第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)
基調講演
大学入学共通テスト 新科目「情報I」~サンプル問題等とそのねらい~
独立行政法人大学入試センター試験問題調査官 水野修治先生
まずは、全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)におきまして、貴重なお時間をいただけたことを心から感謝いたします。また、大会テーマである「新学習指導要領に向けて~大学入学共通テストを見据えた教科情報とは~」にありますように、来年度から新しい学習指導要領のもと、「情報Ⅰ」の授業が始まり、子どもたちの学ぶ先にある大学入学共通テストに「情報Ⅰ」が実施されることになりました。このタイミングで、全国の先生方が研究成果や実践事例を共有し、互いに刺激し合う中で、私も少しでも皆さまのお役に立てる話ができればと考えています。
少し自己紹介をいたします。私は、2019年3月まで教育行政の経験もしながら愛知県の高等学校に在籍しておりまして、教頭職から大学入試センターに着任いたしました。現在は情報担当の「試験問題調査官」として、高大接続改革の流れの中で、つまり「資質・能力の3つの柱」である「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」を高校教育で確実に育成して、大学教育でさらに伸ばすために、それをつなぐ大学入試の改革の一つとして、大学入学共通テストは学習指導要領をしっかり踏まえて作ろうとしています。そこで、高等学校の指導主事経験者などが「試験問題調査官」として大学入試センターに配置され、私のような高校教育の関係者が共通テストに関わっています。
皆さんもご存じのように、この7月30日に、文部科学省が大学入学者選抜協議会での議論を経て、「令和7年度大学入学選抜に関わる大学入学共通テスト実施大綱の予告」として、令和7年度から正式に大学入学共通テストにおいて、「情報Ⅰ」が実施されることを示しました。このタイミングで先生方にお話しできることを嬉しく思います。
共通テストに「情報Ⅰ」が導入されるに至った経緯
今日は、皆さんと一緒に共通テストに新しい科目として、「情報I」の導入が検討されるに至った意味や経緯を振り返ります。そして、3月24日に大学入試センターが公表した大学入学共通テスト「情報I」の「サンプル問題」のねらいを、新しい学習指導要領と照らし合わせながら、誤解のないように説明していきたいと思います。
このサンプル問題は、多くの有識者の先生方によって作成されていますが、令和7年の実施まで、まださまざまな調整が必要かと思います。今大会でもサンプル問題を題材とした研究報告がいくつかあり、私も拝見しましたが、先生方の取り組みやご知見が私どもにとって大変貴重であり、今後の実施に向けて、ぜひ参考にさせていただきたいと考えています。
初めに、共通テストに「情報Ⅰ」が導入されるまでに至ったこれまでの経緯を簡単に振り返ります。
時代と共に情報教育がますます重要になっているのは言うまでもないことですが、ここ数年、初等中等教育における情報教育には大きな変化があります。
具体的には、小学校では昨年度からプログラミング教育が必修となり、中学校での技術・家庭でも生活や社会における問題を、情報通信ネットワークを利用した双方向性のあるプログラミングによって解決することや、情報セキュリティについて学ぶなど、取り扱う内容は高度化しています。高等学校では、来年度から学年進行で「情報Ⅰ」を全員が履修することになります。
視点を変えて大学と高等教育に目を向けますと、文部科学省は数理・データサイエンス・AI教育の教育強化の拠点校として6大学を選定し、数理・データサイエンス・AI教育の充実のための取り組み成果を全国で波及させるために、モデルカリキュラムや教材の作成・普及に取り組んでいます。
また、令和元年に統合イノベーション戦略推進会議で決定された、「AI戦略2019」において、2025年までに実現する具体的な目標として、「文理を問わず全ての大学・高専生約50万人が、課程において初級レベルの数理・データサイエンスAIを習得」また、「文理を問わず一定規模の大学・高専生約25万人が、自らの専門分野への数理・データサイエンスAIの応用基礎力を取得する」としています。先生方が大学に送り出した生徒たちは、大学に行ってから文理を問わず、数理・データサイエンス・AIの力を求められるということで、国としてもこの分野にとても大きなお金をかけて取り組んでいます。
次に、平成30年に閣議決定された「未来投資戦略」では、大学入学共通テストにおいて、国語、数学、英語のような基礎科目として必履修科目「情報Ⅰ」を追加するとしました。
