国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会

「令和の日本型教育」の出発のために After GIGA・withコロナの教育のあり方を考える

New Education Expo2021

国内最大級の教育機材・ソリューションの展示会「New Education Expo2021」が開催されました。今回は、コロナ禍のために講演のみのオンライン開催となった昨年をはさんで、2年ぶりの会場開催となりました(東京会場: 東京ファッションタウンビル、6月3~5日、大阪会場:大阪マーチャンダイズ・マート、6月12~30日)。

 

昨年来のコロナ禍によって、日本の教育は大きく様変わりしました。小中学校では、休校中の家庭学習のためにGIGAスクール構想が前倒しで整備され、2021年4月現在でほぼ全ての学校で1人1台端末が実現し、しばらくは難しいと言われていたオンライン授業も、オンデマンド型・同時双方向型ともに導入が一気に進みました。コロナ禍は、図らずも教育のICT化を進める原動力となりました。

 

一方で、小中学校では授業の中で端末をどのように使いこなすのか。この先、小中学校で1人1台端末を経験した生徒が入学してくる高校では、今後どのように個人用の端末を準備させるか。そして、今なおオンライン授業が続く大学では、単なる対面授業の代替ではない、オンラインならではの新しい授業の形の模索が続いています。

 

 

今回のNew Education Expoは、一昨年の1人1台端末の配備に向けた、機材やシステムなどに代わって、端末整備完了後に発生した問題にきめ細かく対応する商品やサービス、生徒の端末の持ち帰りやオンライン授業・教員のテレワークなど学校外での運用のための商材、さらに従来の商品に様々な形で感染対策をほどこした新製品などが目を引きました。

 

また、1人1台端末でCrome Bookを導入した学校が多かったため、学習用ソフトではWindows、iPadに加えてCrome Book対応のバージョンを出しているものが多くありました。

 

東京会場・大阪会場合わせて約90のセミナーやフォーラム、探究学習や遠隔授業を体験する10のフューチャークラスルーム・ライブ、約80社の協賛企業ブースを数え、感染対策をほどこした会場では2年ぶりの開催に熱気があふれていました。

 

セミナーでは、1人1台端末や先生の働き方改革など、この2年で大きく変化した学校のICT環境に関するテーマが目を引きました。また、東京会場の2日目に当たる6月4日には、全国ICT教育首長協議会が「教育の情報化で変わる新しい学び」と題して、教育ICTサミットを開催。萩生田文部科学大臣もオンラインで祝辞を述べました。全国からICT化に取り組む22の自治体の首長がオンラインで参加し、事例発表やディスカッションが行われました。

 


■セミナーレポート

 

【基調講演】

 「令和の日本型教育」と教育の情報化

 東北大学 堀田龍也先生

 

【パネルディスカッション】

 「いよいよスタート! 教科『情報』の大学入試に備える」

 日経BP 中野 淳氏

 放送大学 辰己丈夫先生

 東京都立立川高校 佐藤義弘先生

 

■展示レポート

端末配備完了後に見えてきた問題に応える

昨年、新型コロナ対策のために、小中学校の児童・生徒用の端末配備が一気に進みました。GIGAスクール構想が数年分前倒しになった形となりましたが、急に配備が進んだために、実際に使い始めてから、準備段階では予測できなかった問題もいろいろ発生しているようです。

 


 

特に多かったのが、家庭に持ち帰った時の充電用アダプタの配備漏れです。学校では充電機能のついた保管庫を購入しても、家庭で充電できないため、活動が途中で途切れたり、保存ができなかったり、といった問題が頻発し、持ち帰り用の充電アダプタの追加購入が多いとのことです。また、家庭のWiFi環境によっては通信がうまくいかないことが予想以上に多くて、貸与用のルータも追加購入が多かったようです。

 

また、タブレット画面の保護フィルムに抗ウィルス加工をしたり、マウスやキーボードに防水機能を持たせたりといった、端末を文房具並みに使うための、教室外の場面も視野に入れた商品が多彩に準備されていました。

 

ペーパーレス時代だからこそ必要になる個人情報管理を代行

校務用ICTの導入で、保護者との連絡もペーパーレス化が進められていますが、そこで問題になるのが個人情報の管理です。漏洩を防ぐことは当然として、追加や変更に正確に対応するのは、先生方にとって大きな負担になります。

 

輪転機「リソグラフ」を制作する理想株式会社が開始したサービスが、スマートフォン用アプリによるデジタル連絡ツール「スクリレ」です。


 

保護者は個人情報を自分で「スクリレ」に登録するため、先生が直接個人情報の管理をする必要はありません。連絡は保護者のスマートフォンに配信され、オプションとして、出席管理や体調管理、該当者のみへの連絡を設定することも可能です。

 

