FIT2021 (第20回情報科学技術フォーラム)公開シンポジウム
高等学校情報科と高大接続、教員養成について
鹿野利春先生(京都精華大学メディア表現学部 教授)
新学習指導要領 共通教科「情報」で何が・どのように変わるか
私は公立高校の教員から教育委員会を経て、文部科学省で情報科の教科調査官を務め、そして現在大学におります。今回は来年度から始まる新しい学習指導要領をまとめたということで、このような場をいただきました。
教科「情報」は、2003年に「情報A」「情報B」「情報C」という3つの科目から始まりました。今までになかった新しい教科ができて、しかも選択必履修ということで、当時はこの3つの中から1科目を必ず選択して学ぶという形でした。現行の学習指導要領は2013年からですが、「情報の科学」「社会と情報」という2つの科目からの選択必履修。そして来年度からは、これらが「情報I」に統合され、日本の高校生が全員これを学ぶという形になります。
この橙色で示した科目が、プログラミングを学ぶものです。今までは、それを学ばなかった生徒もいましたが、来年度からは全員学ぶことになります。そして、さらに発展的な科目の「情報II」も設置されます。
「情報I」については、文系・理系にかかわらず、そして国民的素養としてこれからの時代に向けて皆が身に付けていかなければいけないものである、ということで、その内容を厳選して、必要なものをまとめています。産業教育については、別途専門教科の教科群があります。
「情報I」が今までとは変わったところとしては、現在の「社会と情報」では『情報の表現』や『コミュニケーション』という内容が入っており、「情報の科学」には『コンピュータの活用』や『情報の管理』などが入っています。2つに共通するのが、この下にあるように『情報通信ネットワーク』や『情報セキュリティ』などですが、「情報I」はこれらのエッセンスを引き継ぐと同時に、『情報デザイン』『プログラミング』『データの活用』を強化しています。
もっとシンプルに言いうと、「情報I」は、『問題の発見解決』を目指して、『コミュニケーション』『コンピューターネットワーク』『情報モラル』といった知識等も大切にしながら、『情報デザイン』『プログラミング』『データの活用』といったツールをしっかり使いこなしていく、という形になります。
入試等ではそういった知識・技能に関したものとともに、思考・判断・表現に関したものも問われるでしょう。こういうものを、バランスよく出題していただければと思っております。
新しい学修指導要領では、今申し上げた『情報デザイン』『プログラミング』『統計に関連した学び』を、小学校から中学校、そして高校と積み上げていく形になっています。
ですから、「情報I」の内容がたいへん高度になったと思われるかもしれませんが、それは小学校、中学校の積み上げの上にあるものです。例えば、小学校ではプログラミングの体験がはいっていますし、中学校の技術科では、今に比べて質・量ともほぼ倍増のプログラミングを学ぶことになっているので、「情報I」で全員がプログラミングを学ぶことが可能になってくるということです。
そして『統計』についても、小学校、中学校、高校と学習内容が強化されており、段階を踏んで学んでいきますので、高校の「情報」では「数学I」で学んだことを、コンピュータを使って活用していくという設計です。
『情報デザイン』についても、小学校は国語で論理のデザイン、図画工作で表現のデザインなど、各教科でいろいろなことを行います。それを中学校、高校でさらに深めていくという設計です。
具体的な学習内容の変化~「理解」から「どう使うか」へ
「情報I」は4つの章から成っています。詳しい内容については、下記の資料をご覧ください。
※https://onsite.gakkai-web.net/fit2021/abstract/data/html/event/pdf/eventB2_348.pdf
下図の表の左側は現行課程、右側は「情報I」の内容です。現行課程では、大体が「理解」ということを重視していますが、「情報I」はそれをどう使うかということを重視しています。
例えば「(1)問題の発見解決」では、「情報I」ではその必要な力をそれぞれ付けましょう、ということを述べています。『情報モラル』は、その意味を知って、適切に対応する力を付けましょう。『情報技術が果たす役割・影響』については、対応を考察し、提案する力を付けましょう。これらは、これからの国民にとって皆が必要な力ですよ、ということを説明しています。