令和2年7月に閣議決定された「統合イノベーション戦略2020」では、大学入学共通テストに「情報Ⅰ」を、2024年度より出題することについて検討、同じく「成長戦略フォローアップ」(令和2年7月)には、「共通テストにおいて、『情報Ⅰ』を2024年度から出題することについて、CBT活用を含めた検討を行う」とあります。
大学入試センターとしての結論~令和7年度から共通テストに「情報I」の導入へ
こういった流れから、大学入試センターでは、これまで大学入学共通テストへの新科目「情報」(この時点では科目名を「情報」としている)の導入について、有識者と共に関係団体と協議を進めて来ました。そして今年3月24日に、「令和7年度から共通テストで『情報』を実施する」という、大学入試センターとしての結論を発表し、併せて共通テスト「情報」のサンプル問題を示しています。
このときは、共通テストのCBT化にも言及しておりまして、「令和7年度の共通テストはPBT、つまりこれまで通りペーパーテストで行う」としています。CBTについての取り組みに関しては、後ほどお話しできればと思います。
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そして、7月30日に文部科学省が令和7年度の共通テスト実施大綱の予告を公表し、この中で正式に科目名と同じ「情報Ⅰ」が実施されることになりました。
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これは翌日の新聞で大きく報道されましたが、「情報Ⅰ」の試験が追加されるということと併せて、高校の教える体制、地域格差の課題が挙げられています。私の立場で、この件についてコメントは控えますが、これは共通テストにかかわらず、「情報」を学ぶ子どもたちのためには、待ったなしで解決しなければならない問題です。早急に情報科教員の採用が改善されることを期待しますが、地域格差という点においては、この全高情研の役割はとりわけ重要であり、今後の取り組みに期待しています。
■情報「サンプル問題」の解説
ここからは、「情報」の「サンプル問題」を見ていきたいと思います。実際にこの問題を隅から隅までご覧になっている方も多いかと思いますが、まだご覧になっていない方も、大学入試センターのWebサイトに掲載していますので、ご自由にご活用ください。併せて、「問題のねらいと概要」という資料も掲載していますので、こちらもご一読いただければと思います。
○大学入試センター 平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について(サンプル問題ダウンロード)
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まず「作成の趣旨」をご覧いただくと、この「サンプル問題」の目的とともに、注意書きが書いてあります。
このサンプル問題は、もちろん「情報Ⅰ」の全ての項目を網羅しているものではありませんし、作成しいてる段階では、「情報Ⅰ」の教科書はまだ検定中でしたので、教科書の内容を照合したものではありません。
またこれまでのセンター試験や、今年から始まった共通テストのように、幾度もの点検を経て、多大な時間と労力を割いて練り上げた問題ではありません。個々の問題を見れば、まだまだいろいろご意見があるところかと思いますが、このサンプル問題の目的は、新しい科目「情報Ⅰ」の問題の具体的なイメージを共有することですので、この点ご理解いただきたいと思います。
問題数からすると実際の問題セットのように見えますが、これは一つの問題セットとして作ったものではありませんし、試験時間を考慮したものでもございません。あくまで個々の問題として見ていただきたいと思います。領域ごとの問題数や配点のバランスは、参考になさらぬようお願いいたします。
「情報Ⅰ」は必履修科目ですので、全ての高校生が学びます。私たちが考える共通テスト「情報Ⅰ」の問題は、理系学部や文理融合学部向けだけでなく、文系・理系を問わず大学教育の基盤になる資質・能力を測る試験と考えています。
具体的な問題を見る前に、共通テストがこれまでのセンター試験とどう変わっているのかについて、今一度確認しておきたいと思います。
これは令和5年度の大学入学共通テストの問題作成方針です。毎年6月頃に、翌々年度の問題作成方針を公開しており、ここで重要な点を赤文字で示しました。
○令和5年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び問題作成方針
知識の理解の質を問う問題や、思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視しています。また、授業において生徒が学習する場面や、社会生活や日常生活の中から課題を発見し、解決方法を構想する場面、資料やデータ等をもとに考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する、とあります。さらに、高等学校における通常の授業を通じて身に付けた知識の理解や思考力等が新たな場面でも発揮できるかを問うために、教科書等で扱われない資料等も扱う場合がある、とも示しています。
