高校教科「情報」シンポジウム(ジョーシン)2020秋

基調講演 新しい情報科を考える準備をしよう

⽂部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室

文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校教育)付産業教育振興室

教科調査官 ⿅野利春先生

 

2019年神奈川県高等学校教科研究会情報部会より
2019年神奈川県高等学校教科研究会情報部会より

情報処理学会の皆様には、新しい情報科の準備段階からたいへんお世話になりました。まさに一緒に進めてきたという感じがいたします。ありがとうございます。また、本日このシンポジウムをお聞きになっている皆様にも、様々にご協力いただいてきました。これから先もよろしくお願いいたします。

 

一つ、注意しなければならないのは、先日のNHKをはじめとする報道は、「2025年共通テストから情報入試が始まる」ということではなくて、「大学入試センターの案が報道された」ということです。ですから、これで決定ということではなく、今後様々なご意見をお聞きしつつ、議論を深めていくというところです。

  

我々としては、新しい情報科を教える準備を粛々と進めていきます。その中で、大学入試に情報科が入るということも、当然検討されておりますので、それに足る内容でなければなりませんし、教える側も、それに対応できる準備をしなければいけないと思います。今日は、具体的にどんな準備をしなければならないのか、どのようなところに気を付けていけばよいのか、ということをお話ししたいと思います。

 

本日の内容がこちらです。特に「準備のタイムテーブル」について共有したいと思います。

 


 

現行の学習指導要領下の2020年・21年で何をしなければならないか

 

新学習指導要領の情報科については、すでによくご存知の方が多いと思いますが、現行の学習指導要領では、「社会と情報」「情報の科学」のいずれかを選択して履修しています。週に2時間で、プログラミングがあるのが「情報と科学」、ないのが「社会と情報」というのがざっくりした内容です。

 

 

新学習指導要領では、これを「情報Ⅰ」に一本化して、全員が必履修となります。単位数は週2時間ですが、さらにその上に選択科目として「情報II」を作りました。改訂のバックグラウンドとしては、高度な情報技術の進展に伴って、文系・理系や卒業後の進路を問わず、「情報の科学的な理解」に裏打ちされた情報活用能力を身に付けるということがあります。ですから、「情報Ⅰ」は、国民的素養としてこれくらいは身に付けようということです。一方で、「情報II」は、今後クリエイティブに情報を使いこなしていくためには、このくらいはできてほしい、というものです。

 

目的として、「情報Ⅰ」は、全ての生徒に、問題の発見・解決に向けて、事象を情報とその結び付きの視点から捉え、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育む共通必履修科目で、「情報II」は、「情報I」で培った基礎の上に、問題の発見・解決に向けて、情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用する力や、コンテンツ創造をする力を育むということになっています。ですから、「情報II」を学ぶ人は、「情報I」を履修していることが前提になります。

 

今回報道された共通テストに「情報」が入るか、というところでは、「情報I」が対象になっています。

 

下図の「準備のタイムテーブル」で、2020年・21年の現行学習指導要領の中で何をしていくかということを、皆さんと共有したいと思います。

 

「情報I」については、今年2020年は研修などいろいろ行っております。2021年に教科書採択、そして2022年からはいよいよ授業が始まります。「情報II」は、今年と来年で内容理解、2022年には教科書を選ぶことになります。

 

 

「情報Ⅰ」は、2021年に教科書を採択しますが、それまでに1年間の授業イメージができてないといけません。同様に、「情報II」は2022年の6月までに授業のイメージを作っておく必要がありますので、ここまでに内容を理解しておかなければならない。そのために、文部科学省から研修資料(※1)が出ており、各都道府県ではいろいろな研修が行われておりますし、情報処理学会のMOOC(※2)等、教材が出ておりますので、それらを活用して準備をしていただきたい。これが目標です。

 

※1・高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材

     ・高等学校情報科「情報II」教員研修用教材

※2  IPSJ MOOC 情報処理学会公開教材  

 

