情報処理学会第83回全国大会イベント企画(オンライン開催)

「情報入試への展望」~高校からの期待~

東京都立田園調布高校校長[立川高校 副校長(講演時)] 福原利信先生

21世紀の教科「情報」の歩みを4年ごとに振り返る

東京都立田園調布高校HPより
東京都立田園調布高校HPより

令和4年度に、新学習指導要領の「情報Ⅰ」がスタートします。そして4年後の令和6年には、共通テストに「情報」が出題される予定です。

 

共通テストが変わるまでのこれからの4年間を考えるにあたり、これまでの20年間を4年ごとに振り返ってみようと思います。

※クリックすると拡大します。

※クリックすると拡大します。

 

まず2001年から2004年には、現職教員等講習会が行われました。私も講師兼受講者として参加し、2003年から「情報A」の授業を担当しました。

 

2005年から2008年の4年間には関東地区情報教育研究会が集まり、東京で合同研究会を開催しました。

 

そして2008年には、第1回全国高等学校情報教育研究会全国大会が東京で開催されています。この間、「高校の教科『情報』の未履修問題」が大きく取り上げられました。この件はこの後に触れます。

 

2009年からの4年間では、「情報の科学」「社会と情報」の学習指導要領が告示され、現在の情報科の授業の準備が行われました。

 

2013年からの4年間では、「社会と情報」「情報の科学」がスタートしました。

 

2016年には、文部科学省から都道府県教育委員会人事主管課長宛てに、「免許状『情報』保有者の配置の促進について」の依頼文書が発出されています。

 

そして2017年から現在までの間には、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の学習指導要領が告示されるとともに、各都道府県教育長宛てに新学習指導要領に向けて「学校のICT環境整備の促進について」という通知が発出されています。

 

そして、昨年末に「大学共通テスト『情報』試作問題検討用イメージ」が公開されました。

 

 

20年で変化したこと・しなかったこと

 

こちらは全国高等学校情報教育研究会の全国大会の一覧です。平成20年から始まり令和2年まで、13回の大会が行われました。私は1回目から全ての大会に参加しておりますが、注目すべき点の一つは参加者数です。一番多かったのは東京開催回ですが、400人を超えるということは一度もありません。全国で情報を教える仲間が一堂に会する機会なのですが、これまでの間に劇的な変化はなかったと言えます。

 

※クリックすると拡大します。

 

下図は、2006年11月15日の当時の情報処理学会会長の安西祐一郎先生の発表「教科『情報』未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策」から一部を抜粋させていただいたものです。

 

この中で安西先生は未履修問題の要因を分析されていますが、すでに14年前から、「情報」がコンピュータを使えるようになるための時間と捉えられていたり、と情報科の教員の指導力や指導内容、配置に関する課題、そして大学入試に関する課題などが指摘されていたことがわかります。

 

※クリックすると拡大します。

 

現在使われている情報の教科書の中で扱われている実習をこちらに書き出してみました。『金種表を作ろう』とか『環境問題について発表しよう』、『表現の工夫』ではチラシを作ってみようとか、他にも動画作成など様々な実習の課題が準備されています。

 

先生がたは全ての課題演習はとてもできませんので、自分の得意とする分野の実習や生徒たちの実態に合わせた実習を選び、授業で扱われているのではないでしょうか。

 

 

下図は、昨年12月28日にオンラインで開催された神奈川県高等学校教科研究会情報部会主催のイベントのプログラムです。リアルでの開催ができない中、高校の先生がたの手弁当で盛大な会を催せたのはすごいことであると思います。

 

なぜこれを取り上げたかというと、ここで発表されている実践事例が多種多様にわたっているためです。神奈川県に限らず、全国の先生がたが学習指導要領の内容をさまざまなアプローチで生徒たちに合わせて教えていることがわかります。

 

 

情報入試は「情報」の授業の「ものさし」を作ることに

 

次期学習指導要領の中では、これまでの課題として次の点が述べられています。

 

すなわち、「情報の科学的な理解に関する指導が必ずしも十分ではないのではないか。生徒の卒業後の進路等を問わず、『情報の科学的な理解』に裏打ちされた情報活用能力を育むことが一層必要」という記載です。

 

※クリックすると拡大します。

 

そしてご存じのとおり、「情報Ⅰ」という科目が設置されました。

 

私は情報入試のスタートは、『ものさし』が導入されると考えています。

 

これまでの20年間、諸先輩がたが教科「情報」について努力をされてきたのは既にお伝えしたとおりですが、学習指導要領を改訂して、学習する内容を示しても、それを測る『ものさし』がなかったため、教科「情報」の先生がたは、目の前の生徒の興味関心のある分野、または先生がたの得意とする分野に時間をかけ、教科書にある題材をアレンジして教えていたのではないかと思います。

 

 

 