令和7年度の共通テストの問題作成方針も、大きく変わることはないと思いますので、サンプル問題はこの方針のもと作られております。赤字で示した部分については、サンプル問題を見ていく中で具体的に説明していきたいと思います。
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第1問 知識の理解の質と、その応用力を問う
では、サンプル問題の第1問を見ていきます。共通テストは、思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視していると、いう印象を持たれているかもしれませんが、その基礎となる知識の理解の質を問う問題も重視しています。この第1問は、どちらかといえば、この知識の理解の質を測る問題として出しています。
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新学習指導要領には、このような育成すべき3つの資質・能力が示されています。左下から、生きて働く知識・技術の習得。その知識・技術を使って未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成。そして、学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養。この3つの資質・能力を育成することとしています。
知識にも段階があり、ここで言う「生きて働く知識」は、「概念的な知識」、つまり新しい知識が既得の知識やこれまでの経験等と関係づけられ、構造化されることで自分の中で形成される知識です。思考力・判断力・表現力があってこそ得られる知識です。
この概念的な知識は、社会のさまざまな場面で生きる・活用できる知識となります。単に技術的な知識や用語を知っているかを問うのではなく、その本質を理解しているか、その概念的知識を使って思考したり、判断したりと活用できるところまで理解しているか、そういう意味で、問題作成方針の中で、「知識の理解の質を問う問題」として重視しています。
第1問 問1 学習過程を意識した長文を読み解き、知識の質を問う
第1問は、四つの独立した小問で構成されています。
共通テストは、これまでのセンター試験に比べて全体的に文章量が多くなったという印象を持たれているかと思いますが、この問1も、東日本大震災の後にまとめられた通信の確保に関する報告書を読んで、先生と生徒の会話形式の、学習の過程を意識した場⾯設定になっております。この報告書をもとに、情報技術の仕組みとその利点、情報社会と人の関わりやその課題に関する知識の理解の質を問う問題となっています。この問いは、震災によって固定電話がつながりにくくなった状況下でもSNSを利用できた理由や、震災後にクラウドサービスが自治体などで利用されるようになった理由、また、情報社会の中で問題となっている情報格差の要因について聞いています。
問われている内容は、パケット交換方式の仕組みや、情報格差の原因、クラウドサービスの仕組みで、学ぶ単元も別々になります。これら一つひとつの知識を、東日本大震災という一つのテーマの中で結び付けて、思考・判断できるところまで理解しているかを測る問題です。この問題は、現行のカリキュラムで学ぶ生徒にも解いてもらえる問題であると思います。
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第1問 問2 情報の抽象化・可視化・構造化の手法を考える「情報デザイン」の問題
問2は、効果的なコミュニケーションを行うための情報デザインの考え方や方法を問う問題です。「情報Ⅰ」では、情報デザインという領域が大きく取り上げられていますが、どういう問題が考えられるかについては、これまで資格試験でもあまり扱われない領域ですので、参考にしていただければと思います。
これは発表会において伝えたい情報を整理したり、情報を受け手に対してわかりやすく表現したりするために、情報を抽象化・可視化・構造化する手法の基本的な理解を問う問題となっています。
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第1問 問3 画像のデジタル化の手順・仕組みを考える
問3は、画像のデジタル化に関して標本化・量子化・符号化の一連の流れと、それぞれの仕組みを正しく理解しているか。また、画像のデジタル化のメリットについての基本的な理解を問う問題となっています。「情報の科学」を履修している生徒であれば、この問題は取り組めるのではないでしょうか。