そして、新しい学習指導要領が始まるとき、そこに必要な教材やシステムなどを整えることが必要になります。このためにある程度予算は出ますが、その予算の使い方については、2021年の前半までには、「情報I」だけでなく「情報II」も見越して準備をしていただきたいと思います。「情報I」「情報II」を分けて準備するというのは非効率ですから、必要なものを検討するのは、来年の前半までにやってしまわないといけませんよ、というのがこのタイムテーブルです。

 

小中学校の学びとの連携を知っておく

 

小中高で具体的に何をするかということについては、今回は最小限のところをお話しします。プログラミングについては、小学校では、教科の中で行います。中学校では技術・家庭科の技術分野で簡単なプログラミング、具体的には計測・制御、ネットワーク&双方向などを学びます。そして、高校は「情報I」で問題解決のプログラミング、「情報II」は情報システム、というように発達段階によって準備されています。

 

 

統計に関連した学びについては、小学校では統計的な考え方、中学校では簡単な統計を行います。そして、高校の「情報Ⅰ」では「数学Ⅰ」と連携してデータの活用、「情報II」は「数学B」と連携してデータサイエンス、という形になっています。

 

情報デザインについては、小学校では、国語で『論理的なデザイン』について学びます。図画工作では、当然ながらデザインを扱いますね。さらに、各教科でも扱っていきます。中学校では、技術家庭科など各教科で行います。

 

高校の「情報I」では、情報デザインの方法と考え方を活用を通して身に付けていき、「情報II」では、実際にコンテンツを作っていきます。システム作りがどのような流れになっているということを理解した上で、中身となるプログラムを準備していくことになると思います。

 

特に高校の先生は、中学校でどんなことを行っているかを知っておいてください。職員室には中学校の教科書を備えておく必要がありますし、できれば授業を直接見学する機会を作っていただけたらと思います。小中学校の授業を見ると、きっと感動があるでしょう。

 

現行課程と「情報I」は何が変わるか

まず「情報I」では、具体的に何を準備していけばよいのか、今までとどこが違うかについて、ざっくり説明します。

 


「(1)情報社会の問題解決」は、今までは知識を身に着け、そして少しやってみるというところでしたが、「情報I」では、意義を理解して適切に対応すること、中学校までの段階で学習する統計などの学びを活用する、「数学Ⅰ」と連携するということが入ってきます。そして、知識・技術だけではなくて、「○○する力」が必要になります。

 

「(2)コミュニケーションと情報デザイン」の、『コミュニケーション』は「社会と情報」と大きく変わるところはありませんが、『情報デザイン』はコンテンツや表現だけではなく、論理や機能など様々なことを扱うことになります。

 

「(3)コンピュータとプログラミング」は、プログラミングを扱う際に、何を使ってどのように授業をするのか、アルゴリズムはどうするか、といったあたりはしっかり把握しておく必要があります。

 

「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」では、『ネットワーク』はどの程度までやるのか、『データの活用』は具体的に何をやるか。『情報セキュリティ』は(1)と(2)にも関係しますがここでは何をするのか。ざっと挙げれば今お話ししたようなことになりますが、これからは各章で何を重点的にすればよいか、ということについてお話ししたいと思います。

 

もちろん、これ以外のところもしっかり見ていただきたいですが、「社会と情報」「情報と科学」からどのように変わるかをつかんでおいていただきたい、というのが今日の目的です。

 

(1)情報社会の問題解決~「経験する」から「力を付ける」へ

 

ここからは、一つひとつの章について詳しく見ていきます。

 

 

 

「(1)情報社会の問題解決」の、『問題の発見・解決』については、今までは「理解」や「一連の過程を経験する」という形でしたが、「情報Ⅰ」では、そこで必要となる力に注目して、ここに挙がっているような力を付けていこう、ということになっています。つまり、具体的に問題解決に取り組む中で、これらの力も育んでいくことになります。

 

