに使われていることを知って、感動した」と書いてくることがあります。ただ、それはあくまで感想であって、これをもって評価とできるかというと、ちょっと厳しいものがあります。

 

 

さらに「主体的に学習に取り組む態度」、これもどのように評価するのかというところですよね。例えば、取り組む態度は評価できますが、感性や思いやりなどは個人内評価しかできません。それでも、感性や思いやりなども授業の中で育てていこう。評価できないことはやらなくていい、とばしてしまえ、ではなく、そこも育ててこうということです。ですから、こんなことをしたら、子どもたちのこんなところが育った事例が少しでもあるとよいと思います。評価のために必要なことを先生方皆で共有していくことで、授業の質はさらに高まっていくと思います。

 

 

態度については、「粘り強く学習に取り組む態度」と「自ら学習を調整しようとする態度」の二つの側面を評価しよう、ということが示されています。態度が良ければ必ず成績が伸びるというわけではありません。自分の学習を自分で振り返って改善する力、つまり自己調整力をどうしたら育てられるか、どのように評価するかということも課題です。

 

 

ですから、知識・技能の評価は当然行うとして、思考・判断・表現の評価も難しいけれどもやらなければいけない。そして、今までは態度と言ったら授業に臨む態度だけでよかったのですが、それだけでなく、今お話させていただいたた自己調整力が小学校でも中学校でも、もちろん高校でも入ってくることになります。

 

自己調整力については、今まで日本でほとんど行われて来なかったと思いますので、事例が圧倒的に不足しています。先生方の実践をぜひ蓄積していただきたいと思います。

 

今お話したことをまとめたのがこちらです。評価したものを全て評定につなげるというわけではありません。どのように評定につなげていくか、という全体のデザインや個人内評価をどのように扱うか、ということを考えることも必要です。

 

 

小中学校で何を学んで来るかをきちんと把握することが重要

来年度から、小学校でプログラミング教育が始まります。情報活用能力として、キーボードで基本的な文字入力できるようになるとか、情報機器の操作能力を身に付けるといったことも示されていますが、こういったことは、全部の教科・科目で情報活用能力の育成を入れているので、自然に身に付いてくるだろうと思っているだけではダメです。何をどのように学んできたかを把握することが重要です。

 


 

我々も、これから先生方に「これならやってみよう」と思っていただけるような事例をいろいろ紹介していきます。さらに、1人1台端末ということも本格的に動き出していますので、国としても今全力で準備を進めていることをお伝えしたいと思います。

 

こちらが小学校のプログラミングに関する学習活動の分類です。AからFの6段階に分かれています。先ほどお話しした、能力のある子どもたちをさらに伸ばすというのが、このFにあたるのではないでしょうか。

 


こちらが昨年度の小学校プログラミングの実施状況です。一昨年から比べてぐっと上がっていますから、今年は90%以上になって、来年全面実施ということになるという状況です。

 


中学校では、技術家庭の4分野の中の1分野が情報です。情報にはさらに4つの項目があって、その内2つがプログラミングで、プログラミングが重視されていることがわかります。

 


具体的な内容がこちらです。情報の表現、記録、計算、通信の特性、デジタル化、処理の自動化、システム化、情報セキュリティ、情報モラルの必要性、問題解決の工夫と、高校で今やっているようなことは大体学ぶことになっています。小学校からの積み上げで、中学校ではこういった内容までできるようになることを目指しますよ、ということです。

 


 

ですから、「情報Ⅰ」の中身を見たときに、ここまでの内容を1年間ではとても教えられないと思われるかもしれませんが、学習指導要領は、小学校・中学校・高校でそれぞれ何をどこまで学ぶかを一貫した形でデザインしていますから、先生方はぜひ中学校の教科書もご覧になってください。さらに小学校の教科書も、ちょっと見てみようと思っていただければと思います。

 

高校の情報科のポイントは数学科との連携

高等学校についてお願いしたいのは、数学との関係です。

 


例えば「情報I」の「(1)情報社会の問題解決」では、中学校の数学で習ったことを活用します。これは学習指導要領解説に詳しく書いてありますので、ご覧になってください。

 

 

「(3)コンピューターとプログラミング」では、確率的なモデルを扱う際に「数学A」の「(2)場合の数と確率」、さらに中学校の数学とも連携します。

 

 

そして、「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」は、「数学Ⅰ」の「(4)データの分析」と連携します。情報科を担当する先生方は、数学の学習指導要領や教科書にも目を通していただき、できれば数学の先生と連携してやっていただきたいと思います。

 

 

「情報Ⅱ」の「(3)情報とデータサイエンス」は「数学B」の「(2)統計的な推測」と連携します。ただ「数学B」は選択科目なので、必ず学ぶということが前提ではありませんが、その学校で「数学B」を実施するのであれば、連携することで効率よく、しかも情報にも数学にもそれぞれ良い教育効果が出ることが期待できます。

 

 

「情報I」の教員研修用教材には、授業で生徒を指導するためのバックグラウンドとして知っておいた方がよいことの説明をきめ細かく載せています。例えばソフトウエアの概念図や、「数学C」でしか出てこない行列の例、さらに中学校で学ぶ四分位数の説明も出ています。四分位数は、次の学習指導要領では高校から中学校に移行します。数学の先生以外は、ご自身で学ばれたことがない方も多いようですので、ぜひ見ておいてください。

 

 

教員研修用教材は、これを一通りやっていただくと、「情報Ⅰ」を教える最低限の知識が大体つかめるように作っておりますので、新学習指導要領実施への準備として、まずこれをやってみてください。そして、中学校の数学と、高校の数Ⅰ、数学A、数学Bの確率や統計など、数学科と情報科の連携に関わる部分は最低限目を通していただきたいと思います。

 

一人1台端末も現実化する

こちらは最近話題のGIGAスクール構想です。補正予算でかなりの金額が付き、小学校・中学校では校内ネットワークを整備したうえで、一人1台端末に向けて本格的に動き出します。高校については、ネットワークは小中学校と同じように整備されることになりますが、一人1台端末のための補助金は、今回はありません。ただ、地方交付税の財政措置は引き続きありますので、高校の端末整備も今後さらに進んでいくのではないかと期待しています。

 

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※神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2019 講演より