バーチャル情報入試シンポジウム2020春 on YouTube Live(ニューシン2020)

京都産業大学のAO情報入試~実施後5年を経て

京都産業大学 安田豊先生

情報入試をやりましょう!

写真提供;:安田先生(2019年7月)
写真提供;:安田先生(2019年7月)

私からは、京都産業大学のAOによる情報入試の5年間の実施報告を行います。このセッションでの私からのメッセージは、「情報入試をやりましょう」ということです。つまり、タイトルは実施報告的なものですが、内容はお勧めです。

 

つまりこの発表は、「そろそろ情報入試をやらないと、と思ってはいても、踏み切るのはやはり難しい」という方々の背中を押すことを目的に行います。

 

下図が本日の目論見です。まず、われわれの入試システムにおける情報入試の実装を紹介することが大きな目的です。そして大まかな設計を共有し、このスライドの下半分に挙げたメッセージ、つまり「継続的な作問は可能だ」、「さまざまな面でAOへの情報科目入試の導入は『良い』ことがある」、そして「踏み切れないという方々にはスロースタート、あるいはスモールスタートとしてのAO情報入試がいいよ」ということをお伝えしたいと思っています。

 

 

最初に本学の概要をご紹介します。本学は学生数が1.3万人の総合大学です。そのうち、情報理工学部は、1学年当たり160名で、前身であるコンピューター理工学部を開設した時から、作品評価によるAO入試を行ってきました。

 

コンピューター理工学部は2008年開設ですが、その母体となった理学部計算機科学科は、開学当初からあります。AO入試自体は、その理学部時代の2002年から実施してきた実績があります。

 

 

一般入試では採れない「尖った」学生を採るための手段として

AO入試は夏に実施し、併願、推薦不要という形で行います。つまり、受験しても基準に満たなければ落としますし、合格しても必ず入学しなければならない、ということはないというものです。9月の一次選考と10月の二次選考で判定を行います。

 

本学部のAO入試は、作品応募と情報入試によるものの二本立てです。情報入試は、一次選考が書類と筆記試験、二次選考が面接です。この一次選考の筆記試験が情報の試験となっています。詳細については、スライド最後に資料を掲載しておきますので、ご覧ください。

 

 

5年間の受験者数の推移がこちらです。開始以来、倍々で増えてきましたが、厳しくし過ぎたためか、今は減っています。先ほどお話ししたように、本学部のAO試験は、併願であることもあって、採りたい学生でなければ、厳しく落とします。普通の入試のボーダーライン上にいる、つまり、数学や英語の成績で合格最低点周辺の学生よりも、資質として良さそうであれば合格させてもよいのではないか、という考え方もありますが、我々のAO入試には定員の制限はないので、あくまで良い学生を選ぶために行っています。広報をすれば受験者数は増えるという話もあるので、今年度は少し広報を頑張ろうと思っています。

 

AO入試について、主観的なことをお話しします。そもそも、今行われているAO入試には残念なものが多過ぎるということがあります。よく「AOはザルだ」とか「AO入試生はダメだ」とか言われてしまいますが、われわれのAOには長い歴史があり、「尖った人材」を採るための装置としてうまく機能しているという自負があります。

  

 

2002年から旧理学部で行っているAO入試では、作品応募と厳しい審査でかなり少ない合格者への絞り込みをずっと続けてきました。併願であることも、とてもうまく作用しており、優れた学生を継続的に採れているという自信があります。本来、情報系学部には、こうしたAO入試が向いているのではないかと思っています。

 

そもそも受験数学では、代数や解析に重きが置かれていますが、情報系は、むしろそれ以外の幾何学、数列、組み合わせ、確率など、離散数学系のものが重要です。既に十分なプログラミング経験や実績を積んだ受験生も多く、それも他の分野に比べると表に出やすいという特徴があります。つまり、情報に特化した「尖った生徒」は、普通の入試では落ちてしまうけれども、私たちはAOであればそうした貴重な学生を採れるという可能性を考えています。

 

実際、過去のAOでは、優秀なだけでなく、周囲によい影響を与え、学生皆を引っ張っていくような学生が何人も採れています。例えば、彼はとがったAO生の一例です。作品応募のAOで入学して、その後もいろいろなところで目立った活躍をしていました。現在はソニーで働いていますが、しばらくaiboの開発に携わって、このような賞を受賞しています。

 

 

学生を評価する観点は、「プログラミングの経験を踏まえた解答か」「頭を回しているか」

さて、今回のタイトルが、「情報活用能力を問う」というものでしたので、作問がやはり重要だと思います。これ以降は、われわれがどういう方針で学生を評価するかをお話しします。

 

まず全体の構成としては、出題範囲を「情報の科学」に絞っています。そして、前半に○×問題や多肢選択式、計算問題など明確に正解が出せるものを置き、後半に考える問題を用意しています。また、コンピューターサイエンスが背景に考えられる問題を置くように努力しています。これは、将来の自分たちの専門分野が感じられるようにという配慮です。そしてボリュームとしては、60分の試験時間のうち10分ぐらいは振り返る時間が残るように考えて作っています。

 

 

初回の2016年の問題の構成が下図です。われわれも初めてだったので、無難で、よくありそうな構成であることが感じられると思います。

 

 

下図が2020年、最新の問題です。実は、先ほどの初年度の問題では完答者が続出しました。ちょっと簡単過ぎたようでした。そこで、問題数を一つ増やして、難易度も少し上げました。

 

 

この最新の問題について、もう少し詳しくご説明します。

 