2003年に教科「情報」がスタートしたとき、情報入試についてはさまざまなご意見がありました。「入試に導入することで暗記科目となってしまい、『情報』の面白さを伝えられないのでは」というご意見があったことを、今でも記憶しています。

 

情報入試がスタートすることで、学習指導要領の内容をどれだけ理解し定着しているかを測る一つの手段が示されるのだと思います。しかし一方で、情報入試が生徒の理解や定着を測る、万能の『ものさし』ではないということもお伝えしなければなりません。なぜなら、ペーパーテストでは測ることができない学習の内容もあるからです。作品を作成したり、実習で身に付けた実践力を授業内で評価したりすることも、とても重要だと思います。

 

情報入試のスタートにより、これまで家庭科、保健体育科、芸術と一括りにされていた情報科が、国語科、数学科、地歴公民、理科、英語のグループに入るような変化があるのではないかと思います。また、教科「情報」を学習する全ての高校生が共通テストを受験するわけではないとは言え、共通問題を解く、または理解するという目標ができると思います。

 

※クリックすると拡大します。

 

繰り返しになりますが、最大の点は学習指導要領で示された内容の理解度を測る『ものさし』ができることです。『ものさし』ができれば、指導内容もその『ものさし』が示す方向に、ある程度定まるのではないでしょうか。

 

さらに、専門教科による「情報Ⅰ」の代替の授業でも、共通テストの内容を意識した授業内容に変わらざるを得ないのではないでしょうか。これまで4年間を5回、合計20年間の実績が、今後の4年間で大きく変わることになるのではないかと思います。

 

※クリックすると拡大します。

 

共通テストの課題をどのように考えるか

 

次に、共通テストの課題について考えてみました。

 

1点目は、共通テストに「情報」が導入されても一部の大学しか必修としないのではないかという不安です。

 

「情報」を試験科目とすると受験生の負担が増え、受験生が減少するのではないか、ということを不安視しているのかもしれませんが、「情報」の基本的な知識をしっかりと持った生徒が入学することによって、文理を問わず、大学でのスムーズな学びにつなげていってほしいです。

 

2点目に、「情報」を教える教員の体制が整わないというご意見もよく聞きます。これまでに様々な通知等が出されているものの、残念ながら20年間あまり変わりませんでした。

 

3点目のICT環境の整備については、コロナ禍でオンライン活用が進み、状況は急速に変わってきていますが、地域によっての格差や違いがあると考えています。

 

そして4点目として、教員自身の不安もあるのではないでしょうか。「情報I」「情報Ⅱ」の教員研修用教材が公開されていますが、特に「情報Ⅱ」の教員研修用教材を見ると、かなり専門的な知識が必要であり、現職の情報科の教員の中には不安に思う人も多いのではないかと思います。そのような方々をどのようにサポートしていくのかも、これからの4年間の課題となります。

 

※クリックすると拡大します。

 

そして、共通テストが始まるまでの4年間で少しでもできることとして、4つ提案させていただきます。

 

1点目は、情報科の先生方が集まる研究会が全国的に組織され、全国大会に参加する先生がたが増え、情報交換がより活発に行われてほしいという希望です。

 

2点目は、情報の部活動の振興です。高等学校文化連盟に「情報」部門を新設し、部活動が盛んになってほしいと思います。私は、指導主事時代に東京都高等学校文化連盟の自然科学部門の立ち上げに関わりました。新しい部門を立ち上げるには、各都道府県でその部門をつくってさらに全国で組織するのですが、その作業は、1年や2年でできることではありません。それでも、高等学校文化連盟に加盟できれば、さまざまな点で高校生が活動しやすくなるのではないか思います。

 

3点目は、教員の定数についてです。どの教科に専任の教員を置くかということは、学校ごとに決めていると思います。例えば本校では、「音楽」と「美術」と「工芸」からなる「芸術」は、週に8時間しか授業がないため、全て時間講師となっています。「情報」が共通テストに入り、これまで以上に内容が問われることになる中で、やはり専任教員を配置できるような新たな制度や何か特別な措置があるとよいと思います。

 

※クリックすると拡大します。

 

最後に、情報化の先生方の待遇についてです。工業高校の先生には、産業教育振興法で手当が付いたり、手厚い教員配置が行われたりしています。また、商業教育の振興に関しては、全国商業高等学校協会によってさまざまなサポートが行われています。「情報」が教科として発展するためには、情報関連企業や大学、研究機関など、さまざまな方からの応援をいただいて、教科「情報」の分野が充実することが、日本の発展に寄与するのではないかと考えています。

 

このように、私たち高校の教員には、いろいろな人をサポートできるような人材を育てることを求められているのではないかと思います。併せて、この先の情報入試がスムーズに進んでいくことを期待しています。

 

情報処理学会第83回全国大会企画セッションより