また、 保護者がアプリ上の広告を閲覧することで、学校にポイントが付与され、学校は貯めたポイントを教材や事務用品などに交換できるという利点もあります。ビジネスモデルの転換によって、デジタル化に対応する興味深い事例でした。

 

オフラインならではの1人1台端末の強みを生かす

1人1台端末が実現することで、インターネットの利用だけでなく、オフラインで使えるコンテンツの活用場面も広がってきます。

 

電子辞書のコンテンツの様々なコンテンツを展開してきたカシオは、3Dグラフの描画・解析機能を搭載したグラフ関数電卓を発表しました。関数や統計の計算だけでなく、Pythonでプログラムの作成・実行もできます。

 


 また、同社の総合学習プラットフォーム「ClassPad.net」は、辞書機能に加えてデジタルノートと数学ツールを1つのアプリにまとめたものです。これまで特殊なソフトが必要とされた数学も入って、英語・国語・数学・理科・社会・総合学習の6教科を網羅した学習プラットフォームとなりました。

 

「文房具としての端末」だけではカバーできない、さらに充実した活動をサポート

児童・生徒に端末は行き渡りましたが、子ども達の作品や、成績データをどのように蓄積するかだけでなく、どのように出力して使っていくか、ということについては、GIGAスクール構想の枠を超えた視点からの検討やサポートが必要になります。

 

日本HPは、高度なプログラミングや創造的な制作活動に使えるデスクトップPCや、プリンターに力を入れています。子ども達の作品を動画やアルバム、冊子などの形にすることは、STEAM教育の成果物として欠かせないプロセスであり、学校への機材やサービスの配備が今後ますます必要になってくるでしょう。


 

学校が独自で購入するにはまだ高価な3Dプリンターについても、データを送ると産業用3Dプリンターを活用して作品を出力する、というサービスも開始しています。

 

高校のプログラミング教育開始にも対応

2020年度に小学校、2021年度に中学校、そして2023年度に高校で始まる新課程に合わせて、各学校段階でのプログラミング教育も始まっています。

 

これまでの出展では、小学校向けのプログラミング教材が中心でしたが、Lenovoは中高生向けのプログラミング教材を2021年秋にリリースします。高校のプログラミングは、東京書籍の教科書とリンクして、Pythonのプログラミングをブラウザ上で行うことができます。この教材は東京書籍以外の教科書を使っている学校でも、応用問題として使うことが可能です。高校でのプログラミング初学者向けの教科書レベルの教材としても注目されます。

 


1人1台端末と感染対策は実験用教材にも

小学校では、6年生理科の「電気」の単元でプログラミングを学ぶことになり、これまでも様々な教材が出ていましたが、今年の特徴は、1人1台端末での活動に対応した仕様が見られたことです。新たにCrome Bookに対応した機能を搭載したものも目立ちました。

 


 

また、右は微生物を生きたまま顕微鏡で観察できるプレパラート「水たまグラス」です。これまでは、このプレパラートを顕微鏡で観察したり、その画像をデジタルカメラで撮影したものを電子黒板に投影したりしていましたが、今回はスマホやタブレットのカメラレンズに取り付ける対物レンズ部分のパーツが出品されていました。各自が自分の端末で観察して撮影することができるのとともに、接眼レンズの接触による感染防止にも配慮したものとのことでした。

 

取材を終えて

昨年春から様々なイベントがオンライン開催される状態が続いています。私たち自身、リアルの会場取材は1年以上ぶりでした。

 

一昨年のこの会場は、GIGAスクール構想の具体化前、プログラミング教育スタート直前ということもあって、出展された企業の方にも、来場された先生方にも、「革命前夜」とも言えるようなある種の高揚感がありました。2年の間に端末配備が一気に進み、先生方は、コロナによる変則授業や行事の中止・縮小という、これまでにない困難な時期の中でICT環境の整備や授業への導入を経験されて、これまでとは違った視点で、新たな教育の在り方をご覧になっていたのではないでしょうか。

 

新型コロナウィルスの模型
新型コロナウィルスの模型

堀田龍也先生の基調講演で、東京会場の開催初日にあたる6月3日に公表された教育再生実行会議の第12次提言に「コロナで学校の機能が見直されて、特に初中等教育では「集う機能」が重要だということがわかった」という内容があったことが紹介されました。

 

万全の感染防止対策をほどこした会場で、実際に展示物に触れたり、講演される先生方のお話を聞いたりすることで味わった久々の感動は、まさにこの「集う機能」に通じるものがあったと思います。

 

緊急事態宣言発出中の東京・大阪での会場開催は、ある意味非常にチャレンジングでしたが、After GIGA・withコロナという「令和の日本型教育」実現に向けてのスタートにあたる今年、このような場を設けられたのは、非常に意義深いことであったと改めて感じています。