『統計』については、「『数学Ⅰ』と連携」とありますが、中学校で身に着けた力も当然使っていくことになると思います。『法規・制度・情報セキュリティ・情報モラル』については、今までは必要性や内容を把握することが中心でしたが、「情報I」では、なぜこのような決まりがあるのか、そしてそれはなぜ必要なのか、バックグラウンドの情報技術はどのようなものなのかといったことを理解して、適切に対応するということまで求めることになります。

 

そして『情報技術が果たす役割と影響』は、これまでは「変化を理解する」ということでしたが、今後はそのスピードが速くなりますので、将来に向けて、ということを考えたときは「対応を考察して提案する力」が必要になるでしょう。ですから、授業では調べたり、話し合ったりと、いろいろな形の活動が必要になるだろうと思います。

 

 

(2)コミュニケーションと情報デザイン~問題を発見・解決するための情報デザイン

 

『情報デザイン』は、これまでは「社会と情報」に『情報の表現・伝達の工夫』という形で出ていました。「情報Ⅰ」は、もちろんそういったこともありますが、これを、問題を発見・解決する方法として捉えます。

 

 

 

 

『メディアの特性』も、単なる特性を知るだけでなく、それを科学的に理解します。今までは、「伝えたいことを整理する」というということでしたが、その整理を情報の抽象化・可視化・構造化という段階を追っていく形で進めていただきたい。

 

デザインの対象は、今まではポスターやウェブページ等が中心でしたが、そういったコンテンツ以外も視野に入れていただきたいと思います。ウェブサイト、インターフェースと来れば、当然機能のデザインをしなければいけませんし、モデル化、アルゴリズムと来れば、論理のデザインになります。もちろん、「(3)コンピュータとプログラミング」「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」でやっていくことも、この『情報デザイン』が基礎になっているという意味で、ここは非常に重要なところだと思ってください。

 

 

(3)コンピュータとプログラミング~「プログラムを学ぶ」と「プログラムで学ぶ」

 

「(3)コンピュータとプログラミング」は、中学校でアクティビティ図などが入りましたので、アルゴリズムの表現としてはフローチャート以外のものも見ていこう、ということになります。ここに挙げているものにこだわらず、必要な表現方法を使ってください、ということです。

 

  

題材としては、「情報の科学」ではソートやサーチを扱っていましたが、それだけでなく、問題の発見・解決に応じたものとして、音声の認識と応答、計測・制御、画像処理、物理シミュレーション、自然界のシミュレーションなど、生徒が課題と捉えたものや、やってみたいのはどんどんやらせてあげたらよいと思います。そのとき、他の教科・科目と連携することも当然あると思います。

 

学習の仕方ですが、例えば「情報の科学」では「プログラムを学ぶ」ということで、有用性や効率の違いなどを考えてきましたが、「情報Ⅰ」では、関数の使用によるプログラムの構造化も行います。また「プログラムで学ぶ」という観点も重要です。例えば、形や色、コマンドの仕組みといったコンピュータの仕組みを、短いプログラムを書くことを通して学ぶ、ということです。小中学校では1人1台の端末が入りつつありますが、高校もそういう形になってくることで、今お話ししたようなことが授業の中で十分できるようになることを期待しています。

 

 

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

 

(4)-1情報通信ネットワーク~情報セキュリティを保って小規模な情報通信ネットワークを設計できる

 

「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」の『ネットワーク』ではどのくらいのことを扱えばよいか、ということについて。

 

ネットワークを構成するものに、ハブやルータに加えてIoTを含む外部機器も入ってきます。つまり、こういったものを学校でどのように生徒達に使わせるかということを考えて、2021年度の前半までに具体的に何を購入、または配備するかを検討する必要があります。それを2021年度後半には都道府県や法人で予算化して、2022年の授業開始時にはしっかり使えるようにしておかなければなりません。

 

 

 

 

