第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)

講評・挨拶 来年度スタートの「情報I」に向けて

田﨑丈晴先生

 国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

 文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室教科調査官

 文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校教育)付産業教育振興室教科調査官

 

ご本人提供
ご本人提供

第14回大会を振り返って

 

今年の4月から、現職に着任いたしました。教科「情報」担当の調査官として、文部科学省情報教育振興室では共通教科情報科、産業教育振興室では専門教科情報科を担当しています。よろしくお願いいたします。

 

今回、講評を仰せつかりましたが、感想の共有としてお聞きいただければと思います。

 

まず、第14回大阪大会の開催、おめでとうございます。今回オンライン開催になりましたが、当初会場に予定されていた大阪芸術大学様からの様々なご支援をいただいたと伺っています。第1回からの会場をたどると、さまざまな大学の先生方のご協力があっての全国大会だったと思います。

 

また大会の冊子ですが、今回はオンラインで入手できるようになりましたが、このご準備は大変だったと思います。執筆された先生方、この冊子の製本や入稿に関わられた先生方、ありがとうありました。おかげさまで、今回参加された先生方は、大会が始まる前までにこの冊子を手にして、予習をしてから分科会やオンデマンドの発表を視聴でき、たいへん助けになったのではないかと思います。

 


今回の全国大会は2日間にわたって開催されました。

 

1日目の分科会の口頭発表18件、動画の発表17件、合計35件の発表を共有することができました。また2日目は、基調講演と特別講演を聞くことができました。

 

今日の基調講演では、大学入学共通テストで「情報I」が実施されますが、そこに向けては、やはり新学習指導要領に基づいた授業がしっかり行われるということが重要である、という貴重なご指摘をいただきました。


 

大学入試センターの、共通テストのご担当の先生から、これだけ長い時間のご説明を伺う機会はなかったのではないかと思いますし、また特別講演でお話しいただいた鵜飼先生からは、これからの情報教育をどのように進めていけば、生徒にとってより良い、魅力的なものになっていくのかというヒントをたくさんいただけたと思います。

 

両日とも今大会のテーマ、「新学習指導要領に向けて~大学入学共通テストを見据えた教科情報とは~」に沿った内容の発表が充実しており、参考となる多くの情報を得られたのではないかと思います。

  

今回の35件の発表のうち、中学校や高等学校の先生方による発表が32件でした。うち、大学の先生との連名が3件、研究会としては1件、同僚の先生方との連名での発表も1件ありました。

 


 

そして大学の先生からの発表も3件あったということで、幅広いお立場の方々からの発表をうかがうことができました。これは、情報科の先生方にとっては専門性の向上に資するもの、そして学ぶ視点が多くあるという点で、有益であったと思います。今後も情報教育に興味・関心のある幅広い方々からの発表・ご意見、分析、ご報告等から学ぶことができればと思います。

 

また35件の発表のほとんどが今回の全国大会のテーマに沿ったもので、これは発表された先生方の意識と運営に関わられた先生方の意識が、見事にベクトルが合っていると感じました。来年度から新学習指導要領「情報Ⅰ」が始まる、その準備のところで、情報科の先生方のベクトルが揃っているということで、良い大会だったのではないかと思います。

 

35件の発表の内容を、私のほうで整理させていただきました。 

 

 

「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の内容で、他教科と関連させた発表もありました。とりわけその中では、情報デザインやプログラミング、もしくはデータの活用といった、これから指導される上で新たに加わった内容が注目されているということがわかりました。

 

また「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善がわかる発表、こちらも新学習指導要領を実施する上での授業改善に向けた研究に関する発表があったのは喜ばしいことであると思います。

 

また問題の発見・解決を行う学習活動や探究的な学びがわかる発表もありました。特に問題の発見や解決を行う学習活動を通して内容を学んでいくことは、共通教科「情報」の目標にもそのように示されており、学習指導要領の求める方向性に沿った研究であったと思います。