「(2)コミュニケーションと情報デザイン」は、今までは『伝達の工夫』という内容でした。「情報I」では、これも問題を発見・解決する方法という観点から、メディアを科学的に理解して、情報を抽象化・可視化・構造化する際に、表現だけでなく、Webサイトやインタフェースのような機能、モデル化やアルゴリズムのような論理も『情報デザイン』の対象となります。そして『情報デザイン』は、次のプログラミングやデータの活用などの基礎にもなります。
プログラミングについては、従来アルゴリズムの表現はフローチャートで行っておりましたが、論理表現にはさまざまなものがありますので、それぞれ目的に応じたものを使っていけばよい、としています。プログラミング言語については、文部科学省では、これということは決めておりません。
重視しているのはプログラミング的思考であって、1つの言語に熟達するということではありません。ただし、具体的な問題の発見・解決で、必要に応じてWeb APIや人工知能を使ったり、1年生で「情報I」を学んだら、「総合的な探究の時間」でそれを使いこなしていったりするというようなことも当然考えられます。
さらにプラスアルファとして、関数の使用や構造化といったことも入れていくということになるでしょう。GIGAスクール構想が高校でも展開され、1人1台情報端末が入れば、授業の中で短いプログラムでいろいろなことを行うことも可能になると思います。
ネットワークについては、特に外部機器や、暗号化、クラウド、情報セキュリティ、分散型データベースなどについて、簡単なものを実際に扱ってみて、なぜこれらの導入が必要か、どんな仕組みで動いているのかということを見ておくのが良いだろう、ということになります。到達目標は、情報セキュリティを確保した簡単なネットワークを設計できるというレベルです。
データの扱いについては、いろいろ挙げましたが、詳しい理論は「数学I」でしっかりやっていただいて、「情報I」ではそこで学んだことを活用していく、という設計です。
赤の太字が数学で学ぶところ、下線を引いた個所が「情報」で学ぶところで、特に下線を引いたところは具体的にデータを扱っていくときに必要になるので、それは「数学」では扱っていないとしても「情報」で入れていく、ということです。
情報セキュリティについてはご覧いただいたとおりで、ここに書いてあることを、実際に確保する力を付けてかなければいけませんし、法律制度については意味を知らなければいけないというところで、プラスアルファとしています。
「情報」が高大接続に果たす役割りは
高大接続システム改革は、「高等学校教育改革、大学教育改革および大学入学者選抜改革を、システムとして一貫した理念の下、一体的に行う改革である(高大接続システム改革会議最終報告)」とされています。高校は「情報I」というものを作りました。それを大学でどのように活用されるか、というときに、大学入試というものを挟んで一体的に改革するとなれば、大学入試の意義は非常に大きいものがあると思います。
そして高等学校の教員養成については、こちらのスライドに挙げたようなことに対応しなければなりません。「情報I」の内容については、現在の内容で対応できるところは、ある程度あります。新たな内容についても、現在都道府県の教育委員会で、または情報科の研究会で活発に研修が行われています。私も何回もそういったところに出席していますので、4月からの授業を、先生がたは十分やっていけるだろうと期待しています。
大学は、今後こういった力が身に付いた学生が入学してくることになりますので、大学教育自体も変えなければならないでしょう。そうすると、必要な教員の確保や、養成、研修といったことも必要になると思います。
参考として、「情報II」はこういった内容で、『データサイエンス』の比重が大きくなり、高度になります。
また、専門教科「情報」では、ここに挙げたように様々な科目が準備されて、より高度な学びに対応できるようになっています。
「情報I」につきましては、先ほど申し上げたように、国民的素養ということで出しています。それを大学で生かしていくということで、大学の教育も大きく変わります。その結節点として大学入試というところに大いに期待するところです。
FIT2021 (第20回情報科学技術フォーラム)公開シンポジウム講演より