プロトコルについては、情報セキュリティとともに『暗号化プロトコル』が入ってきます。『ネットワーク』では、これらを使って設計するということが求められるので、デジタル署名、無線LANの情報セキュリティ等、ネットワークの最近の動向で必要なものは、当然取り入れておかなければなりません。また、クラウドや分散型データベースも新しく入ってきます。

 

『ネットワーク』部分の目的としては、情報セキュリティを保って小規模な情報通信ネットワークを設計できるレベル、例えば家庭内のネットワーク等がその対象になります。そして「情報II」では、『情報通信ネットワーク』については学習済みとして扱われますので、ここでしっかりやっていきましょう、ということになります。

 

 

(4)-2 データの活用~数学科との連携が鍵になる

 

「データの活用」は、ここに挙げたように、『統計』『分析』『量的データ』『質的データ』『尺度』『データベース』といった内容になります。特に注意しなければならないのは、中学校の数学科の「データの活用」、高校の「数学1」の「(4)データ分析」との連携です。スライドの赤字で下線が引かれていないものは、そことの連携ということになります。

 

 

そして「情報Ⅰ」では、赤字で下線が引いてあるもの、例えば単回帰分析やモデル化の予測、整理されていないデータや欠損値の扱い方なども扱います。これらについては、研修資料等を参考に、どんな内容を扱うかについて先生方がしっかり理解しておいてください。

 

また、数学科との連携となる部分については、まずは数学の学習指導要領、および学習指導要領解説を見ていただきたいと思います。こちらの内容については、先ほど紹介した「情報I 教員研修用教材にコンパクトにまとめていますので、まずはそこから始めていただければと思います。数学的なことに深入りしなさい、というわけではありませんが、ここを理解しておかないと、教科書を選ぶことも難しくなります。少なくとも、授業で生徒から質問された際に、きちんと答えられるようにしておいていただきたいと思います。

 

 

(4)情報セキュリティ~セキュリティの「意義」を理解する

 

第4章の『情報セキュリティ』は、「社会と情報」では、個人が対象でしたが、「情報の科学」では組織も視野に入れていました。「情報Ⅰ」では、主に個人を対象としています。法規や制度については、今までは内容を理解していればよい、ということでしたが、今後こういったものはどんどん変わっていきます。そうすると、何のためにできたのか、どのように使われているのか、それがなかったらどうなるのか、といった意義をしっかり理解しておかないと今後の変化に対応できないということで、ここでは「意義」を重視しています。

 

さらに、今までの情報セキュリティでは「対策」がメインでしたが、「セキュリティの更新プログラムを更新しなかったら、どうなるから危険なのか」といった、「情報の科学的な理解」のバックグラウンドを持って判断することが必要です。知識を身に付けるだけでなく、セキュリティを確保する方法を自分で考え、何が安全なのかということを、科学的な根拠に基づいて選択しなければなりません。そして、法律や制度に適切に対応することについては、その意義をしっかり把握しておくことが必要であると思います。

 

 

「情報II」と「情報I」はどのようにつながるか

 

「情報II」については、こちらに挙げたような項目です。特に「情報I」とつながるところ、具体的には「情報II」の「(3) 情報とデータサイエンス」に『データの活用』がありますが、「データサイエンス」では何を重視すればよいのか。同じく「(4) 情報システムとプログラミング」の『プログラミング』は「情報I」とどう違うのか。『人工知能』は「情報I」でも出てきますが、「情報II」ではどの程度まで扱うのかというところを、見ておきたいと思います。

 


データの活用~機械学習やビッグデータへ

 

「情報II」の『データの活用』で出てくる「統計」の内容で、統計的な推測、標本調査、母集団の特徴・傾向、仮設検定の方法といったところは、全て数学と連携しています。

 

例えば「数学B」を取っていない場合は、これらについて「情報II」である程度学んでおかなければならないことになります。「情報II」の中で、ということでは、重回帰分析、分類、クラスタリング、モデルの評価といった機械学習の基本的な部分などをしっかり見ていこう、となっていますが、これは理論的なところに入り込んでいくということでなく、実際に使ってみて、出た結果をどのように評価するか、といった活用をメインに考えています。