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第1問 問4 基数変換とネットワークの知識の理解をもとに発展的に考える
問4も先生と生徒の会話形式で、生徒の学習過程を意識した場面設定となっています。IPv4におけるネットワーク部のビット数を題材にしており、どの教科書でも恐らく扱われない内容ということで、基本的な知識の理解を基に発展的に考えさせる問題として出しています。
この問題は、単にIPアドレスや基数変換の仕方がわかるだけでは解くことはできない、場面において思考・判断表現できるところまで知識の本質を理解しているかを測る問題となっています。
先生と生徒の会話と、先生が描いた説明の図、つまりこの場面においてIPv4におけるネットワーク部とホスト部の考え方を理解し、ビット数とその表現できる数の関係や十進数から二進数への基数変換などを理解した上で、組み合わせて考えることができれば正答を導けると考えています。解答形式は選択肢から選ぶのではなく、共通テスト「数学」によくある解答となる数字をマークする解答方法になっていますので、特に最後の問題は難しいかもしれません。
よく共通テストになって会話文が多いというご指摘を受けますが、このサンプル問題の中にも会話文を使った問題がいくつかあります。これは授業の場面を取り上げたり、会話文を取り上げたりする形が目的ではなく、この問題のように、知識を実際の場面で生かせるか、問題解決に使えるかを評価したり、その場面設定で思考・判断・表現できるかを評価するための工夫として、授業の場面や会話文を取り上げたりしています。この点をご理解いただきたいと思います。
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第2問 比例代表選挙の議席配分の考え方をプログラムで処理する
第2問は、6ページにわたる大問形式のプログラミングに関する問題です。先生方、この問題をご覧になってどのような感想をお持ちになったでしょうか。
今大会のオンデマンド発表でも、この問題を分析して指導し、全生徒に問題を解かせたというご発表があり、実際の生徒の正答率という点で、大変参考になりました。
この問題は、選挙年齢の引き下げに伴って、生徒にとって身近となった比例代表選挙の議席配分の考え方をプログラムで処理する問題です。
情報社会の問題解決の過程を題材に、生徒が主体的に学習し、探求する場面の中で配列の考え方や最大値を求める探索など、条件判断や繰り返し処理を用いたアルゴリズムを理解し、プログラムの基本となる考え方や技法を問う問題となっています。
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新しい学習指導要領には、「アルゴリズムを表現する方法を選択し、正しく表現する力、アルゴリズムの効率を考える力、プログラムを作成する力、作成したプログラムの動作を確認したり不具合の修正をしたりする力を養う」とあります。
この問題は3問構成になっていて、問1から問3まで順に考えていくことで、段階的に無理なく深い内容に導く作りになっています。
第2問 問1 当選者数の算出プログラムの問題点を理解する
問1では、1つの議席を獲得するのに妥当な得票数から、各政党の当選者数を算出するプログラムを考察する力を問います。この問題で示された単純な方法では、当選者数に過不足が生じる問題を理解させることで、議席配分という課題の問題点を理解させています。これが次の問いへの準備となっています。
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第2問 問2 前問で示された問題を解決するための手順=アルゴリズムを考える
問2では問1で明らかになった課題を解決するために、比例代表選挙の議席配分方法として代表的な「ドント方式」(問題の中では「ドント方式」という言葉は使っていません)の考え方を丁寧に説明して、与えられた表や手順を正しく理解し、アルゴリズムの流れの中で、2つの配列変数の変化をトレースさせる問題となっています。
このアルゴリズムは問3のプログラミングにつながるので、丁寧に理解させるよう工夫しています。ちなみに「ドント方式」はほとんどの中学校の教科書に載っていましたが、問題の中でも丁寧に説明しています。
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第2問 問3 繰り返し処理の終了条件や最大値を求めるアルゴリズム、関数を使った演算処理を考察する力を問う
問3では、問2で考えたアルゴリズムをもとに、作成したプログラムについて、適切な処理を考察する問題です。