 

GIGAスクール構想への対応については、情報科で、もしくは教科横断的に学校全体で、ということがうかがえる発表もありました。GIGAスクール構想は、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けてのICT活用ということで、よろしくお願いします。特にこれから高等学校でも1人1台端末が高校も進んでいく中で、非常に参考になる事例が共有できたのではないかと思います。

 

また、これから求められる資質・能力と関連させた発表もありました。これからの時代の動向をにらんで、どのような指導が必要なのかということをまとめていただいた発表がありましたし、大学入学共通テストを念頭に置いた発表、情報活用能力を育むことと関連させた発表、そして小学校や中学校とのプログラミングについての縦の連携を考慮した発表もありました。さらに、これらの項目の複数に該当するような発表もありました。そういったところでは、新学習指導要領に向けて、大学入学共通テストを見据えた準備をするにことにおいて、豊富な情報共有がなされたのではないかと思います。 

 

お忙しい中発表をしてくださった先生方、感謝申し上げます。また、分科会におきましては、座長の先生方、タイムキーパーの先生方、またバーチャルの会議室の運営に当たられた先生方、たいへんお忙しい中、ご準備と的確な運営をいただきましてありがとうありました。

 

共有できた情報をどのように活かしていくか

 

今回、豊富な情報を共有したわけですが、これからどのように取り組むかということも、重要になってくるかと思います。

 

まずは、良いと思ったことはやってみる、改善するとことが大事であると思います。今回の大会の参加を通して得られた視点を持って、まずはやってみて改善するというPDCAサイクルを1周まわし、さらに2周、3周…と改善を続けることで、より良い取り組みにしていただければと思います。

 

 

 

また学習指導要領や学習指導要領の解説を再度確認するということで、あらためて教科や科目で育む資質・能力、そして資質・能力の3つの柱で整理された情報活用能力とともに、どのような目標設定がなされているのかを確認して、学習指導要領に基づく実践としていただければと思います。

 

「主体的・対話的で深い学び」を通した授業改善については、共通教科「情報」、もしくは専門教科「情報」として、「主体的・対話的で深い学び」とはどのようなものかを、学習指導要領の解説で確認していただくと、これからの授業づくりへの手掛かりが得られるのではないかと思います。

 

今月「指導と評価の一体化のための学習評価に関する参考資料(案)」(※1)が国立教育政策研究所のwebページで公表されました。こちらも併せてご覧いただき、観点別評価ではどのような視点で評価するのかを確認していただければと思います。

 

さらに、小学校、中学校からのプログラミングの学びの縦の連携に関しまして理解を深めるということについては、中学校の技術・家庭科の技術分野の教科書を確認されることも有益だと思います。

 

また、他教科との連携、もしくは「校内全体で取り組む情報活用能力の育成」という視点に関しては、同僚の先生とどのように協働するかについて、調整や整理をすることも求められると思います。

 

※1 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html#hig

 

 

いろいろ申し上げましたが、これらのことを一つひとつ確認したり実践したりしていただきながら、また来年度の全国大会で発表していただき、全体で共有していただければと思います。

 

情報入試はどうなるか

 

情報入試関係についての情報をこちらに整理します。

 

7月30日に、文部科学省から令和7年度の大学入学共通テストの実施大綱予告が出ましたが、大学入試センターからも3月24日に「情報」の共通テストのサンプル問題が出ています。また、情報処理学会のサイトには、センター試験の「情報関係基礎」の過去問のアーカイブが掲載されています。

 

8月26日には、日本学術会議情報学委員会が、「大学入学共通テスト『情報』が目指すもの」(※2)という公開シンポジウムを行います。参考にしていただければと思います。

 

※2 https://onsite.gakkai-web.net/fit2021/abstract/data/html/event/event_B2.html

 

 