 

データは、多様かつ大量のデータ、いわゆるビッグデータも扱います。バイアスなどデータの信頼性ということにも注意していきます。データを扱うプログラミング言語には、SQLやRなどいろいろなものがあります。扱うプログラミング言語についての規定はありませんが、「情報II」ではそういったものにも触れることになっています。

 

 

プログラミング~システムをグループで作り、プロジェクトマネジメントも経験する

 

プログラミングについては、「情報II」の作成対象は主に情報システムです。個人ではなくグループで、いわゆるシステム開発の小型版を、実際にプロジェクトマネジメントを含めて作ります。今までのような知識・技能に加えて、情報システムを作って評価する、グループの進捗管理を行う、といった力が身に付くことを目指しています。

 

 

AI・機械学習~確率・統計を応用して機械学習そのものに踏み込む

 

 AIについては、「情報I」と「情報II」で扱い方が若干違います。「情報I」は、AI自体の「理解」です。どんなことに使われているのか、それによって社会や生活がどう変わったか、ということを理解します。一方、「情報II」は「考察」です。それを使ってどうするか、それがあるからどう変わるのか、ということを考えます。

 

機械学習については、「情報I」では基本的な統計やデータの扱い方、テキストマイニング、単回帰分析といった、そこにつながる基礎的な内容を扱います。「情報II」は、機械学習そのものについても踏み込んでいきます。例えば、分類、クラスタリング、重回帰分析といった、確率や統計を応用するものがこれにあたります。人工知能の理論というところまでは踏み込めないのではないかと思いますが、学校、あるいは地域によって、できそうであればどんどん進んで行って構わないと思います。主には、学習指導要領解説に書いてある内容や方向で進めていただくことになると思います。

 

 

専門教科情報科も充実させていきたい

 

私自身は、情報科の教科調査官ですが、共通教科情報科とともに、専門教科情報科の調査官も兼ねています。いわゆる農業科、工業科、商業科と同様に、情報にも専門学科があり、そこではここに挙げたような教科・科目を学びます。

 

「情報I」「情報II」との関係で言えば、「情報I」を学んだ後、これらの専門的なものを学ぶ。「情報II」の発展として、例えばシステム分野やコンテンツ分野の科目群を行うなど、これは学校によって様々な取り入れ方があると思います。中教審などで高校のあり方の変革も議論されているので、こういったことを学ぶ教育課程、あるいはそれを教えられる先生を育てるということが出てくるだろうと思います。

 

 

ICTの活用・教材の例

 

 ICTの活用については、文部科学省では各教科等の指導におけるICTの効果的な活用に関する参考資料、そして動画も作って出しています(※3)。ここに出しているのはその一部で、クラウドを使うという事例です。もちろん、現時点ではこれが難しいところもあると思いますが、こういう形をどんどん出していくことによって、行政も変わっていく、変えていかなければいけないと考えています。

 

※3 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00941.html

 

※クリックすると拡大します。

 

「情報I」「情報II」を教えるための教材例については、先ほどもお話しした教員研修用教材を作りました。基本的にはこれをしっかりやりましょう、ということです。授業の準備を進めるためには、一人ひとりの先生が進めることと同時に、行政が主体となった先生方の資質・能力を上げるための手立てが必要です。そして、情報処理学会をはじめ専門的な知識を持つ方々には、行政主体の研修などに、皆さまの知識を存分に生かしてお手伝いいただければありがたいと思っております。

 

 

「情報デザインの授業の作り方がわかりにくい」という声がありましたので、Adobe社にお願いして、デジタルツールのAdobe XDを使った情報デザインの授業案を作っていただきました(※4)。このAdobe XDは無料で使えます。

 

※4 https://spark.adobe.com/page/w5yV8wfSBRP08/

 