与えられたプログラムと求める処理結果から、繰り返し処理の終了条件や最大値を求めるアルゴリズム、関数を使った演算処理を考察する力を問う問題になっています。
また、作成したプログラムでは、各政党の候補者数が不足する場合に問題が生じるので、正しく処理結果が得られるよう、論理演算子を用いた分岐条件を考察する力を問うています。
この大問の中で、問題解決の一連の過程、つまり問題を見つけ、解決方法を見出し、それを評価し、さらに改善するという流れを展開しています。
問3のプログラムの中で「切り捨て」という関数を利用しています。標準的な関数としてもよく使われるものですが、プログラムの中でこういった標準的な関数はもちろんですが、問題の中で定義した関数を使っていこうと考えています。
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授業では実用プログラミング言語で自らプログラムを作り上げる経験を持って
プログラム言語については、個々での授業の状況や教科書で扱われるプログラム言語、大学や社会で求められるものなど、さまざまな立場からのご意見があることは承知しています。共通テストでは、大学入試センター独自の日本語表記の疑似言語を用いています。これは教科書や授業で多様なプログラム言語が利用される可能性があることや、共通テストとしては、実用性よりも教育的で公平なプログラム言語が求められることから、現状ではこの表記の方向で考えています。
この試験のためのプログラム言語は、大学入試センターの言語(Language)の頭文字を取って、DNCLと呼んでいます。DNCLはこれまで「情報関係基礎」という、主に専門高校生向けのセンター試験でも使われていましたが、このサンプル問題のDNCLは「情報関係基礎」のものから表記を変えた部分もあります。
少し懸念していることは、DNCLだけを使ってプログラミングの授業が行われることがないように、ということです。やはり授業では、教科書で使われている実用的なプログラム言語を使っていただきたい。自ら創造する、作り上げるという授業で学び、プログラミングに興味を持った生徒であれば、この問題は特に苦労することなく解くことができると思います。
「情報Ⅰ」の教科書の見本本をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、各教科書で扱っているプログラム言語はPythonやJavaScriptなど様々です。
プログラミングの授業は、教科書に掲載されてる言語を使って教えることになると思いますが、いずれかのプログラム言語で学んだ生徒であれば、このDNCLの仕様を知らなくても、問題の中に出てくるプログラムは、無理なく理解できると考えていますし、その逆、つまりDNCLは特異な仕様ではありませんので、問題の中のプログラムを日頃授業で使ってる言語で試すこともできると考えています。
第3問 オープンデータを用いて基本統計量などから全体の傾向を読み取る・予測する
第3問は、データの活用に関する大問で、オープンデータを用いて、基本統計量などから全体の傾向を読み取ったり、予測したりする問題解決の活動の中で、考察する力を測る問題です。
この問題は、「情報Ⅰ」になってから深くなったデータ活用の領域ですので、現行のカリキュラムで学ぶ生徒には難しいと思いますが、「情報Ⅰ」ではこういった問題が問えるのではと考えています。
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第3問 問1 複数の散布図や、相関係数から項目間の関係などを考えさせる
具体的に見ていきますと、問1ではサッカーのワールドカップに関係するデータを用いて、データを表計算ソフトウエアや統計処理ソフトウエアを用いて整理・加工して、多くの項目があるデータを可視化した複数の散布図や、相関係数から項目間の関係などを考えさせる問題になっています。
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この図1で示された、散布図行列と相関係数行列を合わせた図ですが、少し驚かれた先生方もいらっしゃるかもしれません。
学習指導要領の解説(スライド下段)には、「多くの項目のあるデータに対して、項目間の相関を見るためにデータを漏れのないように組み合わせて、複数の散布図などを作成し、相関関係の見られる変数の組み合わせを見出し」とあります。
教科書の見本本を見ても、このような図は載ってなかったのではないかと思いますが、問題の中でこの図の読み方を丁寧に説明してありますし、この図を構成するヒストグラムは中1で学びます。散布図や相関係数はほとんどの教科書にも載っていたと思いますので、少し発展的な図を用いていますが、データ活用に関する基本的な知識、理解をベースに、思考・判断することによって正答を導くことができると思います。