これから「情報Ⅰ」の実施に向けて、準備することが多いかと思いますが、学習指導要領が切り替わるという機会に、新たな情報科の未来をつくる、という視点で、クリエイティブな授業をする、そしてそれを生徒に還元していけるよう、ぜひ意欲的にお取り組みいただきますよう、お願いしたいと思います。

 

 

「情報I」の授業実施に向けた参考資料

 

以下、情報提供としてスライドをいろいろ準備しましたが、こちらについては詳しく説明する時間がありませんので、のちほど資料をご覧いただければと思います。

 

こちらは令和3年版の「科学技術・イノベーション白書」の絵の一つです。この中心で、さまざまな分野の専門家が話し合っていますが、「情報Ⅰ」を学んだ生徒が「文理関係なく」活躍し,情報社会に参画・寄与するというこのイメージを持っていただければと思います。

 

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こちらは学習指導要領改訂の考え方としていつも出てくる絵です。この構造については、いつも確認したいところです。

 

※クリックすると拡大します。

 

評価の観点とその趣旨については、先ほどご紹介した国立教育政策研究所のホームページに参考資料が出ていますので、詳しい情報はそちらでご確認いただければと思います。

 

 

「情報活用能力」も、資質・能力の3つの柱に沿って再整理されました((平成28年12月中教審答申別紙3-1)。また、共通教科「情報」における「主体的、対話的で深い学び」、「探求的な学び」に関して、学習指導要領解説の情報編には、情報に関する科学的な見方・考え方についてもしっかり載っていますので、こちらも参考にされて、授業づくりをしていただければと思います。課題解決を通した授業づくりにどのように取り組むかがポイントではないかと思います。

 

 

「情報Ⅰ」の年間指導計画を立てる際には、数学との指導連携をどうするか、ということが重要になってくると思います。ICTも、ただ活用するというだけでなく、「個別最適な学び・協働的な学びのため」ということが、今年1月26日に取りまとめられた、中教審の答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」で指摘されております。

 

 

StuDX(教育のデジタルトランスフォーメーション)の取り組みについても、文部科学省の「StuDX Style」というホームページ(※3)で情報が頻繁に更新されつつ発信されるようになりました。

 

全ての教科でのICT活用について情報発信されており、主体的・対話的で深い学びの実現に向けての活用,ということが概要資料でも押さえられていますので、こちらもご覧になってください。

情報科もこのような資料、今までいろいろ申し上げておりました内容も含めて情報提供しています(※4)。

 

※3 https://www.mext.go.jp/studxstyle/

※4 情報科:文部科学省 (mext.go.jp)

 

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教科横断的な学習としてのSTEAM教育については、こちらの資料をご覧ください(※5)。この資料の他にも、探究的な学びの意義についてご確認いただくと、教科「情報」の授業づくりにも参考になると思います。

 

その他、「高等学校情報科『情報I』『情報Ⅱ』教員研修用教材」は、8月に正誤表を更新しましたので、ご確認ください。研修用教材の巻末には、関連する学会の担当者や連絡先が載っていますので、研修の講師の依頼等にご活用ください。

 

「高等学校『情報』」の実践事例集(※6)は4月に公開されました。課題解決を通して学ぶ生徒の姿等も載せられています。こちらもご覧いただければと思います。

 

※5 STEAM教育等の教科等横断的な学習:文部科学省 (mext.go.jp)

※6 高等学校「情報」実践事例集:文部科学省 (mext.go.jp)

 

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その他にも、ここに挙げられたように来年度に向けた研修用教材が多数公開されていますので、これからもご活用いただければと思います。情報処理学会作成の動画教材「IPSJ MOOC」(※7)は、8月1日に「情報I」の第4章「情報通信ネットワークとデータの活用」が公開されています。こちらも併せてご覧いただければと思います。

 

※7 https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/mooc/

 

 

[田崎先生の講演資料はこちらから]  

2021_tasaki.pdf
PDFファイル 7.2 MB