また、大阪電気通信大学の兼宗先生には、プログラミング言語「ドリトル」にデータ処理機能も拡張していただきましたので、そちらも見ていただければと思います(※5)。こちらも「情報Ⅰ」の教員研修用教材で扱っています。

 

※5 https://dolittle.eplang.jp/

 

情報処理学会の皆様には、「情報I」の教員研修用教材に沿った動画教材(※2)を作っていただいております。これは主にPythonで作っていただきました。

 

※2(再掲) https://sites.google.com/view/ipsjmooc/home

 

さらに、アシアル情報教育研究所には、JavaScriptで作っていただきました(※6)。

 

※6 https://edu.monaca.io/joho1

 

教科書がまだ出ていない段階ではなかなか難しいとは思いますが、情報科の実践事例集を今まさに作成中で、2021年度に公開予定です。ですから、皆様には、2021年の6月、7月頃は、研修用教材で学習したこと、ここにあるような教材で学んだこと、そして実践事例集も手元に置いて、どの教科書にしようかな、何を準備したらよいのかなということを悩んでいただけるように、その準備を進めております。

 

「情報I」「情報II」のプログラミング環境例をこちらに挙げました。ここには、Micro:bitの例を挙げていますが、注意していただきたいのは、研修資料でMicro:bitを扱っているから、これを使わなければならないということではありません。地域や学校、生徒の実態に応じて適当なものを使っていただければ結構です。Micro:bitは、イギリスの非営利団体が開発して、教育実績の比較的高いので研修用教材の例として使った、ということですので、ご理解いただければと思います。

 

 

「情報I」「情報II」の教員研修用教材は、端末がオンラインでもオフラインでも実習ができるように考えて作っています。こちらにMicro:bit、Python、Rをそれぞれオンライン、オフラインで使うためのURLを挙げておきました。

 

[Micro:bit] 

オンライン環境(言語:Python,JavaScrit,Scratch)

オフライン環境(言語:Python) ※説明は英語

 

[Python]

オンライン環境(Googleアカウント必要)

オフライン環境 ※説明は英語

 

[R(統計処理)]

オンライン環境 ※説明は英語

オフライン環境 ※説明は英語

 

Visual BasicやSwiftはハードウエア/ソフトウエア環境に依存しますので、ここでは挙げてありません。JavaScriptは、一般的なブラウザ環境で動作します。

 

このとき皆さんが確認しておかなければならないのは、もしオフラインでするのであれば、これが確実に動くことの確認をしておくことです。これが行われていないと、実際に授業を始めたら動かない、ということになる恐れがあります。

 

また、生徒が扱うときに、そのレスポンスがどのくらいかも確かめておかなければなりません。1台だけで動かしてうまくいっても、40台一斉に動かしたとき同じように動くかどうかの確認も必要です。

 

さらに、オフラインで行うためにコンピュータにインストールしようということであれば、どういう手順が必要なのか、そのためにどのくらい時間がかかるのか、手続きは何があるのかということまで確認してください。いざやろうと思ったら、申請してから1か月後でなければインストールできない、ということもあります。

 

一方、オンライン環境で行う方は、ネットワークの帯域をしっかり確保しておかないと、他の授業でネットを使っていたために授業自体が成り立たない、という可能性も出てきます。万一難しいことがあれば、今のうちに改善しておくことが必要になります。

 

ここで「ご清聴ありがとうございました」となればよいのですが、これから取り組まなければならない課題はまだまだたくさんあります。

 

皆様にお願いしたいことは、「情報I」については来年6月までにイメージを持てるようにしましょう。「情報II」については、再来年6月までにイメージを持てるようにしましょう。そして、「情報I」「情報II」に必要なものについては、来年前半くらいまでに、「情報II」の分も含めてしっかり検討するようにしましょう。と、ここに書いてあるようなことを、どこかの教科調査官が大変心配しているということで、お話はここまでにしたいと思います。一緒に頑張っていきましょう。

 

情報処理学会 高校教科「情報」シンポジウム2020秋 基調講演