第3問 問2 単回帰分析を基にデータの予測について考察する
問2は、決勝進出チームと予選敗退チームのグループに分けられた回帰直線から、グループによる傾向の違いと予測値の差を求めさせ、さらに実際の値と予測値との差である残差を求めさせるなど、単回帰分析を基にデータの予測について考察する力を測る問題です。
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第3問 問3 基本統計量から、データに組まれる傾向を読み取る
問3は、決勝進出チームと予選敗退チームのグループごとに分けられた四分位数や、標準偏差などの基本統計量から、データに含まれる傾向を読み取る問題です。四分位数は、新課程では中2で学ぶ内容となっています。
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第3問 問4 四分位数を基にしたデータの散らばりから傾向を考えさせる
問4は、四分位数を基にしたデータの散らばりから傾向を考えさせる問題です。このデータの活用に関する問題も、ご覧いただいてわかるように、サッカー部のマネージャーの研究という題材で、データの傾向を読み取ったりする、問題解決の活動の中で考察する力を測っています。
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授業で重要なのは表や図を作ることではなく、それらを読み取り考察すること
参考までに、先ほどの散布図行列と相関係数行列ですが、文部科学省が出している「高等学校情報科『情報I』教員研修教材」には、このような形で、Excelを使って作る事例が載っています。
もし、Google Colaboratoryなど、Pythonの環境がありましたら、簡単にこのような図を作ることができます。また、統計分析ソフトウエアのRを使えば、問題に出てくるような図も作ることができます。
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誤解のないように申しますが、このような表を作ることを生徒に求めているわけではありません。どの項目とどの項目に相関があるのか、試してみないとわからないような実データから、それを見える化したものですので、いろいろなオープンデータを分析する際に、先生がPythonやRでこのような図を作っていただくことで、生徒にとって魅力ある授業になると思います。
この問題で扱っているデータは、ワールドカップのデータをそのままを使っています。学習指導要領(スライド上段)には、「実際のデータを用いてソフトウエアも利用してデータを整理したり加工したりして、項目間の関係からわかることを見いだすような授業」が求められています。
○文部科学省 高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材(本編)
サンプル問題の「メッセージ」を読み取り、「情報I」の授業に活かす
以上、簡単に各問題について説明しましたが、ここに書いてありますように、問題作成にあたっては、教科書は参照しておりませんし、点検プロセスも経ておりません。まだまだ難易度も適切でない部分もあるかと思いますが、このサンプル問題に含まれるメッセージを読み取っていただき、新しい学習指導要領のもと、来年度から始まる「情報Ⅰ」の授業に活かしていただきたいと思います。
メッセージというと、これは他の教科でよく誤解されることですが、センター試験から共通テストに変わることによって、高校の授業を変えようとしているわけではありません。新しい学習指導要領によって、高校の授業が変わろうとしている、その授業で培われた力を、新しい共通テストできちんと測っていく、そういう試験であるので、新しい学習指導要領に基づいた魅力ある授業を心掛けていただければと思います。
まとめとして、今まで申しましたことで「確認テスト」を作りました。これは、全て該当するということになります。共通テストでは、空欄1つで該当する選択肢を全て選べる形式はございませんが、この場合は全てマークする形になります。
参考情報のご提供と先生方へのお願い
今回示したサンプル問題は、共通テスト「情報Ⅰ」の問題イメージを共有するために示したものですが、大学入試センターは、昨年の11月にも共通テストの「情報試作問題(検討用イメージ)」というものを出しています。これは国大協など、大学関係機関や各都道府県教育委員会など、高等学校関係機関にお送りしたものです。
都道府県によってはその扱いが異なり、全ての先生に配布したところもありますが、そうでないところもあると聞いています。情報処理学会のWebサイトに掲載されていますので、参考までにお知らせします。
○情報処理学会 大学入学共通テストへの「情報」の出題について(試作問題ダウンロード)
