バーチャル情報入試シンポジウム2020春 on YouTube Live(ニューシン2020)
セッション2まとめ 高校の情報教育に期待するもの
発表者:萩谷昌己 先生(東京大学)
春日井優 先生(埼玉県立川越南高等学校)
司 会:辰己丈夫 先生(放送大学)
辰己先生(司会):
ありがとうございました。春日井先生は、データサイエンスを扱う授業でおもしろい取り組みをたくさん実践されていますが、萩谷先生は春日井先生の授業実践について、どのようなご感想をお持ちになりましたか。
萩谷先生:
高校の授業でも、先進的な取り組みを実践されている先生が多く、大学の授業ともオーバーラップしている所があると思います。つまり、高校の授業と大学の授業との境界がだんだんなくなってきているということです。逆に言えば、進んだ授業が他の高校でも広く実践されると、大学もそれをふまえて授業をより高度化したり、もっと先進的な内容、専門分野に特化したりした内容を扱うことができることになると思います。
辰己先生(司会):
春日井先生は、「これに取り組んだ生徒に、大学では何を学んでほしい」とか、生徒に期待していることは何かありますか。
春日井先生:
もちろん、私は情報分野が好きなので、生徒も同じ分野の大学に進んでもらうと嬉しいなとは思います。ただ、萩谷先生のお話にもあったように、情報系以外の応用分野でもコンピュータを活用して物事を見ていくようになると、学生はもっといろいろなことができるようになると思います。高校で学んだことを基礎に、生徒が自分で選んだ分野で活用の場面を見つけてもらえれば、と思っています。
辰己先生(司会):
春日井先生の授業実践は、大学教員からすると理想的で、生徒に「何を教えるか」というより、生徒が「どのように学ぶか」ということを重視されていると思いますが、いかがでしょうか。
春日井先生:
「全部自分で学んで」というのは難しいですが、生徒が自分たちでやってみるという経験が必要だと思います。よく「テストの点数は取れても実際の場面では活用できない」といった話を聞きますので、それは何とか克服したい。そんな想いで私は授業を作っていますね。
辰己先生(司会):
ただ、生徒が自分で課題を探して試し、高校教員がそれを評価し、大学側がその良し悪しで大学に入学させるか否かを決定することになると、普通のCBT(Computer Based Testing)や紙ベースの試験などだけでは、足りないような気もしますが、先生方は、どのようにお考えでしょうか。
春日井先生:
セッション1の「情報活用能力を問う大学の取り組み」のお話を聞いて、AO入試(総合型選抜)は、受験生とのやり取りを多くできるので大事な仕組みだと思っています。入学後に、AO入試で入学した学生と一般入試で入学した学生が混ざることで、大学教育にいろいろな力が組み合わさっていくのかな、と思います。
萩谷先生:
学力や学習経験の評価には、一つは皆が同じ日に受験する、一発勝負の入学試験という方法があります。それに対して様々な批判が起こってきて、例えば英語では外部検定試験を導入して受験の機会をより増やし、それによって、一発勝負ではない試験で評価をしようという方向に動きつつあるわけです。
そのために、情報科では、先ほど春日井先生が紹介されていたような、CBTの問題素案を募集するという動きが出てきています。しかし、「複数回とは何回であればいいのか」「複数回だとたくさん受験できる生徒が有利になってしまうのではないか」という様々な議論があって、どのように議論の落としどころを見つけるか、どのように少しでも議論を進めるかというのは難しいところです。
将来的には、もう少し日常的に生徒の学力や学習経験を評価し、それを大学入試にも反映させるというのは、一つの在り方ではないかと思いますが、簡単に結論を出せることではないと思います。
ただし重要なのは、従来通りに入試改革を進めるということを認めてしまうのではなく、様々な可能性を考えるということが大事なのではないかと思います。
辰己先生(司会):
大学の立場で見ると、入学者選抜をどのように変えるか。それは高校教育に期待することと直結しているわけですが、実際に大学入試を変更するとなると、学内組織の問題とか大学の規模の問題とか、経営判断、とくに私立大学だと入学者募集で何人受験してくれるかという問題も出てくるので、話は一朝一夕には進まないと、私も思っています。そこをどのように突破するか、ニワトリと卵問題みたいな所に、私たちはいるのではないかという気がしています。