第1問は、用語の理解を問うものでした。「超基礎の問題」と書いていますが、「情報の科学」の範囲を少し超えています。「情報の科学」では、インタープリターとかは出てき来ませんので。それでも、自分でプログラミングをいろいろやっている人なら、触れる機会が多い用語や概念などを含めるようにしています。

 

 

2問目は、グラフ表現によるものでした。どちらかというと、離散数学寄りのものです。グラフというと、高校生にはなじみが薄いかもしれませんが、この問題は約数の関係を示したもので、この説明を理解するように誘導しています。その中で、9の約数が1、3、9。9が約数になるのは36、18、9といった関係性を示し、これが36の約数群とどういう関係にあるかを、グラフを見て視覚的に考え、構造を把握するという体験をさせようとしています。

 

 

3問目は、画像処理に関連する問題です。色の濃さを求めるだけの簡単な設問から始まりますが、後半は多様な解がある問題となっています。これは、正解を書かせて得点を割り当てることよりも、面接で議論するための材料にするという意図があります。もちろん、理解度が高いということがよく感じられる解答には、高い評価値を与えています。

 

 

4問目は、アルゴリズムとコードの理解に関するものです。言語は、Cのようなものをこちらで定義して見せています。これは箱埋めの問題ですが、コードを書かせる場合もあります。ここではアルゴリズム把握などを評価し、言語仕様を正確に理解して文法などを誤りなく書けるかどうかということは評価の対象外としています。

 

この問題では、最後の小問としてちょっと普通でないコードに対してどのような挙動が起きるかを問うものを入れています。デバッグ作業などで遭遇するシーンですね。受験生は、「どうせ予定調和なところに落ちるだろう」と推定して、正解を当てにくる場合があります。このような、わかっていないのに正解を推定できてしまう学生を落とそうとするための設問です。

 

 

5問目は多項式の掛け算処理を書く問題です。プログラミングに慣れているかどうかを見る問題です。かなり難易度が高くなっています。

 

 

重要なのは作問よりも結果の確認

さて、重要なのは、作問よりもむしろその後の結果の確認です。2016年は、予想よりよくできて、完答者が続出しました。われわれ作問側が経験がないので勘が働かず、調整できなかったため易しいほうに傾いてしまいました。このとき気が付いたことの一つは、センター試験の「情報関係基礎」の平均点はあまり参考にならない、ということです。そもそも受験者層が違うので、当然のことですが。そして、翌年から5問構成としました。

 

 

2020年の問題には意外な落とし穴がありました。例えば、高校生の多くはrandom関数を知りませんでした。また、高校生には、n次の多項式というものが理解できているかどうかがよく分からない、ということも判明しました。この辺りは面接で確かめてみましたが、うまくいってないようでした。また、できる人とできない人がはっきり分かれてしまった、というのも一つの問題でした。これは、受験者側の偏りなのか、それとも作題の問題なのか、今一つわからない状況にあります。

 

そうした作問作業の体制についてお話ししますと、5人で作業しています。3か月間で5~10回程度のラフなミーティングで、問題案を出したり絞り込んだりします。毎回、5問より多く検討し、没問題はストック問題として、良問は残し、使えないものは捨てます。

 

作問担当者は、最初の3年は同じ5人で作りましたが、そこから一人抜けて新しい人が入り、また翌年は別の一人が抜けて、また新しい人を一人入れて、という形で少しずつ人を入れ替えていこうとしています。

 

 

この担当者の入れ替えはとても重要なことですが、もちろん副作用ゼロというわけにはいきません。まず、新しく担当になった人は、当然難易度やボリューム感がわかりません。多くの場合、難し過ぎるものを出す傾向があるので、極端に削ってしまうということが起きます。その代わり、今までなかった新しい要素を作問者集団に持ち込んでくれるという、大きな利点があります。2020年の問題で言えば、グラフの問題などがそうでした。高校生には目新しいけれども、専門分野として重要だというメッセージにもなったと思います。そうした意味で、マンネリ、陳腐化と言われることが避けられると思います。また、毎年作っている人も疲れてきますしね。

 

 

面接を設けることで、筆記試験だけでは判定できない部分を丁寧に測ることができる

われわれの結論は、情報入試の作問は可能であり、それも、継続的な作問が可能だということをお伝えしたいです。ただ、私たちの特殊な事情としては、面接というセーフティーネットがあるのでハードルが下がっている、という側面があります。これが、多肢選択式の問題作成でも同様の困難さになるかということについては、難しいところです。

 


AOだからできることの具体例を挙げておきます。

 

まず、筆記試験だけでの判定の難しさを、面接でフォローできる強みがあります。情報入試を行う際は、選択科目でなく必須にしないと受験者がごく少数になると想像されます。物理や化学があれば、おそらく受験者はそちらを選ぶでしょうから。

 

そして、AOにすることの利点もたくさんあります。例えば、思い切った作問が可能であることです。作問で少々外しても、有望そうな受験者は、面接でその理解度を確かめることができます。逆に、そこそこ点は取れても既によく手を動かしたわけではない、あまり経験のない受験者を落とすフィルターとなれば十分です。そのため、後半には部分点が出せる解答となるような作問を心掛けています。

 

その代わり、面接は「ガチ」で、20分から30分のテクニカルディスカッションを行って、問題のどこが難しかったか、自分はどんなことをやって、どこで躓いたか、といったことをずっと議論し続けるのです。面接でできることは非常に大きく、これがあるとないとでは、かなり違うと思います。

 

 

さて、まとめとして、本日のもくろみを再掲載しておきます。短く言うと、情報入試をやりましょうということです。