併せて、センターでは1997年度から、主に専門高校を対象とした「情報関係基礎」という科目をこれまで出題してまいりました。センターのウェブサイトには過去3年分しかありませんが、情報処理学会の情報入試研究会が、1997年度から全ての過去問題と解答、評価報告書をウェブに掲載されています。
そもそも科目の目的や対象が異なりますので、そのまま「情報Ⅰ」の試験としては使えない部分もありますが、とてもよく工夫された問題が多いので、参考になるところがあるかと思います。
冒頭でお話ししたこれまでの経緯の中で、今後国の動向として、CBT活用を含めた検討を行うとありました。GIGAスクール構想の推進や、PISA等の国際学力調査のCBT化の流れもあり、皆さんもご存じのように、全国学力テストの教科調査も、CBTを2025年以降、できるだけすみやかに導入するという提言がありました。
高等学校でもこれから1人1台端末が進んでいく状況の中で、共通テストのCBTについて少しお話ししたいと思います。共通テストのCBT化については、今年3月に大学入試センターから、かなりボリュームのある報告書を出しています。
この中でも触れていますが、大学入試センターは、平成30年7月に、教科「情報」におけるCBT用の問題素案を公募しました。協力いただいた先生方、ありがとうございました。このような報告書としてまとめさせていただきましたので、ぜひご覧いただきたいと思います。
○「大規模入学者選抜における CBT 活用の可能性について(報告)」
この報告書の中で共通テストをCBT化することによって、PBT(ペーパーテスト)では扱えない問題や出題、例えば「情報」でいえば、プログラミングの実行環境を使ったり実際のデータを操作したりして、試行錯誤しながら問題を解くことも可能になりますし、動画を見せて考えさせることもできます。紙よりも多様な出題形式や解答方法が可能になります。
また、50万人分の冊子を印刷する必要もなく、問題訂正も迅速に行えますし、採点も効率的に行えます。ここでは詳しく述べませんが、IRT(項目反応理論)に基づくと、複数回の試験実施も可能になったり、1人で複数回受験することも可能になったりします。
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一方で、端末の整備やネットワークの整備、CBTシステムの開発や試験会場の確保など、実施に必要な経費は膨大になります。そして何よりも、50万人が受験する、ともすると人生を左右する試験ですので、試験実施時のトラブルは取り返しのつかない大きな問題となります。
どんなに万全を期しても、トラブルを皆無にすることができないなど、課題は多く、令和7年の共通テストはPBTで実施するということになりました。
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ただし、大学入試センターでは引き続き調査研究を進めてまいりますし、高等学校のGIGAスクール構想や、文部科学省が進めているMEXCBT(学びの保障オンラインシステム)を始め、CBTが高等学校で当たり前に使われるようになり、また大学入試の位置付けも代わっていけば、近い将来CBT化される共通テストも考えられると思います。
この報告書は大規模試験でのCBT化という点でまとめていますが、読み物としても十分興味深いものとなっていますので、ご覧いただきたいと思います。
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ここからは皆様へのお願いです。
「情報」という教科の中で、入試に関わる取り組みはまだこれからという段階で、個別試験の事例も少なく、問題例も限定的です。この大会の中でも、サンプル問題を取り上げていただいたご発表がございましたが、ぜひこのサンプル問題や試作問題を、教材や研究の題材としてご活用いただいて、研究であればその成果をぜひ皆さんに共有していただきたいと思います。また、私どもとしては、サンプル問題をご覧になって、先生方がどのようにお感じになったかをぜひ伺いたいと思っています。
共通テストは大学入試を目的にしていますので、もちろん実施者である大学側の意見は重要ですが、先にもお話ししましたように、高大接続の観点から、高校の先生方の意見も参考にさせていただきたいと思います。
情報教育の充実は、子どもたちにとっては待ったなしで、すぐにでも改善しなければならないことばかりです。その鍵となるのは、やはり授業を行う先生方になります。この全高情研の活動が、全国の先生方によって、今後さらに発展し、また本日ご参加の先生方が、ますますご活躍されることを祈念して、私の講演を終えたいと思います。
第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会) 基調講演より